大塚英志『ミュシャから少女まんがへ 幻の画家・一条成美と明治のアール・ヌーヴォー』

明治期における日本のミュシャアール・ヌーヴォーの受容を、与謝野鉄幹が主宰した『明星』とその表紙・挿画などをミュシャ風の絵で飾った一条成美を中心として見ていく本
文学において「内面」が発見されていった過程に、ミュシャ様式の絵がいかに併走していったか、という話
明治期の日本文学・美術史として読むことができるだろうし、また『明星』という雑誌を中心に展開されていくのでメディア論的な話かもしれない。実際、『明星』をはじめ、当時の文芸誌ではハガキなどによる投稿を受け付けていたといい、大塚はこれをSNSに喩えていたりもする。
また、当時『明星』の売り上げを一気に押し上げた立役者でありながら、現代では全く知られていないといってもいい一条成美という画家について紹介している本ともいえる。
(『明星』と関連しアール・ヌーヴォー風の絵を描いたといえば、むしろ『みだれ髪』の表紙も描いた藤島武二の名前があがるだろう。一条は、藤島の前に『明星』の表紙などを描いていた画家である)


ひらりん・大塚英志『まんがでわかるまんがの歴史』 - logical cypher scape2において、少女まんがの起源としてのミュシャ(とその明治期における受容)について触れていたのを読んで、そのあたり気になっていたので、この本も手にとったのだが、上述した通り、この本は主に明治期の自然主義文学を巡るものとなっており、直接的に少女まんがの話をしているのでは最後の1割くらいしかない。


なお、みんなのミュシャ展 - logical cypher scape2とももちろん関連しており、大塚はこのミュシャ展の「アドバイザー」となったために、書かれた本ということである。
あとがきによれば、木股知史の研究を下敷きにしているものだとのこと。
この本の大部分は件のミュシャ展とは独立して読めるが、後半の方は、「このあたりの話、ミュシャ展で見たなあー」というものが結構あるので、両方おさえておくとなおよし、という感じである。
ところで、ミュシャ展のミュージアムショップでこの本見かけなかったんだよな……前のスラブ叙事詩の時のミュシャ展にあわせて発行したと思しき本は置いてあったのに……売り切れていただけだよな、きっと

序 明治のアール・ヌーヴォーとは何であったのか
 1 少女まんがは「伝統」起源か
 2 明治のミュシャ様式の成立とその特徴
 3 明治の投稿空間とミュシャ様式のアイコン
 4 明治国家とミュシャ様式
第一章 明治ラファエル前派と投稿空間としての『明星』
 1 柳田國男の恋を描いた挿画家・一条成美
 2 明治のラファエル前派兄弟団と追われない青春
 3 編集者・与謝野鉄幹と投稿空間としての『明星』
 4 一条成美、ミュシャローカライズする
 5 『明星』はミュシャをいかに受けとめたか
 6 白馬会と『明星』
第二章 言文一致と日露戦争
 1 『遠野物語』の表紙に佐々木喜善は何を見たか
 2 新派としての柳田國男
 3 日記文と「私」
 4 日露戦争ミュシャ様式
第三章 明治のミュシャ、一条成美とその運命
 1 インスピレーションの画家
 2 「文壇照魔境事件」と一条成美の移籍
 3 『新聲』時代の一条成美
 4 一条成美の方法
終章 ミュシャから少女まんがへ
 1 一条成美とミュシャの忘却
 2 水野英子――ミュシャの帰還
あとがき
参考文献