藤崎慎吾『我々は生命を創れるのか』

サブタイトルは「合成生物学が生みだしつつあるもの」とあり確かに合成生物学の話ではあるが、生命の起源研究の中に合成生物学を位置づけている感じ
藤崎が、この分野の研究者に取材した連載記事が元になっている。


面白そうだなと思ったから読み始めたわけだが、期待を超えて面白かった。
前半、アストロバイオロジー関連の話をしているところも面白いが、後半に「生命」概念を捉え直していくところが刺激的
がっつり取り組むとしたらめちゃくちゃ大変だが、人類学や心理学も含む形で、生命についての哲学というのがあるというのを感じた。
アストロバイオロジーの哲学というのがあったけど、こういう範囲までカバーできるとよいのかもしれない、と思ったりもした
「人が生命と思ったらそれは生命なんだ」式の話というのは時々出てく話で、出てくる度に「いやそれはどうなんだ」と思っていたのだけど、生命概念の一部に組み込まざるをえないということに、今回納得した気がした

本書の起源
第一章「起源」の不思議
第二章「生命の起源」を探す 
第三章「生命の起源」をつくる
第四章「生命の終わり」をつくる
第五章「第二の生命」をつくる
本書の未来

第一章「起源」の不思議

まず、自分という個体がいつから生命なのか、という話から始まって、それも法律や人類学的な観点からやって、さらに「生命」や「生きている」についての素朴生物学にまつわる発達心理学の研究なども紹介されている

第二章「生命の起源」を探す

生命の起源研究についての話
特に、深海熱水噴出域説vs地上温泉説の論点整理がなされている。
(本文であまり重要視されてないけど)論点1で元素組成の話が出てきて、あまり注目してなかったけどそういう論点もあったかと思った
やっぱり重要なのは、乾いた環境があるかどうかとかだよね、という話
あと、○○ワールド仮説色々
隕石衝突実験している古川さんの話
 

第三章「生命の起源」をつくる

ここから合成生物学的な話
キッチンで作れる人工細胞
細胞膜の話


システインというアミノ酸が、硫化鉱物の代謝を生化学へと持ち込んだ

第四章「生命の終わり」をつくる

第一章と同じように「死」についての法律的な話や人類学的な話をさわりとして

マイクロチャンバー、ハイブリッドセルから大腸菌
ちょっと海底熱水噴出域説に有利な話かw
死んだところから生命を生み出したいが、死のよい定義がない


茨城県常陸太田市にある、微生物の塚、人工細胞・人工生命の塚
科学者でありアーティストでもある岩崎の作品
「生命」という概念は重層構造をなしているのではないか
つまり、自然科学の見方でいう、代謝や遺伝を行う化合物の集合として見る生命、加えて、人類が歴史的・文化的に蓄積してきた生命のイメージ・生命観・死生観、そして個人が対象との関係の中で感じ取る生命、といった具合に
この本の別の場所で、ジャンケレヴィッチ『死』の中に示される「一人称の死」「二人称の死」「三人称の死」という概念とも重ねあわされる。
岩﨑は、論文の中に見られる主観的な表現や図・グラフを切り取って素材として使う作品を作っている
生命科学の中には、「希薄化されたアニミズム」があるという*1


↑このあたりがとても面白くて、生命についての哲学がここにありそう、という感覚が読みながら湧いてきた
まだ読んでないけど、岩崎さんの記事とか今後読んでいきたい(まだ読んでないけどって書いたけど、下のシノドスの記事はブクマ済みだった)
人工生命に慰霊碑と花束を(後編)(藤崎 慎吾) | ブルーバックス | 講談社(1/5)
生命美学とバイオ(メディア)アート——芸術と科学の界面から考える生命 / 岩崎秀雄 / 生命科学 | SYNODOS -シノドス-
https://www.amazon.co.jp/dp/B076BP7MDQ

