『別冊日経サイエンス 進化と絶滅 生命はいかに誕生し多様化したか』

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この表紙は、京都造形芸術大学の学生たちの作った作品から。アボリジニーアートから着想を得た作品らしい
別冊日経サイエンスは、過去の日経サイエンスに掲載された記事の中から、テーマにあった記事を再録して構成されている。
ものによっては、かなり古い記事をとってきたりしていることもあるのだけれど、この号はほとんどの記事がここ数年のもので、古くても10年前。
最近の記事については、わりと既に読んだことあるものも多かったのだが、再読しても面白かった*1

まえがき 汲めども尽きない進化の謎  渡辺政隆

1 生命の起源を探る
生命の陸上起源説 M. J. ヴァン・クラネンドンク/D. W. ディーマー/ T. ジョキッチ
進化の出発点 混合栄養生命  中島林彦 協力:布浦拓郎
地下にいた始原生命体  中島林彦 協力:鈴木庸平/鈴木志野


2 カンブリア爆発の謎
生命爆発の導火線 エディアカラ生物の進化  R. A. ウッド
最古の左右相称動物 モンゴルで生痕化石を発見  中島林彦 協力:大路樹生


3 大量絶滅を見直す
大絶滅を解剖する  H. リー
古生代末に何が起きたか  中島林彦 協力:磯﨑行雄
明らかになった生命爆発の主役  R. マーティン/A. クイッグ
大量絶滅を生き延びたアンモナイト  Scientific American編集部
カメの絶滅はスローに見える  Scientific American編集部


4 進化の仕組みに挑む
覇者への意外な道  S. ブルサット
多様性の源 複雑な生物を生む力  D. M. キングズレー
ゲノムから見た自然選択のパワー  H. A. オール
生物の進化を予測する  入江直樹/詫摩雅子


5 進化論の今
都市が変える生物進化  M. スヒルトハウゼン
加速する人類進化 未来のホモ・サピエンスは?  P. ウォード
温暖化で小さくなる動物  M.ザラスカ
米国の進化論教育のいま  A. ピオーリ
科学と宗教は対立するのか  L. クラウス/ R. ドーキンス

生命の陸上起源説 M. J. ヴァン・クラネンドンク/D. W. ディーマー/ T. ジョキッチ

生命の陸上起源説 | 日経サイエンス
『日経サイエンス2018年3月号』 - logical cypher scape2に掲載されていた記事で、そっちでも一度読んだ
オーストラリアはピルバラのドレッサー累層から見つかる生命の痕跡と、かつてドレッサーが間欠泉のあるような地域だったという地質的証拠の話から始まる
温泉地帯には、温度も化学的性質も異なる多様な水たまりがあって、それによってさまざまな組み合わせで試行錯誤できたのではないか、と

進化の出発点 混合栄養生命  中島林彦 協力:布浦拓郎

進化の出発点 混合栄養生命 | 日経サイエンス
こちらは、『日経サイエンス2018年7月号』『Newton2018年7月号』 - logical cypher scape2で読んだ
最初の起源を巡る議論には様々な論点があるが、その中の一つに、従属栄養か独立栄養か、というものがある。
(この論点については、高井研編著『生命の起源はどこまでわかったか――深海と宇宙から迫る』 - logical cypher scape2に解説がある)
対して、混合栄養だったのでは、という話
最初の生命は従属栄養だったという説の方が先に提唱されたが、有機物が枯渇すると死滅してしまうという問題がある。
熱水噴出孔で独立栄養生物をベースにした生態系が発見され注目が集まったが、そもそも環境中に有機物が豊富にあった場合、独立栄養が先に登場する理由もない。
これに対して、周囲に有機物があれば従属栄養生物として、有機物がなくなれば独立栄養生物として振る舞う、というのが混合栄養生物
JAMSTECの布浦が発見した「タカイ菌(学名:サーモスルフィティバクター・タカイ)」*2が混合栄養生物
クエン酸回路(TCA回路)というのがあるが、従属栄養生物はこれの反応が時計回り、独立栄養生物は反時計回りで反応が進むという違いがある
この回転の方向を決めているが、従属栄養生物ではクエン酸シンターゼ、独立栄養生物ではクエン酸リアーゼ、なのだが、タカイ菌は、クエン酸シンターゼを使ってTCA回路を反時計回りに反応させることができる。
TCA回路を時計回りにも反時計回りにも反応させることができ、これで、独立栄養モードと従属栄養モードを切り替えているという。

地下にいた始原生命体  中島林彦 協力:鈴木庸平/鈴木志野

地下にいた始原生命体 | 日経サイエンス
これまた、『日経サイエンス2018年3月号』 - logical cypher scape2に掲載されていた記事で、そっちでも一度読んだ
記事の前半は、瑞浪で研究している鈴木庸平、後半は、カリフォルニアのシダーズで研究している鈴木志野の話*3
いずれも、CPR細菌の一種であるパークバクテリアについて
地下生命体は培養方法が分からず正体が謎だったが、メタゲノム解析によって分かるようになってきている。
瑞浪のは花崗岩に、シダーズのはかんらん岩に住み着いている
シダーズの地下はマントルを構成するかんらん岩が露出していて、原始地球の状態。だが、それゆえにATPを合成する「光合成」も「呼吸」も「発酵」もできない。岩石表面の化学反応を利用してエネルギーを獲得しているのではないかとい言われている。
生命の起源は陸か海か
瑞浪のように花崗岩で生息している細菌から始まったのだとすれば、花崗岩は陸上にあらわれるので、陸の可能性が高い。
シダーズのような、かんらん岩は陸上だけでなく、海底の熱水噴出域にもある。シダーズの地下、熱水噴出孔では、かんらん岩と水が反応して蛇紋岩化反応が起きている。実は、火星にも蛇紋岩がある。
陸上説の弱点は、紫外線と隕石重爆撃期をどう逃れたか。しかし、地下なら逃れられた。鈴木庸平は、陸上の温泉で生命は誕生し、地下に広まったのが生き延びたのではないかと考えている。

生命爆発の導火線 エディアカラ生物の進化  R. A. ウッド

生命爆発の導火線 エディアカラ生物の進化 | 日経サイエンス
こちらは、『日経サイエンス2019年10月号』 - logical cypher scape2でも読んだ記事
動物は、カンブリア紀からと思われてきたが、ナミビアやシベリアでの発見により、エディアカラ紀から登場していることがわかってきた、と。
例えば、炭酸カルシウムによる骨格の発見
クロウディナという、造礁動物。造礁により、そこで動物たちは寄り集まり強くなる、捕食者と被食者の生存競争が始まる
エディアカラ紀の進化のダイナミクスに関わってくるのが、酸素量の変化。

最古の左右相称動物 モンゴルで生痕化石を発見  中島林彦 協力:大路樹生

最古の左右相称動物 モンゴルで生痕化石を発見 | 日経サイエンス
同じく、『日経サイエンス2019年10月号』 - logical cypher scape2でも読んだ記事、ということもあり省略

大絶滅を解剖する  H. リー

大絶滅を解剖する | 日経サイエンス
この記事は、初出は『Newton2016年4月号・5月号』『日経サイエンス2016年5月号』 - logical cypher scape2で、真鍋真編『別冊日経サイエンス よみがえる恐竜』 - logical cypher scape2にも再録されている。
火山噴出物の体積を比較する図が載っているのだけど、シベリアトラップ、中央大西洋トラップ、デカントラップやばい。イエローストーンが比較にもならないくらいの量

