ピーター・ウォード、ジョゼフ・カーシュヴィンク『生物はなぜ誕生したのか』

酸素濃度の変化が生物進化の鍵となったと説くウォードと、スノーボールアースの提唱者であり火星パンスペルミア説を支持するカーシュヴィングの共著による、地球と生命の46億年史
ピーター・D・ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』 - logical cypher scapeのアップデート版といった感じ。
ただし、前著が動物6億年の歴史を書いたものに対して、本書は46億年の歴史を書いている。
ところで、ウォードの本の邦訳タイトルは何故内容とかけ離れたものになってしまうのか。
前著『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』は、恐竜の話がないわけではないが、実際には動物6億年の歴史であって、恐竜の話はメインではない。表紙が始祖鳥ベルリン標1本になっているがミスリードもいいとこである。サブタイトル「絶滅も進化も酸素濃度が決めた」がおおよそ正しい。ちなみに原題は「Out of Thin Air」である。
本書も『生物はなぜ誕生したのか』と、あたかも生命の起源について書かれた本かのようになっていて、もちろん生命の起源についても書かれているが、それについては一章がさかれているに過ぎない。原題は「A New History of Life」である。
筆者によれば、リチャード・フォーティの『生命40億年全史』をリスペクトしつつ、フォーティの本はもう古くなってしまったので新しい歴史を書く、ということのようだ*1
ニック・レーンからの影響があることも述べられており、実際、本文中でも言及があるが、生命の起源については、レーンとは異なり、火星からのパンスペルミア説の立場をとっている。
生命の進化について、酸素濃度の変化に基づく仮説を本書でも展開している。
書評 「生物はなぜ誕生したのか」 - shorebird 進化心理学中心の書評などでは、酸素濃度グラフを書き写しながら読んだと書かれているが、実際、この本では酸素濃度の話がやや分かりにくいので、顕生代について扱っている第8章以降は、『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』に掲載されていたグラフを横に置きながら読んだ。


はじめに
第1章 時を読む
第2章 地球の誕生──四六億年前〜四五億年前
第3章 生と死、そしてその中間に位置するもの
第4章 生命はどこでどのように生まれたのか──42億(?)年前〜35億年前
第5章 酸素の登場──35億年前〜20億年前
第6章 動物出現までの退屈な10億年──20億年前〜10億年前
第7章 凍りついた地球と動物の進化──8億5000万年前〜6億3500万年前
第8章 カンブリア爆発と真の極移動──6億年前〜5億年前
第9章 オルドビス紀デボン紀における動物の発展──5億年前〜3億6000万年前
第10章 生物の陸上進出──4億7500万年前〜3億年前
第11章 節足動物の時代──3億5000万年前〜3億年前
第12章 大絶滅──酸素欠乏と硫化水素──2億5200万年前〜2億5000年前
第13章 三畳紀爆発──2億5200万年前〜2億年前
第14章 低酸素世界における恐竜の覇権──2億3000万年前〜1億8000万年前
第15章 温室化した海──2億年前〜6500万年前
第16章 恐竜の死──6500万年前
第17章 ようやく訪れた第三の哺乳類時代──6500万年前〜5000万年前
第18章 鳥類の時代──5000万年前〜250万年前
第19章 人類と10度目の絶滅──250万年前〜現在
第20章 地球生命の把握可能な未来
訳者あとがき/原 註

生物はなぜ誕生したのか:生命の起源と進化の最新科学

生物はなぜ誕生したのか:生命の起源と進化の最新科学

第1章 時を読む

地質時代区分について
古臭い仕組みだとぼやいているのが面白い。
顕生代だけでなく原生代の紀や、月や火星の地質時代区分の表も載っている
原生代の紀としては、クライジェニオン紀とエディアカラ紀が紹介されている。IUGSに承認されたのが、それぞれ1990年、2004年という新しい時代区分

第2章 地球の誕生──四六億年前〜四五億年前

地球型惑星」とは何か
系外惑星のことだけでなく、時間的観点もこれに加えているのが面白い。過去の地球は全然ハビタブルではなかった時期もあるだろう、ということ
初期の大気(還元的であったか)炭素循環と気温のコントロールなど。気温のコントロールについては、風化作用に加えて、大陸の位置が赤道付近かどうか、超大陸になっているかどうかも関わっている(風化の速度が変わるため)ことが説明されている
この本は、酸素と二酸化炭素の濃度に注目

