イタロ・カルヴィーノ『柔らかい月』

おお、SFだなあ。
カルヴィーノはこれで2冊目。前は、『見えない都市』を読んだのだけど、それは非常にファンタジーであった*1
想像力豊かで幻想的なヴィジョンを見せてくれる作品でもあると同時に、小説って面白いなあということを感じさせてもくれる。
小説の小説としての面白さ。それはプロットとかヴィジョンとかの面白さではなくて、小説はこういう書き方もできるよっていう面白さ。そうか、その手があったか、みたいなw


三部構成の連作短編集である。
第一部「Qfwfq氏の話」、第二部「プリシッラ」、第三部「ティ・ゼロ」の三部構成で、それぞれに3〜4話ずつ短編が入っている。
第一部は読んでいて、ブラッドベリ手塚治虫を想起した*2。なにかそういう幻想的な世界、あるいはメタモルフォーゼ的な描線で描かれているような世界。あと、第一部に入っている「鳥の起源」って作品は、この話は小説よりも漫画の方がうまくいくだろうといって、コマにはこの視点からみた絵が描かれているとか、吹き出しにこういうセリフが入っているとかそういう書かれ方がされている。
第二部は、細胞の視点から描かれる恋愛小説!
これこそまさに、なるほどその手があったのか、という感じなんだけど、細胞の話をしているのだけどちゃんと小説になっている。あと、「文学」っぽいような回りくどい言い回しの文とかも出てくるのだけれど、それも何だかユーモラスな響きがするところが面白い。「2 メイオシス減数分裂)」にいたってはとんでもない(?)オチすらついている。「ちょwそんなオチかよww」という。一方、「3 死」の最後はよいSFを読んだあとに感じる「おお」っていう感覚がある。情報社会とか宇宙とかに解け広がっていく感じ(?)
第三部は、いよいよ時間とか小説とかがテーマとなっていく。大雑把に言ってしまえば、瞬間と連続といえばいいのか。しかし、描かれている状況自体は、そんな壮大なものではなくて、もっとミニマムなもので、そのプロットや状況設定の軽妙さと語られていくことの組み合わせ方が面白い。この第三部は、小説の小説としての面白さみたいなものが最も現れている。


『見えない都市』が、語ることについての小説であると同時に、幻想的な都市についてのファンタジー小説であって、その両方の側面が楽しめるように、この『柔らかい月』も、語りの技巧で魅せる小説であると同時に、SF的な風景を楽しむ小説になっていて、その両方の魅力があるというのがすごいなと思う。

柔かい月 (河出文庫)

柔かい月 (河出文庫)

*1:http://d.hatena.ne.jp/sakstyle/20090507/1241703954

*2:いやまあ自分は、ブラッドベリや手塚についてもそんなに読んでいるわけではないんだけど