クリストファー・プリースト『夢幻諸島から』

「夢幻諸島(ドリーム・アーキペラゴ)」の観光案内書というていで書かれた小説。
プリーストをちゃんと読むの初めて*1
訳者あとがきではこのように言われている

訳者は、本書が長編として評価されていることにどうも違和感があります。(中略)架空世界のガイドブックという形式をとり、共通する登場人物が何人も出てくるものの、個々の章は独立した短篇として読めるものが大半で、連作短篇集というのが正しいとらえかたではないでしょうか。

本当に、ガイドブック風、観光案内風に書かれている章もあれば、完全に短編小説として(しかも一人称で)書かれている章もある。
確かに、「個々の章は独立した短篇として読め」、同じ世界観をもとにした連作短篇集として読むのは全くその通りだと思うけれど、「共通する登場人物」というのが結構くせもので、互いにかなり密接に関連した章がいくつか存在していて、ある種の長編小説としてエピソードを拾い上げていくこともまた可能な作りになっていると思う。


舞台となっている世界は、「北大陸」と「南大陸」、そしてそれらに挟まれたミッドウェー海に点在している「夢幻諸島」で構成されている。「北大陸」の国々は互いに長期間にわたって戦争をしている。ただし、実際の戦闘行動は「南大陸」で行っている。アーキペラゴの島々はある時期に中立盟約を結んで、北大陸の国々に対して中立を宣言したため、基本的に戦争とは縁のない平和な世界となっている(ただし、地理的に北大陸の国々の軍事基地と利用されている島も存在している)。
インターネットが出てきたり、無人機(ドローン)が出てきたりするので、科学技術レベルや生活水準は21世紀の地球と同じっぽい。政治的・社会的状況はよく分からない。「北大陸」には明らかに「国」があるのだけど、アーキペラゴは「国」という単位があまりないっぽい(明確になんとか諸島は独立国であるという記述がる島もあるけど)。島単位で、島主庁というのが行政をやっているっぽい。
島同士の行き来は基本的に船。飛行機もあるけど、あまり利用されていないっぽい。
というのも、この星はなんか時空の歪みが存在していて、正確な地図が作れないから。なんとか頑張って地図を作ろうという機関があったり、時空の歪みを利用して効率的な航空路を確立しているところもあったりするけど。
そんなわけで、アーキペラゴの全体像は誰も把握していなくて、島も数万はあると言われている。
もちろん、その数万の島を全て紹介するなどはできないわけで、この本では35の章に分かれて、33の島が紹介されている。もっとも、既に述べたように、普通の短編小説として書かれている章もあるので、章のタイトルは全部島の名前になっているけれど、島の紹介にはなっていものも多い。


完全な架空の世界を舞台にしている(しかも時空の歪みとかがある)、という点を除けば、特段、SF的な科学技術や現象が出てくるわけではなく、とある作家の生涯だったり、とある殺人事件だったり、とある恋愛譚だったり、現代を舞台にした普通の小説としても読めないことはない(もっとも、章によっては、不老不死技術とか、超自然現象とかが出てきたりはするのだけど)。
章立ても、島の名前のアルファベット順で並べられていて、2ページくらいの章もあれば、20ページくらいの章もあって、関連しあっている章もあれば、完全に独立している章もあって、あらすじをまとめるのはかなり難しい。
とりあえず最初は、架空の地名、架空の気候(季節風の記述とかが結構多い)、架空の文化(トンネルくぐりというレジャーがあちこちで行われている)などが断片的に見えてくるのが、まずは面白いところだと思う。アーキペラゴ・ドル、ムリセイ・ターラー、オーブラック・タラントといった通貨が使われているのも分かってくる。ムリセイという島が、どうもアーキペラゴの中心地っぽいとか。
あ、方言についての言及は多くて、島ごとに、場合によっては島の中でも無数の方言があるというのは分かるのだけど、どういう諸言語があるのかについてははっきりとは書かれていなかった。