第3章 生と死、そしてその中間に位置するもの

冒頭で、硫化水素によって「仮死」状態になるという、マーク・ロスの実験について触れられ、生と死の中間状態があるのだという話がなされるのだが、前ふりに出てくるだけで、この話のオチ(?)がつかないので、この挿話の意味がいまいちわからなかった。
ちなみに、2章で酸素と二酸化炭素に次いで、硫化水素とメタンが重要だということを述べているので、「さっそく出てきたな、硫化水素」と思うのだが、本書全体を通しても、いまいちこの二つの重要性がはっきりしないままだった(出てくることは出てくる)
この本、こういう構成の悪さがわりと目につく


高層大気の生命(ハイ・ライフ)
2010年以降の研究で、ウイルスや細菌や真菌が結構発見されていて、中国の砂塵にのって北米まで運ばれているのがわかってきているらしい


本章の主な内容は、生命の定義
代謝と複製どっちが先かとか(筆者は代謝が先ではないかと思っている模様)
生命の材料となる物質についてとか

第4章 生命はどこでどのように生まれたのか──42億(?)年前〜35億年前

バイキング計画以後深海探査へ予算がついて、宇宙から海へ、という流れがあって、深海熱水噴出孔の発見へと繋がったという話
最古の生命について西オーストラリアのエイペクス・チャートの話
2011年、マーティン・プレイジャーの発表した最古の化石→生命の起源における硫黄の重要性


生命起源の4つの段階
1)小型の有機分子(リン酸塩など)の生成・集積
2)これらがつながり、大型分子に
3)タンパク質と核酸が集まり細胞に
4)複製能力獲得により、遺伝子の確立へ
RNAの合成が難しく、謎とされる


隕石爆撃期に触れ、この時期に生命が生き残れたのか疑問としている。
深海や岩石の内部が隕石から生命を守ったということに触れているが、むしろ筆者としては、ここからもパンスペルミアを示唆しているのだろう。


ヴェヒタースホイザー「硫化鉄ワールド説」
→ニック・レーン、ウィリアム・マーティンとマイケル・ラッセ
という感じで、熱水噴出孔説を紹介。
ヴェヒタースホイザーってどの本にも必ず出てくるなー。この本では「硫化鉄ワールド説」、他の本では「パイライト仮説」という名前のこともある。この本では特に書かれていないが、この人、本職は弁理士。1988年に発表したらしいが、20世紀後半に一種のアマチュア科学者で、教科書に載るような説を提唱できるとは。
論理的にはこうなるという説であって、問題点も指摘されており、ニック・レーンの本によれば、そのうちの1つはヴェヒタースホイザー本人によって指摘されているが、熱水噴出孔説派の人たちは、このヴェヒタースホイザーの説を改良した上で、自説を展開している。


この本では、熱水噴出孔説に対して、RNA(及びDNA)は高温では不安定という問題点が指摘されている。
これに対して、例えばカール・ウーズは、大気の上層での生命誕生を唱えているとか。


火星パンスペルミア
対して、本書(特にカーシュヴィンク)は、火星パンスペルミア説を説く。
スティーヴン・ベナー:リボース(RNAの糖)の生成→酸化モリブデン
最も古い系統の細菌は65度で生まれた
ホウ酸鉱物→砂漠
これらのことから、最古の生命は熱水噴出孔ではなく、砂漠で生まれた可能性が高いと。酸化モリブデンなんかは火星にある。


他にも、リボースやタンパク質、核酸の生成は脱水反応なので、水が邪魔という話もある。脱水反応については、ニック・レーン『生命、エネルギー、進化』 - logical cypher scapeでも、これを理由に火星パンペルミアを唱える者もいると触れているが、パンスペルミアについては一笑に付している。そもそも、現生生物が水中で活動していることを挙げて、ATPの分解と脱水反応が同時に行われており、ATPがあればこれは可能であるとしている。


また、さらに別の証拠として、長いRNA鎖が必要になるが、氷があると縁に結合されるというのを挙げている。火星なら(太古の地球と違って)氷がある。


自分は、生命起源の話としては、熱水噴出孔説から触れてる人間なので、どうしてもそちらに心情的にコミットしてしまうし、パンスペルミアはさすがに荒唐無稽なのではと思ってしまうが。
生命の起源については、いくつもの要素が絡み合っており、それらの諸要素についてはおおむね関わる科学者はみんな認識しているが、そのうち、どの要素を重視するのかによって立場が変わるのかな、という気がした。例えば、熱水噴出孔説派は、代謝優先で複製はあとに続くという感じだけれど、生命の本質はやっぱ複製でしょって考える人は、RNA分子が合成されやすい環境を優先して考えるんだろう。