古生代末に何が起きたか  中島林彦 協力:磯﨑行雄

古生代末に何が起きたか | 日経サイエンス
初出:2013年10月号
ペルム紀末の大量絶滅について、磯﨑行雄が提唱した統合版「プルームの冬」仮説
この時代の地層は、中国南部、中東、南欧に限られている
ペルム紀末の大絶滅は、実は、ペルム紀中期末と後期末のさらに2つの時期に分けられる
ペルム紀中期末(G-L境界)の時には、峨眉山洪水玄武岩の火山活動が起きている
さらに、それに先立って、地球の磁場が逆転する「イアワラ事件」、イラワラ事件からしばらくたってから「超酸素欠乏事件(スーパーアノキシア)」と、様々な異変が起きていたのがペルム紀
まず、パンゲアの下に沈み込んでいた大量の海洋プレートがマントルへと落下する「スーパーダウンスウェル」が起きる
→これにより外核の対流が乱され、地球磁場が乱れる=イアワラ事件
→磁場の反転により磁場が低下し、宇宙線が大気圏に侵入→宇宙線が大気分子を帯電させ雲を発生させ寒冷化させる(宇宙気象学者スベンスマルクの仮説で、磯﨑がこれをイアワラ事件と結びつけた。太陽の活動が弱くなっても同じような寒冷化が起きるとしてスベンスマルクの仮説は注目されているが、完全には立証されていない)
→一方で、パンゲアの下では2つのスーパープルームの上昇が発生する
→1つ目のスーパープルームは、パンゲア東部・赤道のやや南(現在の中国南部)に到達
→まず、爆発的噴火を起こす。これによる大量の塵の発生で寒冷化が起きる=「プルームの冬」
→次いで、洪水玄武岩が噴出し火山ガスによる温暖化が発生=「プルームの夏」
→1つ目のスーパープルームは、峨眉山洪水玄武岩の火山活動を引き起こした
→2つ目のスーパープルームは、やはり同様の爆発的噴火→洪水玄武岩のコンボを、今度はパンゲア東部の高緯度地域(現在のシベリア)で発生させる=ペルム紀末の大量絶滅
寒冷化が進むと、海洋循環が活発化し、光合成も活発になる*4。が、大量の有機物が沈降し腐敗することでスーパーアノキシアを起こす。
ペルム紀末の大量絶滅は、シベリアの洪水玄武岩火山活動による温暖化によるもの、というのが一般的な説のようだが、
磯崎説は、その直前に起きた寒冷化が大量絶滅が起き、その後の温暖化が回復を遅れさせた、というシナリオ
ただ、寒冷化を引き起こしたとされる爆発的噴火の直接的な証拠は見つかっていない(峨眉山洪水玄武岩の地層の直下から火山灰の堆積層があって、それが間接的な証拠。また、ペルム紀の地層からは見つかっていないが、キンバーライトというダイヤモンドを含む地層も、爆発的噴火によるものなのではないか、と)
また、ペルム紀末に光合成が活発化した証拠としては、炭素同位体比の偏差として現れており、宮崎県の上村(かむら)とクロアチアから発見されている(「上村事件」)
ちなみに、スーパーアノアキシアの証拠も、木曽川沿いで発見されており、どちらも日本でなされた発見とのこと


この記事の初出となった日経サイエンス2013年10月号は読んでいなかったが、ちょうど2013年11月頃に丸山茂徳・磯崎行雄『生命と地球の歴史』 - logical cypher scape2を読んでいた。この中でも、スーパープルームと爆発的噴火、からのスーパーアノアキシア&洪水玄武岩について書かれている。
また、土屋健『石炭紀・ペルム紀の生物』 - logical cypher scape2でもペルム紀末の大絶滅について触れられている。

明らかになった生命爆発の主役  R. マーティン/A. クイッグ

明らかになった生命爆発の主役 | 日経サイエンス
初出:2013年10月号
大量絶滅のあとの、海洋生物の多様化は何が原因か
海面の変動かと思われていたが、多様性増大のパターンと相関していない
植物プランクトンの増加による影響大!
古生代は、緑藻類とよばれるプランクトンが、中生代以降は、紅藻類というプランクトンが主流を占めるようになる
微量栄養素の違い、さらにリンなどの主要栄養素の大量流入が要因
陸上での風化、顕花植物の登場により、陸地からの栄養素が海洋へ流入(貝殻化石中のストロンチウム同位体比によって確かめられている)
栄養素の流入が、海洋生物の多様化をもたらしたという仮説(直接確かめられてはいないが、リンの流入で直物プランクトンの栄養量が増大、貝の成長率が増大、という実験結果がそれぞれあり、傍証とされている)
現在、人類の活動による酸性化や温暖化で植物プランクトンが減っているとしたら、これの逆の現象が起きてしまうのではないか、という危惧も述べられている

大量絶滅を生き延びたアンモナイト  Scientific American編集部

大量絶滅を生き延びたアンモナイト〜日経サイエンス2009年11月号より | 日経サイエンス
初出:2009年11月号
K-Pg境界より後の時代から発見されたアンモナイトの話
どうやって絶滅を乗り越えたのだろうか、というふうに書かれているのだが、K-Pg絶滅の10~100年後らしく、いやそれは全然乗り越えられていないのでは、という気持ちになった

カメの絶滅はスローに見える  Scientific American編集部

カメの絶滅はスローに見える〜日経サイエンス2019年9月号より | 日経サイエンス
これは日経サイエンス2019年9月号 - logical cypher scape2でも読んだのでスルー

覇者への意外な道  S. ブルサット

覇者への意外な道 | 日経サイエンス
これまた、『日経サイエンス2018年9月号』 - logical cypher scape2でも読んだのでスルー

多様性の源 複雑な生物を生む力  D. M. キングズレー

多様性の源 複雑な生物を生む力 | 日経サイエンス
ダーウィンによる『種の起源』発表当時、ハーシェルは、変異の出現について説明できていないとして批判していた
現在では、変異の出現は分子レベルで解明されている
遺伝子の突然変異、重複、挿入、逆転、転位など
こうした分子レベルの変異が、どのように形質として現れるのかもわかってきている(エンドウのしわ、ラブラドールレトリバーの毛色などの例)
また、こうした変異が、個体差だけでなく種の違いを生むほどの大きな違いになることも(トウモロコシとテオシント(トウモロコシの原種)の違いや、トゲウオの多様な種の違いなど)
また、比較的短い期間での変異の蓄積として、人間の肌の色や乳糖耐性、アミラーゼ遺伝子の多様性(チンパンジーと比べてヒトはアミラーゼをコードしている遺伝子が多い)といった例が挙げられている

ゲノムから見た自然選択のパワー  H. A. オール

ゲノムから見た自然選択のパワー | 日経サイエンス
初出:2009年4月
中立進化説が提唱されて以来、形質レベルでは自然選択、分子レベルでは中立進化(遺伝的浮動)が支配的なメカニズムだと考えられてきた。
が、近年、分子レベルにおいても、自然選択が考えられていた以上に強く働いていることが分かってきた、という記事
2種のショウジョウバエのDNA配列を比較した研究によれば、19%の遺伝子が自然選択により分岐(81%は中立進化で、中立進化はやはり重要だが、自然選択は中立進化説で考えられていたよりも大きな要因を占めていた、と)
なお、文末で、監修者である三中信宏が、この記事は分子レベルでの自然選択の重要性をあえて前面に押し出した記事で、中立説支持者からは異論も出るだろうとコメントしている
また、この記事では、自然選択によって遺伝子がどれだけ変異するかについて、バクテリオファージを使った実験が紹介されている。バクテリオファージはゲノムサイズが小さいので、実験の途中でも全ゲノムを解析でき、世代交代が速いので自然選択の様子を観察できる。まさに進化の実験
また、受粉媒介者が昆虫か鳥かで違いのある2種のミゾホオズキを使った、野生での遺伝子の変化と自然選択についての調査にも触れられている
最後に、自然選択は、種分化を引き起こすか=生殖的隔離は起きるのか、という点も論じられている。
ここでも、従来は遺伝的浮動が生殖的隔離を引き起こすと考えられていたのに対して、むしろ自然選択による、という主張がなされている


