倉田剛『現代存在論講義1 ファンダメンタルズ』

以前、紀要で書かれていた倉田剛『「現代存在論入門」のためのスケッチ』 - logical cypher scapeが、待望の著作としてまとめられた本
元論文と同様の箇所ももちろんあるが、第二講義のメタ存在論の章など、元論文にはなかったトピックなども増えている。
基本的には、普遍論争について実在論側から論じている感じ。続く2巻では、それ以外のトピックも色々出てくるっぽいので早くも楽しみにしてる。
本文中、時折、ミノルくんとユイちゃんによる会話が合いの手のように入ってくるが、この2人、めっちゃ頭いいぞw

現代存在論講義I?ファンダメンタルズ

現代存在論講義I?ファンダメンタルズ

序 文
  本書の成立とスタイル
  本書の主題
  本書を世に問う理由─なぜ『現代存在論講義』なのか
  著者の立場─暗黙の前提

第一講義 イントロダクション─存在論とは何か
1 何が存在するのか
  1.1 「何が存在するのか」から「どのような種類のものが存在するのか」へ
  1.2 性質と関係
  1.3 物とプロセス
  1.4 部分と集まり
  1.5 種という普遍者
  1.6 可能的対象および虚構的対象

2 存在論の諸区分
  2.1 領域的存在論と形式的存在論
  2.2 応用存在論と哲学的存在論
  Box 1 表象的人工物としての存在論存在論の可能な定義
  2.3 形式的存在論と形式化された存在論
  2.4 存在論の道具としての論理学
  Box 2 同値、分析あるいは存在論的説明について
  2.5 存在論とメタ存在論

まとめ

第二講義 方法論あるいはメタ存在論について
1 存在論的コミットメントとその周辺
  1.1 世界についての語りと思考
  1.2 存在論的コミットメントの基準
  Box 3 すべてのものが存在する?!─存在の一義性について
  1.3 パラフレーズ
  Box 4 “No entity without identity”─クワイン的メタ存在論の否定的テーゼ

2 理論的美徳─「適切な存在論」の基準について
  2.1 単純性
  2.2 説明力
  2.3 直観および他の諸理論との整合性

3 非クワイン的なメタ存在論
  3.1 虚構主義
  3.2 マイノング主義
  3.3 新カルナップ主義
  Box 5 カルナップと存在論

まとめ

第三講義 カテゴリーの体系─形式的因子と形式的関係
1 カテゴリーと形式的因子
  1.1 カテゴリーの個別化─形式的因子
  1.2 存在論的スクエア

2 形式的関係
  2.1 4カテゴリー存在論における形式的関係
  2.2 存在論セクステットと形式的関係
  Table 1 主要な形式的関係のまとめ

まとめ

第四講義 性質に関する実在論
1 ものが性質をもつということ
  1.1 何が問われているのか
  1.2 存在論的説明あるいは分析について
  1.3 実在論による説明

2 実在論の擁護
  2.1 分類の基礎
  2.2 日常的な言語使用
  2.3 自然法則と性質

3 ミニマルな実在論
  3.1 述語と性質
  3.2 否定的性質
  3.3 選言的性質
  3.4 連言的性質と構造的性質
  3.5 付録:高階の普遍者について
  Box 6 アームストロングへの疑問

まとめ

第五講義 唯名論への応答
1 クラス唯名論
  1.1 クラスによる説明
  1.2 例化されていない性質および共外延的性質の問題
  1.3 クラスの同一性基準と性質
  1.4 すべてのクラスは性質に対応するのか

2 類似性唯名論
  2.1 類似性の哲学
  2.2 類似性唯名論への反論

3 述語唯名論
  3.1 正統派の唯名論
  3.2 述語唯名論への反論

4 トロープ唯名論
  4.1 実在論の代替理論としてのトロープ理論
  4.2 トロープの主要な特性とそれにもとづく「構築」
  4.3 トロープ唯名論のテーゼとそれへの反論
  Box 7 トロープへのコミットメントを動機づける理由
  4.4 実在論との共存