第5章 酸素の登場──35億年前〜20億年前

始生代から原生代への移行期=酸素濃度の上昇期


大酸化事変はいつか
1999年:34億年前の地層からバイオマーカー発見という論文発表→従来考えられたより非常に早い時期に光合成が始まっていた?
2008年:99年の論文と同じ筆者が、シアノバクテリアの最古の化石は21億5000万年前と発表し、1999年の論文はコンタミだったと指摘
2000年以降:同位体を比較する方法(生命が好む同位体の違い)
硫黄同位体比から24億年前に紫外線減少=オゾン層の形成
南アの24億~22億年前の地層から、黄鉄鉱・閃ウラン鉱、硫黄同位体については酸素欠乏を、マンガンについては酸素の存在を示す証拠(酸化マンガン)が発見される
→筆者らは、酸素発生型の光合成の前段階が生じていたのではないかという仮説を発表。マンガンを用いて光合成する細菌は知られていないが、もし仮にマンガン光合成をすると、酸化マンガンは排出するが、酸素は放出しない。


スノーボールアースについての研究史
20世紀前半にすでに、広い地域で氷河堆積物が見つかっていたが、1966年にプレートテクニクス理論が出てきて、全地球的に凍っていたという考え方はとられなくなる。しかし、1987年に、地磁気から赤道に氷河があったことがわかり、全地球的な凍結が認められるにようになっていく。1994年、この本の筆者でもあるカーシュヴィンクが「スノーボールアース」という言葉を作る。


エディアカラ爆発は、スノーボールアース現象の直後に起きている
が、分子生物学では、スノーボールアース以前に多様化したことが示唆されている。
ここでは、分子時計が突然変異が一定の割合で起きていることを前提しており、スノーボールアースのような大変動においては一気に変換がおきたのではないかとして、このズレが説明できるとしている。*2

第6章 動物出現までの退屈な10億年──20億年前〜10億年前

10億年間、硫黄を利用する生物が多数いた
「生命は怠惰で」水分子を結合するのは難しく、水よりも硫化水素を使って光合成を行おうとする。この場合、酸素は発生しない。
海は層構造になっていて、上層部は酸素があるが、3〜6メートルから下は、紅色硫黄細菌で真っ赤に染まり、硫化水素の海になっている。硫黄細菌は酸素を消費する。
が、大陸からの鉄が、硫黄と反応していくことで、硫黄細菌が次第に生きていけなくなり、酸素濃度が上昇していった。


この10億年間の代表的な生物は、ストロマトライト
最古の多細胞生物はグリパニア
しかし、動物は6億年前にならないとでてこない
この時代の微化石として、アクリタークが有名。ただし、アクリタークは、様々な分類の生物の雑多な総称
10億年前に、トゲのあるアクリタークがあらわれ、増加する→捕食者が誕生した?

第7章 凍りついた地球と動物の進化──8億5000万年前〜6億3500万年前

この5〜7章あたりの記述は、スノーボールアースイベントなどの時系列がどうなっていたかをつかむのがやたら難しいというか、このブログ記事を書くために読み直していても、なんかさっぱりつかめない

25億年前から原生代
23億年前だか24億年前だかに、最初のスノーボールアース現象と大酸化事変が起きている
グリパニアが22億年前くらい
8憶5000万年前から6億3500万年前が原生代クライジェニオン紀(Cryo-が寒冷を意味する)
7億1700万年前から6億3500万年前までのあいだに、2度目のスノーボールアースが2回起きている。


1度目のスノーボールアース現象(23億年前の方)は、光合成による温室効果ガスの急減
2度目のスノーボールアース現象は、超大陸の分裂→風化作用が激しくなり二酸化炭素減少(植物の上陸が7億5000万年前でこれの影響もあったかもしれない)


火山活動による間欠泉で、生き延びた生命が進化(ボトルネック効果が働く)
→エディアカラ動物群へつながったという仮説


エディアカラ動物群のような柔らかい動物が何故化石になったのか
ウォードと学生たちの実験
→クラゲの死骸に砂をかぶせる→砂に跡はつかない
→ナイロンの網を砂岩にのせ、クラゲをのせ、細かい砂をかぶせる→ナイロンの下に跡が残った
→微生物シートがあって、それによって化石が残ったのではないか?!
→動き回る動物が誕生して、この微生物シートは食べられてしまった
→微生物マットを前提とした生態学


