第15回文フリ感想

買って読んだ本の感想をさくさくとしていきます。

アーカイブ騎士団『アーカイブ騎士団004ロボット小説集』

今回、一番楽しみにしていてそして期待にたがわぬ面白さでした
高田敦史「形而上学刑事 ロボットの同一性」は、参考文献にアシモフのロボット小説が複数あげられており、作中でもロボット三原則が出てくることからも分かるように、アシモフ的なロボットSFミステリ小説となっている。
ロボットが自ら爆発するという事件が起きるのだが、これはロボット三原則第三条に違反しており、本来不可能。それを可能にしたトリックとは一体何なのか。ということになるわけだが、そこで使われているトリックが、哲学の論証ということになる。
なんと、31世紀の未来では、様々な技術が発達した結果、悪とか同一性とか存在とかいった概念が揺さぶられるようになり、形而上学の重要性が高まり、形而上学刑事という職種まで生まれているのだ!
サイトウとアブのコンビネーションもいいし、トリックを暴くだけでなく、それに対する解決策を作ってその結果がああなってみたいなところもよかったし、何より「民間形而上学」だとかそれを攪乱することによる保険金詐欺とか、「爆発論証」とか、あまつさえ違法行為のために哲学の訓練を行う悪の哲学組織とか、すごくいい
森川真「機械人類学者 ロボットの学園」も面白い。
月面のとある洞窟、人類から廃棄されたロボットたちのコミュニティで、何故か21世紀の日本の学園生活をシミュレートしているロボットたちの話。で、そのちょっとあほらしい(?)状況が、実はこの世界のロボットたちのキーとなっている「ミミック」の謎の技術の正体を突き止める重要なものになっていたという。
どちらの作品も完成度が高くて、ライトなタッチで読みやすいんだけど、結構しっかりしたSFになっているという。

白色手帖『UTAU CRITIQUE』

うちのサークルで委託販売していたもの。
UTAUってディープな世界だなーというのが伝わってきて、これまたすごく面白かった。
UTAUという文化について、色々な切り口からバランスよく紹介されている感じ。
参加している人々、技術、音楽作品、コミュニティの広がり、周辺から派生している文化など。
しょっぱなの座談会が既にすごい。モモの中の人をはじめとする4名のUTAU女子による座談会で、UTAUへのどはまりっぷりがすごい
まる@Loop「昔のUTAU、今のUTAU、未来の歌声合成、その文化」は、UTAUの技術文化的な話で、UTAUの音源制作からはじまり、プラグインや周辺ソフトウェア開発が、UTAUのコミュニティの中でどのように作られていったかという話。
ja_bra_af_cu「UTAUを聴け! ――私的P・作品・音源レビュー」は、まさにタイトル通りで、じゃぶさんのお薦め曲が並んでいて、UTAUというのは色々な切り口でアプローチできるのだなあというのが分かるのと同時に、さすがじゃぶさんという感じの各曲に対する分析がさらりと、しっかりとなされている。
myrmecoleon「YouTubeにおけるUTAU動画投稿者の現状」は、ご存知ありらりおんさんによる、YouTubeにおけるUTAU動画投稿者についてのデータ分析になっているのだけど、ニコ動のボカロPとなるとまあかなり偏っているかもしれないが自分なりのイメージがもてるのに対して、YouTubeのUTAUコミュニティとなると僕には全く想像の付かない世界だし、一般的にも日本ではあまり注目されていない世界ではないかと思う。海外の10代女性による、自分の声をUTAU音源にしたボカロ曲カバーがアップされるという、「歌ってみた」(UTAってみた?)文化的なものがそこにはどうもあるらしい。
あと、音源の数がとてつもないということが改めて分かるけれど、音源の数に対する感覚がなんとなく変わった。
ティークP「テト攻勢という表現方法「広告」と「大百科」の遊びかた」は、これまたあまりよく知らない世界についての話といえるかもしれない。ニコニ広告とニコニコ大百科は、ニコ動ユーザーであれば当然知っている機能だけど、そこを中心に見るということもあまりないわけで。広告と大百科から生まれるクリエイティビティについての分析は、かつて、濱野さんがタグ戦争を批評してみせたときのことを思い出させた。
DJパターサン「異説「嘘の歌姫」」は、悪ノP「嘘の歌姫」の二次創作小説ということで、ファンタジー的世界観を舞台にした重音テト誕生物語。ファンタジー世界の中で、ニコ動とVIPを描いているのがなんかすごいといえばすごいw

