土屋健『石炭紀・ペルム紀の生物』

生物ミステリーPROシリーズ第4弾
土屋健『エディアカラ紀・カンブリア紀の生物』 - logical cypher scape
土屋健『オルドビス紀・シルル紀の生物』 - logical cypher scape
土屋健『デボン紀の生物』 - logical cypher scape

これで古生代は最後、既刊もここまで、と思うとさびしい感じもするが、夏には中生代が待っている
この時期になってくると、脊椎動物のバリエーションも増えてきて、見ているだけで楽しい
石炭紀は、シダ植物の森林、でかい昆虫など、まさに古代世界というイメージにぴったりの時代だなあという雰囲気

第1部 石炭紀
1 ウミユリの園
2 そのとき脊椎動物は……
3 シカゴに開いた“窓"
4 大森林、できる
5 昆虫天国
エピローグ
第2部 ペルム紀
1 完成した超大陸
2 両生類は頂点をきわめ、爬虫類は拡散を開始する
3 単弓類、繁栄する
4 史上最大の絶滅事件
エピローグ

第1部 石炭紀

1 ウミユリの園

石炭紀は、3億5900万年前から2億9900万年前まで
国際的には「石炭紀」という呼称だが、アメリカでは3億2320万年前を境に前を「ミシシッピ紀」、後を「ペンシルバニア紀」と呼ぶ
この時代に多様性を高めたのが、ウミユリ類
ユリという名前だが、棘皮動物。現在も生きているが主に深海で、古生代の方が繁栄していた。
アイオワイリノイミズーリインディアナなどから発掘されている
アイオワでは、密集して発見されていたりもする。
これらの地層から発見された化石は、クリーム色などに色がついていたりする(化石となるさいに色がついた)
棘皮動物の特徴は5回対称。
カンブリア紀に遡るが、カンブリア紀にいた海果類、螺板類、原始的な座ヒトデ類のうち、前二つはまだ五回対称という特徴がない。
その後、座ヒトデ類(絶滅)、ウミリンゴ類(絶滅)、ウミユリ類、ヒトデ類、クモヒトデ類、ウニ類、ナマコ類にわかれていく

2 そのとき脊椎動物は……
  • サメ類

ここで登場してくるサメ類の見た目がすごい
アクモニスティオン:後頭部に「トゲのついたアイロン台」のような構造がある
ファルカトゥス:後頭部に「マイク台とそこに設置されたマイクのような」前方を向いた突起構造がある
ハーパゴフトゥア:頭部に1対2本の細長い構造物がある
これらはどれも、一体何だこれ、何がどうするとこんな形になるんだという形状をしている
性的二型、この場合はオスだけがこうした特徴的な構造をもっていたとされ、交配の際に使われたのではないかとされているが

この時期に最初の繁栄期が訪れるが、ペルム紀にかけて数を減らしていく。中生代に再び数を増やす
タイのような見た目のシーラカンスもいた

モンタナ州の地層。魚類化石群がよく保存されている
上述したサメやシーラカンスの化石もここから見つかっている
血管や臓器の一部が確認できるようなものもある
この本に掲載されているシーラカンス類の化石も、まるで魚拓のような保存状態
当時、河口付近か湾になっていて、時折発生する乱泥流に巻き込まれて化石になったのではないか、と

  • 両生類

デボン紀末のアカトンステガ、イクチオステガののち、2000万年のあいだ、両生類の化石が発見されていない「ローマーの空白」という時期がある。
2002年、この時期の地層から発見された両生類ペデルペスが報告される。これは、陸上を「歩行」したことがはっきりと確認できる最古の脊椎動物
ところで、ここでは言及されていないが、ピーター・D・ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』 - logical cypher scapeを見てみると、ペデルペスは年代測定が不正確で、やっぱりローマーの空白はあって、それが低酸素時代と一致している、と主張している。

蛇のような姿をした両生類

  • クラッシギリリヌス

頭部が大きいが、手足が小さい。全長2mなのに対して、前足が10cmほどしかない。水中に戻っていった種とされる

植物食動物と確実にいえる最古の脊椎動物
爬虫類の特徴をもちあわせており、便宜上両生類に分類されるという

3 シカゴに開いた“窓"