トゲの生えた微化石


最初の左右相称動物
6億年前に誕生(遺伝子研究で存在が示唆され、21世紀初めに中国から発見)
動物による堆積層の擾乱=カンブリア紀の農業革命が始まる


酸素濃度の上昇が、動物の誕生のきっかけ
酸素濃度の上昇には、有機炭素の堆積物への埋没が必要
→粘土の流入量が増える必要
・陸上維管束植物が根をはった
・大陸が熱帯地方にあると風化作用がしやすい→真の極移動

第8章 カンブリア爆発と真の極移動──6億年前〜5億年前

この章では、章のタイトルにある通り、カンブリア爆発と「真の極移動」について触れられている。「真の極移動」はこの章の後半にあたるが、あまり他のところでは論じられていない話だと思う。


章冒頭の前フリとして、三葉虫と進化論について触れられている。
古い地層において最初に現れる化石が三葉虫で、進化論への反証となっていたらしい。つまり、最古の生物がすでに十分複雑であるため。ダーウィン自身も悩まされたらしい。


動物が現れる4つの波
1)アバロン爆発
2)生痕化石
3)骨格の登場
4)大型の化石動物


異質性disparityと多様性diversity


節足動物の体節→低酸素への適応


エボデボの研究者ショーン・キャロルによる、新奇性が生じる4つのポイント
1)すでにあるものを利用する
2)多機能性
3)反復性
4)モジュール性
モジュール性→遺伝子スイッチの仕組み=ホメオティック遺伝子
バージェスでもチェンジャンでも節足動物が一番多く、多様。
何故なら、節足動物が簡単に体制を変えられる
10個のホメオティック遺伝子があれば、多様化が可能
新しい形態のために新しい遺伝子は必要ない


カンブリア爆発はいつ起きたのか
年代が正確に特定されていない
いつをもって、カンブリア紀のはじまりとするか→コンセンサスが得られたのは90年代初めになってから→上述4つの波の2番目からをカンブリア紀として、1番目はエディアカラ紀とした


真の極移動
地磁気から、カンブリア紀初期に大規模なプレート運動が起きていたと考えられていた
が、プレートテクトニクスでは説明できないくらい速い
地球上全体が自転軸に相対的な位置を変えた=真の極移動が起きたのではないか
プレートテクトニクスのない)月や火星ではよく知られている
質量のバランスが崩れると、重い部分が赤道へと動く
小惑星の衝突や大陸の位置の変動などで起きうる
カンブリア紀初期:真の極移動に伴い、高緯度地域に蓄積されたメタンハイドレートが放出、温暖化が起き、これがカンブリア爆発という多様化を生じさせたのではないか。


真の極移動について、文献の注釈などがついていなかったのだけど
とりあえずぐぐってみたら、ふぉっしるの記事「カンブリア紀に,ゴンドワナ大陸が60度回転したかもしれないということがわかりました。」があった。
2010年の研究


カンブリア紀末の大絶滅
ビッグファイブ程ではないが、大絶滅が発生
酸素濃度の上昇による。これも、真の極移動がかかわっていたかも

第9章 オルドビス紀デボン紀における動物の発展──5億年前〜3億6000万年前

酸素濃度の上昇により、サンゴ礁カンブリア紀には古杯類による礁はあったが、サンゴはオルドビス紀から)
オルドビス紀は多様化の第二部
三葉虫よりも、殻のもった腕足動物や軟体動物が個体数・種数でも上回る


多様性をめぐる研究史
1860年 ジョン・フィリップス
古生代中生代新生代の概念を提唱した人。種の数は一貫して増え続けていると主張
1960年代後半 ニューウェル&ヴァレンタイン、ラウプ
種の増加は、化石保存の偏りによるもの
1970年代 ラウプやセプコフスキーら
図書館の記録から海洋無脊椎動物、陸上植物、脊椎動物の大規模データベースを構築
→フィリップスの見解を支持
カンブリア紀オルドビス紀中生代に多様化の波
21世紀初頭 マーシャル&アルロイ
実際の博物館コレクションをもとにデータベースを構築
→一転して、多様性の増加傾向は見いだせず
2009年 バーナー
酸素濃度の推移とアルロイによる多様性の推移に類似点を見出す