そして何より、いくつかの人名が何度も登場するようになる。複数登場する人名は、アーキペラゴの有名人で、作家とかインスタレーション・アーティストだったりする(そういえば大体、芸術・芸能関係で、政治家、科学者系はあんまりいないな)
この連作短篇集を、連作短編ではなく一つの長編として読むとするならば、やはり、パントマイム芸人コミスの殺人事件のエピソードを拾っていくことになるだろう。
コミスという名前で知られるパントマイム芸人が、とある島の劇場の舞台で巨大なガラス板が落下してきて死亡する。とある青年が逮捕され、死刑に処されているのだけど、冤罪の疑惑があって、それを題材にした研究書とかが色々書かれている。
で、別の章が、その犯人の一人称で書かれていて、やっぱりその死刑にあった青年とは別の青年が、事故に見せかけて殺すような仕掛けを作っていたというのが分かる。
で、さらに別の章で、その真犯人たる青年の正体というのが分かるのだけど、ここらへんから、そもそもこの本は一体何なんだよっていう混乱が読者に仕掛けられてくる。いわゆるプリーストの「語り/騙り」って奴かもしれないんだけど。
そもそもこの本は、アーキペラゴの観光案内ガイドブックという形式で書かれていたはずである。でも、その形式を平然と破って、一人称視点の短篇小説が差し挟まれている。
このガイドブックには、アーキペラゴにおける著名な作家、チェスター・カムストンによる序文がつけられているのだが、このコミス殺人事件の真犯人が、どうも若き日のカムストンらしい。
さらにもっとおかしいのは、このガイドブックの中には、カムストンの死後について触れられた章がいくつもあり、そもそもカムストンの死後に書かれたと考えられるのだが、序文はカムストンが書いているのである。
カムストンと同時代人だと思われる人について「二世紀半前の芸術家」っていう紹介文が書かれていたりもして、このガイドブックが書かれた時代と、ガイドブックや短編小説に書かれている時代とが、どういう関係になっているのがかさっぱり分からないのである。
個々の短篇は確かに独立して読めるし、SFとかではない、現代を舞台にした小説のように読めるのだけど、全体的にどうなってんだこれって考えようとすると、途端に謎めいてくるのである。
確かにこの世界には時空の歪みがあるのだけど、そこまでひどい時空の歪みが発生しているようには読めないんだけども。


以下、各章についてメモしているが、大幅にネタバレ
訳者あとがきによれば、訳者も作者も、できる限り事前情報なしでこの本を読んで欲しいとのことなので、未読の方は以下について読まないようにした方がいいかもしれないw


  • 序文

作家チェスター・カムストンによるもので、アーキペラゴなどの解説になっている。

  • アイ 風の島

エスフォーヴン・モイ(二世紀半前の人と書かれている)の設立したアカデミーについて。モイはその後、ピケイ島に移って生涯を終えている。モイは、画家ドリッド・バーサーストと関係を持ち、彼の絵のモデルにもなっている。
カムストンが、バーサーストの伝記を書いている。

  • アナダック 静謐の地

インスタレーション・アーティスト、ジョーデン・ヨー(同時代と書かれている)の出身地。ヨーが作る芸術作品は、トンネル。
トンネルくぐりが盛んな島でもある。

  • 大オーブラック ジェイム・オーブラック

幼虫を寄生させて死に至らしめる凶悪な昆虫スライムの発見譚。
オーブラック諸島は、このスライムの存在のために無人島であったが、発見されて50年以上後には開発され、観光地と変わった。

  • チェーナー 雨の影

コミス殺人事件の容疑者、チェーナー島出身の青年ケリス・シントンの取り調べ調書、シントンが死刑に処されたことを報ずる新聞記事、その40年後に書かれたシントンは冤罪であり恩赦を下すべきと進言する報告書。その報告書の中で、カウラーによる『シントン――まちがった死?』という本が言及されている。

  • コラゴ 沈黙の雨

不老不死技術を可能にした島。毎年、アーキペラゴ全体からランダムで不老不死処置を施す人間を選んでいる。
これについて、やはりカウラーがその著書の中で問題提起した旨が書かれている。

1ページしかない上に、最後には「どうでもいい」とまで書かれている

  • デリル――トーキー 大きな家/澄んだ深海

トーキー諸島とトークイル諸島が、よく似ているが全く別の島であることの説明(アーキペラゴ世界の地理についての説明が如何に難しいかということが分かる話w)
中立盟約が結ばれた地である、画家バーサーストが一時期住んでいた、彼の『救援に駆けつけるデリルのニンフたち』という絵が、扇情的な作品でモデルになった者の家族の反対によって公開されていない