記事中に、コラムとして集団選択の話が書かれている
E.O.ウィルソンとデイヴィッド・スローン・ウィルソンによる「複数レベル選択理論」
群選択の話は、エリオット・ソーバー『進化論の射程』 - logical cypher scape2森元良太・田中泉吏『生物学の哲学入門』 - logical cypher scape2で読んでいるが、読み直した方がよいかも。

生物の進化を予測する  入江直樹/詫摩雅子

生物の進化を予測する:入江直樹 | 日経サイエンス
こちらは、『日経サイエンス2018年6月号』 - logical cypher scape2で読んだ

都市が変える生物進化  M. スヒルトハウゼン

都市が変える生物進化 | 日経サイエンス
初出:2018年12月号
都市の環境は、強い淘汰圧として働き、進化の速度を速める。
タツムリの殻の色(ヒートアイランド現象の起きている都市では、熱を逃がすために明るい色がよい
タンポポの綿毛(遠くへ飛んでいってもアスファルトの上に落ちたら意味ないので、なるべく親の生えている土の近くに落ちる)
夜行性のクモが、人工の光を好むようになった(虫が集まってくるから
逆に、都会の虫は蛍光灯に近づかないようになっている
などの面白い例が色々と紹介されていた。
最後に、こうした変化を追跡するには、市民科学者・アマチュアの手助けがポイントになってくるのではないか的なことが書かれていた。


残り4記事は未読
ただし、「米国の進化論教育のいま」は日経サイエンス2019年6月号 - logical cypher scape2で読んだ

*1:再読しなかった記事もあるが、別に面白くなかったわけではなくて、時間的理由だったり、なんとなく内容覚えていたりしたからだったり

*2:名前の由来は高井研である

*3:どちらも鈴木だが親族関係にはない、とのこと/鈴木志野は現在JAMSTECだが、クレイグ・ベンター研究所にいた頃にシダーズでの研究を始めたらしい。ベンターというと合成生物学

*4:栄養塩の豊富な深海からの湧昇流により植物プランクトンが増加

フィルカルVol.4 No.3

まだ、Vol.4 No.1とNo.2を読めてないのだが、ウィトゲンシュタイン特集とかだったので、手に取った
とりあえず読んだ分だけ。
妖怪論の奴も読みたいと思っているのだが、長いので後回し。すみません。
後半、書評および筆者・訳者自身による著作の紹介が続く。書評をさらにまとめる、というのも変な話なので、最低限の言及にとどめるが、読みたい本がどんどん増えて大変、ということだけ言っておきたいw

特別寄稿 「谷賢一『従軍中のウィトゲンシュタイン』(工作舎、2019)を巡る哲学的随想」(鬼界 彰夫)
特集1:『論理哲学論考』と文化をつなぐ 古田徹也『ウィトゲンシュタイン論理哲学論考』出版記念誌上ブックフェア
特集2:山口尚『幸福と人生の意味の哲学』
「神・分析的・実存的―『幸福と人生の意味の哲学』を継続して」(山口 尚)
「山口尚の方法」(長門 裕介)
「何が人生を形づくるのか」(八重樫 徹)
「遠くまで旅する人たちに」(高村 夏輝)
シリーズ:ポピュラー哲学の現在
超訳 ニーチェの言葉』ベストセラーの仕掛け人に聞く 藤田浩芳さん(ディスカヴァー・トゥエンティワン)インタビュー
対談「哲学と自己啓発の対話」第二回(玉田 龍太郎/企画:稲岡 大志)
文化の分析哲学
「新しい民俗学のための妖怪弁神論—妖怪の存在意義、そして伝承の可能性の条件に関する形而上学的考察—」(根無 一信)
「無数の理想を収集する鶴見俊輔—他愛ない夢、想像的変身、感性的横ずれ—」(谷川 嘉浩)
「批評の新しい地図―目的、理由、推論― 」(難波 優輝)
イベント
トークイベント「ネタバレのデザイン」@代官山蔦屋書店(2019年6月26日)(登壇者:森 功次、松本 大輝、仲山ひふみ)
ワークショップ「ビデオゲームの世界はどのように作られているのか?—松永伸司『ビデオゲームの美学』をヒントに—」@大阪成蹊大学(2 0 1 9 年8 月3 1 日)(登壇者:松永 伸司、三木那由他、難波 優輝)
報告
ベオグラードでの国際美学会に参加して」(青田 麻未)
コラム、レビュー、新刊紹介
「コンピュータで世界を再多義化せよ! ミゲル・シカール『プレイ・マターズ』(フィルムアート社)」(吉田 寛)
「倉田剛『日常世界を哲学する:存在論からのアプローチ』」(岩切 啓人)
「古田徹也『不道徳的倫理学講義―人生にとって運とは何か』(ちくま新書、 2019 年)」(酒井 健太朗)
「社会科学の哲学が提起する問い:社会科学は自然科学と同じ営みを目指すべきなのか?そもそも違う営みなのか?」(伊藤 克彦)
シェリル・ミサック『プラグマティズムの歩き方』(上・下)訳者による紹介」(加藤隆文)
「源河亨『悲しい曲の何が悲しいのか:音楽美学と心の哲学』著者による紹介」(源河 亨)
「リサ・ボルトロッティ『現代哲学のキーコンセプト 非合理性』訳者による紹介」(鴻 浩介)

特別寄稿「谷賢一『従軍中のウィトゲンシュタイン』(工作舎、2019)を巡る哲学的随想」(鬼界 彰夫)

『従軍中のウィトゲンシュタイン』という舞台・戯曲の存在は知っていたけれど、自分は未見・未読
広い意味では書評ということになるが、哲学と演劇の関係について考察するというものになっている。
まず、この作品は、『論考』の考察となっていると述べる。
演劇なので、創作部分があり事実とは異なる部分があるのではないかという問題に対して、理解をもたらすためのモデルであると考えれば、事実とは必ずしも一致していなくてもよい(というか、モデルは事実とは一致しない部分を普通持つものである)、とする
その上で、そもそも哲学というのは論文形式で書かれるものだと考えられているけれど、その関係は必然か、と問う。アリストテレスによってその二つは結び付けられていたのであって、ソクラテスプラトンは論文は書いていない。哲学と論文形式は必然的な結びつきではない、と。
また、谷が『探求』でも同様のことをしようとしており、鬼界は、谷による「―」と「……」の使い分けが、『探求』におけるハイフンの用法を読解するヒントになるのではないかという目論見を述べている。
鬼界彰夫『『哲学探究』とはいかなる書物か――理想と哲学』 - logical cypher scape2でも「文体論」ということを述べており、ここでも文体について着目している。