第五章「第二の生命」をつくる

色々な生命の可能性について
ケイ素生物(この本、わりと可能性に好意的
文字数の多いDNA(ハチモジDNA
ATP以外のエネルギー通貨(アデノシンではなくグアノシンがついたGTPとか他のでもエネルギー通貨としては使える
キラリティ分子
対称性の破れから関わっているのではないかという研究もあるとか


この本は、生命0.9とか0.5とかそういう表記だけど、ピーター・D・ウォード『生命と非生命のあいだ』 - logical cypher scape2に出てくるテロアとかリボサとかそういうのも思い出したりした

*1:未読だけどhttps://www.amazon.co.jp/dp/4130133144という本が最近出てるのを思い出した

渡辺零『Ordinary346(4)』

渡辺零『Ordinay346』 - logical cypher scape2の続き
志希が表紙なのに、ほぼ砂塚あきらと松永涼の話じゃないかーw
作者自身が、書いても書いても志希の話が始まらん的なことをツイートしていたので、志希編はまだ本格的には始まらんのだなというのは分かってたけどw

日本政府が密かに工作員を育成する〈青木ヶ原〉出身の殺し屋砂塚あきらは、同じく〈青木ヶ原〉出身で「兄ぃ」と呼んで慕っていた男を、奏に殺される。
その復讐のため、警察庁の〈伏籠〉に所属し、〈鴉〉渋谷凜と行動するようになる。
一方、財前時子率いる私設部隊〈豚〉に対峙するべく、ロシア特殊部隊と、白坂小梅松永涼の〈葬儀社(アンダーテイカー)〉が動き出す。
黒埼ちとせと財前時子の間に会談がもたれ、黒埼配下の部隊も見え隠れし始める。
また、志希の部下として、二宮飛鳥や夢見りあむの姉のえるが登場する。


小梅が完全に超常的な能力を有していて、やべー強いなと思ったら、〈亡霊〉は遙かに強い
というか、この超常的な能力は果たして一体何なの
そして、〈集まり〉って一体何なの

アーカイブ騎士団『会計SF小説集』

会計SF、一体なんだそれはという感じだけれど、会計SFなんだなあ
過去にアーカイブ騎士団『流通小説集』 - logical cypher scape2で流通小説なる新ジャンルを開拓したアーカイブ騎士団の面目躍如といったところか

簿記とAI(高田敦史)

高田さん、AIネタ好きだよな。今回はGAN(敵対的生成ネットワーク)を扱っている。
宇宙貿易商であり趣味で会計ソフトの開発も行っている主人公が、会計についての個人講義を依頼される。
従業員全てがロボットである企業のオーナーで、屋敷の使用人も全てロボットという依頼主は、部屋から出てこようとせず、モニター越しに講義を教えることになる

MNGRM(旅岡みるく亭)

マニ車の話だった
徳を積むとセンサ経由で自動的に帳簿に記録されていく未来社

サイボーグは冷たい帳簿の中に(森川 真)

地球温暖化による海面上昇により、造船所が巨大企業となった未来
造船所は帳簿を公開しており、その処理を外部に募っている。その会計処理は、副社長リーグなるものになっており、そこで好成績を収めたものは実際に副社長の座に就くことができる。
また、造船所は、社員の脳内に計算機を埋め込んでおり、その計算機は会社の資産として計上されている。
雪夫と「俺」はチームを組んで副社長リーグを戦っていくが強敵が立ちはだかる。しかし、雪夫は実は母親のことでどうしても造船所のトップに上り詰める必要があって

複式墓地(渡辺公暁

会計SFだけでもなんだそれ? というところだが、この作品は会計ホラーにもなっている。
会計ホラーって何だという感じだが、会計ホラーになっているのだから仕方がない。
オカルトマニアの大学生3人組が、ドイツにある廃村を訪れる。その墓地にある墓には複式簿記と思われる数字が刻まれている。
3人は確かに数字の刻まれた墓を見つけるが、それだけでなく、遙か昔に廃村になったはずの村に人影を見つける。
この数字は、かつて村にいた聖職者が、たまたま複式簿記を知り、何故かそれと信仰心があわさり、村の人々の生死を記録するものとして刻まれている。のだが、3人は負債の欄に数字があることに気付く。この負債とは一体何なのか。そして、謎の人影は一体何なのか。