  • デリル――トークイル 暗い家/彼女の家/夕暮れの風

カウラーが「顕現」したと言われる島。カウラー礼拝堂があり、巡礼が行われている。
「顕現」とは、2人の少女がカウラーの姿を目撃したというエピソードだが、その時、カウラーは全く別の島におり、カウラーは一度もデリルに訪れたことはない。また、カウラーは、替え玉を使っていたことを後に認めているが、その替え玉だった女性もまたデリルを訪れたことはなく、生前のカウラーもカウラー財団も「顕現」を否定している。

  • エメレット すべて無料

代々、エメレット家によって統治されている島。
バーサーストは、一般公開しないことを条件に『屍衣』をエメレット家に譲渡している。
また『羊毛の梳き手たちの帰還』には、その細部に、島主夫人と娘をモデルにしたと思われるニンフの裸体が描かれていると指摘されている。その島主とバーサーストはその後、スライムによって死んだっぽい。

  • フェレンシュテル 台無しになった砂

コミス殺人事件の犯人捜索が始まった島

  • フェレディ環礁 吊された首

モイリータ・ケインからチェスター・カムストンに宛てられたファンレター数通からなる章
この手紙の内容からすると、カムストンからの返信はカムストンの指示に従い処分されている。
モイリータ・ケインは最初、作家に憧れる女子大生だが、のちに本当に作家になって、カウラーの社会理論に基づいた処女作『肯定』をカムストンに謹呈している(訳者あとがきによると、プリースト自身の著作にも『肯定』という長編小説(しかも夢幻諸島もの)がある)。

  • フールト 歓迎せよ

アーキペラゴでは非常に珍しい自給自足をしている島
北大陸出身者も多く住む。
本ガイドブックの調査員が実際に赴いて、インスタレーション・アーティスト、タマラ・ディア・オイの作品があるのではないか調べたかが判明しなかった

  • ガンテン・アセマント 芳しい春

画家バーサーストの個展が開かれたことで有名な島。バーサーストはその画業だけでなく浮き名によっても世間によく知られているが、写真はほとんど残っていない。
この個展は内輪向けのものであったが、新聞記者ダント・ウィラーが潜り込んでいたことで、後世までその内実が知られている。『屍衣』が唯一公開された展覧会であり、またモイをモデルにした『E・M 空気の歌い手』も公開されていた。

  • グールン 凍える風/大提督劇場

一人称小説として書かれている章
演劇演出を学ぶ専門学校生であるハイキ・トーマス(「ぼく」)が、ギャップイヤーに、グールン島のオムフーヴという町の劇場で働くことになった時の話
「ぼく」は、コミスとトラブルを起こしていて、コミスが演じるステージ上にあったガラス板を固定する紐を緩めていた。なので、コミス殺人事件の犯人と考えてよいと思うが、実際にコミスが死ぬより前にその劇場を立ち去っている。

  • ジュノ 手に入れた平和

アーキペラゴの中の独立国であり、経済的に繁栄しており、移民や南大陸からの脱走兵も多いが、実際にはかなり過酷な労働環境が待っている。
ダント・ウィラーが『ジュノ放牧地争奪戦争』というドキュメンタリーを著している。

  • キーアイラン 曖昧な痛み

駐屯基地、刑務所の島

  • ランナ 二頭の馬

詩人ケイプスとその妻セベンが住んでいた島。彼らは、友人バーサーストを招いたが、その後、セベンは絞殺され、ケイプスはスライムの毒で死んでいる。

  • リュース 忘れじの愛

北大陸のファイアンド同盟によって占領されている島。
ある時、航空事故が起きている。その事故の犠牲者の遺体を受け取りにきた親族関係者の中には、作家モイリータ・ケインもいた。

  • マンレイル 完成途中/開始途中

グロウンド共和国に強制収用され、その際、多くのトンネルが掘られていた。中立盟約によってグロウンド共和国がいなくなった後には、アーティスト、ジョーデン・ヨーがやはりトンネルを掘るためにやってきている。

  • ミークァ/トレム 伝言の運び手/足の速い放浪者/無人

ミークァ島でアーキペラゴの地図を制作する機関で働く女性、ローナ視点で書かれた三人称小説
ミークァの隣にあるトレムは、軍事基地があるために地図上は存在しないことになっている。ローナの恋人トマックは、ある時トレムに渡って連絡を絶った。ローナが、ブラッドの手引きでトレムへの渡航を試み失敗する話。
トレムでかつて習作を作っていたとしてジョーデン・ヨーへの言及があるが、この話はジョーデン・ヨーの死後であるようだ。

