現代思想2019年5月臨時増刊号 総特集=現代思想43のキーワード


本屋で見かけたので少し眺めました。
目次は青土社 ||現代思想:現代思想2019年5月臨時増刊号 総特集=現代思想43のキーワードを参照
この中で多少目を通してみたのは「加速主義 / 仲山ひふみ」「反出生主義 / 戸谷洋志」「宇宙倫理 / 呉羽真」「ゲノム編集 / 八代嘉美」「エモい / 山田航」「Vaporwave / 銭清弘」「擬人化 / 松下哲也」
あとは、AIの項目書いている人が、科学史の人で人工知能研究史やっている人なんだなーとか、『ドローンの哲学』という本、そういえばあったなーとか、SF作家の樋口さんがポストアポカリプスの項目書いてるなーとか、

  • 反出生主義

反出生主義については、以前から同意できない気持ちがあり、こんなツイートをしたこともある


この記事で改めてまとめられいて、「苦は悪い」はいいとして「苦の不在はよい」と「快の不在は悪くない」の非対称性の議論が引っかかっているのかなあと思った。
その後、多少ググってみたら、このあたりを巡ってかなり色々な立場が入り乱れての論争になっているっぽい
まあ別に非対称でもいいのかもしれないが、「苦を減らすこと・なくすことはよい」とは思うが、「苦の不在」についてはよいのか悪いのか、俺にはよくわからない。

  • 宇宙倫理

『宇宙倫理学』は論文集であるため、個々のトピックについては論じていたが、そもそもどうして宇宙倫理なのか、ということに応えきれなかったと筆者
状況論の説明(民間企業の進出とか)や、従来の倫理学にとっても宇宙倫理というトピックから見直すべき点があるという話
で、最後に、科学基礎論学会シンポジウム「宇宙科学の哲学の可能性――宇宙探査の意義と課題を中心に」 - logical cypher scape2でも少し話がでていたが、地球についてのイメージが「ゆりかご」から「家」に変化していることを指摘。これが、宇宙進出したことによる人類の自己イメージの深化だとした上で、最近でも、宇宙開発を人類の必然として語る論があるけど、それはこのイメージの変化を全く踏まえていない、ということを指摘するのが宇宙倫理学の役割の1つと論じている。
参考文献の中に近刊があり、宇宙総合学研究ユニットで出している本があるっぽい

  • エモい


とか言ってたけど、よい記事だった
エモいという言葉は今はバズワードとなっているけれど、元がロックのジャンルの1つであるエモであるところから、「エモい」の変遷をたどっている
eastern youthなど、日本のエモが、わりと札幌出身が多いらしく(これも札幌のあるレコードショップがエモコアを入れてて云々みたいなのがあるらしい)、全然知らなかった。でもって、歌詞の中で初めて「エモい」が出てきた曲の歌詞も、郊外と地平線がどこまでも伸びる光景が描かれていて、筆者は、北海道的な想像力があるというようなことを書いていた
その後、ロック以外の音楽に登場する「エモい」も見ている。大森靖子の歌詞とかBiSのキャッチコピーとか。BiSにおける使われ方では、「萌える」と対置されて使われていたと指摘されているのも面白い(BiSは、萌えるではなくてエモい、みたいな内容のコピーのつけ方をしている)
さらに「エモい」という言葉の使い方への批判が、最初に若い世代から出てきたということとかを、落合陽一とかの「エモい」を「あはれ」の現代版として解釈するのとかとあわせて論じている


ちなみに(?)自分のtwilogを検索してみたところ、自分が「エモい」をtwitter上で使ったほぼ最初の例は、2012年に、MOGRAでのfu_mouさんのDJを聴いていた時っぽい

  • Vaprowave

最近、obakewebで、分析美学ブログとしてもめちゃくちゃ活躍されている銭清弘さんの記事
僕は、vaporwaveってちゃんと知ったのはobakewebでです

ピーター・D・ウォード『生命と非生命のあいだ』

サブタイトルは「NASAの地球外生命研究」とあり、宇宙生物学の本である。また、原題は「Life As We Do Not Know It」とあり、私たちが知らない生命、つまり現在の地球にいる生命とは違った形の生命としては、どのようなものがありうるか、ということを書いている本
面白い内容ではあるのだけど、なんか文章が頭に入りにくい本でもあった。


大雑把に言うと、以下の4つくらいの話題があったと思う
「生命」の範疇を広げて、「私たちが知らない生命」が見つかった時のための分類を作っておきましょ、という話
ウイルスや合成生物学の例をあげて、「私たちが知らない生命」は実はもう地球にはいるんだ、という話
パンスペルミア説を推す話
太陽系内の地球外生命の探査について現在の状況を概観し、火星とタイタンを推す話


ウォードの本を読むのは、これで3冊目
ピーター・D・ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』 - logical cypher scape2
ピーター・ウォード、ジョゼフ・カーシュヴィンク『生物はなぜ誕生したのか』 - logical cypher scape2
上2冊については、原題と邦題がわりと違っていて、邦題はキャッチーではあるが、内容に対してあまり適切ではない感じになっているが、本書は、直訳的なタイトルではないものの、全然内容には沿ったタイトルになっている。
ウォードは、ワシントン大学の古生物学者で、NASAのアストロバイオロジー研究所で研究しており、それがこの本につながっている*1
本書や上に挙げた2冊をはじめ、一般向けの著作も多く、またテレビ出演などもしている人らしい。
邦訳はなさそうだが、『レア・アース』という著作があり、13章に関連するエピソードが書かれているのだが、そこではSETI批判をしていたらしい。
『レア・アース』は、ワシントン大学でウォードの同僚であるドン・ブラウンリーとの共著であるが、本書でも、彼の名前は至るところに登場する。
また、同じくワシントン大学でのウォードの同僚、スティーヴン・ベンナーの名前も、多く言及されている。
さらに、この後にウォードと共著を書くことになる、パンスペルミア説派のカーシュヴィンクの名前もよく出てくる。
この3人が、それぞれウォードの研究仲間で、この本は彼らから得た知見も色々盛り込まれている、という感じ
(ちなみに、索引でざっと見たところ、彼らに次いで言及が多いのは、チャールズ・ダーウィンカール・セーガン、カール・ウーズといったところか)


下記の目次にある通り、全14章からなるが、ページ数的には、4章まででほぼ半分である


1 生命とは何か
2 地球の生命とは何か
3 われわれが知らない生命
4 生命のレシピ
5 生命の人工的合成
6 地球には、すでにエイリアンがいる?
7 パンスペルミア――太陽系にエイリアン遍在の可能性はあるのか?
8 水星と金星
9 月の化石
10 火星
11 エウロパ
12 タイタン
13 意味合い、倫理、危険
14 宣言――古生物学者を火星に、生化学者をタイタンに送ろう
終わりにあたって 生命の森?

生命と非生命のあいだ―NASAの地球外生命研究

生命と非生命のあいだ―NASAの地球外生命研究

ここは、本書がどういう本か説明している箇所だが、生命の定義や起源については、既にいくつもの本が書かれているといって、代表的な著作があげられていたので、ここにメモっておく
シュレーディンガー『生命とは何か』、モノー『偶然と必然』、クリック『生命それ自体、その起源と性質』、ド・デューヴ『生命の塵』、デーヴィス『第五の奇跡』、ダイソン『生命の起源』
特に、後ろ3つについては、本書では他の場所でも言及がある。
生命の起源の諸説については高井研編著『生命の起源はどこまでわかったか――深海と宇宙から迫る』 - logical cypher scape2も参照

1 生命とは何か

いくつかの定義を紹介したりしているのだが、筆者は、地球の生命は複雑すぎるのではないか、という点を指摘している
つまり、生命とか「生きている」ということを定義するにあたり、地球の生命を参照すると、本来は要らない条件までいれてしまうのではないか、と
すでに絶滅してしまった(かもしれない)地球初期の生命であるとか、地球外にいる(かもしれない)生命は、もっと単純なものだろう、と
そのうえで、我々が知っているものとして、生命のボーダーケースを二つ挙げる
ウイルスとプリオンである
どちらも、一般的な分類において、生命には含まれない
しかし、筆者はこのふたつも「生きている」といって構わないと述べる。

2 地球の生命とは何か

この章がなかなか面白いのだが、ウォードは、新しい種カテゴリーの分類を作ることを提案する
地球の生命は、真核生物、アーキア、細菌の3つのドメインに分類されているわけだが、ウォードはドメインの上位として、ドミニオンという括りを作ることを提案し、これら3つのドメインを含むドミニオンとして、テロア(地球生命)を提案する
テロアは、情報保存子としてDNAを持ち、リボソームによってタンパク質を作り、そのタンパク質は20種類のアミノ酸セットから作られており、エネルギーをATPに蓄え、脂質膜をもつような生命、といった形で定義される。
LUCAとプロゲノートの区別にも少し触れており、LUCAというのはテロアに属するけれど、プロゲノートは多分、テロアじゃない、と。


ウイルスを考える上で、DNAウイルスを、細胞性の生物とは区別された枝なのではないか、と。
また、RNAウイルスを考える中で、ゲノムとしてDNAではなくRNAを持つ生命のドミニオンであるリボサを提案する。
このリボサの中には、RNAウイルスを含むドメインであるリボヴィラと、ゲノムをRNAとして持つ細胞性生物のドメインであるリボゲノマを置く
リボゲノマというのは、完全に、我々の知らない生命、ということになる


ウイルスが生命かどうか考える上で武村政春『生物はウイルスが進化させた 巨大ウイルスが語る新たな生命像 』 - logical cypher scape2は参考になる

3 われわれが知らない生命

地球生命以外に、どのような生命がありうるのか
可能性を様々にあげている
テロアのことを、CHON生命(炭素・水素・酸素・窒素)と呼んでいる

  • CHON生命のバリエーション

DNAの遺伝コードを変える、RNAの糖を変える(リボース(五炭糖)からヘキソース(六炭糖)へ)、アミノ酸の種類を増やす、キラル性を変える、溶媒を変える、情報を核酸ではなくタンパク質に保存させる、あるいは固体や気体の生命?
このうち、最初の3つは合成生物学の分野で実例があることもあわせて紹介されている。ベンナーやロームズバーグの名が挙がっている。
また、固体や気体については、考慮から外してよいだろうということになっている

  • CHONエイリアン

RNA生命、アンモニア生命、酸生命を挙げている
RNA生命はテロアの先祖と考えられる
アンモニアは、水よりも液体である温度の範囲が広い
金星の大気の中に生命がいる場合、そこは強い酸性となっている