特集1:『論理哲学論考』と文化をつなぐ 古田徹也『ウィトゲンシュタイン論理哲学論考』出版記念誌上ブックフェア

古田徹也、大谷弘、入江俊夫、菅崎香乃、諸隈元、新野安、佐藤暁(フィルカル編集部)、谷田雄毅(フィルカル編集部)が、『論考』と関連するような諸作品を挙げている。
哲学書以外」で、マンガや映画なども含む作品リストとなっている。
例えば、大谷が『カール・クラウス著作集』を挙げていて、入江が、ウィトゲンシュタインが財産の一部を寄贈した表現主義詩人ゲオルグ・トラークルの詩集を挙げている。ところで、全然全く関係ないんだけど、シュピーゲルシリーズにでてくる、リヒャルト・トラクルってもしかしてこの人が元ネタなのか、と思わせる順序*1
諸隈の選書がすごくて、ウィトゲンシュタインが気に入っていたというハードボイルド小説、また、イギリス文化を毛嫌いしていたとされるウィトゲンシュタインが例外的に好きだったというディケンズウィトゲンシュタインが宗教の可能性に開眼したきっかけになったと言われる芝居などのチョイス。最後にマンガも一作紹介されているが、それは、ウィトゲンシュタインの母校であるベルリン工科大学が出てくるから、というチョイス
谷田は、ウィトゲンシュタインやその家族、アンスコムなどの写真を集めた写真集を挙げている

特集2:山口尚『幸福と人生の意味の哲学』

「神・分析的・実存的―『幸福と人生の意味の哲学』を継続して」(山口 尚)

分析的であり、また実存的でもある、ということ

「山口尚の方法」(長門 裕介)

山口が理想とする、「生の現場へ帰還する」分析哲学者についてなど
ところで、今ちょっと自分の頭のなかでごっちゃになっていたのだけど、古田徹也が、個人の問題を倫理学の「故郷」というのと、もしかしてちょっと似てる?

「何が人生を形づくるのか」(八重樫 徹)

あれ、これ読んだと思ったけど、まだ読んでなかった

「遠くまで旅する人たちに」(高村 夏輝)

二人称で書かれた文章

シリーズ:ポピュラー哲学の現在

超訳 ニーチェの言葉』ベストセラーの仕掛け人に聞く 藤田浩芳さん(ディスカヴァー・トゥエンティワン)インタビュー

稲岡さん、長田さん、佐藤さんによるインタビュー
出版の企画、編集に関わる話で、話の内容そのものだけでなく、むしろこういう話が哲学の雑誌に載っているのが面白い

対談「哲学と自己啓発の対話」第二回(玉田 龍太郎/企画:稲岡 大志)

第2回で、話の途中からなので、最初何の話しているのかよくわからなかったが
高校教師をしながら哲学研究をしている玉田龍太郎と、自己啓発の著作がある百川怜央の対談

「無数の理想を収集する鶴見俊輔—他愛ない夢、想像的変身、感性的横ずれ—」(谷川 嘉浩)

鶴見俊輔の文章論から、探偵・忍者論

「批評の新しい地図―目的、理由、推論― 」(難波 優輝)

批評とはこういうものだ、というのではなく、4つの目的、2つの理由、2つの推論の組み合わせによって、様々なタイプの批評を分類するという多元主義的立場

トークイベント「ネタバレのデザイン」@代官山蔦屋書店(2019年6月26日)(登壇者:森 功次、松本 大輝、仲山ひふみ)

webに載ってた記事の再録かな
レポート:代官山蔦屋書店トークイベント「ネタバレのデザイン」(2019年6月26日) | フィルカル

ワークショップ「ビデオゲームの世界はどのように作られているのか?—松永伸司『ビデオゲームの美学』をヒントに—」@大阪成蹊大学(2 0 1 9 年8 月3 1 日)(登壇者:松永 伸司、三木那由他、難波 優輝)

上に同じく
レポート:大阪成蹊大学トークイベント「ビデオゲームの世界はどのように作られているのか?――松永伸司『ビデオゲームの美学』をヒントに」(2019年8月31日) | フィルカル

ベオグラードでの国際美学会に参加して」(青田 麻未)

これ、タイトルそのままの内容

「コンピュータで世界を再多義化せよ! ミゲル・シカール『プレイ・マターズ』(フィルムアート社)」(吉田 寛)

この本の他の書評でも触れられていたが、おもちゃ論が展開されているらしく、気になっている。
キーワードは「流用」

「倉田剛『日常世界を哲学する:存在論からのアプローチ』」(岩切 啓人)

社会存在論の入門書となっているらしい。新書だし、これもとても気になる。
この書評では、いわゆるスタンダードな書評を行った後、さらにつっこんで、美学における関係した論点が紹介されていて、そこだけでも読み応えがある

「古田徹也『不道徳的倫理学講義―人生にとって運とは何か』(ちくま新書、 2019 年)」(酒井 健太朗)

アリストテレス研究者による書評で、後半はその観点から論じられている。

「社会科学の哲学が提起する問い:社会科学は自然科学と同じ営みを目指すべきなのか?そもそも違う営みなのか?」(伊藤 克彦)

アレクサンダー・ローゼンバーグによる社会科学の哲学の入門書*2についての書評。なお、英語で書かれた原著についての書評で、翻訳書があるわけではなさそう。
自然主義と解釈主義の対立、という観点に着目して、本書の内容が紹介されている

シェリル・ミサック『プラグマティズムの歩き方』(上・下)訳者による紹介」(加藤隆文)

訳者による紹介
フィロソフィーのダンスの「ヒューリスティック・シティ」という曲の歌詞と絡めて、紹介されている
ところで、グルーって色が変わるの2029年なんすね。あと10年か。

「源河亨『悲しい曲の何が悲しいのか:音楽美学と心の哲学』著者による紹介」(源河 亨)

心の哲学を用いた美学の本ですよ、という筆者による紹介
1~5章は音楽以外の芸術鑑賞にも当てはまる議論であり、第6章以降はより音楽に焦点を合わせた議論をしている、とのこと

「リサ・ボルトロッティ『現代哲学のキーコンセプト 非合理性』訳者による紹介」(鴻 浩介)

「非合理性」と一言で言っても、実際にはいろいろな非合理性がある。この本では、そうした様々な非合理性の統一理論を作ろうというよりは、まずはそうした様々な「非合理性」の分類、といったことがなされている、と
あと、この本を貫くもう一つのキーワードは「行為者性」であるとのこと

*1:カール・クラウスと同名のキャラクターがシュピーゲルシリーズには登場する。なお、シュピーゲルシリーズの「シュピーゲル」は言語ゲームとは特に関係ないはずだけど、この並びで並べるとあたかも関係しているかのように見えてきてしまうw

*2:ローゼンバーグは、科学哲学の入門書もある。 アレックス・ローゼンバーグ『科学哲学』 - logical cypher scape2

宙を数える 書き下ろし宇宙SFアンソロジー

創元SF短編賞出身者による宇宙SF競作
時間SFアンソロジーである『時を歩く』とセットの企画なのだが、とりあえず宇宙が面白そうだったのでこちらをまず手に取った。
が、めちゃくちゃ面白い
どの作品も当たりで、かなり満足度が高い。レベルの高い短編集だと思う

「平林君と魚(いお)の裔(すえ)」オキシタケヒコ
「もしもぼくらが生まれていたら」宮西建礼
「黙唱」酉島伝法
「ときときチャンネル#1【宇宙飲んでみた】」宮澤伊織
「蜂蜜いりのハーブ茶」高山羽根子
「ディセロス」理山貞二

