大森望編『NOVA1』

ネタバレ含むあらすじ・感想

北野勇作「社員たち」

ある日、会社が沈んでしまってそれを掘り出している社員の話。
多分、一番短い作品だけれども、不気味なようなほんわかしたような(?)雰囲気を醸し出していて、冒頭にふさわしい気がした

小林泰三「忘却の侵略」

最初は厨二っぽい妄想こじらせてる少年の話かと思ったけど、そうではなかったw
目に見えない侵略者が学校に来ていて、好きな女の子を守るために戦う、という話
それだけだとなんだそれなんだけれど、戦い方が面白かった。

藤田雅矢エンゼルフレンチ

宇宙純愛SF
宇宙探査機に搭載される人工知能に人格をコピーした青年。彼はその直後に事故死し、彼のことを想う主人公は天文学者となって、彼からのメッセージを受け続ける。
途中、テレビからの電波を探査機である「彼」がキャッチするシーンがあって、テレビの電波はそんな遠くまで届かんだろと思ったのだけど、地球の外へは漏れだしているらしい。
詳しいことは知らないが

山本弘「七歩跳んだ男」

月面で起こった殺人事件。
舞台が月面という点ではSFだけれども、ストーリーはスタンダードなミステリ(事件発生→捜査→みんなを集めて解決編(簡単なミスリードもあり))。
SFっぽいものとしては、月面に関する陰謀論*1が出てくるあたりか

田中啓文「ガラスの地球を救え!」

これはSFネタSF
地球が異星人の侵略に遭うのだが、手塚治虫の霊をはじめSF作家・漫画家の霊が助けてくれるという話

田中哲哉「隣人」

これはなかなか気持ち悪くなる一品。
表面的には糞尿とかそういう系の気持ち悪さだけれど、現実崩壊していってしまう感じがきつい。
最後、ntrだし

斉藤直子「ゴルコンダ」

先輩の美人な奥さんが28人に増えてしまったーという話。
棒の手紙
少し不思議的な味わい
ところで、著者は2000年のファンタジーノベル大賞受賞後、ほとんど作家業はしておらず、活字で発表されるものとしては受賞第一作らしい。

牧野修「黎明コンビニ血祭り実話SP」

タイトルはネタっぽいが、内容はガチ。
小説の描写を直接書き換えることで戦う特殊部隊の話。
敵モンスターに勝手に注釈とかを付けられる攻撃とかされる。
最後の方、無駄に凄惨だが

円城塔「BeaverWeaver」

いつもの円城塔だった
いつものというので語弊があれば、SREっぽい円城だった。
章扉の大森コメントでは「派手なスペースオペラ」とあるとおり、宇宙戦闘ものだが、時間も論理空間も越えていく戦いが繰り広げられる。それでいて、彼と彼女の物語でもある*2

飛浩隆「自生の夢」

ありとあらゆるコンテンツをバグらせていく謎の怪物「忌字禍(イマジカ)」に対抗するために、73人を死に追いやった殺人者が召還される。
最初は、『羊たちの沈黙』っぽい感じで始まる。
ところでこの殺人者、間宮というのは既に死んでおり、ある種のシミュレーションとして復活させられている。
GoogleならぬGodel*3というサービスが、あらゆる文章や映像をデジタルアーカイブ化しており、そのアーカイブ――GodelEntangledBookshelf略してGEBが主な舞台である。
そして間宮は自らの言葉によって相手に強い影響力を行使して死に至らしめるという能力の持ち主*4
忌字禍の最初の犠牲者である、アリスという少女は詩人であり、世界的な影響力を持っていた。
字を書く者であったこの二人が、GEBというアーカイブの中で読まれる存在として再生し、会話する。

伊藤計劃屍者の帝国

やっぱり面白いなあ、これ
作品と作者を重ね合わせすぎるのはよくないとは思うけれど、重ね合わせてしまわざるを得ないのはやはり
「死後も屍者は色々と忙しい」という一節だと思う。
一種のスチームパンク的世界*5
19世紀ロンドン、ゾンビが実用化されて、屍体が労働力として使われている世界。
まだ医学生であるワトスンが、イギリスの諜報機関にスカウトされる。



*1:実はアポロは月に行っていなかったという類の

*2:なんだそれw

*3:本当はoにウムラウトついてる

*4:なので実際には直接手を下しているわけではない

*5:もっとも伊藤の言い方をするならば、『ディファレンス・エンジン』がスチームパンクではなくてサイバーパンクであるようにサイバーパンクだろう