日商簿記2級受験記(高田敦史)

会計SFを書くにあたり簿記2級をとることにしたという高田さんの体験記
いやなんだそれ、すごいな

日経サイエンス2020年2月号

フロントランナー挑む 第98回 小型着陸機を月面の狙った場所へ確実に送る:坂井真一郎

www.nikkei-science.com
SLIMのプロジェクトマネージャー坂井真一郎インタビュー
有人無人含めこれまでの月面着陸機で、ピンポイントで着陸できたものはない(何キロだかの誤差半径内への着陸)。それを目指すのがSLIM
新技術もりもりで、衛星の軽量化なども目指す
専門は制御工学で、ロケットの打ち上げはまだ直接見たことないらしい


特集:エマージングテクノロジー 10の科学技術が世界を変える

www.nikkei-science.com
10項目あるが、そのうち「6.コラボラティブ・テレプレゼンス」と「9.DNAデータ貯蔵」だけちょっと見た
DNAに情報を書き込み、読み出しする技術自体は既にあるが、他の媒体と比較すると、速度がネック

重力波望遠鏡KAGRA始動

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これはおおむね写真記事、という感じ

遺伝子発現を制御する DNAループのダイナミクス E. L. エイデン

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遺伝子発現は、DNAの中のエンハンサーとかプロモーターとかいった文字列によって制御されているが、配列上かなり距離が離れている。
なので、DNAがループ状になって接することで制御しているのではないか、と。
DNAは、まるでラーメンのようにごちゃごちゃとしているように見えるのだが、実際に立体構造を調べてみると(どうやって測定するのかというのも色々書かれている)、実は秩序だっていることが分かってきて、ループ構造があることも発見される。
このループが一体どのように形成されたかも、当初想定していたのとは違ったが、判明。鞄の紐の長さを調整する奴みたいなのがあって、それでDNAをループ状にする、らしい。
ところが、遺伝子発現のためにループ構造をしている、というのがそもそもの仮説で、実際にループとその成り立ちを発見したのだが、ループを作る機構を阻害しても、遺伝子発現にはそれほど影響しないことが分かり、ループにとって遺伝子発現は副次的なのではないか、と。

アナム猿人の顔 K. ウォン

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アナム猿人はアファール猿人へと漸進的に進化し,現生人類を含むホモ属の源流に位置する。だが新発見の化石の特徴から,アナム猿人とアファール猿人が一時共存していた可能性が浮上した。

本誌でも見開き2ページしかない記事なので、内容要約すると上記サイトに書いてあるのとほぼ同じになる。
あとは、まだ化石証拠少なくてなんともいえないですねーという感じ

堤防に勝る近自然海岸 R. ジェイコブセン

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この記事あまりちゃんと読んでないが、堤防つくるより湿地の方が、海岸線を災害から守れるというもの
(そもそも防災目的でなかったはずなのでズレるが)読みながら「諫早湾……」と思ってしまった。

News Scan

コウモリの巧みな音響探知戦略

www.nikkei-science.com
エコーロケーション
葉の上の昆虫は超音波では見つけにくいと思われていたが、特定の角度からだと昆虫だけ音波が反射してくる。
実際のコウモリの行動観察したら、その角度から昆虫を捕ってることが分かった、と。

歴史に残るかどうかを判定するAI

同時代の人には、どの出来事が歴史に残るか分からない
例えば「今年の10大ニュース」とか選んだとしても、それが将来本当に重要な出来事として残るか、といえば分からない。
で、実際に過去の電文記録から、当時の重要度と現在からみた重要度を比較してみる、みたいな研究
ところで、この「同時代人には何が歴史に残るかは分からない」ということ元々言ったのは、アーサー・ダントーらしい。
で、今回の研究は、ダントーの主張を裏付けるものになるのではないかとかで
こんな文脈でダントーの名前を見るとは

