『群像』『新潮』『文學界』7月号

昨日書いた記事が、深夜にアップしたために日付をまたいでいて、今日の記事と同じ日付になってしまった。

『群像』

絲山秋子「ラジ&ピース」

この人の作品を読むのはまだこれで2度目だけれど、じんわりと面白い。
主人公は、ラジオパーソナリティの女性。ラジオパーソナリティとしてはベテランの域に達しているが、スタジオの外では頑なに自分の殻を守っている。
仙台から高崎へと職場を変えて、そしてそこで友人ができる。
彼女が少し心を開いて、変わっていく様。

舞城王太郎「イキルキス」

何だこれは?!
童貞小説。
それにしても「これはひどい

大江賞記念対談

大江健三郎岡田利規
チェルフィッチュの芝居は、言葉と身体の動きが異なる。喋っているのとは、全然関係ない動きをしている。
ところが、大江が観劇した「フリータイム」で、主人公の女性が「希望の根拠」というセリフを言うときの腕の動きが、そのセリフとあたかも一致しているかのように見えた。
岡田曰く、言葉と身体の動きは親子関係ではなく、言うなれば兄弟関係。そして、その親となるのが「イメージ」。役者には、「イメージ」から言葉と動きが生まれてくる。
そしてその「イメージ」は役者にあるものであって、演出家の岡田の方にあるわけではないともいう。
岡田は繰り返し、自分の中は何もないということをいう。自分は、役者の動きを見ているんだ、という。
大江は、小説を書くとき、一回何百枚だか一気に書いた後に、それを全部やり直すという方法で書いていくらしい。
いつか、長編を書いてくださいと大江が岡田に言って終わる。

大澤真幸松浦寿輝対談「他者なき時代の自由」

大澤『自由の条件』を巡って。
その本では、社会契約論的な自由の話と形而上学的な自由の話、自由論と他者論を論じている。
自由の三分類を挙げたあと、折口信夫の自由は、そのどれにも当てはまらないという。
創造者としての自由(これが西欧の基本的な自由の考え)
自発としての自由(いわば、植物が勝手に育っていくような感じ)
3つ目はその中間だったと思うけど、忘れた。
折口のは、創造的な面もあるが、それをになうために「まれびと」の来訪がある。
大澤は、自由には他者が必要だと述べる。

中島義道「『純粋理性批判』を噛み砕く」

無条件者について。
無条件者とか全体とかは理念。理念は超越的だが、私たちが経験から理念へと超越して到達できるものではない。

創作合評

沼野、佐伯、平田
岡田の「楽観的な方のケース」について。
対談で大江も言っていたが、とにかく視点の話がずっとなされる。小説における「私」を拡張することに成功している。
「三月の5日間」では、イラク戦争が背景にあったが、今回は小麦の高騰がある。岡田作品は、何か一点で社会状況と繋がっているところがある、とか。
「悲観的な方のケース」もあるのだろうか、とか。

書評

諏訪哲史による前田塁『小説の設計図』について。
何故この人(諏訪)は、書く文章全てで自分の小説の引用を入れないと気が済まないのだろうか。
そのせいか、諏訪に、コラムとか書評とかあんまり書いて欲しくない。

『新潮』

海猫沢めろん「初恋」

レザーフェイス」という名前の男が、キリエという名前の女子大生に出会う。
レザーフェイス」は、ひきこもって(?)大量の本を読み、大量の映画を見ているが、読んでも見てもいない。彼の中には何もないし、彼の声は届かない。
彼は「サンタ」という名前を手に入れ、キリエに会いに学祭に行くが、教室に入らせて貰うことができない。
これは単なるタイミングの問題に過ぎなくて、実際には全く似ていないのだけれど、僕はこれを読んで、不意に秋葉原の事件を想起してしまった。
いや別に秋葉原の事件と絡める必要は全くないのだけど、「レザーフェイス」の空っぽ感と声が誰にも届かない感は、それなりに感ずるところがある。

書評

旅行記らしいのだが、非常に濃密な描写がなされているらしく、このサイズの書評としてはかなり長めの引用がなされている。
磯崎自身が、かなり描写に力を入れる作家なので、そういうところに注目しているのだろうかなと思う。
「過去」とはなんて遙かなものなのだろうか、ということが最後の段落で言っているけれど、これも磯崎の作品から漂っているものと近い感じがする。

小説とは、作者のためでも読者のためでも出版社や書店のためでもなく、キャラクターのために書かれるのだ、ということを宣言したことを高く評価するもの。
ところで、三浦俊彦が一体どのように文芸批評の世界に受容されたのか、あるいは無視されたのか、全く状況を知らない身としては、三浦『虚構世界の存在論』が誰にも言及されないのが気になる。

追記(080614)

全然どうでもいいことなんだけど、メモろうと思って忘れてたので追記
2chの「ブラック会社にいて……」が書籍化されていたのは知っていたけど、新潮だったのね
広告載ってた

文學界

座談会「「リアリズム小説」への挑戦状」

文學界新人賞からデビューした、赤染晶子円城塔谷崎由依藤野可織による座談会
司会が、この4人が、世間からは非リアリズム系の作品を書くと言われているのでこの座談会を企画したというと、4人は口を揃えて、非リアリズムの作品を書いている気はない、という。自分なりのリアリズムを書いているだけであり、他の人から見ると非リアリズムに見えているのかもしれないけれど、そういう意図はない、と。
この4人のプロフィールを見ていたら、4人とも院卒だった。修士、博士の別はあるものの。
女性3人は西の人で、2人が京都、1人が福井なのだが、京都の1人は北大の院を出ていて、座談会でも何度も京都と札幌の違いを語っていた。円城は、札幌出身で東北大。
座談会自体が、京大で行われたらしい。

群像 2008年 07月号 [雑誌]

群像 2008年 07月号 [雑誌]

新潮 2008年 07月号 [雑誌]

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文学界 2008年 07月号 [雑誌]

文学界 2008年 07月号 [雑誌]