D・サタヴァ他『カラー図解 アメリカ版 新・大学生物学の教科書 第3巻 生化学・分子生物学』

アメリカの生物学教科書『LIFE』を分冊して翻訳しているシリーズ。以前から気になっていたが、たまたま本屋で新版が出ているのを見かけて手に取った。
なお、何故いきなり3巻なのかというと、自分が今興味があり、学び直したいと思っていたのが生化学だったから(例えば、生命の起源研究やアストロバイオロジーなどの本を読んでいると、代謝はよく出てくる話題。また、合成生物学だったり、プロテオームやメタボローロームの話を収録しているのもこの3巻だった)。
とはいえ、いきなり3巻から読むのは間違いだったようで、読み始めてみると、かなり1巻や2巻への参照が多い本で難儀した。いや、ちゃんと1巻や2巻に戻って読むべきなのだが、ものぐさなので、そのまま無理矢理読み進めてしまった。
代謝に関していうと、自分も高校生物で勉強した過去があるので、「あーなるほど、昔習ったわ」という部分があるのだけれど、もちろんこれは大学の教科書なので、高校生物の範囲を超えた話がどんどん出てきて、そこが難しかった。
あと、教科書らしく、問題がところどころ出てくるのだけれど、それもまた難しかった。どういう回答の形が求められているのかが分からないというか。
訳注が時々ついているのだけれど、日本人がノーベル賞とった研究についても訳注で触れられていて、「なるほど、あれはここに入るのかー」と思ったりした。
14章~16章が代謝、17章~19章が分子生物学
なお、代謝の方は図がすごく多いのだけど、分子生物学の図が減って、読み物感が強くなる。正直、後者の方が読みやすいといえば読みやすい。

第14章 エネルギー、酵素代謝
第15章 化学エネルギーを獲得する経路
第16章 光合成:日光からのエネルギー
第17章 ゲノム
第18章 組換えDNAとバイオテクノロジー
第19章 遺伝子、発生、進化

第14章 エネルギー、酵素代謝

エネルギーの種類や熱力学の法則
ATPがどんな反応をしているか
酵素がどういう働きをするか
あと、メインの話題ではないが、代謝経路をモデル化するシステム生物学という新しい分野があるよ、という話が少し出てくる

第15章 化学エネルギーを獲得する経路

酸化還元反応は何か、という話から始まって、好気呼吸の解糖系、クエン酸回路、電子伝達系、化学浸透の話、ATPシンターゼ、嫌気呼吸、異化と同化は統合されてシステムになっているという話、ミトコンドリアと肥満の関係

第16章 光合成:日光からのエネルギー

光化学系と化学浸透からエネルギーを獲得する話
葉緑体のATPシンターゼとミトコンドリアのATPシンターゼは非常によく似ているという話があって面白かった
それから、カルビンサイクル
呼吸との関係やC3植物、C4植物の話

第17章 ゲノム

配列をどのように決定するかという技術的な話
配列決定後、ゲノム研究には「機能ゲノミクス」と「比較ゲノミクス」という二つの方向性がある
原核生物のゲノムの特徴(遺伝子数が少ないとか)
ところで、インフルエンザ菌という菌がいるのを知った*1
メタゲノミクス
トランスポゾン
最小ゲノムと合成生物学(クライグ・ヴェンターの名前が出てきた)
真核生物のゲノムの特徴
モデル生物(酵母、線虫、ショウジョウバエシロイヌナズナ)の特徴と遺伝子ファミリー
反復配列(非コード領域にみられる。調節配列の他トランスポゾンなど)
ヒトゲノムの話(進化の話と医学(パーソナル・ゲノミクスやゲノム薬理学)の話)
プロテオミクスとメタボロミクスについて

第18章 組換えDNAとバイオテクノロジー

遺伝子組み換え技術について
この章は、テクノロジーの話なので、他の章と読み心地(?)が違うけれど、バイオテクノロジーとか遺伝子操作とか言葉ではよく聞くけど実際こんな感じなのかーという点で面白かったかも。


制限酵素と切断して、DNAリガーゼではりつけたプラスミドを挿入する
遺伝子を導入するベクターには、プラスミド以外にウイルスが用いられることもある(ウイルスの方がより大きな配列を挿入することができ、自然に感染するのでプラスミドよりも大きな利点をもつ)
遺伝子マーカーなどレポーター遺伝子を導入することで、組み替えられたかどうかを同定する
CRISPRについて
RNAを用いた遺伝子発現の阻止
DNAマイクロアレイによる発現パターンの同定


バイオテクノロジーの応用
医療と農業の例が挙げられているが、特に農業分野については、「殺虫剤を自ら産生する植物」「除草剤抵抗性の作物」「栄養価を高めた穀物」「環境に適応した作物」と多くの具体例が挙げられている
また、合成生物学の話も。
最後に、社会的な懸念の話についても触れられているが、一応触れるだけは触れといた感が強い。

第19章 遺伝子、発生、進化

主に発生の話
細胞分化と幹細胞の話
細胞運命がどのように決定されるか(誘導因子やそれを発現させる遺伝子)
エヴォ・デヴォと遺伝子ツールキット
ヘテロメトリー・異所性・異時性
発生遺伝子の変異による進化
発生遺伝子が保存されていることによる平行進化


発生の話は、それこそ高校生物で習ったようなところもありつつ(細胞分化、細胞運命と誘導)、一方で、倉谷滋の本でがっつり読んだようなところもありつつ(
倉谷滋『進化する形 進化発生学入門』 - logical cypher scape2とか)、あと実は以前、GACCOの
進化発生学入門ー恐竜が鳥に進化した仕組みー | gaccoを受講していたことがあって、そこでshhやヘテロクロニー、異所性を習っていたことがありつつで、色々思い出しながら読んでいた。

*1:詳しくはWikipediaなど参照。当初、インフルエンザの原因として特定されたのでこの名前がつけられたが、のちにインフルエンザの原因はウイルスであることが判明した