ここでもベンナー
地球みたいな環境だったら炭素ベースの方が強いけど、低温環境でメタン・エタンの湖だったら珪素ベースも可能性あるのでは、みたいなこと書いている

ケアンズースミスのクレイワールド仮説に出てくる粘土生命について
クレイワールド、名前は色々な本にちょくちょく出てくるけど、いまいちよくわからなかった奴が、わりと詳しく説明されていた
目に見えない粘土結晶が層となって積み重なり成長していく。これが、自己複製なんだけど、コピーのエラーが時々起こる。また、結晶の材料となる資源(珪素、酸素、水素)を巡って競争が起きる。これにより、複製と進化が生じる。結晶の一番上の層が遺伝子にあたる、というのが、ケアンズースミスの考えるクレイワールド
その「進化」の過程で、有機物が取り込まれる選択が生じ、結晶が有機物や核酸へと置き換わっていき、地球生命が誕生した、というのがケアンズースミスの考えるシナリオである。
乗っ取りが起きないバージョンもあるかもしれない、ということで、この、ありうるかもしれない生命の一形態にあがっている

  • ありそうもないエイリアン

スタートレック』に出てくるプラズマ生命は、進化してないので生命じゃない
ガイア仮説というのがあるが、生命が開放系であるのに対して惑星は閉鎖系なので、生命じゃない

4 生命のレシピ

地球生命の起源、どのように生命が生まれたかについての、様々な仮説を検討する

RNAが自然に生成されるのが非常に難しい、というのは、本書では繰り返し強調されている。
まず、水が何でも溶かしてしまうという問題
もう一つ、熱に弱いという問題(糖は熱で黒くなる)
これに対して、ベンナーが、ホウ酸塩を含むと、糖を熱から守れるということを発見し、高温環境下でのRNA生成への道が開けた、というのが紹介されている。

  • RNA生成以後

ダイソンのゴミ袋仮説、RNAワールド仮説、ケアンズースミスのクレイワールド仮説、黄鉄鉱仮説、ウォードのウイルス仮説が紹介されている。
RNAが触媒機能も有するということが判明し、つまりタンパク質なしでも生命っぽいことができるのでは、ということで出てきたのがRNAワールド仮説
クレイワールド仮説は、それとほぼ同時期に提唱されたらしい。

  • 生命の起源の場所

ダーウィンの「温かい池」、その変種としての「潮だまり」、「熱水噴出孔」、カール・ウーズによる「雲の中」、ヴェヒテルスホイザーの「鉱物表面」
(筆者は、ウーズの「雲の中」は、地球より他の惑星で使えるかもしれないとしている)
そして、ベンナーの考える「砂漠」説
ホウ酸塩や水の少なさから「砂漠」説が出てくるのだが、これをさらに推し進め、カーシュヴィングとワイスは、「火星」こそが生命の起源の場所だったと唱える

  • 似たような言葉

これは、この本を読んでいて、リから始まる色々似たような言葉があるなーと思ったので、まとめようと思ったメモ
リボソーム:超頻出単語。タンパク質を合成する奴ー
リボース:RNAを形成している糖
リボザイム:RNA酵素としても使われるとき、リボザイムと呼ばれる(らしい)
リポソーム:細胞壁の脂質
リソソーム:本書には出てこない用語だが、細胞内小器官の1つ
リボソームとリソソームは、高校の生物でも習う単語で、ややこしいよねというのはよく言われる話なんだけど、この本を読んでいたら「リポソーム」という、さらにややっこしい単語が出てきたので、メモっておこうと思った次第
その点では、リボースとリボザイムはそんなに似ていないし、ややこしくもないのだが、まあ、勢いで。

5 生命の人工的合成

合成生物学において、ジャック・ゾスタクという人がキーマンっぽい
章の後半で改めて紹介される
生命の合成について、ボトムアップトップダウンのアプローチがあるという
ボトムアップ・アプローチでは、DNA・RNA分子を作ろうとするグループと細胞を作ろうとするグループがいる
トップダウン・アプローチでは、細菌のゲノムを組み替える研究
また、ウイルスの合成にも成功しているとかいないとか
ジャック・ゾスタクは、RNA分子の合成に長年関わっているらしい。


この章については、完全に消化不良
合成生物学は、また後日改めて

6 地球には、すでにエイリアンがいる?

ロスト・シティの話を皮切りに、この地球にまだ発見されていない生命もいるよねという話
で、RNA生命が、絶滅せずに生き残っていたら、それは地球上の、(テロアではないという意味で)エイリアンな生命になる、という話
めちゃくちゃ短い章

7 パンスペルミア――太陽系にエイリアン遍在の可能性はあるのか?

パンスペルミア説の簡単な歴史
火星からの隕石で、いっとき、生命の痕跡があると話題になったALH84001が、パンスペルミア説を復活させた、と。
そもそも、脱出と衝突の時の衝撃に生命は耐えられんのか、という問題がパンスペルミア説には当然あるわけだが、カーシュヴィングは、隕石の内部に磁場があることから、内部は200℃以上には熱せられていない(から大丈夫)と考えている
また、ウォードは、テロアよりリボサの方が、よりパンスペルミアには耐えられるだろうという提案をしている

8 水星と金星

水星に生命がいる可能性はほぼない
金星はどうか
はるか昔は、地球に似た環境であって、生命に適していたかもしれないが、その後の温室効果で灼熱の惑星になっている
しかし、それでも、金星に生命がいる可能性はないのか。大気の上層部に温度が低いところがあって、そこに生命がいる可能性がいるという主張をしている研究者たちがいるらしい
もっとも、金星に突入する探査機は高温でだめになっちゃうし、調べる方法がないから、まあ金星探すのは無駄(とはっきり言っているわけではないが、ほぼ同じようなことを言っている)

9 月の化石

何故、月の話をするのか、というと、月で生命を探そうというわけではなく、太陽系の記録を探そうという話
月は、大気もないし火山活動もないので、過去に降ってきた隕石等の記録が残されている
隕石の重爆撃期の記録とか、宇宙から降り注ぐ放射線の記録とかから、生命の大量絶滅についても何か分かるかも的な

10 火星

前半は、ヴァイキングでの調査の話
後半は、スピリット&オポチュニティやマーズ・エクスプレスの話と、火星でありうる生命の可能性の話
ヴァイキングの話では、カール・セーガンのエピソードが色々と書かれているのが面白い
火星探査を生物学中心の探査にしたのは、セーガンの功績だとしているが、一方で、セーガンが火星で動物を探すためのカメラをヴァイキングに積載させたというエピソードも紹介している。もちろん、このカメラは無駄な重量にしかならなかったわけだけど。
後半で、メインとなるのは、やはりメタンの話
火星で発見されたメタンが、本当に生命由来であるかは諸説あって、まだ確かなことは言えないわけだけれど、ウォードは、そういうことは認めつつ、これをもって火星の生命を発見したんだということを繰り返し述べている
あと、地球の細菌の中にも火星の環境で生き残れる奴はいるだろうということで、探査機が持ち込んじゃってるかも話
そして、面白かったのは、火星にまだ水も大気もあった時代に、仮に生命が生まれていたとして、その生命が多細胞生物くらいまでは進化していたのではないかという可能性を述べているところ。
これが最終章の、火星に古生物学者を連れていくべし、という主張へとつながっていく

11 エウロパ

エウロパは、現在、太陽系で生命がいる可能性が高いとして取りただされることの多い星だ
ウォードもそのことは分かっているが、彼自身は、エウロパ生命に悲観的である
海表面は寒すぎる、海洋中は塩分濃度もしくは酸性の度合いが高い、海底は水圧が高すぎるか塩分濃度が高い、というのがその理由である

12 タイタン

ウォードが、火星とともに、太陽系での生命がいるかもしれない可能性に賭けているのは、タイタン
タイタンも、メタンが観測されているので、それは生命由来なのかどうなのかという話が出てくる
関根康人『土星の衛星タイタンに生命体がいる!』 - logical cypher scape2では、メタンの海にどのような生命がいるのか、という話をしていたけれど、ウォードは、タイタンについて3種類の生命の可能性を見て取る
隕石の衝突などによって発生した熱で生まれた淡水湖に、CHON生命
アンモニアの海に、アンモニア生命
メタン・エタンの海に、珪素生命
どうも、液体の水があるのではという話もなんかあったりするらしい?
この章では、アンモニアの話が一番長くされている
メタン・エタンの海と珪素生命については、一言、二言触れられている程度
火星については、もし生命がいるとするなら、地球の生命とよく似た生命か、あるいはもし火星が地球生命の起源の地だとするならば、そもそも同じ生命の樹につらなる生命がいると考えられるのに対して、タイタンは、根本的に異なる生命がいるだろう、と

13 意味合い、倫理、危険

主に惑星保護の話
つまり、地球から他の惑星に対して汚染してしまうのを防ぐ話と、他の星からのサンプル・リターンで地球が汚染される(病原体)危険について
それから、バイオテクノロジー・合成生物学による、人工病原体の危険性について

14 宣言――古生物学者を火星に、生化学者をタイタンに送ろう

この章の内容は、タイトルにほぼ尽きている
先の章で述べた通り、火星はすでに絶滅したかもしれないが過去に多細胞生物が生まれえた可能性があるとウォードは考えており、それゆえに、火星では化石が見つかる可能性があると考えている
化石を探すなら、古生物学者でしょ、と
何故人間を火星へ向かわせなければいけないのか、ロボットでは無理なのか
ウォードは、ロボットでは、地球上ですら化石を発見できないという。古生物学者の化石発見の技術・センスが必要だと語っていて、このあたりは、古生物学者ならではという感じである。
生化学者をタイタンへ、というのは、タイタンに生命がもしいるとすれば、地球生命とは異なる生化学反応を用いていると考えられるからだ。
こちらは完全に「宣言」という感じ

終わりにあたって 生命の森?