『ユリイカ2019年12月号 特集=Vaporwave』

松下哲也「ビアズリーの挿絵はマンガの形式に影響をおよぼしたのか?」(『ユリイカ2019年3月臨時増刊号』) - logical cypher scape2の勢いで、こっちの号のユリイカもちらっと眺めた
やはりこちらも主に松下さんの記事について

imdkm「空間ならざる空間の響き――エコージャムズと零度の空間」

vaporwaveの方法(でありvaporwaveという名前がつく以前はジャンル名でもあった)エコージャムズについて
好きなフレーズを繰り返すというだけなら、何故テンポチェンジやディレイがかけられているのか
レコーディングされた音楽は、その空間についての情報も入っているが、そうした空間が消える
聴覚的な空間表象(?)みたいな話としたら面白いなと

柴崎祐二「Vaporwaveと俗流アンビエント――ニュー・エイジの消費主義的異形をめぐって」

俗流アンビエント」は筆者の造語で、ヒーリングミュージックとかその手の奴

松下哲也「Vaporwaveと「シコリティ」の美学」

魔夜峰央特集の時もそうだけど、特集にこじつけて特集とあんま関係ない話するの得意(いい意味で)
ここでいう「シコリティ」はもちろんネットスラングに由来するが、元のネットスラングが持っていた意味とはかなり違う意味を持たせており、その点で、本当にその名前のいいのか感はあるのだが。
ここで着目されているのは、色収束やレンズフレア、レンズによってもたらせている歪みなどの視覚効果、ならびにそのような視覚効果を画面の「つなぎ」として用いていること。
何故それを「シコリティ」なる用語で呼んでいるのかというと、「ゼロ・シコリティ」というアート作品があり、それが低予算エロゲーの背景画を集めたものなのだが、そうした背景画は(ゲームにとって重要なキャラクターと違って)クオリティが低く、上述の視覚効果が使われていない。何がゼロなのかといえば、そうした「つなぎ」がないのだ、と。だから、逆に言えば(?)、そうした「つなぎ」こそが「シコリティ」の正体なのだ、というつながり。
ところで、あえてレンズの歪みとかを、ある種のリアリティのために用いることって、マフノヴィッチの『ニューメディアの言語』にも書かれていたような気がする(ニューメディアはオールドメディアの特徴を模倣する)。
この現象ないし概念自体はとても興味深い

難波優輝「Future Funkとアニメーション――ふたつの夢の分析」

銭清弘「不安を与えるミームたち――さらにもう一つの(悪趣味な)Vaporwave史」

これ、以前ブログで書かれていたvapermemeについての補遺みたいな

群像2020年1月号

群像 2020年 01 月号 [雑誌]

群像 2020年 01 月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/12/07
  • メディア: 雑誌

〈新連載小説〉ゴッホの犬と耳とひまわり  長野まゆみ

〈新年短篇特集〉
見るな  瀬戸内寂聴
焚書類聚  皆川博子
タンパク  高樹のぶ子
カズイスチカ  高橋源一郎
星を送る  高村 薫
漏斗と螺旋  山尾悠子
UFOとの対話  保坂和志
恋ははかない、あるいは、プールの底のステーキ  川上弘美
ぶつひと、ついにぶたにならず  小池昌代
わたし舟  多和田葉子
未の木  飛 浩隆
神xyの物語  町田 康
我が人生最悪の時  磯﨑憲一郎
M――「怨む御霊」考  古川日出男
猿を焼く  東山彰良
Green Haze  阿部和重
あら丼さん 長嶋 有
最後の恋  上田岳弘
クレペリン検査はクレペリン検査の夢を見る  松田青子
トーチカ  藤野可織
隕石  滝口悠生
猪垣  青山七恵
ほんのこども  町屋良平
目白ジャスミンティー  山田由梨

