『はじめての超ひも理論』川合光

まあ、物理は門外漢なので、内容に関してどうこういえる立場ではないが(^^;
数式を極力減らし(しかし数式の必要なところで数式を出すことには躊躇わず)、平易な文章で書いていることを考えれば、非理系向けの啓蒙書ではあるけれど、本当に全く何も知らない「はじめて」の人にはさすがに分かり難いかも(^^;;
ある程度、宇宙物理学や素粒子物理学を聞いたことがある人が、さらにもう少し知りたいと思った時によい本だと思う。
超ひも、というと、つまり素粒子をさらに細かくみるとひもになっちゃってしかも10次元なんだろう、っていう認識だったのだが、何故ひもで何故10次元って、そしてひもにしたり10次元にしたりすると何が起こってどうなっているのか、ということをちゃんと説明してもらえて面白かった
他、聞いたことある用語、「場」とか「対称性」とかがおぼろげながらイメージできたかな。
しかし、まだまだ分からないところが多かったのは確か。
強い力(の距離と強さの関係)とかデュアリティとか行列模型とか真空がたくさんあるとか……。
10次元の話を読んで、もう一度『ディアスポラ』を読みたくなったり。
プランクの話を読んでいる時は、非常に「哲学」だなぁと思ったり。時空が定義できなくなってしまうところがあるなんていうのは、うまく想像できないけれど非常にわくわくしてくる。時間がずっとさかのぼると、座標軸の0となる時間があるように思うけれど、あるところまでさかのぼると時間というものが定義できなくなって、時間が消滅してしまうのだ。そのため、時間をさかのぼっても座標軸が0になるところはない!虚時間になってしまう(虚時間というのもよく分からないけれど以前より分かった気になれた)。
素粒子物理学の話を見ているとなんだかわくわくしてくるのは、想像できない不可思議な世界がしかし数学によって描出されているからなんだと思う(10次元なんていうのは、物理学者でもイメージに書き起こすことは出来ないらしいが、数学的にはきっちりと定義されて不思議でも何でもないらしい。逆にそれをイメージ化するのがSF作家。『ディアスポラ』の中では6次元宇宙というものが描かれるのだが、そのイメージ化がなかなか面白い)
宇宙の始まりにさかのぼっていった時、あるいは自分を構成している分子をさらに細かく見ていった時に現れてくる、「ポテンシャルエネルギーをもった真空」なんてなんだか凄いと思う。
この本は、サイエンスライターやサイエンス・インタープリターというような人ではなくて、現役で超ひも理論を研究している学者の人(広い意味ではインタープリターの一人なのかもしれないけど)が書いている。それで、超ひも理論に対する彼のわくわく感も感じとれる。
最後には、著者が今まさに描き出そうとしている「サイクリック宇宙論」と呼ばれる理論が紹介されるのだが、これはまだ仮説の段階であり著者が今まさに超ひも理論を使って作り上げようとしているものなのだ。
超ひも理論は、今停滞してしまっているのだが、まだまだ可能性の残された理論であり、また今後の発展が期待されていることが分かる。ましてや、著者はその発展の担い手となるかもしれないのだから。
「サイクリック宇宙論」自体も、魅力的で興味をそそられる議論だ。
今我々の住んでいる宇宙は30〜50回目の宇宙かもしれない、というものだが、それだけなら聞いたことのある話だ。時間軸上に並んだパラレルワールドのようなものは、確か藤子SFにもあった。
これの面白いところは、単なる繰り返しなのではなく宇宙が回を追うごとに成長しているということ。
最初の宇宙は、ビッグバンが起こった後原子どころかクォークが誕生する間もなくビッグクランチによって閉じてしまう。さらに続く宇宙では、もう少しその時間が長くなっていく。我々の今いる宇宙の前の宇宙は、太陽系が生まれる前にビッグクランチを起こしたというのだ。
そして我々の今いる宇宙は?この次の宇宙は?もしかすると、この宇宙が最後の宇宙かもしれないらしい。
なんて面白いんだ、サイクリック宇宙論

はじめての〈超ひも理論〉 (講談社現代新書)

はじめての〈超ひも理論〉 (講談社現代新書)