第2章で、ドメインよりも上位のドミニオンというカテゴリーを提案したウォードだが、最終章で、それよりもさらに上位のカテゴリーとして、アルボレアを提案する
これは、ラテン語の「木」に由来し、ある一つの惑星から生まれた生命全てを含む
あわせて、アルボレア・テラを提案し、果たして、アルボレア・アレス、アルボレア・エウロパ、アルボレア・タイタンはあるのだろうか、と締めくくっている。

訳語について

気になった奴
「研究センター」が「研究中心」と訳されている。
リンやホウ酸が、燐、硼酸と漢字表記されている(間違いじゃないけどカタカナの方が一般的では?)。
熱水噴出孔「ロスト・シティ」が「失われた街」と訳されている(同じく、間違いではないと思うけど、固有名詞であることを示す意味でもカタカナの方が一般的なのでは?)
とまあ、ちまちま気になる点はあるのだが、一方で、ところどころ、結構詳しく訳注がついていたりもして、よい所はよい

*1:NASAのアストロバイオロジー研究所というのは、どうもバーチャルな組織らしく、実際にどこかに研究所があるというのではなく、色々な大学や研究機関のチームをまとめたもの、らしい。ワシントン大学もそのうちの1つのようだ

関根康人『土星の衛星タイタンに生命体がいる!』

惑星科学的な観点からのアストロバイオロジー
太陽系全般から系外惑星まで扱っているが、タイトルにある通り、メインはタイタンである。
タイタンに生命がいる可能性があることは、どのアストロバイオロジー本でもたいてい書いているところだが、最近だと、やはりエウロパエンケラドゥスの方が強調されて、タイタンの記述はさほど多くない(気がする)。


筆者は、大学院生時代にNASAのエイムズ研究センターに行っていて、その際に、ちょうとカッシーニホイヘンスがタイタンへ到着した。本書のプロローグにはその時のいきさつや、当時の様子が書かれている。


NASAエイムズ研究センターというと、最近、インタビュー記事が載っていた藤島さんもエイムズ研究センターに行っていた人だった。
研究室に行ってみた。東京工業大学 宇宙生物学 藤島皓介 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト
本書の著者である関根さんも、この藤島さんも、現在は東工大の地球生命研究所の所属である。
関根さん、元々は、東大の松井研の人らしい。また、飲み会のエピソードの中で阿部豊の名前も出てくる。*1


惑星探査機の探査で一体何が分かり、どのようにそれが説明されたのか、といったことが、非常に分かりやすく書かれている

プロローグ 宇宙は生命で満ち溢れているか
第一章 ハビタブルプラネット地球
第二章 氷衛星のハビタリティ
第三章 タイタン
第四章 系外惑星
エピローグ

第一章 ハビタブルプラネット地球

金星と火星の環境について詳しく見ていき、その比較として、地球が何故ハビタブルな環境なのかということを見ていく。
ハビタブルゾーンというのは、基本的には、太陽からの距離で、地表に液体の水が保持できる気温かどうかというものだが、筆者は、気温だけでなく、フィードバック機構が大気にあることを重視する。
火星は、仮に気温があがったとしても、大気が少なくて、液体の水を保持できない


ところで、金星は、大量の二酸化炭素によって灼熱の惑星となっているわけだが、そもそも、二酸化炭素温室効果というのは、金星の研究によって注目されるようになったものらしい
なお、金星に探査機が行くまでは、金星の環境はもうちょっとぬるいものだと考えられていたらしい。沼地などがあるかもという予想もあったらしい。カール・セーガンもサウナのような環境で、うまくすればテラ・フォーミングできるのではないかと考えていたらしいが、実際に探査機が行ってみたら、予想以上に過酷だった、と(探査機のデータを見た後、二酸化炭素温室効果を加えて気温を再計算してみたのもセーガン)

第二章 氷衛星のハビタリティ

つづいて、木星ガリレオ四衛星と、土星エンケラドゥスについて*2


イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストについて
木星から近い順にこの並びになっているのだが、この距離に応じて、環境や組成が異なっている、と。これは知らなかった。
木星に近い方が潮汐加熱の度合いが大きい。
火山活動が最も活発で、それゆえに水も蒸発してなくなってしまっているのがイオ
逆に、ガニメデやカリストは、木星から距離があるので、凍り付いてしまっている。また、ガニメデとカリストの間にも違いがあって、形成時の熱によって一度氷がとけて、内部構造が分化したガニメデと、溶けるほどの熱もなかったので、混ざったままのカリスト
カリストの組成を調べると、(融けなかったので)木星の衛星が作られた際の材料が分かる。
で、ちょうどよい距離にあったのが、エウロパということになる。
エウロパは生命がいる可能性もあるが、還元剤がすでに枯れているのではないか、という指摘もあるとか。


潮汐加熱型ハビタブルゾーン
木星であればエウロパ天王星であればアリエル、土星であればエンケラドゥス、ミマスがこの位置にあたる
土星には、潮汐加熱型ハビタブルゾーンにある衛星が二つある。
しかし、液体の水があるのはエンケラドゥスだけだとされている。
潮汐加熱は、もともと液体があるかどうかで効果が大きく異なる。
エウロパはサイズが大きいので、形成時の衝突熱だけで液体が生まれるので、最初から潮汐加熱が起きている
ところが、エンケラドゥスとミマスの大きさでは、形成時の熱だけでは液体がが生じない。
ここに偶然のイベントがあったのではないか、というのが筆者の仮説
つまり、巨大天体の衝突があったことで、エンケラドゥスは加熱されて液体が生じ、潮汐加熱が始まった。しかし、ミマスにはそのようなイベントが起きなかった、と。

第三章 タイタン

タイタンについて
20世紀初頭からタイタンに大気があることが分かっていたが、より詳しいことがわかったのはボイジャーによるフライバイ観測
大気圧1.5気圧、大気の成分が9割が窒素、数パーセントがメタン、気温がマイナス190℃ということが判明


これらのことから、タイタンに液体の海があることが予想された
物質の三重点(固相、液相、気相が共存する条件)に近いから
三重点に近いと、全球規模での物質循環が起きている
また、大気のメタンは紫外線で分解されてしまうため、その補給源として、液体のメタンがあると想定された


この予想は、カッシーニ探査機によって確かめられる
当初は全球を覆う海が予想されていたが、実際に観測されたものはもっと小さい。
タイタン最大の海=クラーケン海は、ミシガン湖ほど。しかし、タイタンは地球より小さいので、タイタンの面積に占める割合で考えると、地球における地中海の約1.5倍ほどとなる。
その他に、同等の二つの海や湖がある。


ここで『タイタンの妖女』が言及される。ヴォネガットが、ボイジャー探査機が到着する20年以上前に書いていた小説で、その中で、海や湖の存在をまるで予言するかのように書かれていた、と。
さらに『タイタンの妖女』では、タイタンの気象が、土星や他の衛星からの潮汐力で、変わりやすい天候をしているとも書かれている。
実際のタイタンの気象はどうか
カッシーニは、入道雲の発生や、時期による雲の変化、降雨などを観測
これらを見た研究者たちは、地球用の大気大循環モデルを、タイタン用にアップデートし、コンピュータ・シミュレーションを実行
年ごとの季節変化や、より長期間の気候サイクルが予想されている
なお、ヴォネガットの予想とは異なり、この気象をもたらしているのは、潮汐力ではなく、太陽の日射エネルギーと、液体の蒸発や凝縮といった物理過程


タイタンは、地球以外で太陽系唯一の雨の降る天体
地球と違い、雨粒は直径1センチメートル、毎秒1~2メートルというゆっくりした速度で降下してくるメタンの雨である
降水量も地球より少ない
また、タイタンの赤道域は砂漠
タイタンの砂漠にある砂丘を観測した研究者がおり、地球の砂丘と比較することで、それを形成した風を推測し、タイタンに季節風があると推定
また、赤道域は砂漠地帯であるものの、春分秋分の頃には雨が降り、赤道付近に着陸したホイヘンスは、河川地形をみつけている


タイタンの生命
タイタンの湖には、水位が下がったあとがみられる。干潟のようなものができていると考えられる
生命の誕生には、有機物質の濃縮が必要だったという考えがあり、干潟のようなものはその候補となりうる
メタンは、極性分子である水と違って非極性分子である。溶ける物質が異なる。水に溶けるようなものは溶けないが、エタンやプロパン、アセチレン、ベンゼンなどが溶ける
また、もしメタンの海で生命が生まれるとしたら、地球の生命と違って、細胞膜の脂質における親水部と疎水部が逆になっていると考えられる
それを踏まえて、長沼毅から筆者に対して、メタンの海に存在する分子を教えてほしいという問い合わせがあったことを明かしている。


タイタン探査計画
上述のタイタンの砂丘を調査した研究者、アリゾナ大のローレンツは、タイタンにボートを送り込む計画を立案
2011年、NASAは次期探査計画として、火星地震波探査、彗星着陸探査、そしてこのタイタンのボート探査を候補にあげたという
この中で、しかし、実際に実現されることになったのは火星の地震波探査、すなわちこの間火星へと到着したインサイトである(本書が書かれた当時は、この中から火星の探査が選ばれたという時点で、またインサイトの名前への言及はない)
彗星探査もやったよなーと思って検索してみたが、この2011年のものではないようだ(スターダストやディープインパクトは、2011年以前にスタートしている計画)
彗星とタイタンの探査計画は、今も候補には上がっているようである。
彗星と土星の衛星タイタンを目指す、NASAの新プロジェクト候補 | Telescope Magazine


太陽光エネルギー
エイムズ研究所のクリストファー・マッケイによる仮説
地球で生命は、光合成と呼吸によりエネルギーを利用している
光合成:水+太陽エネルギー→酸素+水素(水を分解)/水素+二酸化炭素有機物(有機物の合成)
呼吸:有機物+酸素→エネルギー+水+二酸化炭素有機物の燃焼によるエネルギー利用)
もしタイタンに生命がいるとしたら?
メタン+太陽エネルギー→アセチレン+水素(大気中でのメタンの分解)
アセチレンは雨になって、水素は風により地表や海へ
生命:アセチレン+水素→エネルギー+メタン
どれくらいのエネルギーが獲得できるかの試算があり、酸素呼吸に近い量ができるとされている
カッシーニによる観測によって、マッケイによる予想通り、水素やアセチレンが少ないということが分かる
つまり、水素やアセチレンを取り込む何らかの反応があるということ
しかし、非生命的なプロセスによっても説明できるため、生命存在の決定的証拠とはみなされていない


筆者が想像するタイタンの生命についても書かれている
生産者が、地球のプランクトンのように海水面近くに集まり、それを、ビニール袋のような見た目の消費者が、ジンベイザメのようにこしとって食べる、という想像図が描かれている
また、タイタンの生命は、大気に進出する可能性があるとも述べられている。タイタンでは、大気にラジカルが存在しているから。ラジカルは反応性が高いので、効率よいエネルギーを求めて生命が進出するかも


