「ル・コルビジェ 絵画から建築へ――ピュリスムの時代」

西洋美術館
GW中という、明らかに美術館・博物館行くには向いていない日程に行ったのだが、全然混んでなかったw
チケット売り場には列ができていたし、人はもちろんかなり入っていたのだけど、鑑賞するのが難しいような混雑ではなかった
西洋美術館は過去にも行ったことがあるのだが、企画展やってる場所の内部を全く覚えていなかった。
コルビジェの設計した美術館であり、展示室内部にある窓とかにコルビジェっぽさがあるような気がした。
順路が複雑で自分が今どこにいるのかわからなくなってくるのだが、不思議と動線が混乱することのない配置になっていた気がする。


さて、今回のコルビジェ展であるが、タイトルでも示されている通り、彼の絵画作品に着目したものになっている。
今回全然予習していなかったのだが、コルビジェキュビスムみたいな絵も書いていて、今回、ピカソとかブラックとかキュビスムの作家の作品も来ている、と聞いて見に来た感じだったわけだが、
これがかなり面白かった、というか、「ピュリスムー、お前らーw」みたいな感じだった
ジャンヌレ(コルビジェの本名)とオザンファンは、第一次大戦終了後(1918年頃)から、キュビスム批判を行い、ピュリスムという運動を始めるのだが、
素人目には「いや、これキュビスムと何が違うの?」的な作品が並んでいる
で、1921年以降、キュビスムの画家たちと交流を持つようになり、キュビスムへの誤解が解け、キュビスムいいじゃんという手のひら返しがくるのである
そこから、キュビスム画家たちの作品が展示されるのだが、「あ、キュビスム画家の作品の方が、明らかにいい」というのが分かる
正直、オザンファンとジャンヌレの絵は、キュビスムピカソ、ブラック、レジェ、グリス)の絵に今一歩劣る感じがするのである
この何というか、キュビスムを批判しピュリスムという運動を作ってみたが、実はその批判は当てはまってない上に、キュビスムの方がやっぱすげーじゃん、というのが分かってしまい「ジャンヌレ、オザンファン、お前らどんまい」って思わざるをえない感じ
コルビジェ、お前、絵画から建築いってよかったな」っていう
我ながらひでー感想だなと思うけど、こういう見方ができる展覧会ってそうそうないし、とても面白かったと思う。

1階

19世紀ホールと呼ばれる場所に、コルビジェ建築の模型が何点かと解説ビデオが展示されている
パリの住宅計画としてコルビジェが提案していた「ヴォワザン計画」と、そのための集合住宅「イムーブル=ヴィラ」の模型があるのだが、この集合住宅、各戸にピアノ室があるように見える。なぜ?!

1 ピュリスムの誕生

ジャンヌレ(コルビジェ)とオザンファンは『エスプリ・ヌーヴォー』という雑誌*1を創刊し、そこでピュリスムとしての活動を行う
近代化とか機械とかを礼賛する感じの思想だったみたい
コップとか瓶とかあるいはバイオリンとかいったモチーフを使った静物画で、モチーフもキュビスムっぽいなあという感じがある
この頃はまだ立体感が残っていて、影とかも描かれている
瓶の側面を横から、口を上から描いてそれを組み合わせるという手法だけど、ビンの口がきっちりどれも正円。ヴァイオリンの輪郭をすごくそろえていたり(オザンファンにその傾向が強い)、ジャンヌレの「白い椀」を見ると、お椀の影と紙筒の角度がぴったり揃えられていたり
とにかく、幾何学的な秩序を重んじていた、というのがすごくよくわかるのだけど、よくも悪くも几帳面すぎるというか、うーん、なんか物足りないなーという感じがしてしまう

2 キュビスムとの対峙

タイトルこそ対峙だけど、キュビスムと対立したというよりは、キュビスムの画家と仲良くなって吸収していった時期
1922年以降、キュビスムの技法を吸収したオザンファンとジャンヌレの絵は、完全に平面的になっていく。
その前に、キュビスム画家たちの作品を見ると、オザンファンやジャンヌレほど、きっちり幾何学的な秩序にそって、角度や線を揃えるということはしていない、というのが分かる。画面全体の中での構図のバランス・収まりのよさ、色の配置のうまさが目に付く
ブラック「ギターとグラス」は、画面の中に菱形でちょうどおさまるようにものが配置されている
ピカソ静物」は、チラシにも載っているが、輪郭線と青・白・赤などの色面がそれぞれ異なっていて、それが重なりあわされている。一応、かろうじて真ん中にギターがあるなって分かるけれど、めちゃくちゃ平面的で抽象的な画面構成になっている
ファン・グリス「果物皿と新聞」も、画面の上にある半円と下にある机の脚が青くて、机の面が茶色くてそこに文字があって、という構図と色の配置のバランスがよい
レジェの「2人の女と静物」「2人の女」は、背景がカラフルでリズミカルな感じ。レジェ作品は、ほとんど全てで、人体が描かれているのが他のキュビスム画家と違うところ。人体の丸みがグレーっぽい色で描かれていて、独特さを出している。
で、これらの作品は1917年~1922年までに描かれている作品
この後に、1922年に描かれたオザンファンの「和音」、23年に描かれたジャンヌレの「多数のオブジェのある静物」があって、まあ、やっぱりなんというか「うーん」感が否めない
「和音」は、ギターと水差しの曲線をそろえたよって感じの作品だし、「多数のオブジェのある静物」は、画面が平面的になって色鮮やかになってと思うけど、逆に細かく分けすぎ、要素多すぎとなってしまっている感じ

