磯崎憲一郎「赤の他人の瓜二つ」(『群像』1月号)

やっと先月の磯崎憲一郎が読めたよーと思ったら、今月は青木淳吾340枚だし。これもチェックせねば。
あと2月には『肝心の子供』が文庫化するので買う。
磯崎憲一郎の小説は説明するのが何とも難しいのだが、何とも言えない魅力がある。
淡々とした筆致で、次々と視点と物語がドライブしていって、ごく些細なことが書かれているはずなのにどこに連れて行かれるのか分からない。


チョコレート工場で働き、その社宅に暮らす男とその家族の物語、と一応まとめることはできる。
しかし、始まってそれほどたたないうちに、チョコレートの歴史からコロンブスメディチ家の話までもが展開されることになる。
溺死しかけた際に「これは数多くある死の中の一つに過ぎないのだな」と思うところでシンクロする、チョコレート工場で働く男とコロンブス
看護婦を結婚式の日に略奪して駆け落ちする男。
男の妹は小説家になっており、そして大学教授と不倫している。取材旅行で京都へ行き一人豪華な料理を食べ、それが生涯最後の旅行となる彼女。
その兄妹の両親は、何故かほとんど老いることなく、異常な記憶力を発揮して息子から不気味がられる。彼らは、長年住んだ社宅からの立ち退きを求められるが、そのまま残り続ける。
そしてラストシーン。
謎の感動、というか、どうやって終わらせるのかなあと思っていたら*1、確かにこれ以外終わらせ方はないだろうと思わせるような終わり方だった。

群像 2011年 01月号 [雑誌]

群像 2011年 01月号 [雑誌]

*1:どこまでも続けようと思えば続けられるようなスタイルにも思えるので