第10章 生物の陸上進出──4億7500万年前〜3億年前

最初に上陸した生命は?
7億年前にシアノバクテリアか何かが上陸していた→さらにそれ以前から(26億年前から)細菌が上陸していた可能性
シルル紀~デボン紀の頃、陸上植物が登場してから、葉が登場するのに3000万年以上かかる
二酸化炭素濃度の低下を待っていた
二酸化炭素濃度が高いと気温が高い。葉は、冷却するのが大変
動物誕生以後については、ピーター・D・ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』 - logical cypher scapeと内容的には重複している部分も多いが、この葉についての話は、載っていなかった。


クモ・サソリ
書肺→受動的な肺
デボン紀
4億3000万年前 サソリ上陸
4億1000万年前 昆虫上陸=高酸素のピークの時期(スコットランドのライニーチャートから節足動物の化石が見つかっている)


魚類から両生類へ
デボン紀初期〜中期(約4億年前)に上陸か
アイルランドバレンシア島 4億年前 足跡化石
ティクターリク 魚類と両生類のミッシングリンクをつなぐ、足をもつ魚(21世紀に発見)
四肢動物はグリーンランドからよく発見されている
ヴェンタスタガ イクチオステガよりも古い両生類
イクチオステガ 陸は歩けなかった
ローマーの空白
上陸は2回にわけて行われた(3000万年にわたる空白がある)
1度目:4億年前、バレンシア島の足跡やティクターリク
2度目:3億6000万年前〜3億5000万年前
どちらも酸素濃度の高かった時期

第11章 節足動物の時代──3億5000万年前〜3億年前

ニック・レーン『生と死の自然史――進化を統べる酸素』
石炭紀からペルム紀にかけての高酸素状態
酸素濃度の上昇と大気圧の高さによって、メガネウラのような巨大トンボなどが登場
植物の埋没の埋没が非常に多かった→のちに石炭となる
植物プランクトンも同様
大陸同士の衝突、樹木は非常に硬いリグニンを使っていた、分解する細菌がまだいなかった


酸素濃度が高いので、森林火災が非常に多く起きていたのではないか、と。
地球環境に影響を与えるレベルで起きていて、従来の研究では森林火災の影響があまり鑑みられていないのでは、とか
あと、高酸素は植物の寿命を縮めるかもしれない、とか
酸素濃度が高いことによる植物への悪影響についていくつか。


羊膜卵の誕生と酸素濃度
酸素濃度と胎生?


「キャリアの制約」
呼吸と移動の関係(爬虫類は呼吸と移動を同時にできない)


なぜか、カメが無弓類として出てくる。この分類は無効になったはずでは。


代謝(恒温か変温か)、生殖(卵生か胎生か)
単弓類と双弓類


第一の哺乳類時代

第12章 大絶滅──酸素欠乏と硫化水素──2億5200万年前〜2億5000年前

南アフリカ カルー砂漠


ペルム紀大絶滅の原因
21世紀以降、研究が盛んに

  • ルアン・ベッカーの衝突説

2001年:ベッカーのチームが「バックミンスターフラーレン」という炭素分子を発見、衝突説を主張、2003年にはクレーターも発見→同じ地層から炭素分子の結果を再現できず、クレーターと目される構造がクレーターかどうかにも疑義あり→筆者らは当初から疑っていた

酸素濃度の低下により、深海の硫化水素が上昇し、有毒ガス発生
オゾン層の破壊
二酸化炭素蓄積による温暖化
酸素濃度の低下の原因について、本書には記載がないが、ピーター・D・ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』 - logical cypher scapeによれば、超大陸パンゲアの完成、植物量の減少により、埋没速度が低下したことが原因


標高圧縮
酸素濃度が低いと、低地でも高地のような状態になる。すると、地続きであっても生物の移動ができなくなることを標高圧縮と呼び、生物相が多様化するが、絶滅しやすくなる、と。
なるほどー面白い話だなーってとこなんだけど、中生代はどうだったんだろとか気になるところ。

第13章 三畳紀爆発──2億5200万年前〜2億年前

この章の冒頭前フリエピソードは、故サム・エプスタインについての回想みたいな感じになっている。サムは、酸素同位体比による古水温測定の手法を作り上げた人で、あちこちで測定しているのだけど、ある時、三畳紀の地層で異常に水温が高いのを見つけた、と。しかし、発表する勇気はなくて論文としては発表していない。著者のウォードも同様の測定結果を出しているのだけど、やはり発表できなかった、と。
しかし、後に、他の地域の同時代の測定データも調べて、全然別の研究者が同様の結果を発表した、というエピソードが書かれている。


