オキシタケヒコ『筺底のエルピス6 -四百億の昼と夜-』

これまでちりばめられてきた謎の真相が次々と明らかになる一方で、それに伴って物語のスケールが半端なく拡大していき、相変わらず「えーそこで終わるの?!」ってとこで次巻へ続く、ライトノベルSFシリーズ第6巻
伝奇アクションであり時間SFであることは当初から明らかだったわけだけど、人類史を巻き込むとんでもないスケールのループものであり、陰謀論SFであり、異星知性体と人類との絶望的な戦いを描く物語であることははっきりしてきた
登場人物たちの人間関係もじっくり進行しつつ、「ござる」日本語をしゃべるイケメン白人の新キャラクターも登場するという、相変わらず要素てんこ盛り作品。


前半のあたり、わりとうまくいっている感じなので、逆に「あーこれ後半できつい展開がくるやつだー」って怯えながら読んでいたのだがw
4巻のアレほど、感情にくる奴ではなかった
ただ、4巻のアレがかわいく思えてしまう真相がやってきて、さらに最後の最後で「あれーこれ人類が終わってしまうのでは」という絶望的展開でしめられる


ところで、嫦娥4号の月面着陸に日本で一番焦ったのは、オキシタケヒコなのではないか疑惑w


結たちは、訓練を積みながら「勉強会」を続ける
叶とカナエ、2人となった彼女たちも、一時的に安定した関係となる
一方で、式務の一員となった百刈圭は、世界最大のゲート組織「I」との会談に臨むべく、渡米する
行先は、エリア51
何故かついてくる貴治崎がめっちゃ強い


そして明かされる異星知性体の正体
繰り返されてきた捨環戦の記憶


百刈圭が、すげー強くなった
というか、彼のいまいちパッとしないところの意味付けが、逆転したというか、こう実はとんでもない能力だったとかなんとか

飛浩隆『零號琴』

なかなかとんでもなくも面白い作品だった。
惑星「美縟」において、500年ぶりに復活する楽器「美玉鐘」と楽曲「零號琴」にまつわる秘密を巡る物語


年末に読み終わっていたのだけど、ブログにまとめる時間がなく、ずるずるとこんなタイミングになってしまった。
なので、あらすじとかはもうまとめられないので、大雑把な感想だけ

零號琴

零號琴


スぺオペ的娯楽SFの軸と、アニメ・特撮パロディ的な軸と、飛浩隆的な感官に訴える濃い文体及びちょっとグロテスクな質感という軸とが、少しずつ絡まり合いながら転がりだして止まらない、そんな作品
話が進むにつれて、それらの加速度が増していくような感じだった。


まず、スぺオペ的娯楽SFの面というか、普通にここだけ取り出しても、すごく面白いのだが、
というか、そういう素材をゴロゴロと出しながらも、それをそのまま突き進めてくれないというか
やはり面白いのは、「美玉鐘」という楽器によってもたらされる音楽で、あまりにも莫大な音量で鳴らされているというのに無音という代物
音響彫刻と呼ばれており、それは、普通の音楽というのは時間的に向きがあるが、彫刻は時間的に向きがない(対称性がある)。
「美玉鐘」が作り出すのは、時間的に対称性のある音=音響彫刻、だというのである。
そして、この特性こそが、惑星「美縟」の過去に隠されていた、凄惨な悲劇を記録する媒体として機能していた。
とまあ、この設定だけで「芸術SF!!」という感じ


あと、SFとしては、失われた超古代文明が背景にある。人類が宇宙に進出しえたのはその遺物によるものだし、「美玉鐘」という楽器も遺物の1つ
「美玉鐘」は、音響彫刻という芸術作品を生むだけでなく、より直接的に、この失われたテクノロジーに関わってもいる。