まとめ

結語にかえて─存在の問いはトリヴァルに解決されるのか?
読書案内
あとがき

第一講義 イントロダクション─存在論とは何か

1.4 部分と集まり

集合ないしクラスと集積ないし和の違い
集合ないしクラス=集合とそのメンバーは異なる存在論的カテゴリーに属する
集積ないし和=集積とその構成部分は同じカテゴリーに属する

1.5 種という普遍者

種はものを数え上げる際の基準を与えるという役割(種の中でも「ソータル」と呼ばれるものの役割)
種について詳しくは2巻

1.6 可能的対象および虚構的対象

可能世界についての虚構主義について詳しくは2巻
ところで、この本では、可能世界についての虚構主義、つまり可能世界を虚構的対象としてとらえる立場の説明をする予定のようで非常に気になるんだけど、(少数派だと思うし僕も与しない立場だけど)虚構世界を可能世界と分析しようとする立場もあるよなー、とか

2.2 応用存在論と哲学的存在論

工学におけるオントロジーと哲学の存在論の関係

第二講義 方法論あるいはメタ存在論について

1 存在論的コミットメントとその周辺

現代における標準的なメタ存在論存在論における方法論)としてのクワイン的メタ存在論

(1)われわれが承認する理論を構成している文を標準的な論理式に翻訳せよ
(2)その翻訳から存在論的コミットメントを取り出せ
(3)その存在論的コミットメントを額面通りに受け入れよ
(p.42)

存在論的コミットメントの基準として、名前による指示と量化を挙げる((正確には、クワインは量化のみで名前を排除しようとしていたが、現代における標準的な考えとしては名前による指示を含む)
クワイン的メタ存在論として
(3)へのステップを認めない、虚構主義
(2)へのステップを認めない、マイノング主義
クワインは、存在概念は一義的であって多義的ではないと考える。存在しないものはない。これは哲学のオーソドックスな伝統。
この一義性に疑問を投げかけるのが、マイノング主義や新カルナップ主義

2 理論的美徳─「適切な存在論」の基準について

理論選択をする上でのいくつかの基準
これらについては、これさえ満たしていればよいというようなものではなく、また時にトレードオフの関係にあるものもあり、コストーべネフィット分析のようにして、どの理論が優れているか判断していくことになる。

2.1 単純性
  • (1)構文論的単純性・エレガンス
  • (2)存在論的単純性・倹約

ルイスによれば、倹約にはさらに質的倹約と量的倹約があり、ルイスは様相実在論は量的には倹約的ではないが質的には倹約であるとして正当化をはかっている。本書ではこのようなルイスの態度を「確信犯的」と呼び、倹約が無条件に賞賛されるわけではないと述べている。
また、エレガンスと倹約は多くの場合トレードオフの関係であるとも。

2.3 直観および他の諸理論との整合性

ここでいう直観は、日常的信念や常識とも言い換えられる。こうしたものを理論選択の基準に持ち出してくることの問題点は認めつつも、しかし、基準として機能することは否定しがたいとも述べる。また、注釈にて実験哲学について触れられている

3 非クワイン的なメタ存在論

虚構主義とマイノング主義について詳しくは2巻でも

3.3 新カルナップ主義

存在論の問いに対して懐疑的
そうした問いを少なくするという意味で「デフレ主義」とも
言語の問題と考えるが、言語的観念論や悪しき相対主義ではない。
「存在する」という語の意味が変動していると考える。

Box 5 カルナップと存在論

カルナップ自身は、存在論すべてが無意味な問いだと考えたわけではない。
フレームワークに対して内的な問いと外的な問い
内的な問いはトリヴィアル。一方、外的な問いは実践的な問いとしてとらえようとした
カルナップがクワインに負けたのは、分析性についての議論
しかし、近年では、分析性の影響を限定的にしてカルナップを復活させる動きは、クワインとカルナップの間に対立はなかったとする新説も出てきているとのこと。

第三講義 カテゴリーの体系─形式的因子と形式的関係

1 カテゴリーと形式的因子

アリストテレスのカテゴリー論について
「基体について」「基体のうちにある」という形式的因子から、4つのカテゴリー
→個別的実体、普遍的実体、普遍的付帯性、個別的付帯性

