『ゲームSF傑作選 スタートボタンを押してください』

D.H.ウィルソン&J.J.アダムズ編 中原尚哉・古沢嘉通
タイトル通り、ゲームをテーマにした作品を扱った短編集で、意外と(?)ビターな後味の作品が多かったような印象


「1アップ」「キャラクター選択」がわりと好き
「救助よろ」「猫の王権」「リコイル!」「ツウォリア」「アンダーのゲーム」「時計仕掛けの兵隊」あたりも面白い


スタートボタンを押してください (ゲームSF傑作選) (創元SF文庫)

スタートボタンを押してください (ゲームSF傑作選) (創元SF文庫)

アーネスト・クライン 序文

『ゲームウォーズ』(『レディプレイヤーワン』の原作)の著者による序文がついているのだが、読んだときは、誰なのか知らなかったので、「編者でもないしこの人は一体誰なんだろう」と思いながら序文を読んでいたら、最後に「(それぞれの作者がどのような作品を書いたのか早く知りたいという旨の文のあとに)〆切に間に合わなかったのが私だけなのかも早く知りたい」と書いてあって、「原稿落としたから序文だけ書いてんのかよww」となってしまった。どこまでマジでどこから冗談なのかよくわからんけど。

桜坂 洋「リスポーン」

リスポーンとは、ゲーム中で死んだ後に、真だ場所から離れたステージで復活すること
直接的にゲームについては書かれていないが、ゲーム的な繰り返しの生が描かれる、桜坂っぽい。
牛丼屋でワンオペバイトしている主人公の「おれ」が、強盗に刺殺される。と、「おれ」の意識がその強盗へと移り変わる。殺された本人なのだと主張するが相手にされず、刑務所へ。ところが、今度は刑務所内で殺されてしまい、殺したヤクザに意識が移り変わる。

デヴィッド・バー・カートリー「救助よろ」

MMORPGにハマって引きこもりになってしまった元カレをゲームから引っ張り出すために、別れるきっかけとなったゲームにログインする主人公
冒頭から、現実世界(現代ないし近未来の普通の大学やその寮が出てくる)のはずなのに、主人公が剣を装備している、というちょっとしたズレが描かれているのだが、実は、現実の方が改変されていっているという話
退屈でパッとしない現実世界と自分が主人公たりえるゲーム世界とどちらがいいか、というよくあるテーマだが、この作品の場合、登場人物たちは、現実世界に回帰するのではなく、現実世界を記憶ごとゲーム世界へと改変してしまう。ほんの少しだけ残った、かつての現実世界の残滓に思いを寄せてしまう結末が、独特の味わいを持たせている。

ホリー・ブラック「1アップ」

ネトゲで知り合った4人のティーンエイジャーのうち、1人が病気で亡くなってしまう。彼の葬儀で初めてオフで顔を合わせた3人は、彼の部屋のPCに、奇妙なテキストアドベンチャーゲームが遺されているのを発見する。
そのゲームをプレイすることで、彼の死の真相へと迫っていくことになる。

チャールズ・ユウ「NPC

タイトル通り、ゲームのNPCを主人公にした一作。
何らかのバグが生じて、NPCがPCへと変容を遂げる。これまで、宇宙基地の一労働者で名前もなかったのが、様々なミッションをこなすようになるのだが、一方で、自由を失った感覚を感じるようになっていく

チャーリー・ジェーン・アンダース「猫の王権」

とある脳神経疾患(この作品内の架空の病気)への治療としても用いられるVRゲーム「猫の王権」
障害により、かつての性格が失われ社会生活を送れなくなったパートナーが、VRゲーム内の猫の王国では有能な王の補佐官となっている。
そして実はそのゲームはただのゲームではなく、現実にある経済学などの問題の解決にも寄与しているのだという

ダニエル・H・ウィルソン「神モード」

世界が少しずつ崩壊していく話

ミッキー・ニールソン「リコイル! 」

ゲーム開発会社に見習い的に入り込んでる主人公が、深夜に、会社に忍び込んできた強盗に遭遇してしまう

ショーナン・マグワイアサバイバルホラー

他の長編シリーズのスピンオフらしい

ヒュー・ハウイー「キャラクター選択」

育休中に、ゲーマーの夫に隠れてゲームをしていた妻
FPSで敵を倒すのではなく、戦闘が起こっている場所から離れることで、隠れ面みたいなものを見つける話
今までゲームをしていなかった妻がゲームをしているのを見つけたゲーマー夫は、喜ぶのだけど、全然戦わないので「え、何そのプレイ」みたいになる。妻は、FPSで見つけた秘密の庭で庭園を作っている(普通にプレイしていると戦火に巻き込まれて廃墟と化してしまう商店の地下にある)。

アンディ・ウィアー「ツウォリア」

『火星の人』のアンディ・ウィアー
交通違反の罰金を支払おうとしたら、そもそもそんな違反は記録されていないと返されてしまう主人公
彼のもとに、ツォリアと名乗る者から連絡がくる。それは、彼が学生時代に書いていたプログラムだった。途中で停止してしまわないように、何万時間だか処理を続けろ、と書いていて、本当にその何万時間の処理を実行した結果、全人類の端末にハッキングしかけられる高度AIになってしまった、という
で、このツォリアなのだが、口調が完全に一昔前の2ちゃん語で、プログラミングされた当時のネットスラングを使っている、ということなのだろうが、その会話のおかしみがウィアーっぽいし、それを2ちゃん語に訳してる翻訳もGJ
中原訳

コリイ・ドクトロウ「アンダのゲーム」

タイトルは「エンダーのゲーム」からとられている
ネトゲで、自分が女の子であることを隠してゲームをやらなければならない(小学生までは親から変質者対策としてアバターを女性にするのを止められていた。ティーンエイジャーになると、女がゲームやってんのかよ的な偏見もある)ことに違和感を覚えていた主人公
(ところで、女性アバターの話だと「救助よろ」でも、元カレの好きなキャラクターの胸が無駄に大きい云々という記述がある)
学校に、とある有名女性ゲームプレイヤーがやってきて講演する。彼女は、少女たちのクランを作っていて、メンバー募集をしていた。
そのクランに参加してしばらく、ゲーム内通貨のゴールドではなく、現実世界のマネーを稼ぐ方法があると誘われる。
それは、強力な護衛に守られた施設の中で、Tシャツを作る労働者たちを殺害すること
しかし、彼女が殺しているのは、貧困国の少女たちがわずかな賃労働をするために使っているPCなのだった

ケン・リュウ「時計仕掛けの兵隊」

バウンティ・ハンターのアレックスは、とある政治家の依頼で、その政治家の息子を捕まえる。
父親のもとへと連れ帰る途中の宇宙船内で、その息子が作ったテキストアドベンチャーゲームをプレイする
それは、とある王女が、自分の召使である自動人形とともに、王宮に隠された、自動人形に心を与えるアイテムを探すゲームだった。
一方、ライダーとその父親が、アンドロイドの意識と権利をめぐって、考え方が対立していたことが分かってくる。
このゲームの内容と、ライダー自身の境遇がやんわりと重なっていて、実は、というのが明かされる。
「いかにもこの著者らしい余韻を残す一編」という解説コメントがつけられているが、まさにそんな感じ