タイタンの環境
なぜタイタンには窒素があるのか
→筆者は、アンモニアに衝突が起きると窒素が発生することを実験で確かめた
後期隕石重爆撃期に、窒素ができたのではないかという仮説
後期隕石重爆撃期は何故起きたのか
→ニースモデルによる説明
ガニメデやカリストは暖かったため、トリトンは冷たかったため、窒素は生じたが大気とならなかった
メタンは太陽光によって比較的短期間に分解してしまう
→供給源がある
→低温火山もしくは地下メタン
地球は、水蒸気の正のフィードバックに対して、二酸化炭素の負のフィードバックで機構を安定させている
タイタンも、液体メタンは、水と同様に正のフィードバックを起こすが、大気中にある有機物微粒子のもやが、負のフィードバックを担う
この機構の安定性は、エイムズでホイヘンスの映像を見た筆者の博論のテーマだったらしい。



水のハビタブルゾーンと同様、二酸化炭素ハビタブルゾーン、メタンのハビタブルゾーン、窒素や一酸化炭素ハビタブルゾーンがあるのではないか

第四章 系外惑星

章の前半は、系外惑星の探し方などの話なので省略
バイオマーカーの話が面白い
酸素やメタンは、バイオマーカーと目されることが多い
しかし、非生物的にも発生することが分かっている
単に酸素やメタンがあればいい、というわけではない
もし、酸化的な環境でメタンが発生していたら、あるいは、還元的な環境で酸素が発生していたら、これは自然には発生しないので、生物由来の可能性が高まる、と

また、直接観測によって植物を確認することと、植物の色について
さらに、筆者が考えている、別種の光合成について
地球における二酸化炭素の供給源は火山だが、火山噴火の圧力が高まると、火山ガスはメタンを多く含む還元的なものになることが分かっている
そんな惑星における光合成と呼吸は、どのようなものになるか
地球上では、水を分解してできた水素と二酸化炭素を使って有機物を合成し、有機物と酸素を使ってエネルギーを獲得し、二酸化炭素を排出する
対して、上記の惑星では、水を分解してできた酸素メタンを使って有機物を合成し、有機物と水素を使ってエネルギーを獲得し、メタンを排出する、と。


最後に、SETIと文明の持続時間について簡単に触れられている。

エピローグ

再び『タイタンの妖女』に言及されている
自分は、かなり前に『タイタンの妖女』を読んだことはあるのだが、もうかなり前になってしまって何一つ内容を覚えていないので、また今度読み返してみようかなーと思った。


また、酸化的な環境である火星で、2004年にメタンは発見されている。この本が書かれた2013年時点で、キュリオシティはメタンを発見できずであり、2018年に打ち上げられ、ドリルを持って火星の地下を探査するエクソマーズに期待する旨書かれている。


ちなみに、火星大接近 -火星に生命は存在するのか?(縣秀彦) - 個人 - Yahoo!ニュースで「マーズ・エクスプレスは2004年、火星の大気中にメタンを検出しました。」とある。
また、火星でメタンが高頻度で急増、発生源は不明 NASA 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News火星に生命が存在する可能性か。探査機が確認した「メタンのスパイク現象」|WIRED.jpとある通り、2014年12月に、キュリオシティが火星でメタンを検出している。
エクソマーズは、打ち上げが2回に分けられており、現在、トレース・ガス・オービターが軌道上を回って、地図を作ったり、続く2発目の支援を行う。2発目は、元々2018年打ち上げ予定だったが、2020年打ち上げに予定が変更されている。こっちはローバーで、メタン源を調査する予定。
また、日本にも、火星のメタンをもとに火星生命を探そうという計画があるようだ(JAMP)
第15回自然科学研究機構シンポジウム アストロバイオロジー ust実況 - Togetter



この本にもタイタンにおける生命について言及がある
やはり、メタンやエタンが、水と違って極性がないことが指摘されたうえで

水と油は混ざらないので、特別に仕切りをつくる必要はない。つまり、細胞膜が必ずしも要るわけではない。(中略)細胞膜が必要だとしたら、それは脂質一重膜かもしれない。一重膜とは、脂質の疎水部が油側に向き、親水部が水側に配向してならんだ状態である。
pp.14-15

ここで問題になるのはむしろ細胞内の「水のような極性液体」である。この低温では水は固体なので、水以外の液体を考える必要がある。(中略)ホスファンになるだろう(われわれが知っている生命にホスファンは有毒であるが、タイタンの生命にはそうでないことを期待する)。(中略)液体エタン中にホスファン滴ができるかもしれない。これは非極性液体中の極性液体、すなわち油中の水滴のような状況(中略)ホスファンは、タイタンの大気には検出されていないが、土星木星の大気に検出されている
p.15

執筆者は山岸明彦



あと、こちらの本にも

長沼 問題は、酸化還元力の供給。酸化力がどこから来るのかということ。メタンだから還元力は多分いっぱいある。水素は富んでいるわけね。でも酸素は、やっぱり水がスプリット(分解)しないと出てこない。
p.345

油をイメージすればいい。油だけだと、生化学反応が起きないから生物はできないけど、そこに水滴がちょっとでもあれば水滴生命ができるかもしれない。回りが油だと水は膜がなくても丸くなる。それがそのまま生命になるかも。
(上述ブログ記事中のシノハラによる要約)


追記

デイヴィッド・ミーアマン・スコット,リチャード・ジュレック『月をマーケティングする アポロ計画と史上最大の広報作戦』

アポロ計画の歴史を、広報面、アメリカ社会との関わりからレポートしている本。
アポロ計画について、科学技術や科学政策の点では、まあ通り一遍のことなら知っているが、当時の社会においてどのように受け取られていたか等は全然知らなかったなあということがよくわかった。
当時のテレビ画面の写真など、写真資料が多く掲載されているのも、当時のイメージをつかむのに役に立つ。ブックデザインもよくて、祖父江慎だった。


2014年に刊行された本(原著・翻訳とも)で、自分は2015年くらいに存在を知っていたものの、読む機会を逸していたんだけど、うまい具合に、アポロ計画50周年の年に読めたのはなんかよかった気がする


基本的に時系列順に記述が進み、なおかつ各章がテーマ別に書かれているので、読みやすい。
アポロ以前に醸成された宇宙開発へのイメージ
NASA広報部が、ソ連との違いを印象づける意味もあって、情報公開・事実についての広報を基本戦略としたこと
とはいえ、NASA広報部は、アポロ計画の規模に対して人数が少なく、NASAと契約した様々な企業も広報に関わっていたこと
アポロ計画とテレビ放送の蜜月と破局
宇宙飛行士が一躍超有名人となっていったことや、月の石をもちいたキャンペーン
そして、アメリカ国民のアポロ計画に対する賛否について


タイトルが「月をマーケティングする」だし、序章のタイトルも「私たちはアメリカ合衆国マーケティングしていた」で、いかにもNASAが色々な仕掛けを講じたというような印象を受けるのだが、どちらかといえば、時勢に乗れたり、乗れなかったりみたいなところが大きいように思える。
NASAが完全に受け身だったわけではないが、しかし、成功も失敗もNASAがどうこうできた話ではない
テレビの影響力の強さも、大衆の宇宙飛行士への熱狂も、NASAが当初予想していた以上のものであったわけだし、またそれの反動のように、急速に大衆の関心が冷めていくのも、おそらくはどうすることもできないものだっただろう。

私たちはアメリカ合衆国マーケティングしていた――ユージン・A・サーナン(アポロ17号船長)
1章 はじまりはフィクション――SF小説、ディズニーランド、「2001年宇宙の旅
2章 NASAのブランドジャーナリズム
3章 NASA契約企業の広報活動
4章 全世界が観たアポロのテレビ中継
5章 月面着陸の日――キャスター、記者はどう報じたか
6章 セレブリティとしての宇宙飛行士
7章 世界を旅した月の石
8章 アポロ時代の終焉

月をマーケティングする

月をマーケティングする


1章 はじまりはフィクション――SF小説、ディズニーランド、「2001年宇宙の旅

アメリカ人にとって宇宙のイメージがどんなだったのか、ということで
もちろん、ツィオルコフスキーゴダードなど宇宙開発のパイオニアにヴェルヌが与えた影響も書かれてるが、一般大衆向けの話としては、1950年代に映画やテレビシリーズで、宇宙を舞台にしたSF作品が増えたというのが大きい、と
西部劇の人気が落ちていって、代わりに宇宙SFが伸びてきたらしい
また、1950年代のテレビシリーズは、おもちゃとかシリアルとか関連商品の展開があったのも見逃せない


さらに、コリアーズという雑誌が、1950年代初頭に組んだ宇宙特集の重要性も強調されている
この雑誌、元々大部数を誇るジャーナリズム誌だったようだが、この時は、新興の写真誌にその地位を脅かされていた。ろうそくの火は、消える時が一番大きい的な話で、もう末期だったようだが、大々的に宇宙特集キャンペーンを組んだらしい
フォン・ブラウンら専門家を呼び、さらに印象的なイラストを表紙に配した
当時のコリアーズ誌や、コリアーズ誌の特集を発展させて出版された書籍の表紙が複数掲載されているが、どれも非常にかっこいい
ただ、そのようなイラストの中には、TVドラマで放映されていたような鼻先のとがった宇宙船ではなく、タンクがむき出しになったような宇宙船のイラストもあって、のちに惑星物理学者になるとある少年の目には、かなり衝撃的なものに映ったことがわかるエピソードが書かれている。
まだ、フォン・ブラウンが、亡命したものの本格的な宇宙開発には携われていなかった時期(というか、そもそもアメリカの宇宙開発がまだ全然始まってない時期)だと思うが、月、さらに火星への探査計画を、大いに語っていたようだ。
フォン・ブラウン以外の専門家の名前として、フレッド・ホイップルという天文学者の名前も出てくる。読んだ当初、フレッド・ホイルでは? と思ったのだが、ホイップルであっていた。ホイルはイギリス人で定常宇宙説やパンスペルミア説の人、ホイップルはアメリカ人で、彗星の「汚れた雪玉」説の人)


さらに、意外な人物として、ウォルト・ディズニーが登場する
ディズニーランド建設の折り、トゥモロー・ワールドを作るにあたって、科学的な宇宙ものを作ろうと考えていたらしく、ディズニーとフォン・ブラウンが繋がる
ディズニーは『宇宙旅行』など3本の映画を制作し、フォン・ブラウンは、コリアーズ誌のキャンペーンに引き続き、メディアの前に姿を現して宇宙開発の計画について語った

