イアン・ハッキング『知の歴史学』(出口康夫、大西琢朗、渡辺一弘 訳)(一部)

ハッキングの1973年から1999年の間に書かれたものを集めた論文集
第一章に「歴史的存在論」という、論文集全体につうじる概要的な論文がおさめられており、論文集全体のタイトルも原題では『歴史的存在論』。『知の歴史学』は日本語版タイトルで、フーコーの『知の考古学』を意識したもの。ハッキングは、フーコーへの傾倒で知られており、彼の「歴史的存在論」もフーコーを意識した方法論である。


『フィルカルVol.3 No.1』 - logical cypher scapeに掲載された高田さんのスーパーヒーロー論が、ハッキングの歴史的存在論の応用研究であり、面白かったので、手に取った。
が、読んだのはその内の一部。
面白そうな論点はいろいろあったけど、今の自分の関心として、若干優先度が落ちるかなとも思って、とりあえずパラパラっとめくっただけで、いずれ将来また手にとるかもしれないのでメモだけ。

知の歴史学

知の歴史学

はじめに
第1章 歴史的存在論
第2章 五つの寓話
第3章 哲学者のための二種類の「新しい歴史主義」
第4章 ミシェル・フーコーの考古学
第5章 ミシェル・フーコーの未熟な科学
第6章 人々を作り上げる
第7章 自己を改善すること
第8章 いつ,どこで,なぜ,いかにして言語は公共的なものになったのか
第9章 歴史言語学についての夜想
第10章 根底的誤訳など現実にあったのか?
第11章 言語,真理,理性
第12章 歴史家にとっての「スタイル」,哲学者にとっての「スタイル」
第13章 ライプニッツデカルト――証明と永遠真理
第14章 哲学的心理学者ヴィトゲンシュタイン
第15章 ドリームズ・イン・プレイス
訳者あとがき

第1章 歴史的存在論

歴史的存在論という方法論について説明したもの。もとは、1999年にハーバード大学で行われた講演

「私は(...)「名づけ」というわれわれの営みが、われわれが名づける対象といかなる相互作用を及ぼし合うのか」という問題に興味を抱く、「動的唯名論者」」(pp.2-3)」
フーコー初期の「知の考古学」の営みが、より色濃く反映されている」(p.10)

  • 「歴史的」
  • 歴史的認識論
  • メタ認識論

マックス・プランク研究所のロレーヌ・ダストンとその同僚たちによる仕事→「歴史的メタ認識論」と呼べるような仕事で、「フーコーの企ての一般化としての「歴史的存在論」の一つの形態だと言えるのである。」(p.20)
ex)カメラの研究→カメラによって「犯罪者」や「外国人旅行者」の写真が撮られるようになる(知と権力の関係)


帰納の問題←「商業上の取引」が引きおこした

  • 現象の創造

ホール効果

「歴史的存在論」の具体例その1

  • 子供の成長

具体例その2

  • 歴史と哲学

歴史的な次元を踏まえた概念分析=歴史的存在論
ハッキングは自分の方法は、あくまでも哲学の様々ある方法論のうちの一つであって、非歴史的な認識論の中にも重要だと思っているものがあると述べつつ、自分の哲学の中に歴史に関わる言葉を交えなかった2人の哲学者(オースティンとウィトゲンシュタイン)の過ちは二度と繰り返さないでほしい旨も書いている

  • 哲学と科学

第6章 人々を作り上げる

新しい分類が作られることで、文字通りその存在が生まれ、それが人の可能性を規定する

第8章 いつ,どこで,なぜ,いかにして言語は公共的なものになったのか

この章は、最初の部分しか読んでいないけれど、「公共的」な言語観というのがいつどこで生まれたかという話
後期ウィトゲンシュタインじゃないの、というのに反して、18世紀のJ.G.ハーマンが始まりだと論ずる。この点については、アイザイア・バーリンの著作に負っているらしい。


どの論文読もうかなーとパラパラめくっていた時に「ハーマン」と見えて、ギルバート・ハーマンのことかなーって思ってたら、全然違う人だったので、とりあえずメモってみただけ

第10章 根底的誤訳など現実にあったのか?

根底的誤訳というのは、クワインのあれのことで、クワインの話は思考実験というか可能性の話だけど、歴史的な例として「カンガルー」とか「インドリ」とかがよくあげられる
このキャッチーなお話があったことで、クワインの議論は広まったのではないか、とハッキングは述べているのだが、この章では、そもそもこの「お話」に信憑性はあるのか、という話になっている。
カンガルーについては、ハッキングは、哲学者のJ.スマートから「あれは都市伝説ですよ」と教えもらったらしい。
インドリの方は、各辞書にもこの「お話」が説明されていて、本当の話っぽく思えるのだが、色々調べてみるとどうもそうではなさそうだよ、という話

第14章 哲学的心理学者ヴィトゲンシュタイン

この章もちゃんと読んでないのだけど、実はウィトゲンシュタインデカルトって似ているのではないか、みたいなことが書かれている章