Michael Newall ”Abstraction”

Michael Newallの”What is a Picture? Depiction, Realism, Abstraction”の中の8章「Abstraction」のみを読んだ。
分析美学で抽象絵画について論じているもの、何かないかなーと色々ググっているうちに辿り着いた奴
本全体でどういう話しているのかはよく知らない。
カルヴィッキが書評書いてる
What is a Picture? Depiction, Realism, Abstraction | Reviews | Notre Dame Philosophical Reviews | University of Notre Dame


本全体の目次

1.Convention
2.Seeing and the Experience of Pictures
3.A Theory of Depiction
4.Resemblance
5.Transparency and Resemblance
6.Realism
7.Varieties of Realism
8.Abstraction

まず、ウォルハイムとグリーンバーグそれぞれの抽象絵画の議論について確認したのち、Newall自身の抽象画(による描写)についての説明を行う。
抽象画は一体何を描写しているのか
次いで、キュビスムを例に挙げて説明する。キュビスムは、Newallの考える抽象絵画の2つの特徴のうち、片方を満たすが片方を満たさない過渡的なもの。
Newallは、Biederman*1によるVolumetric Formの認識についての議論・実験をもとに、抽象絵画がVolumetric Formの認識を挫折させるものとして説明し、それがどのように行われるのかを、キュビズムによって説明している。
さらに、オリツキーの作品から、抽象絵画における空間、透明性について説明している
最後に、抽象絵画の描写的内容ではなく、その象徴的な意味を考えるとして、3つの事例について論じている。すなわち、(1)カンディンスキー、(2)アクション・ペインティング、(3)Michel Majerusなどのポストモダンな「非純粋」抽象


8.Abstractionの目次

1. Depth in abstract painting
2. What abstract painting depict
3. Cubism and depiction
4. Recognizing Volumetric form
5. Frustrating volumetric form recognition
6. Jules Olitski and transparency
7. Meaning in abstract painting
8. Conclusion

1. Depth in abstract painting

抽象画は何も描写していないと思われがちだが、それは誤り
四角が重なりあっていたり、透けていたりするが、重なっているのも透けているのも、実際に絵には存在しないが、絵はそれらを見ている経験を生じさせる。抽象絵画は、こうしたことを描いている。
抽象絵画が描いているこうした空間を抽象空間と呼ぶことにする


ウォルハイムは、抽象画も何かを描写していて、描写対象が、具象概念か抽象概念かで区別されるとした。
グリーンバーグやフリードは、触覚にモディファイされた経験ではなく、純粋に光学的な経験を抽象画とした。
ウォルハイムは広すぎ、グリーンバーグやフリードは狭すぎ

2. What abstract painting depict

抽象画は何を描写しているのか
(1)種や性質を描写している
赤い四角を描いている抽象画は、四角という種や赤さという性質を描いている。
もちろん、種や性質は何かに例化されているものだが、赤さは絵画の表面に例化されている。が、赤さが例化された個物を描写しているわけではない。
実在のもしくは可能な物体を描いているものは、抽象画ではない。
(2)Volumetric formの認識を挫折させるもの
例えば「ウィトウィウス的人体図」は、ウィトウィウス的人体という種を描いているもので個物を描いているわけではないが、抽象画ではない。
ウィトウィウス的人体図で描かれている(ほとんどの)性質は、volumetric formに属する。
volumetric formを認識しない空間認識はありうるのか。Biedermanがそれについて論じている。

3. Cubism and depiction

分析的キュビスムは、volumetric formを認識させないような描き方をしている。
ピカソの「ギタープレイヤー」は、volumetric fromをほとんど示していない(平面的になっている)
が、まだギタープレイヤーを描いてはいる
キュビスムは、抽象絵画の2条件のうち1つは満たすが、もう1つは満たさない。


ゴンブリッチは、キュビスムの特徴として、矛盾した情報の存在を挙げている
だが、ゴンブリッチの説明では、キュビスムがどのようにしてvolumetric formの認識を挫くのかは分からない

