田中慎弥「共喰い」円城塔「道化師の蝶」

久しぶりに雑誌で小説を読んだ感じ。
それだけでなく、文芸誌系小説読むのも久しぶりかな。
読み終わったときの感想引用

芥川賞選評、インタビューならびに受賞作読み終わった。「道化師の蝶」面白かった!! 円城塔読むの久しぶりだったんだが、リーダブリティだったし、最後が「おおっ」って感じだった
選評では、評価する人もしない人も、実験的でわかりにくい作品と捉えていたようだが、一方自分のTLでは、(世界文学とか読んでれば)全然そんなことないだろという意見をちらちら見かけた。
ところで、世界文学なるものを全然読んでない自分からしても、そこまで難しいもんじゃないと思った。噛み砕いて整理しようと思ったら多少めんどくさい感じはするけど。
選評でいえば、川上弘美のものが納得いくもののような気がした。今までの円城作品は「死んでいて生きている猫」がいるよということまでは言えていたが、この作品でその猫の鳴き声まで聞こえたような気がしたというもの。
「共喰い」も面白かった。なんというか読みやすい。
とってつけたような感想になってしまったw 小川洋子島田雅彦が女性登場人物がよかったと評していて、実際父子の話ではなく、その周囲の女性たちのがキャラが立っていた
仁子さんの義手がね
インタビューではどちらも午前中2時間執筆の時間をとってるって話してて、そういや磯崎憲一郎も朝に2時間くらい書いてるって対談で話してたよなあとか思い出したりした。


「共喰い」は、主人公の男子高校生、その父、産みの母、義理の母、彼女、白い女が出てくる。
主人公の父は、セックスの時に必ず女を殴る。主人公は、自分も彼女に対して殴ってしまうのではないかということを怖れている。
生みの母は既に別れているのだが、近くに住んでる。で、戦争で片手をなくしてて、主人公の父親が作った義手をはめてる。その母親が今住んでる家の裏が川になってて、そこで鰻を釣るのは、父子の習慣になっているのだが、主人公の中で、鰻のイメージと性器のイメージがぐるぐると重なりあってくる。
主人公は、ついに彼女とセックスしてる時に首絞めちゃって、あーやべーってなったり、色々あったすえに、父親がその彼女のことを襲ったり、義理の母がついに逃げたしたりして、最終的に生みの母が義手で父親殺す、と。
鰻に象徴される、ぬめぬめどろどろした感覚というものが、全編にわたって詰まっていて、ラストの方に至るまでうまく組み上げられている。無駄な部分がない、というか。
田中慎弥って以前、何かを一作くらい読んだことがあったような気がするのだけど*1、その時のはあまり面白くないなあという記憶しか残っていないので、それに比べると面白く読めた。
だけど、可もなく不可もなくという感じがやっぱする。


「道化師の蝶」は、友幸友幸という謎の小説家によって各地に残された原稿を、A.A.エイブラムスという実業家が、多くのエージェントを使って集める、という話(?)
この友幸友幸って小説家がすっかり謎なのは当然として、エイブラムス氏の方も登場する度に色々と変わっていて、性別すらもよくわからない。
さらにいえば、語り手である「わたし」も節ごとに変わっている。エージェントであったり、友幸友幸っぽい人だったり、友幸友幸の小説の中の主人公だったり、そして最後にはついに、架空の蝶が「わたし」という語り手となる!
無数の言語で書かれた小説、様々な地域の技術で編まれた編み物、そして発想を掴む捕虫網と架空の蝶。
読みながら、笑えるところも結構あるし、それぞれの節も楽しいけれど、やはりラストの「わたし」が蝶になるあたりで「おおっ」ってくる感じ。
円城塔作品読むの久しぶりで、読んでない作品も増えてきたんだけれど、リーダビリティも高いと思うし、短編としての完成度も高くて(ラストがうまくしまっている感じ)、これが受賞作になったのはすごくよかったんじゃないかと思えた。というか、自分自身これ受賞作になってなかったら読み損ねるところだったし。

  • 追記20120220

「道化師の蝶」のラストで「おおっ」と感じたという感想を書いたけれど、しかしあれって『SRE』と同じといえば同じなんじゃないかという感じもしてきた。短編として終わりをうまく畳んでいるという技巧的な面で「おおっ」と思ったのだろうか。そうではないはずだがよくわからない。
川上弘美が、「今までは、死んでるけど生きてる猫がいますよと言うところまでだったのが、今回は猫の鳴き声が聞こえるようだった」というようなことを書いていたけど、その違いって何だったんだろうかなーと


文藝春秋 2012年 03月号 [雑誌]

文藝春秋 2012年 03月号 [雑誌]

*1:しかしブログに記録がないということは読んでいなかったのだろうか