温室効果絶滅
デボン紀ペルム紀三畳紀ジュラ紀白亜紀、暁新世に起きている


哺乳類(獣弓類)と爬虫類(トカゲ類)
三畳紀は低酸素時代で、生物の異質性=体制の多様性が高まる→カンブリア紀に匹敵する「三畳紀爆発」
アンモナイトの多様化
スーキアスの研究→四肢動物と二足動物という二大体制・トカゲ類は他のグループより成長が速い(トカゲ類が有利だった点)


キャリアの制約の解消へ
恐竜や鳥類の子孫は足を胴体の下部へ、呼吸の問題を解消するために二本足へ
哺乳類の祖先は、二次口蓋、起き上がった姿勢、横隔膜を


低酸素・高温期の海への回帰
酸素濃度が下がる二酸化炭素濃度が上がり温暖化する。温度が上昇すると代謝率が上昇し、必要とする酸素の量が増える
→対処法としては体温を低く保つこと→海への回帰
海へ回帰した動物が多い時代


三畳紀大絶滅
洪水玄武岩の噴出
二酸化炭素濃度が2000〜3000ppmに(現代は400ppm
隕石衝突?
イリジウムが発見され、オルセンらが衝突説を唱えた
が、イリジウムの発見された露頭から発見される足跡が、数も大きさも種類も増えている
→隕石衝突がおきなたら減るのでは?
二酸化炭素濃度上昇による温暖化が発生
旧来型の呼吸器をもつ動物にはダメージ
竜盤類だけは、高度な隔壁式の肺を持っており、むしろ数を増やした

第14章 低酸素世界における恐竜の覇権──2億3000万年前〜1億8000万年前

恐竜はなぜ優位に立てたのか
恐竜については多くの本が書かれており、「新しい歴史」を書くことを目的とする本書ではあまり書くことがないとしつつ、「なぜ絶滅したのか」は注目を集めるが、「なぜ存在したのか」はあまり注目を集めてこなかったことに話を進める。
三畳紀は、恐竜以外にも繁栄していたグループがあったが、何故か、三畳紀末の絶滅以降、恐竜だけが繁栄することになる)
ポール・セレノは、これを偶然であると
これに対して、
ウォードはやはり、低酸素への適応によって、と自説を展開する。


ワニと恐竜の祖先=ユーパルケリア(鳥頸類)→二足歩行へ進化開始
2つの系統に分かれ、片方は翼竜
もう片方の系統の進化:ラゴスクス(二足と四足の中間、まだ恐竜じゃない)→ヘレラサウルス(恐竜。しかし、まだ新しい呼吸システムを欠く)


肺の仕組み
哺乳類の肺胞式と、爬虫類・鳥類の隔壁式
気嚢システム


恐竜の形態変化五段階
様々な要因(種間競争、気候変動、酸素濃度など)
鳥盤類は効率的な呼吸器系をもたず、しかし、頭が大きく、歯が優れて食物の獲得については竜盤類より有利。白亜紀に酸素濃度が上がって、一気に栄えた



恐竜の卵化石は、ほぼすべて白亜紀から発見されている
ジュラ紀以前の卵は、単にまだ発見されていないだけなのか、それとも殻のある卵を産んでいなかったのか
爬虫類の生殖は4種類
(1)子供の形で産む(2)柔らかい卵を母体内部に保持(3)柔らかい卵をすぐに産み落とす(4)硬い殻の卵を産む
硬い殻の卵の利点は頑丈なこと、また殻が栄養にもなる。しかし、空気と水を一切通さないので、卵白によって水分を保持し、空気穴をあけている
ワニ類を対象にした実験によれば、卵の孵化には理想の酸素濃度がある
→高酸素が理想で、低酸素・高温下では孵化しない
高温・低酸素では、柔らかい卵や胎生の方が適している

第15章 温室化した海──2億年前〜6500万年前

中生代の海には、サンゴ礁ならぬ厚歯二枚貝の「礁」が広がっていたという話から
ところで、この貝については土屋健『白亜紀の生物』 - logical cypher scapeでも紹介されていて、その特徴的な形状やサンゴと同様の海域に生息していたことなどが書かれているが、密集はしていたが礁にはならなかった、と書かれている。