2章 NASAのブランドジャーナリズム

NASA発足時にNASAの広報部長を務めたウォルター・T・ボニー
ならびに、1963年、ウェッブ長官時代により任じられ、アポロ計画時代にずっと広報部長であったジュリアン・シーア
主にこの2人の行った、NASAの広報体制について


ボニーもシーアも元記者であり、NASAの広報担当者を、NASA内部の記者であるようにした
情報公開を基本方針として、広報部はマスメディアに対して、情報提供を行っていく。マスメディアが記事を書く際にそのまま使えるような資料となるような記事を書く、と


この章で大きく取り上げられていることとしては、さらに二つ
1つは、宇宙飛行士のプライベートに関する取材のライフ誌の独占契約について
このライフ誌独占契約の件については、他の章でも触れられている
宇宙飛行士の私生活や家族については、ライフ誌だけが取材できるというもので、当時かなり批判もされたらしいのだが、これによって、NASAは宇宙飛行士のプライベートを守り、宇宙飛行士たちから評判がよかったらしい。
また、ライフ誌との契約には、生命保険も含まれており、宇宙飛行士という危険な職業に対する手当としても機能していた、と。


もう一つは、NASAの広報体制を、シーアが集権化していったこと
NASAというのは、そもそも複数のセンターの集合体なのだが、広報もそれは同じで、かなりバラバラに活動していたらしい
佐藤靖『NASA――宇宙開発の60年』 - logical cypher scape2
そもそも、ワシントンにはあまり人がいなくて、実際に動いているのは、ヒューストンの方が多かったりとかもあったようだが。
シーアが、ワシントンの本部からの統率を強めた
それを示すエピソードとして、ヒューストンにある有人宇宙飛行センターの広報局長であったパワーズやヘイニーの解任劇が紹介されている。
パワーズもヘイニーも、いわばスタンド・プレーをして目立ちすぎ、また本部と足並みをそろえなかったといった問題があったということのようだ。

3章 NASA契約企業の広報活動

NASA広報は人数が決して多いわけではなく、特にアポロ計画が始まって、注目を集めるようになると、全然手が回り切らなくなった。
その部分を埋めたのが、契約企業の広報だった
宇宙船や関連する機器を開発したメーカーだけでなく、アポロ計画に採用されたカメラや宇宙食のメーカーなどだ
マスコミの記者に対して、そうしたメーカーの広報担当が、細かい技術面について説明したりしていたらしい。
それは当然、各メーカーにとって、自社をアピールする機会でもあったわけだが、NASAは、「その会社の製品がアポロ計画に採用されている」旨を書くことは認めたけれど、例えば、その製品を宇宙飛行士が使っている写真を広告に使うことなどはNGにして、そのあたりは厳しくチェックしていた
そういうレギュレーションの中で、各社様々な広告を作っていたし、また、報道用の資料を作っていたらしい。
グラマン社はNASAと共同で、アポロ宇宙船についてのニュース用参考資料の大部のファイルを作成したりしていたとか
ミッションのタイムスケジュールが分かる早見表とか、軌道とかの計算尺みたいなものとかを作っている会社もあったみたい
そうしたプレスキットの写真が多数掲載されていて、この章はなかなか楽しい。


また、本書とは直接関係ないが、アポロ計画のプレスキットを公開しているWebサイトもある
https://www.apollopresskits.com/


また、NASAと民間企業の関係として、アポロ1号の事故のあと、アポロ計画の技術評価に、ボーイング社が名乗りをあげていたことなども書かれている。
とにかく、この時期、NASAと民間企業の間に、非常に密接な協力関係があったということが分かる。

4章 全世界が観たアポロのテレビ中継

アポロ計画とテレビについて
この章では、アポロ7号から16号までそれぞれの号において、テレビ中継がどのように行われてかが説明されている。


アポロ計画にとってテレビ中継というものは、結果的に、非常に重要なものであった
また、テレビないしテレビにかかわる技術にとっても、アポロ計画は重要だった
しかし、視聴者の注目や関心を大いに集めたのは、11号、せいぜい13号までのことであって、その後、アポロに対する関心は落ちていく。


まず、当初、中継用のカメラというのは、アポロ計画の中での優先度は決して高くなかった。
ロケット打ち上げの観点から言えば、無駄な重量であるし、宇宙飛行士にとっても、ただでさえミッションに関わる作業で忙しいのにそれに加えてカメラの操作をする余裕はなかったし、また、宇宙飛行士に対して、カメラを優先的に扱うようにという指示は出ていなかった。
しかし、NASAの中の一部は、カメラが重要な意味を持つことになるだろうことを予見して、カメラを持ち込ませた。
カメラの軽量化や操作を簡単にすることなど、アポロ計画を通して、2社のカメラ会社が改良を手掛けて、これがのちの、ハンディカメラへと繋がっていくことになる。


7号は、もともと乗組員である宇宙飛行士がテレビ中継には乗り気ではなかったが、彼らの中継が人気をはくすことになる
8号は、地球から月へと向かった初のミッションで、いわゆる地球の出の映像をおさめることになる。テレビ中継されたのは、白黒で画質の悪いものであったが(中継映像の写真が掲載されている)、地球を宇宙から眺めた映像は、当時の人々にとって強いインパクトを与えた。
アポロ8号による「地球の出」は、白黒のテレビ映像だけでなく、かの有名なカラー写真もあるが、世界の人々に与えた影響としては、とても決定的なものだったと言われており、アポロ計画における文化的意義は、この8号の功績がピークであるという見方すらある。
9号については省略
10号では、カラーテレビカメラが初めて導入された。
11号では、着陸直前に管制とアームストロングの中継カメラのチェックをしていて、アポロ計画におけるテレビ中継の重要度があがっていた
12号では、しかし、視聴者数ががくんと落ち込むことになる。というのも、ちょっとしたミスからカメラが壊れてしまい、中継映像がなくなってしまったから。また、時間もゴールデンタイムとズレていた。さらに、ベトナム戦争など政治にかかわる重大なニュースとも時期が重なっていた。
13号では、再び注目を集めることになる
14号では、カメラが固定で、月面での宇宙飛行士の活動が、視界外で行われることになってしまい、退屈な映像となり、見たかった番組の予定を変えられた視聴者からのクレームがくるように
15号では、テレビカメラを地上からコントールすることが可能になり、映像の質が飛躍的に向上した。しかし、生中継が行われる最後のアポロとなってしまう
16号・17号で、NASAは、ミッションの時間をゴールデンタイムにあわせたが、しかし、これが裏目にでる。元々人気のある番組を、アポロの中継でつぶすことを嫌がったテレビ局は、アポロを生中継することはしなかった。

5章 月面着陸の日――キャスター、記者はどう報じたか

三大ネットワークの1つCBSのニュース・キャスターで、宇宙にいれこんでいたウォルター・クロンカイト
地方のラジオ局記者で、会社から予算をだしてもらえなかったが、ヒューストンまで取材にきたウェイン・ハリソン
デイリー・ニュース紙の新聞記者をつとめていたマーク・ブルーム
テレビ、ラジオ、新聞それぞれの媒体のキャスター、記者が、どのようにして取材をしたり、報じたりしていたのかを、上の3人に代表させる形で書かれている章

6章 セレブリティとしての宇宙飛行士

アメリカの英雄となってしまった宇宙飛行士たち
もちろん、英雄になってよかったねという話だけではなくて、変なお金儲けの話が出てきたり、プライバシーの問題がでてきたり、色々あったみたい
この章では、チャールズ・リンドバーグが時々引き合いにだされている。
リンドバーグは、偉業達成後、色々と災難があったらしい
アームストロングとリンドバーグは、境遇を近く感じて、親交があったらしい
また、アメリカのマスメディアも、リンドバーグのことを念頭にといて、アームストロングのプライバシーは報道しないよう自粛していた、とかも

7章 世界を旅した月の石

NASAの広報として、アメリカの州都全てを回る、司令船コロンビア号と月の石の巡回展が1970年から1年かけて行われた
ただ、NASAの職員でこれにずっとついていたのは1人、という、非常に限られた人員・予算の中で行われたものだったらしい
総来場者数は約325万人。まずまずの成功ではあったが、大阪万博来場者の5分の1という少なさで、アメリカ国民からの関心が薄れていたことを示している


月の石は、大阪万博で展示された他、世界各国の研究機関に提供されたり、外交における友好の証としてプレゼントされたり、などしていたとか

8章 アポロ時代の終焉

アポロ計画は、本当にアメリカ国民に支持されていたのか
実のところ、アメリカ国民が熱狂していたのは、11号の直前くらいで、やはり莫大な予算を要する月着陸計画について、それほど支持が得られていたというわけではないらしい
やはり、アポロ計画実現を後押ししていたのは、米ソ冷戦のようだ
かの有名なケネディ大統領の演説にしたところで、実は、月について触れているのは、ソ連との争いについて述べている中でのほんのわずかな箇所にすぎなかったらしい。
熱狂は覚めるのもまた早い
NASAは、宇宙への関心がみるみるとさめていく国民に対して、おそらくなすすべもなかった。
ニクソンは、そもそもアポロはケネディの計画であったにもかかわらず、11号の成功の時などは、まるで自分の手柄かのようにするりと入り込んでいたようだが、その後は興味を失い、16・17号あたりはキャンセルさせようとしていたらしい。
NASA自身、結局、予算も削られていく中で、次のビジョンを示すことができなかった。
また、1970年代は、ベトナム戦争のあおりで、政府に対する批判的な言説が強まっていた時代でもあった。
さらに、これは皮肉なことなのだが、アポロ8号が撮影した地球の写真を一つの象徴として、地球環境問題への関心が高まっており、宇宙よりも地球のことをどうにかすべきだ、という声が強くなっている時代にもなっていた。
この章は、アポロ計画が後の世代に残したものとして、コンピュータ技術の発展をあげ、ジョブズゲイツが、子ども時代にアポロを見ていた世代だったということを指摘して、終わっている。

冨田信之『ロシア宇宙開発史』(一部)

