ピーター・D・ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』

地球史における酸素濃度の変化という観点から、5億4000万年の動物の歴史を辿る本。
既に多くのレビューで指摘されているが、この本は「恐竜がなぜ鳥に進化したのか」についての本ではない。むしろ、サブタイトルにある「絶滅も進化も酸素濃度が決めた」ということについての本である。ちなみに、原書タイトルは「Out of Thin Air」(薄い空気の中から)。

地球の大気は窒素がおよそ8割、酸素がおよそ2割、そしてそれ以外の成分という組成だが、この酸素濃度というのは、実は地球の歴史において必ずしも一定していなかったらしい。
確かに、もともと地球が生まれたときは酸素はほとんどなくて、最古の生命が誕生し、ストマトライトが酸素を出しまくってガンガン酸素濃度をあげたり(最古の大気汚染ともいえる)、全球凍結の前後も酸素濃度が変化してたりする。けれど、このあたりは原生代の話。
顕生代でも、結構酸素濃度が変化していたらしい。現代は、どちらかといえば酸素濃度が高い時代。中生代なんかは今よりも酸素が薄くて、標高0m地点でも高山にいるような状態だった、とか。
そんな酸素濃度の変化が、生物の進化にも影響をもたらしたのではないか、という筆者の仮説が展開されていく。

カンブリア紀の大爆発、ペルム紀末の大量絶滅、恐竜や鳥類の誕生などの進化史における大事件について、酸素濃度という観点で説明していく。何でもかんでも酸素濃度で説明できるような感じにもなっているので、そのあたりは多少差し引く点もあるかもしれないけれど、多少トリビアルな事柄も含めて5億年の生物史を見ていくところができるのがよかった。
特に古生代については、よく知らなかったので、多少イメージができてきたかもしれない。
それから、恐竜については、いわゆる温血(内温性)か冷血(外温性)かの論争についての議論が検討されていて面白かった。

酸素濃度と生物進化の関係についての、筆者の大きな仮説は
「酸素濃度が低いと異質性が増え、酸素濃度が高いと多様性が増える」
ここでいう異質性と多様性は、多分グールドが言ってた奴だと思う。
多様性は、種の数が多いこと
異質性は、体制(ボディー・プラン)がたくさんあること

酸素濃度の変化については、ロバート・バーナーによるバーナー曲線を基本的に前提としている。
ジオカーブサーフモデルなどのコンピュータモデルをもとに計算されたもの
これを見ると、デボン紀初頭やペルム紀は酸素濃度が高く、逆にオルドビス紀デボン紀の半ば、そして中生代は酸素濃度が低かったことがわかる。特に、ペルム紀から三畳紀にかけて急激に酸素濃度が下がっている。
このグラフに、大量絶滅の時期をプロットすると、酸素濃度が下がった時期とちょうど重なるのである。
また、酸素濃度と二酸化炭素濃度は必ずしも連動しているわけではないけれど、おおむね酸素濃度が上がれば二酸化炭素濃度は下がり、またその逆も生じる。二酸化炭素濃度が変わるとそれが地球の気温にも影響を与えるので、おおむね、酸素濃度が高い時期に寒冷化、酸素濃度が低い時期に温暖化している。

第1章 哺乳類の呼吸とボディ・プラン
第2章 地質年代における酸素濃度の変化
第3章 カンブリア紀大爆発はなぜ起こったのか
第4章 オルドビス紀カンブリア紀爆発の第二幕
第5章 シルル紀=デボン紀―酸素量の急上昇が陸上進出を可能にした
第6章 石炭紀=ペルム紀初期―高酸素濃度・火事・巨大生物
第7章 ペルム紀絶滅と内温性の進化
第8章 三畳紀爆発
第9章 ジョラ紀―低酸素世界における恐竜の覇権
第10章 白亜紀絶滅と大型哺乳類の台頭
第11章 酸素の未来を危ぶむべきか?


面白いトピックは色々あったんだけど、ちょっと気力尽きたので個別トピックのメモはパス
またいずれ、機会があれば。
代わりってわけじゃないけど、参考→書評 「恐竜はなぜ鳥に進化したのか」 - shorebird 進化心理学中心の書評など


恐竜はなぜ鳥に進化したのか―絶滅も進化も酸素濃度が決めた (文春文庫)

恐竜はなぜ鳥に進化したのか―絶滅も進化も酸素濃度が決めた (文春文庫)