「平林君と魚の裔*1オキシタケヒコ

異星種族との交易船に乗り込む羽目になった海洋生物学者の話
世界設定として、地球人類はある時ファーストコンタクトを果たすのだが、交易に参加するにはあまりにも関税レートが高すぎ、アメリカが開戦してしまう。で、アメリカは負け、アメリカ国民はみな連れ去られてしまう。一人だけ地球へと帰還してきたのスミレ・シンシアという少女は、そのまま宇宙交易を手掛けることのできる唯一の地球人となる。
主人公は、そのスミレ商会のアルバイト募集に何故だか引っかかってしまって、宇宙へと旅立つことになる。
主人公が海洋生物学者ながら重度の引きこもりで、コタツにずっとこもっていたいという人種で、一方のスミレ・シンシアは関西弁を喋るし、さらに男子小学生みたいな声で話すリトル・グレイもいたりして、なかなかコミカルな雰囲気で話自体は進むのだが、実はかなりのアストロバイオロジー文明論SF
生き物には、浮遊生物、遊泳生物、底生生物がいる。
遊泳生物というのは魚で、地球人はこれの末裔にあたる。一方、底生生物というのは、イソギンチャクとかフジツボとか。
主人公の研究対象は底生生物。
そして、スミレ商会の宇宙船に乗っていたパイロット兼用心棒の「平林君」は、この底生生物から進化した知的生命体種族に属する。
平林君は、この銀河における交易網は、底生生物系の種族が遊泳生物系の種族を駆逐するためのシステムなのではないかという仮説をたてているのだった。

「もしもぼくらが生まれていたら」宮西建礼

宇宙探査機の計画を練るのに明け暮れる高校生たちの物語なのだが、一方でポリティカルなテーマをもった歴史改変SFでもある。
学生向けの衛星構想コンテストへの参加を目指していた主人公たちは、地球と衝突コースをとる隕石が発見されたことで、土星の探査機ではなく、隕石の衝突をいかに回避できるかという方法を考え始める。
この作品のちょっとユニークなところは、主人公たちが考えたことが、直接世界を変えたりはしないということ。彼らは高校生なので、構想を実現するだけの力は持っていないし、また、彼らが考えるようなことは、どこかで別の人が考えているものでもあり、彼らではなく別の人(アメリカの大学院生とか)のアイデアとして実現されることになる
それでも、彼らの視点からこの出来事について語られていく、というのがこの物語のポイントで、どういうことかというと、彼らが広島の、それも核兵器が作られなかった世界の広島の高校生だから

「黙唱」酉島伝法

酉島作品、だんだん面白さが分かるようになってきた。
海洋惑星に生息する、音をあやつる生物たちの物語
ナシュツという個体が生まれ、育ち、そして彼らが住んでいた土地の秘密を明らかにするという話
人類とは異なる生命体の生態や文化を、独特の漢字とともに描き出していく

「ときときチャンネル#1【宇宙飲んでみた】」宮澤伊織

タイトルから分かる通り、動画配信者が主人公、というか語り手。動画配信をそのまま書き起こしたような形式の作品。
同居人である天才科学者が作った怪しげな飲み物=科学者曰く宇宙そのものを、飲んでみる、という話
この説明だけでは一体何のことなのか全く分からないと思うが、これもまたなかなかすごい宇宙SFで、動画配信者SFで、それでいて百合だったりする。

「蜂蜜いりのハーブ茶」高山羽根子

世代間宇宙船みたいなのが舞台なのだけど、多国籍な雰囲気の屋台が立ち並ぶ路地みたいなところで話は進む
この船は、「表側」と「裏側」があって、太陽の光に適応できた者が「表側」で食糧生産などの労働に従事し、それ以外の者たちは「裏側」で暮らしている。
「裏側」で暮らす少女の前に、「表側」からやってきた小さな男の子が現れる。
表側でやってる食糧生産って一体何なの、というのが話を進めていく謎なのだけど、実は主人公たちは吸血鬼だったという話

「ディセロス」理山貞二

宇宙SFでもあり、なおかつ時間SFでもある作品
宇宙で戦闘が起こり、そして、6人の船員の中に敵の工作員がいることがわかる。ちなみに、この6人は身体がそれぞれバラバラで、非ヒューマノイド形態のものもいる。主人公も、人格を船内にあったアンドロイドにダウンロードされた存在で、人格と身体のジェンダーが一致していなかったりする。
で、6人には、この船で作られたディセロスという装置がつけられていて、なんとこれをつけると、5分先の未来を見ることができる。
加えて、彼らの身体にはディセロスを接続するソケットが複数ついていて、もしディセロスを2つつける10分先の未来が見えるようになる。
船員が1人襲われる。敵は、10分先の未来が見えるようになる。
いかに先読みバトルをしながら、誰が工作員かを見つけて倒すか。

*1:「魚の裔」は「いおのすえ」と読む

アニクリvol.7s 特集 作画崩壊/幽霊の住処

https://pbs.twimg.com/media/EBI0g0HVUAAR6Bn?format=jpg&name=4096x4096
アニクリはほんと次から次へと出るので読むのが追っつかない
この号は、夏頃に半分くらいまで読んでいたのだが、ブログ記事にするのはもうちょっと読んでからにしよう、とか思ってたら時間が経ってしまった。
アニクリは毎号、特集を組んでいるが、その中で概ねその時々の旬の作品を取り上げる形になっていることが多い。
対して今号は、作品よりはむしろ「作画崩壊」という概念に着目したものになっていて面白い。
複数の論者がそれぞれのアプローチをすることによって、「作画崩壊」についてがそれぞれの角度から少しずつ分かるような感じになっている

1 作画崩壊

てらまっと「多層化するスーパーフラット(#)作画崩壊と藍嘉比沙耶について」
安原まひろ「まなざしの先へ アニメにおけるバグと仕様の考察から」
難波優輝「作画崩壊の美学 崩れ、達成、ミスピクチャ」
竹内未生「「作画崩壊」の現象学に向けて 「キャベツ」はなぜそれとして理解できるのか」
DIESKE 「作画崩壊の形式的な分析にむけたノート」
tacker10 「DIESKE 「作画崩壊の形式的な分析にむけたノート」に関するメモ書き」