中生代の海と言えばやはりアンモナイト
正常巻きが海底近くに生息していたのに対して、異常巻きは中層水域に生息していたとか。
中層水域の生態系への注目を促す


中生代海洋大変革」
ヒーラット・ヴァーメイが、海の捕食者の変化をこう呼ぶ


第16章 恐竜の死──6500万年前

恐竜絶滅についての前フリとして『ディファレンス・エンジン』の引用から始まっている。


アルヴァレスの隕石衝突説について説明したのち、しかし、補足する形で隕石以外の絶滅要因にも触れている。
隕石衝突が決定打なのは間違いないが、先行して絶滅が進んでおり、とどめとしての隕石だったと
これについては、海洋循環とデカントラップを挙げている。

第17章 ようやく訪れた第三の哺乳類時代──6500万年前〜5000万年前

遺伝学による新発見
(1)哺乳類の主要な分類群は恐竜絶滅よりも前に多様化
(2)初期哺乳類の進化と分岐は南の大陸で
(3)遠縁と思われていた分類が実は近縁であったことが判明


PETM
=Paleocene-Eocene thermal event=暁新世−始新世境界温暖化極大イベント
(ところで、「Eo-」は「暁の」を意味する。エオラプトルとかも同じ)
深海掘削計画によるコア採取で発見される
火山灰の量も増えており、火山活動が活発化したと見られる。また、海洋循環システムも関係して温暖化
人類による温暖化を考える上でもPETMは重要
本書では、第一次適応放散と第二次適応放散という言葉は使われていないが、時期的に、PETMによる絶滅以降、第二次適応放散が起きたようだ


C4型光合成とイネ
炭素同位体C3ではなくC4を光合成に利用するになった植物(イネ)が登場する
二酸化炭素濃度の低下に適応したものらしいが、森林減少によるものという新説もでてきている
酸素濃度が高かった時期の森林火災
C4型植物は、火と乾燥に強い

第18章 鳥類の時代──5000万年前〜250万年前

子供向けの本では「魚類の時代」「両生類の時代」「爬虫類の時代」「哺乳類の時代」と区分されがちなので、本書では、あえて「鳥類の時代」として章をさいたとしている。
鳥類の分子系統解析で、飛べない鳥の分岐についてなど
飛行能力を失う前に分岐しているとか、飛行能力を失ったあとに再び飛行能力を獲得しているとか
また、恐鳥類は、脳が大きかった

第19章 人類と10度目の絶滅──250万年前〜現在

10回の大絶滅
(1)大酸化事変とスノーボールアース
(2)クライオジェニオン紀→スノーボールアース
(3)エディアカラ紀
(4)カンブリア紀→捕食者の増加
(5)オルドビス紀→寒冷化か海水面変動
(6)デボン紀温室効果絶滅?
(7)ぺルム紀→温室効果絶滅
(8)三畳紀温室効果絶滅
(9)白亜紀→隕石衝突と温室効果絶滅
(10)更新世末期から完新世→人間の活動による絶滅
この本の短所だと思うのだけど、こういうまとめは、むしろ最初の方に書いておいてほしかった。


人類史
大型哺乳類の絶滅

第20章 地球生命の把握可能な未来

最後の章は、未来について
最終的には太陽が膨張して地球は飲み込まれてしまうわけが、それに至るより前に、地球は不毛の星となってしまうそうだ。
長期的なトレンドとして、二酸化炭素濃度は低下している。
今後も二酸化炭素濃度が下がり続けると、植物の生育が困難になっていく。
この未来予測のシナリオが結構細かく書かれていて、なかなか衝撃的だ。
植物はしだいに硬くなり、葉もなくなるだろう、とか
光合成のやり方を変えて、徐々に減っていくとか
陸上植物がなくなると、海洋のプランクトンに大打撃とか
根をはる植物がなくなると、土手がつくられなくなって、大河がなくなり、網状河川になる。また、土が消失する。
植物の減少で、酸素濃度が減少していき、動物も絶滅する

*1:ちなみに自分は、フォーティの本読んだ方がいいかなあと思いつつ結局まだ読んでいなくて、フォーティの本はもう古い、とこの本に言われてしまった

*2:分子進化と形態進化の時期がズレるというのは宮田隆『分子からみた生物進化』 - logical cypher scapeなんかに