Y-GSC Studio『Sui sui』

横浜国立大学大学院の人たちによるレビュー誌。
紙が結構よくて、ちょっとオシャレな感じの本になっている。この手のものとしては書き手の人数がわりと揃っている感じがするのだけど、その分、各記事のクオリティにばらつきがあるかな、という感じ。
冒頭におかれてる演劇評はどれもよかったと思う(まあ、普段自分が演劇みないからよく分からんというところはあるかもしれないけど)。
マンガ・アニメ評が、市川春子レビューはよかったけど、他はちょい微妙って感じだった。

反社会人サークル『ロウドウジンvol.5』

表紙などの撮影をせんだいメディアテークで行ったというのだけど、内容チェックに時間がかかってという苦労話をブースで伺ったりした。
いつも通りのノリのいつも通りの面白さであるw

『aBre vol.8』

久しぶりにちゃんと読み通せた。よかったよかった。
動物たちのコラムというコーナーでは、動物が出てくる本や作品について絡めながら書いてるコラムが6本(内1本は、特に何の作品への言及もないが)。
一番面白かったのは、ゲーム『トーキョージャングル』について書かれた文章だけど、これはまあ『トーキョージャングル』が面白いからであってずるいw 文体とはうまくマッチしているけれど。
『ベルカ、吠えないのか?』についてのレビューは結構よかった。「娘は犬になる。いや、そうではない。(中略)娘は犬であると認められる。」というあたり、この作品をさらっと紹介してしまうだけだと取り逃がしてしまうだろう重要なポイントをちゃんと抑えている感じがある。ところで、自分も経験があるのだが、古川日出男の本を論じようとすると、文体が古川日出男に引っ張られないか。
小説は、同じく動物をテーマにしたものが7編。
よかったもの上位3つを挙げるとしたら、間宮篤「彼女の庭」、背川有人「うみのこども」、此礼木富嘉「贋作まくらおとし図」
まぼろしの島で」は、明らかに短編の企画ではなくて途中で終わっていて、それはどうなのと思ったけど、それを除くとどれも短編としてよくまとまっている良作だと思った。
ところで、aBreはエンタメ小説を目指している雑誌だと記憶していたけれど、エンタメ小説とは一体何なのか。エンタメって言葉は幅が広いので、これらの作品で十分エンターテインされたよと言われればそうかもしれないなーと思うのだけど、それでも上に挙げた「うみのこども」と「贋作まくらおとし図」は、エンタメ度数は実際それほど高くないよなと思った。
「彼女の庭」はその点、普通にエンタメ度も収録作の中で一番高かったんじゃないかなーと思う。

大江湊『キェルケゴールのこどもたち』

1巻と2巻
最近、文フリ行っても全然小説を買っていない、読んでいないので、今回は小説を買って読もうと、また、全然知らないところを新規開拓してみようということで、とりあえずSF島のあたりをうろうろして買ってみたのがこちら。
火星を舞台にしたボーイミーツガール
1巻は主人公の16歳の少年が、地球から火星へと引っ越してくるまでを描き、2巻では1巻の最後で出会った少女とのちょっとした冒険をするという話。
1巻は、主人公が次々と新しい技術や文化と出会って驚いたりしてくのを、一緒に驚いたりして楽しめる感じで、SF的大ネタは特にないけれど、軌道エレベータを使って火星におりて、火星のでっかい山から未来的な建築の街並を見下ろして、エアバイクに見ほれ、言葉が通じないことにおののきながら、火星の人たちの親切に助けられて、というのが丁寧に描かれている。
ところで、なんで火星に引っ越してきたかというと、火星は技術はあれど歴史的文化が少ないので、地球から文化を移入しており、その一環として主人公の父親がやっている銭湯に白羽の矢がたったというもので、地球とは違う火星の風景を通過してきたあとに、地球にあったのと全く同じ日本建築の我が家が待っているというのが面白い。
で、火星では珍しい、地球好きの美少女と偶然にも出会うというw