個々の論にコメントするのではなく、作画崩壊論という特集全体でコメントすることとする。
元々、作画崩壊というテーマが取り上げられるきっかけは、DIESKEによる作画崩壊の形式的な分析にむけたノート|DIESKE|noteの投稿だろう。これに対して、tacker10からDIESKE「作画崩壊の形式的な分析にむけたノート」に関するメモ書き:攪乱の渦 - ブロマガという応答がなされている。この2つの記事は、本誌にも転載されている*1
このDIESKEノートに対して、この特集に集まっている4つの原稿をそれぞれ対応させることができるだろう。
例えば、DISKEノートの第4節において、作画崩壊が「ネタ」という形ながらも人々をこれだけ惹きつけるのは何故かという問いが残されているが、これに答えたのが、難波論による、ネガティブ-ミスピクチャのおかしみについての分析であろう*2
また、同じくDISKEノートの第3節の終盤において、アニメーションが「つくりもの」でありつつ生命を宿した存在としても知覚されている二重性と、それを暴露するものとしての作画崩壊ということが指摘されているが、この指摘は、てらまっと論とも通じるものがあるし、また、安原論による、視聴者はキャラクターの顔が崩れないことを望むという指摘は裏腹なものだろう。
ところで、今回の特集で面白い位置にあるのは竹内論だろう。
DISKEノートでは、第1節において、「崩れ」が意図的かどうかと物語に貢献しているかどうかの関係について触れられている。また、難波論もここに基づき、意図について触れている。いずれも、意図の読み取りは困難であるから、別の基準を考えるという方向におおよそ論が進んでいくが、竹内論では、実際の作画崩壊の事例が視聴者からどのように解釈されているかという実例を分析することで、実践的には、意図的かどうかを判断した上で、作画崩壊の判断がなされれているということが指摘されている。
理論的な枠組みを先行させると見落としてしまいがちな部分を、事例の分析によって補足しているともとれ、竹内論がこの特集に入っている意味は大きいと思う。
その点でいうと、安原論も、実例紹介と概念の整理がうまくて、特集の導入によい。
ところで、この特集に寄せられた論のほとんどが、作画崩壊とは何かという方向で議論を進めているのに対して、てらまっと論は、作画崩壊全般ではなくて、あくまでも藍嘉比の作品を論じることに集中している。前者が、いわば一般化を目指す哲学・美学的な議論だとすれば、後者は、あくまでも個別な事例にこだわる批評としての議論といえるかもしれない。
てらまっと論は、キャラクターの同一性どころから、一枚の「絵」であることをも崩壊させる、レイヤーの多層性の暴露ともいうべき事例を引き合いにだし、スーパーフラットではなくポスト・スーパーフラットとして藍嘉比の作品を位置付けようとする。個人的に好みなのは、むしろこういう話だったりする。

2 廃墟/幽霊・キャラクターの住処

灰街令 「キャラジェクト試論 3DCGキャラクターのメディウムスペシフィシティ」

3DCGという空間に存在している、というのは自分もなんか気になっていて、キャラジェクトという概念は面白そうだなあと思うのだが、まだもう一つ掴み切れていない

難波優輝 「約束のない壊れ「キャラジェクト」の向こうで」
難波優輝 「ミスの美学 分類と価値」

この号のアニクリは、ナンバユウキ無双

みら 「<アニメ>における「バグ」の表象について」

3 バグ/輻輳する世界

あんすこむたん 「新条アカネは実相寺昭雄の夢を見るのか」
あにもに 「傷物達を抱きしめて 映画『傷物語』とアニメーションの政治性』

傷物語』の中に見られるナショナリスティクな表象を分析しながら、阿良々木暦戦後民主主義の葛藤の反映を見るというもの


これより後ろのものは未読

*1:ところで、誌面上には転載である旨の注記が直接的にはなされていなかったように思う

*2:やや細かい点になるが、そういう意味では難波論の「作画崩壊の美学」というタイトルはいささか誇大なタイトルであるようにも思える。むろん、ミスピクチャなどの概念の整理は、作画崩壊に関する様々なテーマに跨って関係しうる議論ではあるが、この論によって示されている、その整理・分析によってもたらされる嬉しさは、「おかしみ」が分析できるというところなので

現代思想2019年9月号 特集=倫理学の論点23

タイトルにあるとおり、様々なジャンルでの論点が分かるような、コンパクトな原稿が多数収められていて、色々と入口によい感じの特集。全部は読んでいないけれども。

【討議】
ボーダーから問いかける倫理学 / 岡本裕一朗+奥田太郎+福永真弓
応用倫理学メソドロジーを求めて / 池田喬+長門裕介


応用倫理のトピックス
環境 人新世下のウィルダネスと「都市の環境倫理」 / 吉永明弘
宇宙 神話と証拠 / 清水雄也
食農 いのちを支える行動を日常に埋め込む / 秋津元輝
動物 動物の倫理的扱いと動物理解 / 久保田さゆり
ロボット ロボットは権利を持ちうるか? そして権利を持たせるべきか? / 岡本慎平
戦争 人工物が人間を殺傷することを決定し実行することは、道徳的に許容されるのか / 眞嶋俊造
ビジネス 企業それ自体の責任を問うことの困難さ / 杉本俊介
医療 リプロダクティブ・ライツとは何か / 柘植あづみ
生政治 身体の政治はなにを纏うか / 重田園江
生殖 ベネターの反出生主義をどう受けとめるか / 吉沢文武
世代間 将来を適切に切り分けること / 吉良貴之
高齢者 新健康主義 / 北中淳子
公衆衛生 公衆衛生・ヘルスプロモーション・ナッジ / 玉手慎太郎
ジェンダーセクシュアリティ トランス排除をめぐる論争のむずかしさ / 筒井晴香
美醜 外見が「能力」となる社会 / 西倉実季
共依存 親をかばう子どもたち / 小西真理子
サイバー・カルチャー 身体はいかにして構築されるのか / 根村直美
「意味」は分配されうるか? / 長門裕介


エッセイ
フィクション それでも、物語に触れる / 西田藍
占い 占いという「アジール」 / 石井ゆかり
ルポルタージュ 「良き例」を欲してはいけない / 武田砂鉄

応用倫理学メソドロジーを求めて / 池田喬+長門裕介

9月頃に、この対談だけちょっと眺めていた。あまりちゃんとは読んでいないので、下記ツイートで感想に代える。
長門さんが、池田さんの現象学倫理学について話をどんどん聞いていくという感じの対談だったかと。

宇宙 神話と証拠 / 清水雄也

宇宙進出を正当化する理由として、よく挙げられてはいるが、根拠のない主張についてシュワルツが「神話」と呼び、まとめている。
ただし、だから宇宙開発は行うべきではない、というわけではなく、シュワルツ自身も宇宙開発推進者で、ポイントは、宇宙進出の正当化を行うためには、このような主張は根拠のない「神話」なので、ちゃんとした根拠をあげるようにしようということである。
指摘されている神話は3つ
(1)人類には探検や移住への生得的衝動があるというもの
(2)宇宙は社会の停滞を避けるためのフロンティアであり、例えば、文化的多様性の増進、技術革新の促進、民主的統治の向上などを社会にもたらすというもの
(3)宇宙での活動が教育効果があるというもの

動物 動物の倫理的扱いと動物理解 / 久保田さゆり

功利主義、義務論、徳倫理による動物倫理の議論を概観したのち、これらの違いではなく共有しているものに注目したい、と
つまり、いずれも動物は苦痛などの危害を被りうる存在なのだ、という動物理解についてである。
そして、しばしば肉食の正当化に用いられるような、よくあるタイプの主張に、それとは異なる動物理解を見て取る。
動物理解の変化が倫理観の変化につながるのではないだろうか、と。

ロボット ロボットは権利を持ちうるか? そして権利を持たせるべきか? / 岡本慎平

ロボットは権利を持つことができる(can)と、持たせるべきである(should)とを区別して、(1)持ちうるし、持たせるべき(2)持ちえないし、持たせるべきでない(3)持ちうるが、持たせるべきではない(4)持ちえないが、持たせるべきの4パターンに分類し、それそれの主張を紹介・検討する。

フィクション それでも、物語に触れる / 西田藍

西田さんの実際の鑑賞経験の変化(エヴァとか)から、フィクションの中で倫理的に認めがたいものを見てしまった時に、楽しめなくなっていくことについて
これ、想像的抵抗の話だなと思った。
想像的抵抗って、実際にそんな現象あるのかってところでも議論あるっぽいんだけど、実際に想像的抵抗を感じている事例の記録として読むことができそう。