  • メスターライン 行方の定まらぬ水

詩人ケイプスの出身地
メスターライン島民は、メスターラインを離れたがらないが、島の水のミネラル分が幸福感をもたらしているらしい。

  • ムリセイ 赤いジャングル/愛の戸口/大きな島/骨の庭

ムリセイはアーキペラゴで最も大きく、最も人口の多い島である。
また、芸術の中心地でもあるが、しかしムリセイに訪れたことのない、あるいはムリセイへの入島の禁じられた芸術家として、チェスター・カムストン(ピケイ島から離れなかった)、コミス(理由は不明だがムリセイでの出演を拒否していた)、触発主義の画家ラスカル・アシゾーン(ムリセイ出身だが永久追放された)、ドリッド・バーサースト(ムリセイ入島禁止)、ジョーデン・ヨー(入島禁止)

  • ネルキー 遅い潮

トーキー群島の一部であまり目立たない島
コミス殺人事件の犯人捜索が行われた。ケイプスが訪れたが三ヶ月滞在して去った。

  • オーフポン 険しい山腹

ワインで有名な島
ビザの発給制限が厳しい(ガイドブックの執筆者はこれを破って、島内の刑務所に一時投獄された模様)。武器会社や賭博組織を運営している一族によって支配された島。
ドリッド・バーサーストが訪れ、オーフポン連作を描いている。その中の裸婦のモデルが、島主の姪だったとか何とか

  • ピケイ1 たどった道

チェスター・カムストンの出身地。
カムストンは生涯この島を離れなかったといわれる。ピケイは痕跡の島とも呼ばれ、島民はピケイを離れたがらない。カムストンはそのようなピケイの島民性を描いた。
カムストンは、画家バーサーストと詩人ケイプスの伝記も書いている。
カムストンの双子の兄、ウォルターの遺言というものが、物議を醸している。ウォルターは、チェスターの死後に亡くなっている。

  • ピケイ2 たどられた道

この章は、「ウォルター・カムストンの遺言」からなっている。ウォルターの一人称小説として読めるようになっている。
チェスターは若かりし頃にピケイを離れて、とある島の劇場で働いていた時期がある。そして、ウォルターに、ある連中が訊ねてきたら自分のふりをして、自分はずっとピケイにいたと言って欲しいということをメールで頼んでいる。そして、実際警察がウォルターのところに訊ねてきている。
その後、チェスターはピケイに帰ってきて、小説を書き始めて作家になるが、ウォルターとは疎遠だった。
作家として名を成した後、ある時、ある女性がチェスターのもとを訪れる。それがカウラーである。カウラーがピケイを去った後、チェスターはウォルターの元を訪れて、カウラーを愛していることを告げるが、自分はピケイを離れられないのでカウラーを探しにいけないともいう。
またしばらくした後、カウラーが『シントン――まちがった死?』を発表する。その中で、チェスターの名前は書かれていないが、ウォルターから見れば明らかにカウラーがチェスターを犯人と目していることが分かる記述があり、チェスターもそのことによって傷つけられる。
チェスターは死の直前、それでもカウラーを愛していると告げ、死後、彼の遺言に従い、ウォルターはカウラーを葬儀に呼ぶ。その際カウラーは、チェスターと愛し合っていたとウォルターに告げている。また、ウォルターはその時、カウラーが手を怪我しているのを目撃している。

  • ローザセイ1 唱えよ/歌え

エズラ・ワン・カウラーの出身地。
カウラーは学生時代に、まだ無名だったカムストンの小説の批評を書いている。戯曲を3作書き、社会改革や解放運動に関わる多数の著作を残している。40代のころに、カウラー専門学校を作っている。また、式典に出席する際はなるべく目立たないようにしており、替え玉も使っていた。
最後におおやけの場に姿をあらわしたのは、カムストンの葬儀の時である。葬儀から戻って数日後、カウラーは亡くなっている。死因は「自然死――感染/寄生動物の進入」とされている。
カウラーに対する追悼文の中でもっとも感動的とされたのは、ダント・ウィラーのものである。

  • ローザセイ2 臭跡/痕跡

カムストンの葬儀を訪れた際の、カウラー視点の一人称小説。
死を知らされた際の混乱や、遺族が自分のことをどう思っているのかという不安などが描かれている。
葬儀の日に、チェスターの部屋を訪れ、そこで彼の亡霊と出会っている。その亡霊が消えた時の赤い煙を触って、指に血の後が残る。