サブタイトルに「気球からヴォストークへ」とある通り、宇宙開発前史ともいえる気球の発明から始まって、人類初の有人宇宙飛行を達成する「ヴォストーク」(さらにヴォスホート)までの、ロシア・ソ連の宇宙開発の歴史をまとめた本。
特に、ヴォストーク・ヴォスホートまで(1965年頃まで)ということもあり、初期の宇宙開発の歴史を追っていると言える。
ところで、読みたい本リストにあがっていたので、とりあえず手にとったのだが、微妙に、何故読もうとしていたのか理由を失念してしまっていた。
最近、宇宙開発には興味があり、宇宙開発史の本も時々読んでいたので、関心がないわけではないのだが、ちょっと自分の手に余る感じもしたので、最初の3章くらいまででとどめた。
確か、ロシア・コスミズムへの言及がある、というのも、読みたい本リストへ入れた理由の一つだったのではないか、と思ったので、そのあたりを読んだ。


そもそも自分は、生まれるずっとずっと前にはもうアポロが月に行っていた世代なので、宇宙に行くのは当然ロケットと思っているけれど、宇宙に行くにはロケットだ、というのは20世紀の考えなんだよなー、と
例えば、ベルヌの『月世界旅行』は、巨大な大砲で打ち出すわけだし
気球でずっと高くまで上がっていけば、宇宙まで行けるのでは、と考えられていた時代もあったようだ。


読んだのは3章までなので、ほんとにさわりしか読んでない。

序章 人類の夢「天空への飛行」――気球の誕生
第I部 気球からロケットへ
 第1章 19世紀ロシアのパイオニアたち
 第2章 宇宙時代の預言者――ツィオルコフスキー
 第3章 ロマン実現への胎動 1921年-1929年
 第4章 ロケット研究の核の誕生――気体力学研究所とギルド 1929年-1933年
 第5章 反動推進研究所発足と大テロルによる壊滅 1934年-1940年
 第6章 戦雲下のロケット開発 1941年-1944年
 第7章 ドイツにおけるロケット開発
第II部 宇宙活動への布石――ロケット開発
 第8章 ドイツの地からの復活――A-4ロケット調査 1945年-1946年
 第9章 ロケット自主開発――模索期 1947年-1951年前半
 第10章 ロケット自主開発――確立期 1951年後半-1957年前半
第III部 夢の実現
 第11章 宇宙時代の幕開け 1957年後半
 第12章 月うちあて計画と有人スプートニク開発 1958年-1959年
 第13章 飛躍に備えての雌伏の年 1960年
 第14章 初の有人軌道飛行 1961年-1963年
 終章 ロマン追求の終焉 1964年-1965年初め

ロシア宇宙開発史: 気球からヴォストークまで

ロシア宇宙開発史: 気球からヴォストークまで

序章 人類の夢「天空への飛行」――気球の誕生

実は、ケプラーこそが、宇宙飛行を最初に考えた人だ、というところから始まる。夢の中で月へ行った、という小説を書いていて、ガリレイにも、人類は将来宇宙を航海するでしょう、みたいな書簡を書いているらしい。
序章は、他にベルヌなどの初期のSFや、タイトルにある通り、気球の話
モンゴルフィエやシャルルによる気球のほか、フンボルトが世界初の高層大気観測を行っていること
で、19世紀ころまでは、気球で宇宙まで行けるのではないかと考えていた人たちがいた、と。ただ、だんだんと高度があがりすぎると、体調を崩したり、死んだりすることも分かってきた時期でもある。
気球の情報は、ロシアにも早々に伝わっていたが、初期の実験で死亡事故を起こしたせいで、中止命令が出されたり、資金難が続いたり、19世紀後半までなかなか日の目を見なかったらしい。

第1章 19世紀ロシアのパイオニアたち

19世紀後半、ロシア帝国の軍人のなかで、クリミア戦争でイギリスが使っていたのをみて、ロケット弾の開発が始まる
また、同じころ、メンデレーエフが気球を使った観測を推し進める
気球のデメリットは、操作性が悪いこと。どうやって、気球を操作するのかということが色々考えられた中で、ロケットを使うというアイデアもあったようだ。


キリバチチ
浮揚そのものにロケット推進が使えるのではないか、と考えた人
ナロードニキ派で爆弾テロに参加した容疑で刑死している。
現在では、ロシア宇宙開発のパイオニアと考えられるが、彼の考えは、獄中でとられたメモだけで、そのメモが長い間公開されていなかったため、彼が直接的に与えた影響はないとされている。


ツィオルコフスキー
彼は、大学への入学がかなわず、独学で勉強をすすめた。
空中飛行に興味関心があって、気球の操作について考え、金属製飛行船の研究を行った。彼は在野の研究者であったが、科学アカデミーからの資金を得て、風洞を作り、実験を行っていたらしい。ただ、もう一人、同時期に風洞を作っていた、大学の研究者がいて、ツィオルコフスキーの研究は、彼によって黙殺されてしまう。


さて、ここから、ツィオルコフスキーと思想の話。
モスクワ時代に、ドミートリー・ピーサレフの影響を受けるが、ピーサレフは、ニヒリズム啓蒙主義、社会ダーウィニズムの人だった
そしてもう一人、ニコライ・フョードロヴィチ・フィードロフの影響を受けている、と筆者は述べている。
フィードロフは、死んだ人間を復元する技術がいつかできると考えていたが、その際、人間を構成した粒子が宇宙に飛び散っているので、それを集めるために宇宙へ進出しなければならないと考えていたらしい。

第2章 宇宙時代の預言者――ツィオルコフスキー

ツィオルコフスキーは『エチカ』という著作を書いているが、その中で、生物が「アトム」という構成要素からなるとしている。ツィオルコフスキー自身は、ライプニッツモナドを参照しているらしいのだが、筆者は、フィードロフの微小粒子に近いのではないかと述べている
また、ツィオルコフスキーは、人類が宇宙へ進出し、より高度な知性へと生まれ変わっていくのだ、というビジョンを語っているらしい。
他の惑星、他の太陽系へ移住すれば、太陽がいずれ死滅しても生きていけると述べているだけでなく、宇宙へ進出していく過程、人類は最終的に神と一体となれる、と
ロシア正教の敬虔な信者でもあったらしい。

ロシアでは「宇宙」を中心とする思想を提案した一群の思想家たちがおり、彼らの思想は「コスミズム」と呼ばれている。ツィオルコフスキーも、その一人として数えられているが、彼が他のコスミズム思想家と際立って異なる点は、人類が宇宙に進出する具体的な科学的手段をその思想の一つの核として据えたところにある。(p.41)

その具体的な科学手段とは、もちろんロケットである。
ロケットについては何度かに分けて書かれているが、その中で1903年論文・1911年論文が、ここでは紹介されている。
1903年論文の序文では、ジュール・ベルヌ、キバリチチ、アレクサンドル・ペトローヴィチ・フィードロフといった、ツィオルコフスキーに影響を与えた人物の名前があげられている。
そして、ツィオルコフスキーの公式と呼ばれる公式が与えられている。
同時期に、メシチェルスキーという科学者が、同じ式が得られる方程式について論じた論文を発表しているが、当時、誰からも気づかれなかったと
ツィオルコフスキーの1911年論文では、ロケット飛行中の情景など小説っぽい記述もあたり、月や他の惑星への飛行について触れられていたり、かの有名な「私たちの惑星は知性のゆりかごである。しかし、永遠にゆりかごの中で生きてゆくわけにはゆかない」の一節が書かれていたりする。
また、ここでも、隕石衝突による地球滅亡や太陽の死を免れるために、宇宙進出があるという話が書かれている。
アカデミズム全般に、彼のロケット論文は受け入れられなかったらしいが、一部には支持者も生まれ、後進世代へと広がっていったようだ。
1903年論文は、マイナーな同人誌に載ったのみで、1911年論文も、あまり学術的な体裁では書かれていなかったらしい)

第3章 ロマン実現への胎動 1921年-1929年

1920年代、ソ連のツァンデル、ルーマニアのオーベルト、アメリカのゴダートがそれぞれロケット開発を始める
また、ソ連では、ツァンデルの他、コンドラチュク、ティホミロフ、グルシコといったロケット開発パイオニアが続々現れる。
さらにこの章では、ツィオルコフスキーの晩年にも触れられる。


ツァンデルは、ロケット飛行機を考案し、惑星間飛行についての理論的著作を書き、また全国を講演してまわった。
オーベルトは、トランシルヴァニア生まれで、国籍はルーマニアらしい(その後、ドイツ国籍となった)。どうもオーベルト、なかなかうまくいかない人生だったようだ(助手に恵まれず、せっかくの機会を得てもうまくいかなかったり、ルーマニア国籍であるがゆえにドイツで研究を続けられなかったり)
そして、ゴダート


コンドラチュクは、多段ロケットや軌道上の宇宙ステーション、月や他の惑星にいくための軌道など、かなり色々なアイデアを考えていたらしい。
ただし、革命や戦争のただなかにあり、論文はなく、メモを残しているにとどまるようだ。


ツィオルコフスキーは、晩年になって、空軍から認められ、資金提供などをうけたり褒章されたりしているが、それは飛行船に関することであって、ロケットのことではない
晩年も、宇宙関連について、技術的なもの・将来的な宇宙空間での人類の活動・思想的なものなどの著作を残しているが、いずれにせよ、ソ連国内で、彼のロケット研究はあまり評価されずじまいだったらしい。

ロシア・コスミズムについて

山形浩生のブログで知ったんだった
cruel.hatenablog.com

さらに巻末で触れたソロヴィヨフ哲学の影響などについてもぜひまとめていただきたい。
(中略)
なお、はてぶ/ツイッターのコメントで、ソロヴィヨフ=フョードロフだと述べている人がいたが、別人。ただフョードロフは、ソロヴィヨフに影響は与えている。

というわけで、巻末もちらっと見てみた。
ロシアの宇宙活動の背景に、コスミズムがあるのではないか、と
神と人の一体を解くロシア正教が背景にある思想で、フョードロフの影響を受けたウラジーミル・セルゲーエヴィチ・ソロヴィヨフがその哲学的基礎を作ったと。
cruel.hatenablog.com
cruel.hatenablog.com

稲見昌彦『スーパーヒューマン誕生! 人間はSFを超える』

人間拡張工学・エンターテイメント工学を標榜する筆者が、エンハンスメントやVR、テレイグジスタンス、ロボットなどの技術を紹介しながら、人間の拡張という「スーパーヒューマン」の概略を描きだす本。


筆者は、2003年頃に「光学迷彩」を発明したことで一躍有名になった人で、近年では、中村伊知哉、暦本純一とともに、超人スポーツ協会を発足させている
元々、学生時代は、日本におけるVRの第一人者である舘章の研究室に所属していたらしい。
工学らしい(?)楽観的なビジョンにあふれる本だが、色々な事例が紹介されているのが面白い
特に、最後の章のポスト身体のあたりが、面白かった