戦争 人工物が人間を殺傷することを決定し実行することは、道徳的に許容されるのか / 眞嶋俊造

LAWSについて
8つの論点を挙げているが、ここではおおよそ、それらの論点で挙げられる道徳的問題は戦闘や攻撃にまつわるものであって、LAWS固有の問題ではないのではないか(あるいは論点によっては、自動運転自動車と比較して、LAWSがダメなら自動運転もダメということになるのではないか)という形で整理している。
最後には、さらに自国の兵士の危険を減らすという意味では、むしろLAWSは積極的に導入すべきであるのでは、という観点を紹介して終えている。
『世界2019年10月号』「特集AI兵器と人類」 - logical cypher scape2での久木田の論とは対照的という感じがある。

ビジネス 企業それ自体の責任を問うことの困難さ / 杉本俊介

共同行為の哲学とか社会的存在論とかの話になっていてそれ自体面白いんだけど、企業倫理という観点からその議論ってどうなのという指摘もあり、その点も面白い


ピーター・フレンチによる企業の道徳的行為者性の議論を中心にして、紹介されている
フレンチは、企業が道徳的責任を負う(=道徳的人格を有する)ためには、道徳的行為者性を持つ必要があるとした上で、デイヴィドソンの行為者性の議論を用いて、信念や欲求を持つ必要があるとした。が、批判も多く、次いでフレンチは、ブラットマンによる行為者性を用いて、共有意図や計画が必要だと論ずるようになる。すると、今度は当のブラットマンが、共有意図は企業の行為者性を導かないと論じ、ペティットがむしろ道徳的人格のためには「会話可能性」を有する必要が論じた。
また、連邦裁判所において、企業の「人格」を認めるような判決が相次いだが、そこでは企業による表現の自由や宗教の自由が認められることになり、むしろ、企業に対する適切な規制が働かず、乱用されてしまう恐れが指摘されている。
最後に筆者は、こうした議論において、組織論の見解が生かされていない(企業の意思決定について官僚制システムが前提されているように議論されている)点と、企業はそもそも「手段としてのみ扱われる」物件的性格をもち、人格とは区別されるものだという点を指摘している


生政治 身体の政治はなにを纏うか / 重田園江

タイトルだけだと何の話なのかよく分からないのだが、不妊治療と出生前診断の話
いわゆる妊活ブログの記述を紐解きながら、いかに身体が「医療化」されているのかを追っていく。
出生前診断は、障害のあることが分かっている子を中絶するかどうかという重い、しかし普通の人が遭遇しうる倫理的判断と関わってくる話だが、出生前診断というものだけ取り出して考えるのと、不妊治療とそれに伴う身体の「医療化」という流れの中で現れてくる出生前診断(あるいは着床前診断)を考えるのでは、見え方が違うのではないだろうか、という話

生殖 ベネターの反出生主義をどう受けとめるか / 吉沢文武

非対称性に基づく論証についての整理
生についての全体的評価と比較の順番を変えると、導かれる結論が変わってくるとか、価値論的非対称性と生殖に関する義務の非対称性の違いとか、知らない論点だったので、それはそれで面白かった


自分がちょっと前から反出生主義で気になっているのは、多分、非対称性の議論そのものではなくて、存在させること(生むこと)自体の有責性ってどこまで言えるのか、ということかもしれないな、と思った
生まれてくることと生まれてこないことでは、生まれてこないことの方がよいのかもしれないが、生むことは、生まれる存在に対して利益を与える行為でも害を与える行為でもないのではないか、と。
いや、うーんよく分からない

ルポルタージュ 「良き例」を欲してはいけない / 武田砂鉄

このタイトルの付け方だと、ルポルタージュの倫理の話っぽいけど(まあそういう面もあるけど)、話の内容は安楽死のこと
生き続ける選択も安楽死をする選択もどちらにも葛藤があるだろうけれど、安楽死してよかった例ばかりを紹介するようなことが進んではいやしないか、と

ジェンダーセクシュアリティ トランス排除をめぐる論争のむずかしさ / 筒井晴香

英語圏の哲学者たちによる、トランス排除についての議論の紹介
日本では、インテリ側は親トランスの立場にたっているのがほとんどだが、英語圏では、必ずしもそうではないことなどに触れられている。
また、「裸」の社会的構築(ジェンダー化)に触れ、この問題の原理的困難さを論じている(どこを見せてもよいかという社会的規範が既にジェンダー化されていて、トランスが排除されているために、困難があるということ)
最後に、コーラ・ダイアモンドや古田徹也の議論に触れ、哲学における「むずかしさ」を示している。哲学はどうしても一般化を目指してしまい、個々人の違いなどを捨象してしまいがちだが、哲学の出発点は個々人の経験にこそある。だからこそ、例えば「この問題についてどう思いますか」と聞かれた時、冴えない返答だとしても「むずかしい問題です」と答えることから逃げてはいけない、という表明。

「意味」は分配されうるか? / 長門裕介

このタイトルにある「意味」というのは、「人生の意味」のこと。実際には、労働と人生についての話。
この論文だけ、「ロボット」とか「戦争」とかのジャンル名がついていないのだけど「労働」とか「人生」とかでもよかったのでは
シュリックの「人生の意味」についての議論から始まり、その社会哲学的応用、つまり「意味のある仕事」というのはあるのかという議論をして、その議論が、政治哲学におけるリベラル卓越主義はありうるのかという議論と実は同型である、ということを示す。

Derek Hodgson ”Seeing the 'Unseen': Fragmented Cues and the Implicit in Palaeolithic Art"

Derek Hodgson "The Visual Brain, Perception, and Depiction of Animals in Rock Art" - logical cypher scape2に引き続き、Hodgsonの認知考古学論文
暗黙的な知覚処理・記憶が旧石器時代の絵画には関わっているんだよ
というか、プライミング効果を引き出すために描かれたのではないか、という説が書かれている。
「Seeing the Unseen」というタイトルから、パレイドリアとか、Seeing Inとか、なんかそんなような話から絵画の起源とかになるのかなーとぼんやりと想像していたら、全然違っていた
省略された線でしか描かれていない絵が広く見つかるらしいのだけど、ある程度省略された線というのが、プライミング効果があって、狩りとかのために動物の輪郭を認識する能力を高めるためのものだったのではないか、とかなんかそういう話だった


https://www.researchgate.net/publication/231912283_Seeing_the_'Unseen'_Fragmented_Cues_and_the_Implicit_in_Palaeolithic_Art


Implicit processing and priming

ライミングについて
意識的な記憶とは違ったものですよーと

The significance of implicit perception for Palaeolithic art

  • Why implicit perception may have been involved in Palaeolithic art
  • Priming for perceptual closure

知覚クロージャ―効果について
輪郭線が省略された・欠けた絵を使ってもプライミングできる
輪郭が何も省略されていない絵から、もうほとんど点々しか線が残っていないような絵まで、線の省略具合を8段階に分けて実験したら、4番目のレベルの奴が一番プライミングの効果が出たというのがあるらしい
で、旧石器時代の絵とかって、輪郭線を省略して、一部だけしか描いていないような絵が結構あって、知覚クロージャ―効果を狙ってんではないか、と

  • Implicit perception, training and priming

狩りをする際に動物を認識するスキルを高めるための手段だったのではないか、と
明示的な記憶より、プライミングによる記憶の方が安定してるしとかなんとか

  • Priming of equivalent, adjacent, complementary and similar contours

Implicit perception and the profile view in Palaeoart

ものを認識する時に、いつも見てる向きの見え方に変換してるよねって話と、それとプライミングと関係してるよって話かな

The separate evolutionary significance of implicit perception

危険な動物を素早く認識する能力は、生き延びるのに有利
暗黙的な記憶は進化的な役割があった
脳の構造的にも、暗黙的な記憶の回路とかあるし、同じようなプライミング効果は、人間だけでなくサルにもあるし、あるいは幼少期から見られるし
暗示的な記憶って旧石器時代の絵にも重要な役割果たしているでしょう