4. Recognizing Volumetric form

Bierdermanによれば、視覚システムは、volumetric formを顕著な特徴をピックアップする
こうした特徴として挙げられているのが、3つの線が集まる頂点があるかどうか


Biedermanの挙げている例として、2つの図が出てくるのだけど、これが全然読み取れなくて困った。
本書の表紙にも使われている図なのだが。
同じような2つの図があって、片方は頂点を残して輪郭を消している。片方はvolumetricだけど、もう片方はそうじゃないよね、ということを示している図らしいのだが、両方とも自分にはvolumetricに見えない! どっちも平面的にしか見えない! 
まあ、なんとなくこの図の描き方と分析的キュビスムの描き方には通じるとこがあるよねっていう話は頷けたが。


3つの線があつまる頂点があると立体的に見えるよねっていう話は、なるほどねって思うし、面白いんだけど、これの有無だけで網羅的に判断できるのかっていうのがすごく謎
3つの線が集まる頂点があっても立体的に見えない例とかたくさんありそうだけど……

5. Frustrating volumetric form recognition

キュビスムも、Biedermanと同じ方法で、三叉の頂点を消すないし少なくすることで、volumetric formを認識させにくくしている、と
それから、三叉の頂点は残っているのだけど、他にもいろいろな方法をつかってvolumetricと感じさせないようにしている、ということを、「ギタープレイヤー」と「マンドリンを弾く少女」を例に挙げたなら説明している

6. Jules Olitski and transparency

カラーフィールドペインティングの画家、ジュール・オリツキー
スプレーガンを使って、一様な色のフィールドを作る
グリーンバーグやフリードは、オリツキーの色のフィールドに、深さの知覚を与えられると記述している
フラットな表面が、表面として、深さの知覚を達成することはおそらくできない
グリーンバーグやフリードは、視覚的に存在するものがなにもない空間を描いているというか、空虚な空間が描かれているという考えは奇妙
オリツキーの色の空間は、透けていて広がったものとして見える
透けているものの知覚は、透けている媒体や物体の後ろに表面を見ること
空虚な空間以上のものが描写されている

7. Meaning in abstract painting

抽象画の描写的内容は、抽象空間を描いているということでどれも同じだけど、その抽象空間が一体何を意味しているか、というのはそれぞれ異なる。
ここで「意味」というのは、象徴的意味(symbolic meaning)で、比喩的意味(metaphorical meaning)のこと
抽象絵画の空間は、日常で経験する空間とは異なっているので、象徴的な意味を担うのに適切
抽象絵画の空間が象徴しているのは、日常の物質世界の経験とは異なるあり方のモード

(1)カンディンスキー
カンディンスキーにとっては、抽象空間というのはスピリチュアルなものをあらわす空間。色とか。

(2)アクション・ペインティング
アクション・ペインティングにとっての抽象空間は、画家自身についてをあらわす空間。画家の身振りと、それによって示される表現的内容(画家の心理的状態や態度)
戦後の文化的・政治的状況を反映しているという指摘(ローゼンバーグ)もある(古い考えも政治理論も現代アートの基礎を提供してくれなかったので、意味を画家自身から引き出さないといけなかった)
画家の身振りは、単に絵の表面ではなく、描かれた空間の中


(3)Michel Majerusなどのポストモダンな「非純粋」抽象
「非純粋」抽象、というのは、Newallによる呼称
マジェラスの絵は、アクション・ペインティングな筆触とポップカルチャーのアイコンなど(例に挙げられている絵では、マッキントッシュのゴミ箱アイコン)が共存している
局所的にはvolumetric


ポストモダニティを意味している、と。
ここでいうポストモダニティは、ポストモダン理論のことではなく、現代的文化や生活の一般的状態(コモディティ化、インタラクション、モビリティとか)
ポストモダニティは情報通信技術によって促進
批評家のGilbert-Rolfeは、抽象空間は、目に見えず、ユビキタスな技術的存在のサインであると述べている。

*1:Irving Biederman、おそらく知覚心理学者(Wikipediaだと視覚の科学者となっている)。