シカゴ郊外、メゾンクリーク
1950年代末、石炭会社が露天掘り炭鉱へのアマチュア化石収集家の立入を許可し、以来、アマチュアとプロが協力関係を結んでいる地域
クラゲの化石が発見されている
軟組織は残りにくいので、クラゲの化石は当然ながら非常に珍しい。廃棄されていたものから再発見された。
実際、写真を見てみると、言われてみればクラゲっぽいけど、よく見つけたなほんとにっていうほど、うっすらした感じのもの

  • ツリモンストラム

平たく細長い胴体に細長い吻部や尾びれのついている謎の生き物
通称「ターリーモンスター」

  • コンヴェキシカリス、コンカヴィカリス

2cmほどの節足動物
巨大な複眼を一つもっている。あえていえば、ツインビーみたいな風貌。
ただ、3対くらいの付属肢を持っている

  • エタシスティス、エスクマシア

通称「The H」と「The Y」
見た目が、アルファベットのHやYに見えるからだから、復元図を見る限り、まあ言われてみればそうかも、くらい
どちらも分類不明

  • 昆虫類

メゾンクリークは、77種の昆虫が発見されている。ただし、ゴキブリの仲間以外は絶滅してる。
ゲラルスという種が紹介されている。バッタの仲間っぽいが、胸部がトゲトゲ


その他、メゾンクリークからは、ウミサソリ類、カブトガニ類、クモ類、シダ裸子植物、ムカデ類、サメ類、シーラカンス類、棘魚類、肺魚類など多様な生物群が発見されている*1

4 大森林、できる

石炭紀は、ローレンシア大陸シベリア大陸ゴンドワナ超大陸が合体し、超大陸パンドラが形成された時代
超大陸形成→巨大山脈形成→雨雲発生→高湿度の氾濫原が発生→大森林形成→倒木が蓄積→石炭層
これについても、ピーター・D・ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』 - logical cypher scapeに記述がある。
この時期の植物は、本格的な木となっていたが、木を分解することのできる最近がまだ存在していなかったのではないか、と。
有機物が大量に埋没すると、酸素濃度が上がる。
植物は酸素を発生させるが、木を腐敗させるときに酸素を消費する細菌がまだいない。
また、同書では、高い酸素濃度が山火事を頻繁に引き起こした、とも述べている。
現代の酸素濃度は21%だが、石炭紀には30%まであがったという。


アメリカとカナダの国境東部、ファンディ湾にある「ジョギンズの化石の崖群」
チャールズ・ライエルも調査したという
ジョギンズからも発見される、石炭紀の有名な木3種(全てシダ植物)

  • レピドデンドロン

鱗木、とも
40m
ヒカゲノカズラの仲間だが、現生のヒカゲノカズラは20cm

  • シギラリア

封印木、とも
30m

  • カラミテス

蘆木、とも
10m

  • アースロプレウラ

長さ2mにも及ぶ多足類(つまりムカデ)
史上最大の陸上節足動物
足跡化石が、アメリカ、カナダ、イギリス、フランスから発見されている。メゾンクリーク、ジョギンズでも発見されている。
植物食

  • ヒロノムス・ライエリ

最古の爬虫類
30cmほど

5 昆虫天国

昆虫類繁栄のための二つの革新
「翅の獲得」と「完全変態の獲得」

  • ステノディクティア・ロバタ

ムカシアミバネムシ類の一種。ムカシアミバネムシは、普通の昆虫と違って3対6枚の翅がある。

  • メガネウラ

70cmの巨大トンボ
ちなみに、現生のギンヤンマは7cm
ただし、現生のトンボと違ってすばやく飛び回るタイプではなかった

  • 昆虫巨大化の理由

これまた、ピーター・D・ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』 - logical cypher scape
一つ、昆虫の呼吸システム(気門)は効率がよく、高酸素濃度下で代謝速度があがった
現在でも、酸素がより多く溶けている水域のヨコエビ類が大きかったり、ショウジョウバエを高酸素濃度で育てると大きくなるという実験があったりするらしい
一方、クラファムとカールは、再び酸素濃度が上がったジュラ紀に昆虫は巨大化しなかったことを指摘している。ただし、その頃には鳥類が既に存在していたために巨大化できなかった、とも。
もう一つ、酸素濃度が高いと大気圧が高くなり、浮力も得られることになった。