アニメ・特撮パロディ的な軸
惑星「美縟」では、楽器「美玉鐘」の500年ぶりの復活を記念して、大假面劇が行われる
假面劇というのは、この星独特の演劇で、假面をかぶった観客みなが演者ともなるスペクタクルである。
500年記念での演目は、その中でも「無番」と呼ばれる古典が選ばれたのだが、脚本を担当することになった劇作家は、あろうことか、かつて全宇宙で好評を博した子供向け番組『仙女旋隊 あしたもフリギア!』とのマッシュアップとして書くのである。
フリギアというタイトルから、読者である我々は明らかにあのアニメを想像するわけだが、実はこれだけではない。
明示的に固有名詞が示されるものはないが、様々なマンガ・アニメ作品からの引用・パロディがちりばめられている。
例えば、非常に鼻の大きな男性の登場人物が出てくるのだが、その鼻の描写からは、手塚治虫作品の猿田博士ないしあの鼻の大きい男性キャラクターを想起してしまう。というか、主人公からして、ブラック・ジャック的なツギハギだし。
假面劇には怪獣*1が出てくるし、ナウシカ巨神兵のような兵器も登場する。また、フリギアも、その内容は、プリキュアだけでなくまどマギ的なところもあったりする。
とまあ、そのあたり、めくるめくイメージの奔流といった感じであるし、そのぶっこ抜き(?)方がすごい


さて、なんで『フリギア』なんだ? 『フリギア』って一体なんだということなんだけど、
これも、その劇作家による、フリギアに対する熱い想いから、というのがある。
あまりにも完璧な最終回。しかし、最終回によってとらわれてしまった主人公。
これをどうにかできないか、という二次創作的な欲望が描かれていくわけで、二次創作に関わる人は読むと絶対くるものがあるのではないかと思うのだけど、では、『零號琴』が二次創作についての物語なのかというと、それもまた違っていて、得体の知れなさがある。


一見、この作品は「廃園の天使」シリーズとはずいぶん違うように思われるのだが、フィクションに対するある種の批評的観点があること、そして、味覚や触覚の描写を伴う濃密な文体でグロテスクな物やシーンを描き出していく点や、凄惨な展開があることなんかは、やっぱり相通じるものがあるなあという感じがある。

*1:惑星「美縟」の假面劇では、怪獣として用いられる大道具が出てくるのだが、これの名前が牛頭で、これは作者自ら、ゴジラから取った名前だと述べている。 日本SF大賞2度受賞の作家が生み出した〝レイゴウキン〟とは 飛浩隆さん8千字インタビュー|好書好日

テメレア戦記1

ドラゴンのいる19世紀イギリスを舞台にした、戦記もの
以前、以下のまとめを読んだら、面白そうなジャンルだったので、その嚆矢とされる(?)本作を手に取ってみた

togetter.com

テメレア戦記〈1〉気高き王家の翼

テメレア戦記〈1〉気高き王家の翼

本作は、ドラゴンのいるナポレオン戦争を描いた物語で、舞台となっている世界は、ドラゴンがいること以外は概ねこの現実世界と同じで、ナポレオン戦争もほぼ史実通りに進んでいく
ナポレオン戦争知らないので細かいところはよくわからないが。というか、ナポレオン戦争をある程度知っているのは読む上で前提かもしれない。例えば、この世界では、元寇に際して、日本は龍によってモンゴル軍を追い返したという史実になっていたりしており、現実の史実を知っている方が多分楽しめる。
ただ、まあそのあたりは、知っていればニヤッとできるくらいのものかもしれない


主人公ローレンスは、もともとイギリス海軍に所属する艦長なのだが、拿捕したフランスのフリゲートに、孵化直前のドラゴンの卵があったことで運命が変わっていく。
この世界のドラゴンは、生まれた直後に「担い手」となる人間を選ぶ
ドラゴンと担い手は互いにパートナーとなるのだが、それゆえ、担い手となった人間は、ドラゴンに我が身を捧げた人生を送ることになる
ローレンスは、生まれてきたドラゴン・テメレアに担い手として選ばれてしまう。
ドラゴン不足に悩まされるイギリス空軍のことを考えると、テメレアという新しいドラゴンは、イギリスにとって願ってもない新しい戦力である。
そして、それは同時に、担い手として選ばれてしまったローレンスもまた、空軍のキャプテンにならなければならないということも意味する。
シリーズ第1作である本書は、概ね、海軍将校から空軍将校へと、そしてドラゴンの担い手へとなってしまったローレンスが、環境の変化に大いに戸惑いながらも慣れていくというのが主な内容となっている。
後半に、戦闘シーンもあるが、まだそれほど戦記物という感じではない。
ただ、かなりするすると読めて、止められなくなる面白さはあって、それは、ドラゴンのことも空軍のことも分からないローレンスと一緒にそれらを知っていくという流れになっているのと、ローレンスが急速にテメレアを大事な存在(最初は、子どもとしてだが、割とすぐに友人として、という関係になる。テメレアはめちゃくちゃローレンスに懐いている)としていくからかもしれない。