野間文芸賞野間文芸新人賞発表〉

〈論点〉
上皇は国民になにを問いかけているのか  保阪正康
気候危機と世界の左翼  斎藤幸平
占いは「アリ」か。――確率と人生のあいだ  石井ゆかり
取り残された人たちへの回路  日野原慶

〈新連載エッセイ〉
私の文芸文庫『鳴る風鈴 木山捷平ユーモア小説集』
油断できない  小川洋子
〈新連載コラム〉
極私的雑誌デザイン論  川名 潤
〈連載〉
チーム・オベリベリ〔14〕  乃南アサ
ブロークン・ブリテンに聞け Listen to Broken Britain〔23〕  ブレイディみかこ
LA・フード・ダイアリー〔4〕  三浦哲哉
愚行の賦〔6〕  四方田犬彦
人間とは何か──フランス文学による感情教育──〔30〕   中条省平
〈世界史〉の哲学〔122〕  大澤真幸
現代短歌ノート〔116〕  穂村 弘
〈随筆〉
夢みる天女  加須屋
トロピカル・サーキット  百瀬 文
〈書評〉
「おかえり」の中身(『私の家』青山七恵)  倉本さおり
こちらとあちらを結ぶもの(『小箱』小川洋子)  藤代 泉
徹底した受動性の肯定的転回(『読書実録』保坂和志)  郡司ペギオ幸夫
死者の目(『人間』又吉直樹)  橋本倫史
記憶の欠片を輝かせるには(『ファースト クラッシュ』山田詠美)  瀧井朝世
生真面目な人々の「逃亡文学」(『犯罪小説集』吉田修一)  酒井 信
〈創作合評〉東 直子×宮下 遼×町屋良平

ゴッホの犬と耳とひまわり  長野まゆみ

連載小説を雑誌で追うということをしていないので、連載小説は読まないようにしているのだが、なんとなく目に入って読んでしまった。
ちょっと見てもらいたいものが手に入ったので送るんだけど、古い家計簿で、こうこうこういう経緯で手に入ったもので、この余白に書かれているメモがどうもゴッホ直筆によるもののようなんだ、という手紙が送られてくる話

〈新年短篇特集〉

作家のラインナップ見て、最近文芸誌読んでなかったし読んでみるかと思ったんだけど
よくよく見てみると、自分より若い作家が1人しかいなかった
こういう文芸誌の新年特集みたいなのに呼ばれる作家の平均年齢とか知らんけど、ちょっと若手少ないのでは
ところで、こういう新年短編特集、過去に1回くらいは読んでいなかったかなと思ったけど、過去ログ見るにそんなことなかった


24作中20作読んだ
「猿を焼く」「未の木」「星を送る」「トーチカ」「M――「怨む御霊」考」あたりが面白かったかなあ

見るな  瀬戸内寂聴

昔の不倫相手についての回想なのだが、それよりも瀬戸内寂聴が97ということに驚いた。いや高齢なのはもちろん知っていたけれど、97才になってもこれだけ文章書けるものなんだな、と。
亡くなった祖父が97の頃はまだ元気だったが、痴呆は始まっていたので文章なんかはとても書けなかったと思う。

焚書類聚  皆川博子

長い入院生活から出て戻ってみたら、部屋の本が全て亡くなり、スーパーにあるのは缶詰だけになり、司書の職を失っていたというディストピアもの
さすがにちょっとこう古くさいネタではないか

タンパク  高樹のぶ子

坂の上に住む悠木が作る「タンパク」をもらいに行く話

カズイスチカ  高橋源一郎

終末期の訪問医療を行う医者による、5つの死の記録

星を送る  高村 薫

囚人が、ヤモリと一緒に刑務所の中からベテルギウス超新星爆発を見る話
密輸を手がけていたが、最終的になんかめちゃくちゃヤバい犯罪をしたらしい囚人の、とりとめもない回想や思索
もしかして、他の長編のスピンオフだったりするのかとちょっと思ったけど、高村作品読んだことないのでわからん 