大きく分け三部構成になっており、
第1章では義足やパワードスーツ、BMI、さらにラバー・ハンド・イリュージョンなどの話から、身体の拡張について
第2章は、「インターフェイスとしての身体」というタイトルで、主にVRとテレイグジスタンスが扱われているが、これは、人間が身体を通してどのように世界を知覚しているかということについて
第3章は、ロボットの話から、身体の分身、変身、合体、共有などについてが扱われている。

序章 SFから人間拡張工学を考える
第一章 人間の身体は拡張する
 1 拡張身体とは何か?――「補綴」から「拡張」へ
 2 どこまでが拡張身体なのか?――脳と道具の間にあるもの
 3 どこまでが身体なのか?――曖昧な身体の境界線を探る
第二章 インターフェイスとしての身体
 1 現実世界はひとつなのか?――五感がつくる現実感
 2 新たな現実はつくれるのか?――感覚と情報がつくるヴァーチャル・リアリティ
 3 人間は離れた場所に実在できるのか?――脱身体としてのテレイグジスタンス
第三章 ポスト身体社会を考える
 1 ロボットはなぜヒト型なのか?――分身ロボットとヒューマノイド
 2 他人の身体を生きられるのか?――分身から変身へ
 3 身体は融け合うことができるのか?――融身体・合体からポスト身体社会へ

スーパーヒューマン誕生!  人間はSFを超える (NHK出版新書)

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序章 SFから人間拡張工学を考える

SFは、作りたいもの(WHAT)を示してくれるが、それをどのように実現するか(HOW)は示してくれない。そこを考えるのが、研究の醍醐味、みたいなことが書いてある。


エンターテイメントと技術の関わりというところで、「ペッパーの幽霊(ペッパーズゴースト)」について触れられていた。
以前、THE IDOLM@STER MR ST@GE!! MUSIC♪ GROOVE☆ - logical cypher scape2でちょっと触れたが、ペッパーズ・ゴーストというのは、1858年のイギリスで、土木技師かつ発明家のヘンリー・ダークスが発表し、これを王立科学技術学院院長ジョン・ペッパーが改良。1862年ディケンズ『憑かれた男』の舞台効果として使われた、とのこと

第一章 人間の身体は拡張する

まず、「拡張身体」の紹介
筆者は、拡張身体とサイボーグとの違いを、着脱可能かどうかで線を引いている。そういう意味では、メガネなども拡張身体の一種となる。
義足やパワードスーツの話がまずなされる。
パワードスーツというと、サイバーダインの「HAL」を思い出すが(それも紹介されているが)、1960年代に、GE社が「ハーディマン」という試作機を作っていたらしい
ただ、この時期はまだコンピュータの能力が低く、パワーを制御しきれなかったために、開発は下火になったらしい。


拡張身体の一種として、ウェアラブル・コンピュータも紹介されているが、その中で、例えば、表情を記録しフィードバックすることで、情動を制御できるのではないか、という「アフェクティブ・ウェア」「アフェクティブ・コンピューティング」という考えが紹介されている。
まあ、考えとしては分かるし、作ってみたら面白いかもしれないなと思う一方で、無論、こういうのはどれくらいアリな話だろうかとかも思ったりもするわけで、そのあたり、かなりあっけらかんとした書きっぷりであったなとは思った


次に、道具と身体の関係
道具を自分の身体のように感じてしまったりするような系の話とか、BMIの話とか
面白かったのは、筆者と明治大渡邊恵太の共同研究による「カーソルカモフラージュ」
ショルダーハックを防ぐための技術なのだが、画面上に、動いているマウスのカーソルが複数映っているというもの。カーソルを動かしている本人には、その状態でも、どれが自分の動かしているカーソルかは分かるのだが、他人からは分からないという。


BMIについて、「あ、確かに」と思った話として、人間の行動が、脳内でどこまで言語的に表象されているかどうか
言語依存していたら、使用者の言語に応じて、発火している神経も違ってたりする可能性を今後考えないといけない問題なのでは、と。


メンタルローテーションというのがあるが、手術支援ロボットダ・ヴィンチでは、その点を考えて、画面の向きがあわせられているという話が、なるほどねーと思った


最後に、どこまで自分の身体か、という問題
ラバー・ハンド・イリュージョンという実験があるが、さらに進んで、インビジブル・ハンド・イリュージョンという実験もあるらしい
自分の身体と感じられるかどうかに、時間的範囲があるという話が面白かった。
ジョイスティックを使って自分の身体をくすぐってもらう。自分で自分のことをくすぐっても、くすぐったいと感じない人は、ジョイスティックを使っても、くすぐったいと感じないが、ジョイスティックが動くのを0.2秒遅らせると、くすぐったいと感じるようになる。
先に挙げた「カーソルカモフラージュ」でも、0.2秒遅らせると、分からなくなる、とか。
イグ・ノーベル賞を受賞した「スピーチ・ジャマー」もこれを使っている


ウィーナーやデネットを引用して、自分の範囲の線引きとして、制御できるか否かというものがあるのではないか、とした上で、筆者が目指すものとしての「自在化」「人機一体」という標語について説明されている。

暫定的な仮説だが、身体は脳と世界をシンク(同期)するためのインターフェイスである、というのが現在の私の身体観だ。私たちは、自分の頭の中に現実感という現実世界のモデルをつくっている。そのモデルの精度を上げ、更新するために、私たちの身体の五感というインターフェイスが存在しているのではないだろうか。(p.107)

予測コーディング理論のような話をしていた。
参考:クリス・フリス『心をつくる――脳が生み出す心の世界』 - logical cypher scape2

第二章 インターフェイスとしての身体

ヴァーチャル・リアリティについての章
錯覚の話などを交えながら、現実感について書かれている。
前半の方で、アイバン・サザランドについて紹介されている。
サザランドは、CGやCADの生みの親であり、GUIの起源ともなったという「スケッチパッド」という装置を発明、さらにHMDを発明したという人だという。
なんと、シャノンの弟子で、アラン・ケイの師匠なんだかと。


後半からは、バーチャル・リアリティの一種として、テレイグジスタンスについて
テレイグジスタンス的なものの発想は、ガーンズバックハインラインSF小説にも登場するらしい
遠隔操作+VRインターフェイスという概念として、舘章が1980年に「テレイグジスタンス」という言葉を提唱するが、2か月違いで、ミンスキーがほぼ同じ概念を「テレプレゼンス」という言葉で発表しているらしい。
両方聞いたことあったけど、そういうことだったのか、と。


筆者が初めてテレイグジスタンス(遠隔操作ロボットとHMDの組み合わせ)を体験したときに、自分の背中姿を見ることになった驚きが書かれている
それから、三人称視点でスキーを滑れる装置や、ドローン映像で自分の姿を見て動き回る装置の話などが続く。
これは結構面白そうな体験っぽいなと思う。
また、藤井直敬によるSR(代替現実)もここで紹介されている
現実の側の解像度を下げるところがポイント、と。
あと、SRを用いたアトラクションが、ハウステンボスにあったらしい。少し前に行ったことがあるのだが、知らなかったー

第三章 ポスト身体社会を考える

この章の前半は、ロボット、特にヒューマノイドが何故ヒト型なのか、という点などについて書かれているが、中盤から面白くなってくる


分身ないし複数の身体
まず、テレイグジスタンスが普及した場合、それは分身を他の場所に置いておく、というようなことなのかもしれない、と。
次に、複数の目で見ることはできるか、という研究
後ろ方向を映した映像を、HMDに投影して、前と後ろを同時に見ることができる「スパイダー・ビジョン」
後ろの映像は半透明のレイヤーで重ねられるのだが、それで十分、両方の視野を認識できるらしい。今後、このレイヤーをどれくらいまで増やせるのか実験するという
その他、分身としては、ダブル・ロボティクス社の「ダブル・ロボット」が紹介されているが、さらに簡易的なものとして、暦本純一による、「カメレオンマスク」といって、ビデオ通話中のタブレットをお面のように他の人が顔に装着するという実験が紹介されている


他人の身体を操作する・される
ステラーク、というオーストラリア出身のパフォーマンス・アーティストの作品に「パラサイト」というものがあり、電気刺激によって筋肉を縮ませ手足が動くような装置を身に着け、インターネットを通じて、他の人がステラークを動かすことができるという
また、前田太郎の「パラサイトヒューマン」も、人の身体の動きをコントロールするような技術である。


他の人の体験を共有
「オムニプレゼンツ」というサービスや「オキュ旅」という取り組みが紹介される。
これは、ある人が頭の位置にカメラをつけて撮った映像を、他の人が見るというも。の。オムニプレゼンツでは、指示を出すこともできるらしく、相手を操作しているような感覚もあるらしい。
体験のシェアというものがニーズが生まれつつある。
HMDを使ったりなんだりすると、他人の身体についても、自分の身体としての専有感がでてくるかもしれない

自分が専有している時間と、他人が専有している時間のスケジュール調整の問題さえ解決できれば、誰の身体であろうが、自分の身体としての専有感が出てくるだろう。クルマや家のシェアリングがバーチャルな所有感を生み出せるように、デジタル・メディアの後押しにより身体までもが共有可能になってくる可能性が見えてきているのだ。

1人の人間と1つの身体という結びつき、あるいは、自分は自分の身体の中に入っていて抜け出すことができない、というのはこれまで所与の前提だったわけだけれど、これを覆せるかもしれないテクノロジーというのは非常にわくわくする。
幼い頃、何で自分は自分の身体からしか見ることができなくて、他の人の身体に入り込むことができないのだろう、と思ったことがあるのだが、他の人の身体からものを見ることができるようになったら、どのような感じ方になるのだろうか。
また、この本を読んでいる最中に想起したのは、『マルドゥック・ヴェロシティ』のシザーズや「レベレーション・スペース」シリーズの連接脳派だった。
あれは、複数の身体に完全に一つに統合された意識がある、というものだったはずで、これらの技術は、意識の統合・融合という話ではないけれど、それに近いものがもっとカジュアルな形で実現しうるのかもしれない、と思うと、結構SFのネタ的にも面白そうな気がする。
参考:瀬名秀明編著『サイエンス・イマジネーション』 - logical cypher scape2


融身体
これとは逆に、一つの身体を複数の人が動かす、ということも考えらえる。筆者はをそれを、融身体と呼ぶ。
例として、ロボットではないが、海賊党のリキッド・デモクラシーが挙げられている。