  • リーヴァー 静かな波音を立てる海

時間の渦を目撃できる島。エイレットという男が、初めて計測した。後、これを利用して航空機が経路を短縮するのに利用している。
触発主義の画家ラスカル・アシゾーンが絵を制作していた島でもある。

  • シーヴル 死せる塔/ガラス

大学を卒業後研究員として働いていたが、両親の死をきっかけに故郷であるグールン島へと帰ってきた青年トームの一人称小説。
同じく島を離れて大学へいったものの、その後職を失いグールンへと戻ってきていたアルヴァスンドと再会するところか話は始まる。
アルヴァスンドは新しい仕事を得るために課せられたテストとして、グールンの北にある塔の調査へと向かう。トームは、アルヴァスンドと同行する。
その塔は、人間に恐怖感を与え幻覚を見せるという超自然的な現象を起こす力を持っていた。その体験を共有して、トームとアルヴァスンドの関係は強まるのだが。
そして、アルヴァスンドはシーヴルにある、同様の塔の調査チームの一員として職を得て、トームもそれに同行する。
最後、アルヴァスンドは調査チームと共に島を離れるのだが、トームはむしろ塔に魅せられていき島に残る。

  • サンティエ 高い/兄弟

コミスの出身地

  • シフ 口笛を鳴らすもの

ジョーデン・ヨーが訪れ、トンネル掘りが行われるようになる。
ヨーがいる際に、バーサーストも訪れている。
のち、トンネル掘りがいきすぎて、島自体が崩壊してしまう。

  • スムージ 古い廃墟/かきまぜ棒/谺のする洞窟

新聞記者ダント・ウィラーが書いた旅行記
スムージにあるカウラー専門学校でカウラーと出会ったという内容
このとき既に、カウラーは数年前に「自然死――感染/寄生動物の進入」、つまりおそらくスライムによる寄生によって亡くなったと報じられていたのだが、実は死んでいなくてスムージに住んでいたのである。
ウィラーによるこの記事の「あとがき」によれば、その後、ウィラーはカウラーの替え玉としていくつかの式典に出席し、偽りの死の7年後に本当にカウラーは亡くなったと記している。

  • ウィンホー 大聖堂

かつてファイアンド軍に侵攻されて、陵辱された島。
カウラーが専門学校を設立するのに訪れ、また別の時期にカムストンとバーサーストが同時期に訪れ、さらにまた別の時期にモイリータ・ケイとその夫が訪れている。

インスタレーション・アーティストであるジョーデン・ヨーとタマラ・ディア・オイが、同時期にヤネットに訪れ共同制作(?)を行っていた頃のことが描かれている。三人称小説。



誰がどの章に出ていたかメモるために改めてチェックしてたら、初読時には気付かなかったけど、かなりあちこちに色んな人が再登場していることに気付いた。
バーサーストは、具体的なエピソードとして(ガイドブック形式ではなく小説形式として)描かれているところがないんだけど、登場回数は多くて、大体登場する度に、ほとんど同じようなこと(絵に描かれた女性のモデルと関係持ってたっぽい話)書かれているのが分かったりして面白かったw
時間的なことはあまり詳しく書いていないし、メモしきれなかったけど、それらも含めて色々と互いに整合しない記述は見受けられる。
登場人物やエピソードの重なりだけでなく、描かれるモチーフの呼応もある気がする。例えば、コミスはガラス板に当たって死んでいるが、シーヴルの章では、主人公のトームが研究していたのがガラスで、塔からの超自然放射を防御するのにそのガラスを使っている。グールンでは、主人公がパントマイムで見えないガラスをコミスにぶつけているし、シーヴルでは、アルスヴァンドがセックスを拒むためにベッドに見えないガラスがあると思ってねみたいなことを言っている。というか、シーヴルって途中までグールンが舞台になっているし、関係ないわけがないんだけど、シーヴルにコミスは出てこないし、グールンに塔は出てこないんだよなあ。
そういえば、コミスもチェスターも人格に裏表がある人間として描かれてたりする。
チェスターは双子がいるし、カウラーは替え玉がいるから、記述の正しさが謎めいてくる。
カウラーは、カウラーの「顕現」を否定してるけど、ウォルターもウィラーもカウラーと出会ったときにある種のカリスマを感じていた描写があって、カウラーに宗教的な力もあったかもしれない可能性は否定できないようになっている気がする。

*1:なんかの短篇を読んだことあるような気がするけど、あと映画『プレステージ』を見たくらい