モンスター小説集

アーカイブ騎士団の第10弾


これまでの感想

004『ロボット小説集』
第15回文フリ感想 - logical cypher scape2
005『ゾンビ小説集』
第17回感想 - logical cypher scape2
006『恋愛SF小説集』
第19回文学フリマ感想 - logical cypher scape2
007『ユートピア小説集』
文フリ以前に読んでた同人誌 - logical cypher scape2
008『怪獣小説集』
『怪獣小説集』『ノーサンブリア物語』 - logical cypher scape2
009『流通小説集』
アーカイブ騎士団『流通小説集』 - logical cypher scape2

マンティス 高田敦史
ヤマタノオロチ メカ京都
狼男の首探し 森川真
太平洋の奇島にゴーゴー鳥を追う 高田敦史・森川真

マンティス 高田敦史

深層学習で書かれ、小説投稿サイトに投稿された「マンティス」という作品を紹介するという体裁
1950年代のアメリカと思しき世界を舞台に、とある殺人事件と探偵が出てくる、カマキリ怪人の物語
機械が人間になりすますことと、怪人が人間になりすますこと

狼男の首探し 森川真

占領期の日本を舞台に、GHQのホーマーが、狼男と女学生を連れて、日系米兵殺しの謎を解く物語
普通に、シリーズ化したものを読んでみたい感じ

『日経サイエンス2019年2月号』

北海道胆振東部・大阪北部地震が示すシナリオ 中島林彦 協力:西村卓也/北 佐枝子/高橋雅紀

海溝型地震と内陸型地震の2種類あって、胆振や大阪の地震は内陸型
対して、海溝型地震として、今後、千島海溝や南海トラフにおいて巨大地震が起こる可能性というのがあり、胆振や大阪のは、こいつらに連なる奴かもしれないというおっかねー話
歪みが蓄積されている最中で、胆振や大阪はそれの影響なんじゃねっていう

国内ウォッチ

  • 東大の宇宙機構,初のトップ交代/脳の解明手法「光遺伝学」を確立

カブリ宇宙機構、機構長が村山さんから大栗さんに代わってた
オプトジェネティクスの人が京都賞とってたのかー。カール・ダイセロス。CLARITYも同じ人か

特集:量子もつれ実証

  • 最終決着「ベルの不等式」の破れの実験  R. ハンソン/K. シャルム

-アインシュタインの夢 ついえる 測っていない値は実在しない  谷村省吾
ベルの不等式の3つの前提、実在性、局在性、負の確率は存在しない
ベルの不等式が成り立たないことが実験で示される。いずれかの前提が成り立っていない?
検証実験には二つの抜け道があったが、その抜け道をふさいだ実験が2015年に行われた
この実験は、乱数発生にも役に立つ
アインシュタインは、決定論にこだわったのではなく実在論にこだわった

ゲノム編集ベビーの衝撃  詫摩雅子

そもそも、ゲノム編集の是非以前に、不必要な医療行為だという点で問題
科学者からの非難が相次いだとも書かれている
おそらくだけど、ゲノム編集推進派だとしても、あまりにも拙速であること、メリット・デメリットを十分検討できてないこと、社会の理解を得られる前の実施であることあたりで、今回の件については批判的っぽい雰囲気


HIV感染を防ぐためにHIVと結合するタンパク質ができないようにするゲノム編集をしているんだけど、そのタンパク質できないことによる影響が未知数みたい。
そのタンパク質ができないことによってHIVに感染しない人は実際にいるけど、アジア人の例がなくて、アジア人特有の遺伝子と相互作用があるかもしれない可能性も検討されていないとか
オフターゲットも調べたといってるけど、十分な検査になってないのではなという指摘もあるみたいだし。

ハイになって踊るタコ

ハイになって踊るタコ〜日経サイエンス2019年2月号より | 日経サイエンス
幻覚剤をタコに与えるとタコ踊りをします
っていうだけでなく、セロトニンが社交性と関わるのではないかという仮説を示す実験
幻覚剤を与えたところ、他の個体にやけに近づくようになったらしい