漏斗と螺旋  山尾悠子

漏斗の街に行った話

UFOとの対話  保坂和志

猫が死にそうになると星に祈るみたいなところから始まる話で、こっちにもベテルギウスが出てきた
保坂和志読むの久しぶりすぎて、こんなわけわからんこと書く人だったっけとなった。いや、雰囲気は確かに前からこんな感じだったと思うけど。

恋ははかない、あるいは、プールの底のステーキ  川上弘美

子どもの頃にカリフォルニアで暮していた時の話

ぶつひと、ついにぶたにならず  小池昌代

未読

わたし舟  多和田葉子

両親が離婚し、二つの教育方針の異なる家庭で交互に育てられた北斗
彼が大人になり、親に「話したいことがある」と告げるようになるまでの話
離婚した母親、元夫とのあいだにできた娘を妊娠して別の女性と暮すようになる。この北斗の妹は、両方の家庭のいいとこどりをしているが、北斗はそういうことができない。
語り手の「俺」の正体が謎で、話が進むにつれて少しずつ明かされていくのだが、それでも北斗の父親より年上で、家族ではないけれどかなり親しく、性転換をした人というくらいしか分からない

未の木  飛 浩隆

仕事の都合で別居している夫婦、結婚記念日にそれぞれ相手から木が送られている。その木の花は、送った人の姿に似る。
それぞれ、相手の小さな似姿を愛でるのだが、相手と連絡がとれなくなる。何かがおかしいと相手の家へと向かうのだが、そこで重大なことに気付く。
実はパラレルワールドSF、という感じの展開
その展開も面白いのだが、もともと小学生の頃から知り合いで、妻の方が年上の2人の関係の描写がなかなか

神xyの物語  町田 康

未読

我が人生最悪の時  磯﨑憲一郎

実話なのかどうかは分からんが、私=磯崎の若い頃の失恋の話
「我が人生最悪の時」は、濱マイクシリーズ第一作のタイトルだが、その作品が公開されるより前に、この言葉を発していた時があった、と。
大学生から就職後まで6年間付き合っていた彼女にふられ、同じ大学のボート部の先輩と結婚することになったという話
こういう磯崎憲一郎の小説は今まで読んだことなかったなーという感じなのだが、「我が人生最悪の時」と言った相手が母親だとか、最後、何年も経って別の女性と結婚し子どももできてという生活を送っていたら、最寄り駅でばったりその彼女と出くわし「実は1年で離婚してた」と言われ、怖くなって逃げ出してしまったというオチとか、なんかそのあたりの雰囲気みたいなのは、磯崎作品っぽいなと思った

M――「怨む御霊」考  古川日出男

三島由紀夫菅原道真の2人のMについて
豊饒の海』の一番最後の行に書かれた日付が、まさに三島が割腹自殺した日であることに着目し、また、三島の死後に「あれは三島の祟りだ」という言説がないことから、日本人は三島が無念の死を遂げたわけではないとみなしているのではないか、とかそういう話。
筆者は、『平家物語』の翻訳をして、『源氏物語』宇治十帖を語り直す作品を書いているので、源氏物語との関連性なども書いている。
冒頭にただし書きされている通り、論考というわけではなく、いつもの古川作品の語りのノリで書かれている。
古川なりの日本文学史ないしは近現代史観が垣間見えて、面白そうなんだけど、アイデアを書いている感じなので、作品としては今後を期待という感じなのかな