:2 形式的関係

ロウによる4カテゴリー論
アリストテレスのカテゴリー論とほぼ同じ
対象(個別的実体)、様態(個別的付帯性)、種(普遍的実体)、属性(普遍的付帯性)
これら4つの間の関係を、「特徴づけ関係」「例化関係」「例示関係」といった3つの関係で結ぶ
例示関係は、傾向性の説明にも使われる
4つのカテゴリーに、さらに2つを加えたセクステットというカテゴリー論もある(スミス)。
普遍的プロセスと個別的プロセスの2つが加わる
  

第四講義 性質に関する実在論

1 ものが性質をもつということ

性質とは何かということについて、例化されるものととらえる。
また、性質と実例は不可分という立場を「アリストテレス主義的」、性質は実例の存在からは独立するという立場(寛容な実在論)を「プラトン主義的」と形容される
普遍者/個別者の区別として、時空間に位置をもつかどうかという点を挙げる論者もいるが、ここでは、抽象的対象を例に挙げて、これを取り下げている。
普遍者/個別者は、例化される/されないで区別される

2 実在論の擁護

「われわれの日常的な言語使用は性質の存在にコミットしている。」
自然法則に基づく規則性の説明は性質(普遍者)の存在を要請する。」
2番目は、アームストロングによるものがある

3 ミニマルな実在論

アームストロングの立場
「例化原理」「ア・ポステリオリ原理」「因果的力能の原理」により、リアルな性質と性質もどきを厳しく区別する
アームストロングは、高階の普遍者を容認するが、筆者は、実際には彼の厳しい基準をクリアできる高階の普遍者は非常に少ないのでは、と述べている。
また、アームストロングは、普遍者が時空間の中に位置を占めているという立場だが、筆者はここに疑問をていしている

第五講義 唯名論への応答

1 クラス唯名論
2 類似性唯名論
3 述語唯名論
4 トロープ唯名論
第三講義や第四講義もそうだけれど、倉田剛『「現代存在論入門」のためのスケッチ』 - logical cypher scapeと重なっている部分があったり、場合によってはそちらの方がより詳しいかも

Box 7 トロープへのコミットメントを動機づける理由

トロープには因果関係項になる、知覚の対象になる、〈真にするもの〉になるなど、説明力があって、これらが、トロープ論者がトロープにコミットする動機になっている

4.4 実在論との共存

トロープは、歴史的には実在論に端を発しており、実在論との共存は荒唐無稽ではないと述べられている。

結語にかえて─存在の問いはトリヴァルに解決されるのか?

デフレ主義として、本文では新カルナップ主義が取り上げられたが、それ以外の立場として、
シッファーのイージーアプローチないし新フレーゲ主義が最後に紹介されている。
筆者は、彼らの分析方法自体は間違っていないとしつつも、第一には教育的配慮から、第二には、彼らのメタ存在論が方法論の一つにすぎず単独では成り立たないと考え、本文では取り扱わなかったと述べている。
また、デフレ主義というのは、存在の問いはトリヴィアルな形で解決されるという立場だが、それに対して、そうではないという立場(生真面目な存在論)があり、筆者は後者の立場に立つ。

参考

デイヴィッド・M・アームストロング『現代普遍論争入門』(秋葉剛史訳) - logical cypher scape
本書でも紹介されている。筆者は直接影響を受けたりこの本を書くうえで参考にしたのはこの本ではないようだが、アームストロングによって、普遍者が今日でも問題になるテーマだと思うに至ったらしい。
筆者はアームストロングとは立場は異なるものも、どちらも実在論者で、この本も『現代普遍論争入門』も、入門として様々な立場を紹介しつつも、筆者本人の実在論への肩入れ自体は隠していない。
そんなわけで、これらの本を読むと、実在論に説得されそうにはなるのだけれど、個人的には、唯名論の方が気になっている。
『現代形而上学論文集』 - logical cypher scape
この論文集、読んだの随分前だし、当時はまだ形而上学について、今よりさらにわかっていなかったので、全然わかっていなかったのだが
ルイスによるクラス唯名論についての論文と、サイモンズによるトロープについての論文が収録されていると、本書で紹介されている。

現代存在論講義I ファンダメンタルズ 倉田剛 まとめノート0 目次 - Lichtung
本書の用語集を作ってくれているブログがあった。