『怪獣小説集』『ノーサンブリア物語』

アーカイブ騎士団『怪獣小説集』

怪獣小説集

怪獣小説集

ニューヨークと朝霞の光線怪獣 (森川 真)

二次大戦末期、朝霞の怪獣研究所を舞台にした物語。
ニューヨークに現れた怪獣が、戦況を覆すことになるのではと考えた陸軍は、怪獣学部の教授陣を事実上の軟禁状態に置くが、地下の研究室にずっとこもっていたために難を逃れた若手研究者が、その怪獣の破滅的な威力を警告しようとする。
収録作品の中で一番好きかもしれない。舞台設定の勝利、というか。

キング錠を追って (カール・ジョピン)

鍵穴だらけの怪獣と、自分の持っている鍵にあう鍵穴を探し続ける者たちを描くショートショート

怪獣の声 (高田敦史)

ある種の言語SF的、というか、異星生物の記号を解読しようとするSF
舞台は、数十年前に開拓が始まった惑星だが、その中でも主な舞台となる都市、氏幌は、碁盤の目状に道路が配されている街で、どこか札幌のようなところがある。
しかし、その中心には、巨大な壁のような怪獣が鎮座している。接近し攻撃すると反撃してくるが、そうしない限りは動かず無害なので、氏幌はこの怪獣から一定の距離を置きつつも取り巻くように発展した。
この怪獣には、帯状の模様があり、主人公の言語哲学者は、氏幌大学内で結成された解読プロジェクトに参加するため、氏幌へやってきた。
実はこの模様は、チューリングマシンになっているのでは、という形で議論が展開され、生物学、計算機科学、言語哲学を横断するようなSFとなっていて、とても面白い。
ポストの対応問題とか出てくる
怪獣っぽい要素は少し薄いのでは、と思うのだが、最後にはこの怪獣の生態も一部明らかになり、怪獣らしさ(?)も見ることができる。
参考文献として『波紋と螺旋とフィボナッチ』が挙げられていた。

ウルトラヒューマン (ザうづ星人)

倒したら立体パズルになる怪獣を巡るショートショート

巡る怪獣 (天野ロカリス)

惑星を巡る巨大な糸、その糸の上を延々と移動し続ける糸玉怪獣の話
怪獣はどこから現れ、どこへ去っていくのかという謎を扱う作品

行為主体GO〈1〉 (渡辺公暁

ポケモンGOアポカリプス軍事SF
世界中で大ブームとなった様々なARモンスターゲームが、ある日、拡張現実から自律現実へと変わってしまった世界
人類はモンスターの影に怯えながら細々と暮らしている。
完結しておらず、続きはネット上で読めるらしい。が、まだそっちまでいけてない

並木陽『ノーサンブリア物語』

七王国時代を舞台にした歴史小説
バーニシア王国の王アゼルヴリスが、隣国ディアラを併呑し、ノーサンブリア王国を建国。覇王(ブレトワルダ)の称号を得るべく、周辺諸王国への侵略を繰り返す。
ディアラの姫アクハは、ディアラの都を守るため、何より自らの野望のため、バーシニアに降服し、アゼルヴリスの妃となることを選ぶ。一方、アクハの弟である王子エドウィンは、忠誠を誓う従士らに連れられ亡命、諸国を流浪することとなる。
アクハは、アゼルヴリスを覇王とするために自らの才覚を発揮し、愛ではなく利害によって夫婦となり、時に弟の存在を他国侵攻のために利用するが、一方で、アゼルヴリスや弟らに対して抱く愛情を自覚し思い悩むこととなる。
優しい性格で情に脆いエドウィンは、亡命先に次々と戦災をもたらす自らを呪うも、行く先々での様々な出会いによって、次第に王子として成長してくこととなる。
著者が高校時代から暖め続けてきたという物語であるが、『斜陽の国のルスダン』と同じく、省略が上手いというか、必要最低限のエピソードでくみ上げられていて、物語がみっしりと詰まっているのがすごい。
読み終わった後、ノーサンブリアWikipediaを読んだりすると、「あ、この後そうなるのか。あ、それで、あの人はそういう設定か」みたいなのが分かってすごい。