幼虫と成虫の姿が異なることで分業ができ、またエサの競合もおきない
この頃出現したグループは、現在でも生き残っているものが多い

エピローグ

ゴンドワナ超大陸には南極点が含まれていた。陸は海よりも冷えやすく、氷河が拡大。南緯30度まで到達、その面積は、日本の48〜60倍にも達するという
乾燥化が進み、石炭紀の大森林が消えていくことに

第2部 ペルム紀

1 完成した超大陸

パンゲアが完成
ウェゲナーの大陸移動説の根拠になったのは、この時代の化石(裸子植物グロッソプテリス、水棲爬虫類メソサウルスなど)

2 両生類は頂点をきわめ、爬虫類は拡散を開始する
  • 両生類

イムリア:爬虫類に似た、がっしりした四肢をもつ両生類
エリオプス:ワニのような顔つきの両生類。イクチオステガの子孫
ディプロカウルス:表紙の写真の奴。なぜこんな三角の頭なのかは謎。四肢が未発達で水中生活していたとされる
ゲロバトラクス:蛙とイモリの共通祖先。両方の特徴を持つ。イモリ類の最古の化石はジュラ紀中期、カエル類の最古の化石は三畳紀前期で共通祖先がいつ頃か謎だった。これが2008年に発見されて時期が絞り込まれた

  • 爬虫類

メソサウルス
全長1m。湖沼に住んでいた。淡水種だったので、大陸移動説の証拠となった。
2012年、ウルグアイから、胎生だったかもしれないという報告があった。
コエロサウラヴス
皮膜があって滑空していた爬虫類。1997年、伝統的な復元(肋骨が長い)から、前足の付け根に放射状に細い骨が伸びているという復元に改められた。皮膜は体を温めるのにも使われた


パレイアサウルス類
2〜3mと、ペルム紀としては大型で「重量級」
スクトサウルスについて「AT-TEのなりそこないというべきか」と書かれている。どっちかっていうと、「AT-AT」の脚短い感じかな、と思う
背中に装甲板をもつので、カメ類との関係が議論されてきたが、平山(2007)はパレイアサウルスとカメに系統関係はないとしている
また、パンゲア中央部の砂漠でも独自の生態をもっていたかも。2013年、ニジェールからブノステゴスというのが発見されている。パンゲア中央のことはよくわかっていないので、ニジェールの産地は今後期待、だとも

3 単弓類、繁栄する

「哺乳類型爬虫類」という言葉が使われなくなって、「単弓類」という言葉が使われるようになった、ということは知っていたのだけど、哺乳類と爬虫類の関係はちゃんと分かってなかったので、冒頭の整理が勉強になった。
従来は、両生類→爬虫類→哺乳類と鳥類、と進化してきたと考えられていたが
現在は、両生類→単弓類と双弓類がそれぞれ進化してきたと考えられるようになった、と。
単弓類がいずれ哺乳類となる。
学会では2000年代からいわれており、2012年から学校の教科書にも載るようになったらしい。


単弓類
哺乳類を含むより大きなグループ単位
獣弓類、オフィアコドン類、エダフォサウルス類、スフェナコドン類などがいて、哺乳類は獣弓類の中に含まれる。
階層分類だと哺乳類って、綱のレベルにあって、かなり上の方だけど、分岐学的な(?)分類だと、単弓類の中の獣弓類の中になるのだから、結構下位だな(まあ階層的な下位というか、時間的にあとの方に現れているからこうなるのかな)