Implicit perception in relation to other theories of the derivation of Palaeolithic art

Conclusion

郝景芳『郝景芳短篇集』(及川茜訳)

中国のSF作家である郝景芳(ハオ・ジンファン)の短編集
もともと中国では2016年に『孤独深処(孤独の底で)』というタイトルで出版された短編集全11篇の中から7編が収録されている。
郝景芳は、ケン・リュウ編『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』 - logical cypher scape2に「折りたたみ北京」と「見えない惑星」が収録されていたのを読んだことがある。なお、「折りたたみ北京」は本書でも「北京 折りたたみの都市」というタイトルで収録されている。
このケン・リュウのSFアンソロによる「SFと純文学など、ジャンル横断的な作家とのこと」であるが、確かにSFではあるのだが、現代に近い世界を舞台にしており、SF的なプロットよりも、主人公の悩み・苦しみみたいなものがメインになっているようなところがある。
全体的に、ちょっと暗い雰囲気の漂う作品集になっているのではないかと思う(表紙イラストの雰囲気)。
なお、早川からではなく、白水社のエクス・リブリスというシリーズからの刊行

郝景芳短篇集 (エクス・リブリス)

郝景芳短篇集 (エクス・リブリス)

北京 折りたたみの都市

既に述べた通り、ケン・リュウ編『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』 - logical cypher scape2で読んでおり、当たり前だがストーリーは同じなので「こういう話だったなあ」と思いながら読んでいた。
翻訳が違うのだが、前読んだのがもう1年前なので、何か特に違いを感じることはなかった。だが今、上の記事を読み返してみたところ「第一スペース、第二スペース、第三スペース」と書かれているが、本書では「第一空間、第二空間、第三空間」となっている。
なお、ケン・リュウのアンソロの方は英語訳からの翻訳だが、本書は中国語からの直接の翻訳
訳者あとがきによると、映画化の計画が進行中とのこと。
実際、この作品はぜひ映像で見てみたい作品である。何しろ、文字通り北京が折りたたまれるのだから。
機械化が進んで人間の労働力が余剰したらどうするか、折りたたんだ空間に住まわせればいい、という発想の世界が舞台になっている。
48歳の主人公は、幼い娘(捨て子だったのを拾った)を1人で育てており、彼女を幼稚園に入れるため、第一空間へ忍び込む仕事をすることになる。第一空間、第二空間、第三空間の間にはそれぞれえげつない格差が広がっているのだけど、主人公はとにかく娘のために金を手に入れる、ということ以外のことは考えない。考えないようにしているんだろうけれど、そのあたりは書かれてはおらず、ある意味ではわりと淡々としている。ただ、そこが淡々としているがゆえに、何ともいえない雰囲気が出ている。

弦の調べ

鋼鉄人という異星人に支配されてしまった地球
鋼鉄人は圧倒的な武力を持っており、地球人はある程度の軍事的抵抗を続けているものの決定的な劣勢にある。そんな鋼鉄人はしかし、芸術や歴史的建築物などは破壊しない。そのため、各地で、鋼鉄人からの攻撃を避けるためのコンサートが行われるようになっている。主人公の陳君は、そんなヴァイオリニストの1人。
彼は、林先生の計画のために、世界各地の演奏家に声をかけて楽団を集め始める。
抵抗運動などとは無縁そうな林先生が考えたのは、共鳴によって宇宙エレベータの弦を震わせ、鋼鉄人の拠点となっている月を破壊しようという計画なのだった
ところで、宇宙エレベータが月とつながっているっぽいんだが、それが一体どういうことなのかよく分からなかった
宇宙エレベータ自体はキリマンジェロにあって、そこでブラームスを演奏する
才能ある科学者や芸術家たちは、鋼鉄人が密かにスカウトしていて、シャングリラというところへ移り住んでいる。
陳君は、抵抗することに何の意味があるのだろうか、単に新しい支配者層ができただけで何も変わってはいないのだろうか、と思い、また、先生の計画通りに本当に月が破壊できるとも信じてはいないのだが、計画に協力している
長いこと別居していて、ロンドンにいる、やはり音楽家の妻にも声をかける。妻からは「あなたはわざと反対する理由を探しているけれど、心の底ではそう思っていないのだ」と喝破される。愛情もまた共振なのだと主人公は考える。
最後、やはり月は破壊されることはなかったが、鋼鉄人を撃退するのには成功する。というのも実は、林先生にこの計画を話した物理学者は、計画のすべてを明かしていたわけではなくて、鋼鉄人を倒すためのさらに別の企みがあったのだ。
しかし、鋼鉄人は去るが、先生と妻は亡くなってしまう。

繁華を慕って

「弦の調べ」を、陳君の妻である阿玖視点で描いた作品
彼女は、音楽家としての成功を夢見てロンドンへと留学したが、しばらくして鋼鉄人の支配が始まる。
そして、鋼鉄人からの密かな誘いを受け、世界中の才能ある人々が既に鋼鉄人と手を組んでいることを知る。
「弦の調べ」を裏側から見た物語で、彼女がどうして陳君と出会ったときにそのようなことを話し、また泣いたのか。そして、何故死ぬことになったのかが語られる。

生死のはざま

前3作とはかなり雰囲気の異なる作品なので、最初面くらうが、奇妙な世界の空気感がなかなかよい
タイトルにある通り、生死のはざまの世界というか、死後の世界なのだが、輪廻転生があって、死んだあと・生まれ変わる前の世界
主人公は最初そのことには気づかなくて、奇妙な街、謎の女、めちゃくちゃ高いところにある女の家など、不思議な世界を散策することになる
まあ、なんでそんな散策する羽目になったかというと、事故死した時の顛末で一緒にいた恋人に負い目があったせいで、いや、これ完全に主人公がひどい男だっただけじゃんっていう話なんですがね

山奥の療養院

若い宇宙物理学の大学講師が主人公で、幼いころから物理コンテストやら数学コンテストやらで優秀な成績をおさめていて、いずれアインシュタインのような天才になるんだと思っていたのだが、30過ぎてみるとただの人というか、妻は子供の世話の話ばかりだし、義父は住宅ローン組んで早く家を買えと言ってくるし、しかしそんな給料はなく、そのためには実績を積まないといけないのだが、そもそも、生活のために研究するのか、そもそも研究は手段じゃなくて目的じゃなかったのか、みたいな悩みに苦しめられている。
で、山奥の療養院で療養中の友人に再会するという話
この作品はSFみがほとんどなくて、この主人公の悩みに付き合っていく感じの作品だけど、科学とか芸術とかの世界での成功とは何か、あるいは外的な成功と内的な充実・達成はどのように関係しうるのか、みたいなところで「弦の調べ」「繁華を慕って」とテーマ的にはつながっているのだと思う

孤独な病室

ネットの発展の末に、他人への関心を失って寝たきり状態になる患者の続出している未来社
主人公はそんな患者たちの療養施設で働く看護婦の一人だが、彼女自身、恋人のSNSでの動向を逐一監視しながら気持ちをいら立たせているネットジャンキーで、というかなり短めの短編

先延ばし症候群

明日中間発表があるのに、Wordを立ち上げては、ウェイボー(中国版twitter)を開いてしまったり、ネット動画を見てしまったりする学生の話