劉慈欣『三体』

話題の中国SF、ファーストコンタクトものなのだけど、三部作の第一作目だけあって、まさに「俺たちの戦いはこれからだ」ってところで終わる。
前情報で、文革の話もあればVRゲームも出てくると聞いていて、さらには短編「円」も組み込まれているというので、一体どんななってる作品なんだと思ってたけど、なるほどどの要素もちゃんと収まっていた。
なお、タイトルは三体問題からとられている。作中に、「三体」というVRゲームがでてくるのだが、そのゲームで再現されている世界というのが実は……という話になっている。
読みやすいし、面白いし、スケールもでかいし、明らかに良い作品ではあるのが、上述したようにまだ全然話の途中であることは注意されたい。

三体

三体


主人公は2人
若い頃に文革を経験した女性天体物理学者の葉文潔(イエ・ウェンジエ)
ナノマテリアルの研究者である王淼(ワン・ミャオ)
文潔は、文革時代の経験からある信念を抱くようになり人類全体を左右するような決断をすることになる。
王淼は、軌道エレベーター実現につながるような素材の研究開発を行っている人物だが、本編では巻き込まれ型の主人公というか、科学界で起きている事件に関わることになり、その解決に動いていくことになる。


構成としては、まず文革時代の話がプロローグ的にあって、その後、現代を舞台にした話になっていく。その中で途中、葉文潔の回想が挟まったりするが、基本的には時系列順で話は進んでいく。


文潔は、父親も物理学者だが、紅衛兵のリンチにあって死ぬ。当時、大学院生だった文潔は、大興安嶺で労働するようになるが、罠にはめられ、軍事機密に指定されていた紅岸基地へと逃げ込む。
罠にはめられた際に、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』と出会っている。


それからおよそ40年後、基本研究を行っている科学者の間で不可解な自殺が続いて起きていた。
王淼は、中国軍の高官、NATOやCIAの関係者、科学者、元軍人で警察官の史強などが集まる謎の会議に招集される。そこで、この不可解な事件に関わっているとされる「科学境界(フロンティア)」への潜入を指示される。
そして、王淼は、ゴースト・カウントダウンという謎の現象に遭遇することになる。ゴースト・カウントダウンというのは、王淼は写真が趣味なのだが、その写真に謎のカウントダウンが勝手に写りこむという現象。王は、科学フロンティアの一員である申玉菲に相談にいくのだが、そこでナノマテリアルの研究を辞めるように言われる。
王は、申がやっていたVRゲーム「三体」を始める。
ゲーム「三体」は、乱紀と恒紀とを繰り返す世界で、乱紀と恒紀の規則性を見つけ出すゲーム。恒紀というのは太陽が規則的に昇り、沈む時期で、乱紀は太陽の活動がランダム。また、乱紀がいつ訪れるかもランダムで定まっていないように思える。太陽の活動のランダムさによって、極寒になったり灼熱状態になったりして、文明は何度となく滅ぶが、この世界の生き物は乱紀には「脱水」といって活動停止状態にすることができて、何度となくやり直している。
時代考証はむちゃくちゃながら、ログインするたびに、少しずつ文明レベルの進んだ世界になっている。
太陽の動きがランダムなのは、恒星が3つある三重星系の惑星だから。三体問題をどうにかして解くために、コンピュータを作ろうとしたりする(この部分が改作されたのが「円」)
一方、王は申に対して、ゴースト・カウントダウンのようなトリックには騙されないというのだが、すると、申は宇宙背景放射を指定の日時に観測するように言ってくる
王は、自殺した宇宙物理学者である楊冬(ヤン・ドン)の母親、葉文潔から、宇宙背景放射の観測施設を紹介してもらう。文潔は、文革が終わったのち、大学教員として復職していた。
宇宙背景放射が突如として、カウントダウンのモールス信号を送ってくる。


科学者たちの謎の自殺の背後にあるのは一体何なのか(楊冬は、物理学には何もなかったといって死んでしまった)
王に降りかかった、宇宙背景放射をも操るゴースト・カウントダウン現象は一体何なのか
VRゲーム「三体」で描かれている世界は一体何なのか


これらの背後にいるのは、地球三体協会という謎の組織で、その総帥こそ葉文潔に他ならなかった。
再び、葉文潔の回想が始まる
彼女が逃げ込んだ紅岸基地で行っている実験は、SETIだった
文潔は、太陽ノイズの除去を研究していたのだが、その中で、太陽がある出力以上の電波を増幅するレンズ効果を持つという考えを持つにいたる。
それを検証するために、文潔は密かに太陽に電波を送信する。そしてそれは、三体世界によって受信されることになるのだった。
そして文潔は、人類のあり方をただすためには、人類以外の力を借りなければならないと考えるようになる。
これがのちに地球三体協会へとつながっていく


アルファ・ケンタウリってそういえば三重星系でしたねっていう
三体世界が、地球人類への侵略を行おうとしていて、三体協会はそれに協力している
ただ、三体協会のなかでも、3つの派閥が対立しあっている。
で、三体協会の中で特に人類滅亡を目的とする降臨派は、三体世界からのメッセージを協会内でも独占している。そのメッセージの受信設備を有しているタンカーがあって、三体世界と戦うには、このメッセージが保存されているコンピュータをどうにかして奪わないといけない。
そこで、史強が考えだした作戦が、王淼の開発しているナノワイヤーを使ってタンカーを切断してしまうという代物だったりする。
で、そのメッセージを奪取し、三体世界のテクノロジーが判明するのだが、これがまたすごい。陽子の中に折りたたまれている11次元を2次元に展開し、一つの陽子を人工知能に作り変えてしまうという、全く訳の分からない代物
このタンカー切断と、陽子AIが、なかなかトンデモなくてすごかったなーと