単弓類というと、大きな帆をもつものが有名
ディメトロドンしか知らなかったけど、ディメトロドンの仲間とエダフォサウルスの仲間と別々らしい

  • エダフォサウルス

エダフォサウルス類。3.2m
帆となる骨に、小さな突起がトゲトゲとついているのが特徴
頭が小さく、犬歯もない。植物食
帆は温度調整に使われていたと言われているが、2011年、帆の骨の中に血管が通っていた痕跡がなく、温度調整機能はなかったのではないかという研究が発表されている
標本が、科博の地球館にあるらしい

スフェナコドン類。大きさはエダフォサウルスと同じくらい
帆にトゲトゲなし。頭が大きく、大きな犬歯をもち、肉食。ペルム紀前期の生態系の頂点にいたと思われる
こちらは、帆が温度調整に使われていたという説が主流。しかし、異論・反論もある模様。

  • リカエノプス

サーベルタイガーのような長い犬歯をもつゴルゴノプス類
ペルム紀後期の覇者
四肢が、体の下にのびる付き方をしており、現在の哺乳類に近付いている
(ところで、脚の付き方についてピーター・D・ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』 - logical cypher scapeに呼吸との関係で言及されていた。脚が横についていると移動する時に体をねじることになり呼吸ができない。呼吸と移動が同時にできないので、移動がのろくなる)
一方、二次口蓋という、口と鼻をわける壁はまだできていなかった。これがないと、呼吸と食事が同時にできない。哺乳類と一部の獣弓類にしかないらしい


ディクトドン
ヨンギナ
イノストランケビア
エステメノスクス
モスコプス

4 史上最大の絶滅事件

ヘリコプリオン
螺旋状に並んだ歯
一世紀以上にわたり様々な復元がなされてきた
現在は、下顎に配置する復元が多い
これ初めて見たけど、ほんとどうなってんだ!
かなり不可解
頭足類の補食に役に立ったともいわれているらしいが……
コエラカンタス
シーラカンスの名前の由来になったシーラカンス
現生のラティメラと姿は似ているが、サイズは3分の1程度。
ラティメラって2mくらいあるらしい。そんなでかかったのか

デボン紀前期に登場し、最初の繁栄はデボン紀後期
が、デボン紀末までに数を減らす
石炭紀ペルム紀に再び繁栄を迎える
だが、ペルム紀末の大量絶滅以前にすでに種類を減らし、大量絶滅時に絶滅しそうになるがかろうじて生き残る

カンブリア紀に登場し、カンブリア紀オルドビス紀に大繁栄
だが、シルル紀には半分以上に減り
石炭紀以降は「プロエタス類」というグループしか生き残っていない
ペルム紀末の大量絶滅まで生き延びたのは5属のみ
大量絶滅でこの5属も絶滅


陸上の脊椎動物は、ペルム紀末の大量絶滅前に既に姿を減らしていた
昆虫類にとっては、ペルム紀末の大量絶滅はかなり大きなイベントだった

  • 原因

まだよくわかっていながい、アーウィン『大絶滅』には以下のような仮説があげられている
(1)隕石衝突(証拠がない)
(2)大規模火山活動(シベリアの洪水玄武岩が証拠。しかし絶滅との因果関係が不明)
(3)パンゲア超大陸誕生による生物区の減少(パンゲア誕生と時期がずれる)
(4)大規模寒冷化(証拠がない)
(5)無酸素化(スーパーアノキシア)(海洋については説明できるが、陸上生物が不明)
(6)オリエント急行殺人事件
磯崎は(2)と(5)の組み合わせを主張丸山茂徳・磯崎行雄『生命と地球の歴史』 - logical cypher scape
2013年、ブラックらも(2)の研究を発表

エピローグ

ペルム紀の大量絶滅は、種のレベルで96%が絶滅
古生代型の動物群」が消え、「現代型の動物群」にいれかわった
三畳紀には、獣弓類やアンモナイト類が再び繁栄しはじめる
が、三畳紀には、新しい門や綱は現れなかった


石炭紀・ペルム紀の生物 (生物ミステリー (生物ミステリープロ))

石炭紀・ペルム紀の生物 (生物ミステリー (生物ミステリープロ))

*1:ただし、シダ裸子植物に関しては、別の場所から流れてきたものらしい