早瀬耕『グリフォンズ・ガーデン』

早瀬耕『プラネタリウムの外側』 - logical cypher scape2の前日譚にあたる作品
元々、1992年に刊行されたのだが、2018年に文庫化された
プラネタリウムの外側』と同じく有機素子コンピュータが登場する。『プラネタリウムの外側』では、なんか出自はよくわからないけど放置されてたというような扱いだったけど、『グリフォンズ・ガーデン』はこのコンピュータの開発現場である知能工学研究所、通称グリフォンズ・ガーデンが舞台となっている。
とはいえ、有機素子コンピュータの開発物語ではなく、それを用いた仮想現実シミュレーションの物語である。

グリフォンズ・ガーデン (ハヤカワ文庫JA)

グリフォンズ・ガーデン (ハヤカワ文庫JA)


primary worldという章とsecondary worldという章が交互に進んでいくという構成になっており、secondaryの方は、primaryの方のコンピュータ上で走ってる仮想現実ということになっている。
primaryの方は、情報科学系の大学院を出た後、札幌にある知能工学研究所にポストを得て、恋人ともに札幌へとやってきた若き研究者が主人公。
secondaryの方は、修士論文がなかなか進まない大学院生が主人公。
いずれの主人公にも、高校時代から交際しており、言語学の研究をしている恋人がいて、研究生活と恋人との生活について綴った断章形式によって進んでいく。
どちらも、ゆるい三角関係の話としても読める。
primaryの方は、研究所の先輩である藤野という女性が、secondaryの方は、主人公を感覚遮断実験の被験者にする高校時代の同級生が出てくる。
断章形式で進んでいき、最初はあまりはっきりとしたストーリーというのは浮かんでこなくて、なんか主人公と恋人との間で交わされる、インテリっぽい会話からなるエピソード群という感じもある。
舞台となっているのが80年代後半くらいなので、時代を感じさせる描写も色々あってちょっと面白い。
例を出すと、主人公の恋人が、ロータス1・2・3に四苦八苦しているというエピソードがあったりする。


ところで、断章形式になっているのは意味があって、primaryの方でsecondaryの世界を作る時に、世界全部は作っておらず、部分だけを作っているから、という理由がある。
primaryの方で世界をリセットしていたりして、その影響で、secondaryの方の主人公の記憶がちょっといじくられたりするのだが、一方で、primaryの方も、次第に自分の世界についての懐疑を抱くようになる。
secondaryの主人公が、知能工学研究所に就職することによって札幌に旅立つところで終わるのだが、これが、primaryの方の最初と全く同じ文章で書かれていて、逆に、primaryの最後の章に、secondaryの最初の章と同じ文章によって書かれたシーンが出てくる。
というわけで、primaryとsecondaryとの関係が、単純に創造主と被造物というわけではなく、primaryも何かの被造物の可能性や、入れ子というよりウロボロスのようになっている? という可能性も示されて終わる。

麦原遼「逆数宇宙」

収縮する宇宙の謎を突き止めるため宇宙に放たれた探査隊2人の物語
一応読み終わったのだけれど、途中で集中力が尽きて、わりとぼーっと読んでしまった。
非常にグレッグ・イーガン的な作品。

逆数宇宙  第2回ゲンロンSF新人賞優秀賞受賞作

逆数宇宙 第2回ゲンロンSF新人賞優秀賞受賞作


主要登場人物2人ノアとアナンドリは情報化されていて、肉体は持っていないが、ノアはアバターでも伝統的な人間の形を維持し、3次元空間の中で生活しているのに対して、アナンドリはアバター幾何学図形で高次元空間を構築して暮らしている。
ただ、ノアの方も、内部に「おれ」と「わたし」という二つの人格があって、そこらへん、ちょっと複雑。
彼らは、とある惑星に墜落してしまって、脱出するために、原生生物の進化を促して、ロケットを再出発させることのできるテクノロジーを生み出せるだけの文明が生まれるのを待っている。
アナンドリの方はわりと受け身だが、ノアの方は神のふりをして介入を試みる。
というのが前半。
後半は、無事惑星からの脱出を果たして、宇宙収縮の謎へと迫るもので、宇宙の果ての向こうにもう一つ別の宇宙があって、ぴったり裏表の関係にあって、もう片方が膨張するともう片方が収縮するんだー、それが逆数宇宙だー、みたいな話。  


いや、面白い作品だとは思うんだけど、いかんせん自分の集中力が全然ない状態で読んでしまったのですみません。