3 ピュリスムの頂点と終幕

なんか色々あって、コルビジェとオザンファンは仲たがいしてしまうらしい
同じくらいの時期に、コルビジェはオザンファンのアトリエを設計してるっぽいけど
機械が好きっていう点で、レジェはピュリスムの思想と共鳴したらしい。
レジェの「バレエ・メカニック」という16分ほどの映像作品があるのだけど、面白いカオス動画と機械の動画を集めたよって感じの作品になっていて、とてもよかった。女性がブランコ漕いでる映像とそれを上下反転させた映像、女性の目だけの映像、口だけの映像、なんか万華鏡みたいな奴でくるくる動かしている映像、ひたすら色々な機械のピストンや歯車の動作を撮った映像各種、だんだんリズムが速くなっていくのも楽しい。最後は、キュビスム風の人間の絵を動かしたアニメーションもある。
レジェの「無題」は、写真(双眼鏡の写真と工場の写真)のコラージュを組み合わせた絵
このあたり、1924、25年の作品なんだけど、シュールレアリスムっぽさもあるなあと思った。
オザンファン「真珠母No.2」、ここまでさんざん言ってきたけど、これはよい作品だと思った。キャンパスが大きくなっていて、余白がすごくとられている。描かれている形の構成の仕方ははやはり同じなのだけれど、余白を大きくとって真ん中にまとめるというので、洗練されたように見える。真珠っぽい色で概ね色が統一されていて、一か所だけ深い赤でアクセントがついている、という色配置も。

4 ピュリスム以降のル・コルビジェ

1925年に、建築論を発表していくようになり、ジャンヌレはル・コルビジェとなっていく。
一方、絵は描き続けたが、それは個人的活動となり、展示会への発表はしなくなっていく。
コルビジェの家具が展示されていたり、この時代のコルビジェの絵、それからコルビジェの本の日本語訳のが展示されていたりする。前川國男訳の本があったりとか。
で、この時期の「灯台のそばの昼食」(1928)と「レア」(1931)*2とがよかった。
直線・円の組み合わせ、幾何学的なものが前面にでていたピュリスム時代に対して、柔らかいものが入ってくるようになる。「幾何学と自然」と展示の説明があった。
灯台のそばの食卓」は、ぐにゃぐにゃした柔らかそうなスプーンとかが置いてあって、画面の下の方にちっちゃく灯台が描いてあったりする。平面的な輪郭線と立体的な食卓・スプーンとかが同居している絵。
「レア」も、なぞのぐにゃぐにゃした青いものがあって、きっちり幾何学的に描かれた戸とか机とかがある。戸に鍵穴が描かれているのがちょっとユーモラス


ピュリスムのあたりを見てると、コルビジェ、ほんと絵から建築にいってよかったなと思うし
逆に、キュビスムの画家には建築はさせたくないなって思うんだけど
コルビジェの建築って、四角四面で作られてるけど、丘とかにあって、周囲の自然と組み合わせられることで、よい作品になっているのではないか感がある

常設展

そのまま、ほぼシームレスに常設展へとつながっていたので、常設展も鑑賞
いきなり19世紀に飛ばされる上に、ブーグローとかアカデミズム絵画とかなので、チューニングあわせるのが大変。常設展は、わりと流した。
メモってあった固有名詞を並べてく
コロー「ナポリの浜の思い出」何となくメモったけどなんでだ
ルノワール「木かげ」検索してみたら、以前西美で見た印象派展か何かでも、これとよいと書いていた
モネは「セーヌの朝」ち「ウォータールー橋」がよかった
シャヴァンヌ「貧しき漁夫」北方ロマン主義感あるなーと思ったら、以前別の展覧会でも見てて同様のこと感想に書いてた
ラファエル・コラン「楽」「詩」新収蔵品らしい。なんか、ラファエル前派とかそのあたりっぽい? と思ったけど帰ってから調べてみたら全然違った。


常設展示室の途中で、林忠正展というのやっていた
ちゃんと見なかったけど、1878年のパリ万博に通訳として参加、そこで日本の美術・工芸品が人気だったのを見て、美術商をはじめ、その後の様々な万博で日本美術をヨーロッパへと紹介。一方で、ヨーロッパ美術を日本へ紹介する役割も果たした人、らしい
没後、そのコレクションは散逸してしまったとか
エッフェル塔三十六景が何枚かあったのでそれだけ見た


ハンマースホイがあった
デュフィモーツァルト」これだけ見ると、佐伯祐三に似てる? と思ったが、家帰ってググってみたら全般的な画風は全然違った
グレーズ、キュビスムの画家だが、モチーフとしては農夫などを描いた。めっちゃでかいのが展示してあった
エルンスト「石化した森」エルンストを見るの久しぶり
ミロ「絵画」(1953)
ミロって高校生くらいに美術の教科書見てる時には、中二病的な逆張り(?)的に好きだったんだけど、どっかで実際に見たときに、別にそんなに好きじゃないかもって思ったのが、今回、この作品は結構好きかもってなった。
グレーの背景に、赤い太陽がどんと描いてあって、それが黒く縁取りされている。その黒のぼんやり感
隣にフランシス「ホワイトペインティング」(1950)というのもあったけど、これも塗りにぼんやり感があり、この輪郭のぼんやり感みたいなのは、自分わりと好きだなと思う。ロスコもそういうところが好き。

*1:この雑誌がずらりと展示されていたが、所蔵が大成建設だった。他にも、コルビジェの絵をいくつか持っているみたい

*2:スペルはLeaでeにアクサン