猿を焼く  東山彰良

文芸誌の短編小説、多くが1人称の語りだけども、この作品は特にその語りにおける情報開示の仕方が上手くできた
つまり、回想形式の語りで、基本的には時系列順に進むのだけど、時々先の方のことまで語ってしまってから、また元の時系列に戻るという展開が度々あって、「あ、さっき言ってたのはこのことか」と度々なる
というか、作品全体としても、語り手が「猿を焼く」シーンから始まって、一気に遡り、どうして猿を焼くことになったのかという経緯が語られていくものになっていて、最後、猿を焼くシーンで終わる。
中学生の時、親が急に農業をやると言い出して、東京から熊本と鹿児島の県境の町へと引っ越すことになった主人公
彼は東京でもコミュニケーションの失敗で学校に馴染めなくなってしまっていたのだが、九州でも溶け込むことにできずにいる(それは父親も同じことで数年後に東京へ戻ることになるのだが)。しかし、やはりクラスに溶け込めていない(ように主人公からは見える)少女に、心惹かれるようになる。
主人公は福岡の進学校に進学するが、同じ中学校の者はほとんどが働き始め、その少女は宴会コンパニオンとなり性を売るようになる。主人公は一方で彼女を欲望し、他方でそのような田舎の世界を見下げるわけだが、後に彼女は殺されてしまう。
かつて彼女と付き合っていて、暴走族からヤクザの見習いとなった笹岡とともに、主人公は犯人が飼っていた猿を焼くのである。
それはもうただどうしようもない暴力で、笹岡と主人公とのあいだで、チキンゲーム的な心性が生じて、止められなくなった勢いでの暴力で
主人公が自分は違うと思いたかったはずのものと、自分も同じであるいうことを自ら進んで証明しにいってしまったというような話で、なかなか面白かった
荒木雄大、24作の中でも出色と評していた。
文芸 〈一月〉 荒木 優太 あけおめことよろモンキー 高橋弘希「飼育小屋」、東山彰良「猿を焼く」|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
また、群像2月号の創作合評でも取り上げられ、上田岳弘が好意的に評していた。

Green Haze  阿部和重

実際のニュース記事の引用を織り交ぜながら、あらぬ話を作っていくという『オーガ(ニ)ズム』でオバマ大統領まわりのところを書くときに使っていた手法を用いた作品
そういう意味では、この前書き終えた長編の手法を流用して、最近の時事ネタで書きましたというくらいの作品でしかないが、あまりにもあまりな展開で笑ってしまった
未来から時間を超えて語りかけてくる二人称小説で、ネタは、ブラジルのアマゾン炎上とグレタさん

あら丼さん 長嶋 有

長嶋有が主宰している俳句同人に属する、あら丼さんこと新井さんが40代で急死してしまい、その葬儀へ行き帰ってくるまでの話
あら丼さんの話でもありつつ、一方で、長く続けてきた同人において、自分とそれ以外のメンバーとの意識の違いを改めて考え直す話

最後の恋  上田岳弘

一度も会ったことのない大叔母が危篤となり見舞いに行く話
語り手が作家なので、これもまた「我が人生最悪の時」や「あら丼さん」のように本人をモデルにした(私小説的な)作品なのかなと思ったけど、作家のプロフィールがなんかどこか違うような気がした。
大叔母は子どもができないことを理由に離縁されており、しかし実家のある関西には戻らず、千葉に暮し続けていた。施設の金銭的負担は元夫の家族がしているが、彼らは一度も見舞いには来ておらず、女性の友人がずっと世話をしていたという(しかし友人の方が先に亡くなってしまった)。
大叔母と同室の女性にも見舞客がおり、彼女は主人公のことを知っていた。まだ、大叔母に意識があった頃、話を聞いていたという。
主人公は大叔母のことを何も知らないが、一方の大叔母の方は彼が作家をやっていることを少し自慢にしていたらしい。
大叔母とその女性の友人、あるいはもう1人の見舞客の女性とその見舞い先である女性は、それぞれ血が繋がってはいないけれどなにがしかの縁を結んでいた関係だったらしい(見舞客の女性は自分のことを内縁の娘と呼ぶ)。
これまで読んできた上田作品とはだいぶ雰囲気が異なるが、今後どういう作品を書こうとしているのかちょっと気になってくる