『ラブ、デス&ロボット』

ここ数日TLを騒がせているこの作品。
この間ようやく見終わったところなので、ちょっと感想とか


Netflixのオリジナル作品で、全18本の短編アニメーションオムニバスシリーズである。
デビッド・フィンチャーがプロデューサーの一人であり、また『スパイダーバース』のデザインを担当した人が監督した作品などもあって、そのあたりも話題。
SFやホラーの短編小説を原作としており(オリジナル脚本作品もあるようだが)、SFクラスタも俄然盛り上がっているところ。
原作となっている短編小説は日本語未訳のものが多いが、日本でも大ヒットしたケン・リュウ『紙の動物園』に収録されている「よい狩りを」を原作とした作品もあり、日本のSF読者は(というか自分がそうなのだが)、とりあえずその回からこのシリーズを見始めたという人が多いだろう。


1本あたり大体10~15分程度の短編であり、オムニバスのため、どの回から見ても問題ないということもあって、非常に見やすいというのも特徴
さらに最大の特徴は、作風がすべて異なるということで、実写と見まがうほどのフォトリアルな3DCGアニメもあれば、カートゥーン風の作品もあるし、やや実験的・前衛的な感じのものもある。
監督や制作スタジオがそれぞれ異なっている(18本全部がそれぞれ異なるというわけではないが、いくつかの制作スタジオが参加しているのは確か)


「大人向け」というレイティングがなされており、またタイトルに「ラブ」「デス」と入っていることからも推し量れるところだが、性器やゴア描写が無修正で描かれている。
ただ、物語やテーマ的にはいろいろあって、必ずしも愛や死をテーマにしているというわけではなく、色々な短編SFが見れるというのに尽きる。
狭義のSFだけでなく、『世にも奇妙な物語』テイストの話もあったりする。
SF小説を原作とした映像化って、劇場版だったりTVドラマシリーズで、長編のものが多い気がして、短編で映像化されるのは珍しい気がするけれど、SFって短編小説が結構多いので、短編が短編として映像化されてオムニバスで色々見れるというのは、非常によいなあと思う。
不気味系、モンスター系、ミリタリー系、コミカル系など、いくつかの傾向があって、これが好きな人ならこれとこれも好きで、あれが好きな人ならあれとあれも好きかなみたいな感じがある。
個人的に好きなのは「ロボット・トリオ」「スーツ」「わし座領域のかなた」「シェイプ・シフター」「秘密戦争」かなー



www.netflix.com


ソニーの切り札

「おまえら、怪獣ボクシングと女性同士のイチャコラとゴアシーン好きだろ、あん?」と言わんばかりで、のっけから、参りましたってなるような作品w
フォトリアル系3DCGアニメ

ロボット・トリオ

人類滅亡後の世界を3体のロボットが見て回るコミカルな作品。
でもって、ネコSF
これもまた、フォトリアル系3DCGだと思うんだけど、ロボットがおもちゃっぽくて、というか、最初、人形アニメーションかなと思ったくらいで、また質感が違う感じがする
原作はスコルジー

目撃者

殺人現場を目撃してしまったストリッパーと犯人の追いかけっこ。『世にも奇妙な物語』テイストなオチが待っている。
『スパイダーバース』のデザイン担当の人が監督した作品らしいのだが、線と塗りがバチバチと切り替わったり、効果音がマンガのように文字で入ったりと、実験的な演出が入れられている

スーツ

いかにもアメリカンな農場に、『スターシップ・トゥルーパーズ』ばりのエイリアンが襲撃してきて、主人公の農夫(CV:大塚明夫)は、いかにもアメリカンなロボットに乗り込んで、撃退する。
しかし、今回の襲撃は普段と違う大襲撃。ご近所さんをシェルターに避難させつつ、同じくご近所さんでロボットを持っている者同士でおさえにいくが、圧倒的に不利な状況。
機関砲だ、ミサイルだ、自爆だと持ち出して、バリバリ戦うの好きだろみたいな奴で、「あ、はい好きです」って降参してしまう奴
いやー、でも人類の方が侵略者なのではとも思わせるオチもよい。フロンティア・スピリッツなのかもしれないけど。

魂をむさぼる魔物

遺跡を発掘しに行った博士が、怪物のヴラド公を目覚めさせてしまう
傭兵は全体的にかっこよかったが、話自体はいまいちよくわからん感じだった。

ヨーグルトの世界征服

突如、ヨーグルトに知性が生まれて、人類を人類よりも優れた統治によって支配しはじめたという話
頭身低めのキャラクター
原作はこれまたスコルジー

わし座領域のかなた

ワープ航法の途中、何かのエラーでスリープモードから目覚めさせられた宇宙船の船長
想定外に遠い位置のステーションについていて、そこには以前逢瀬をかわした女性が待っていた。しかし、どこか様子がおかしい。真実を教えてほしいと迫るが……。
宇宙女郎蜘蛛的な何か。
これほぼ実写じゃんみたいな3DCGで、宇宙船やステーションのビジュアルがかっこいい。ワープ航法らしきものはあるが、おそらく超光速は無理っぽいのと、クリーチャーがでてくるのとかが、原作レナルズの短編なんだけど、すごくレナルズっぽい
レヴェレーション・スペースの短編も映像化してほしい

グッド・ハンティング

ケン・リュウの短編「よい狩りを」が原作。
本シリーズの原作になっている作品で、おそらく唯一日本語訳がある作品。
中華風妖怪サイバーパンク
90年代のディズニーアニメっぽい感じの絵柄なんだけど、それでいて性器無修正(男女ともに)のシーンがあったりして、「この絵柄でこんなのもありなんだ」という感じはあった。

ゴミ捨て場

土地全体がごみ屋敷と化している爺さんのところに、立ち退きを要求する検査官がやってくる
爺さんは、ちょっと話を聞いてくれたらハンコ押してやるよと言って、友人が目撃したものについて話し出す

シェイプ・シフター

アフガニスタンタリバンと戦っているアメリ海兵隊の中に、周囲とは少し雰囲気の異なる2人の兵士
彼らは実は狼男
そして、タリバン側にも狼男がいることが分かる。
ミリタリー系モンスターアクションというか、狼男同士の殺し合いアクションがとにかく見せ場、という作品
原作はマルコ・クロウスという人で、知らなかったけど、ミリタリーSFの長篇が邦訳されている。

救いの手

宇宙が普通の労働の場になりつつある未来、人工衛星の修理に来た宇宙飛行士が、スペースデブリと衝突してしまう。
酸素も残りわずか、救出が来る時間は間に合わない。土壇場で彼女がとった方法とは
という話で、これがまあ、タイトルともうまくかかっていて、とてもよくできた話だなあとは思うのだけど、グロいっていうか痛い系なので、個人的にはちょっと苦手
でもまあ、これが好きな人がいるのも分かることは分かる

フィッシュ・ナイト

アリゾナの砂漠で立ち往生した2人のセールスマン。夜中に目を覚ますと、太古の海の風景が広がっていた。
非常に幻想的な絵

ラッキー・サーティー

いわくつきの兵員輸送機で、機体番号に13がついていることから「ラッキー・サーティーン」と呼ばれる機体
新入りのパイロットは、機体を選ぶことができず、ラッキー・サーティーンに乗ることになったのだが、危機を乗り切り生還。その後、次々とともにピンチを乗り越えていく。
おそらく舞台は地球じゃないんだけど、そのあたりの設定の説明はない。パイロットと機体との間の信頼関係みたいな話。機体にAIがあるとかそういう話でもないけれど、機体が意志を持っているように見える、というミリタリーSF
原作はマルコ・クロウス

ジーマ・ブルー

稀代の芸術家ジーマは、作品に必ず特徴的な青=ジーマ・ブルーを使うことで知られる。
とあるジャーナリストが、ジーマの取材に成功し、彼の来歴を知らされる。
芸術SFなのかなーと思ったら、ちょっと違う路線で、ロボットにとって目的とは何かみたいな話だった
これもレナルズ原作らしく、レナルズってこんな作品もあるのかーとちょっと驚いた

ブラインド・スポット

サイボーグ盗賊団による、車両強盗

氷河時代

引っ越し先においてあった古い冷蔵庫。それを開けると、なんと中には小さなミニチュア世界があった。
見る見るうちに発展し、中世から近代、そして未来へと移り変わっていく
という、いかにもショートショートSFっぽい感じの作品。オチがちょっと弱いかなという感じはしたけど
この作品は、冷蔵庫の中はCGアニメーションだけど、他はたぶん実写
このシリーズ、あまりにも実写と見紛うCGアニメーションが多いで、これも一瞬「?!」ってなるんだけど、たぶん実写

歴史改変

もしもヒトラーがありえない死に方をしていたら、どんなありえない未来が待っていたか
という、基本的にはバカSFというか、コメディ作品
なんとまたもスコルジー

秘密戦争

シベリア森林地帯を進む、ソ連軍の小隊
かつての幹部がオカルトにはまって召喚してしまった怪物たちと、戦闘する。
めちゃくちゃアメリカンだった「スーツ」の、陰鬱なネガ版といった趣きがある。
まさか最後に、ソビエトミリタリーオカルトモンスターものがあるとは思わなかった

それ以外の感想

あと、日本のTVアニメばかり見ているせいで、Netflixに驚かされるのは、その配信の仕方で
つまり、18本の作品が一気に公開されているという点。
TVシリーズって当然ながら、毎週1話ずつ放送されるもので、完全にそのスタイルに慣れてしまっているけれど、ネット配信の場合、1話ずつ出すという必要性はないわけで
(確か、Netflixオリジナル作品で、日本の作品でも一気に公開された奴があったと思うけどタイトル忘れた)
このシリーズは、1話あたりの尺が短いし、それぞれ別のスタッフが作っているというのもあるけど、クオリティが驚異的
加えて、全世界同時配信で、各国語の吹き替えが用意されていること。ちゃんと数えてないけど7カ国語くらいは用意されているのではないか、と。
日本語吹き替えキャスト、有名どころだと、大塚明夫高木渉小野大輔釘宮理恵石田彰田中敦子井上喜久子とかが参加している。
もちろんこれも、1話だけだし、何度もいうけど1話あたりの尺も短いから、声優の確保自体はそこまで難しくはないと思うんだけど、各国語の吹き替え版も用意した上で配信始めるのが当然だよね、みたいなところがすげーなと思う