クレペリン検査はクレペリン検査の夢を見る  松田青子

とある派遣社員の受付業務の面接にたまたま集まった3人の女性、それぞれの視点から描かれる作品

トーチカ  藤野可織

これも女性派遣社員もの
《放送局》の警備員業務をすることになるのだが、この《放送局》というのが新社屋の中にショッピングモールやデパートがあり、というだけでなく、どんどん拡張していって最終的には一つの街同然にまで広がっていく。
《放送局》には、生体認証のついたゲートを通過しないと入れないのだが、旧社屋時代に入り込んでそのまま内部に住み着いている不審者がいる。
主人公は、この不審者を見つけ出すのにはまりこんでいく(一番最初に見つけたとき、テレビを見ない彼女が唯一熱狂的なファンである女性芸能人に変装していた。が、あう度に全く異なる人物に変装している)

隕石  滝口悠生

渋谷で道に迷い入り込んだ小さな居酒屋での話

猪垣  青山七恵

母の墓参り(に行き損ねた)から帰ってきてから、うり坊の幽霊(?)に取り憑かれるようになった話

ほんのこども  町屋良平

子どもの頃のあべくんの話、だが、途中までしか読んでない

目白ジャスミンティー  山田由梨

彼氏と同棲して喫茶店で働く女性がなんか人間関係に詰まる話のような感じだけど、途中までしか読んでない

松下哲也「ビアズリーの挿絵はマンガの形式に影響をおよぼしたのか?」(『ユリイカ2019年3月臨時増刊号』)


以前、このツイートを見かけて気になっていたのだが、昨日ちょうど以下の記事を読んだので、その勢いでこれも読んだ
とにかく「様式」については、下記の松永さんの9bitがとてもよくまとまっているので必読
松下さんの「ビアズリーの挿絵は~」は、形式の話であって様式の話ではない。
9bit.99ing.net
togetter.com



松下哲也「ビアズリーの挿絵はマンガの形式に影響をおよぼしたのか?」

なお、松下のいう「形式」というのは「芸術形式」のこと、でよいと思う。
一般的に、芸術形式というのは、小説、詩、絵画、彫刻、映画、マンガ、音楽などのことを指す。松下のいう「形式」も大体そのことを言っていると思う。
(「『パタリロ』はマンガという芸術形式の作品だ」とかそんな使い方でよいと思う)
一方で様式というのは、例えば「村上春樹風の文体」とか「バロック様式」とか「70年代少女マンガっぽい絵柄」とかなんかそんな感じのもののこと、でよいと思う。
で、この松下論文は、芸術作品について、AがBに影響を与えたという時、それにはいくつかのレベルがあるよ、というところから始まる
つまり、(1)引用レベル(2)様式レベル(3)形式レベル
で、(1)や(2)の影響関係についていえば、ざっくり言ってしまえば、作品の見た目を比べれば言うことができる
しかし、(3)レベルの影響関係は、作品だけ見てても分からなくて、その背後にある理論や教育のことまで調べないということができないよ、というのが趣旨
その上で、19世紀イギリスの挿絵(ないし19世紀西洋美術)という芸術形式と日本のマンガという芸術形式の間に影響関係はあるのか、ということを、前者の背景理論である観相学がキャラクター造形に使われていたことから見出そうとするという試みで、このあたりは松下の著作がより詳しい。
また、日本の明治期の美術教育においても観相学が用いられていたようだ、というあたりで、日本のマンガへの接続が論じられるのではないか、という見込みでしめられている。
sakstyle.hatenadiary.jp

その他

せっかくなので、他の論考もいくつか読んでみたが、これらは流し読み

  • 高田敦史「謎と陰謀としての世界 広義ミステリとしての『パタリロ!』」
  • 三浦知史「型で遊ぶ スヌーピーパタリロ
  • 伊藤剛パタリロのすまう「場所」 マリネラ国埼玉県霧のロンドン空港」
  • 平松和久「デコレーション!のマンガ 魔夜峰央のマンガ空間」
  • 島村マサリ「これはやはり「ディス」なのだ 2019年の「翔んで埼玉」論」

この中では、平松の、コマ空間・物語空間・場面空間・解釈空間という4空間論(?)を用いて、心象空間や装飾ということについて論じているものが気になった。