上田岳弘「ニムロッド」他(『文藝春秋2019年3月号』) 

上田岳弘は上田岳弘『太陽・惑星』 - logical cypher scape2上田岳弘『私の恋人』 - logical cypher scape2を読んでいて、「ニムロッド」も『群像』に掲載された時点で読みたいなーと思ってたんだけど(いや、ほんとに)、今度でいいかーと思っているうちに芥川賞をとっていた

文藝春秋 2019年3月号

文藝春秋 2019年3月号

宮本輝インタビュー

選考委員として振り返る話
本人も芥川賞受賞作家だが、芥川賞にはかなり憧れがあったとか
石原と同じ時期に選考委員入りらしいんだけど、普通はなった順に席についていて、宮本は下座にいたけど、石原は芥川賞とったのが早くてもっと上座の方にいて「シャブリもってこい」とか言ってたみたいな話をしてて、あまりにも石原っぽすぎる

金原ひとみ綿矢りさ対談

受賞当時から最近の話まで
金原は受賞当時、来る仕事は全部受けていたのだが、一方で、綿矢は大学の単位がやばくてほとんど断っていたらしい。で、当然、その時は二人そろっての対談仕事の依頼とかも来るのだが、金原がokだしたあと、綿矢から断られるものだから、金原は「あたし嫌われてる?!」ってなっていたらしいw
結構親しいらしく、金原がパリへ移住した後だが、綿矢から恋愛相談したりとかがあったらしい

選評

今回、ほとんど意見が割れてなくて、ほぼ一致団結して古市disってたのではという感じw
川上弘美が唯一好意的だったと思うのだけど、「読み返してみるとちょっと」みたいなことを最後に書いていて、選考の場でフルボッコだったんだろうなーと思わせるものがあった
「ニムロッド」含む受賞2作については文句なく高評価という印象。あと、高山羽根子の「居た場所」が3位につけていたのかなという感じ。

上田岳弘「ニムロッド」

僕こと中本哲史とニムロッドこと荷室仁、そして僕の恋人である田久保紀子の3人の物語
ニムロッドは、会社の同僚で、働きながら作家を目指している。最近は、僕に対して「駄目な飛行機コレクション」というよくわからないメールを送ってくる。
僕は、社長の思い付きで、社内の使われていないサーバを使って仮想通貨を採掘する仕事を始めることになる。


SFっぽさというか、壮大さ・大風呂敷なところがかなり減っており、そのあたりでちょっと以前感じていた面白みが薄れてしまった感じはする
上田作品にたびたび出てくる、進化した人類とかそういうような奴は、ニムロッドの書いている作中作で出てくることは出てくる
仮想通貨については、記帳していくことが信用を担保しているという仕組みと、ものを書くみたいなこととがちょっと連想的につなげられていると、あと、ニムロッドの作中作において、人類が個を消し去って一つに溶けあった後も、価値を持ち続けるものみたいなモチーフとして使われている
ただ、この作品は仮想通貨小説ではない。
人類、かろうじてなんとかやってんけど、あれだなみたいな話で、あー、遠藤浩輝の「Hang」がちょっと近いかもしれない。内容とか描き方とかは全然違うけど。


「僕」は、何もないときに突然涙が流れてくるという体質で、ニムロッドは、涙が流れたときには連絡して見せてくれ、と言っている
で、ある時、そのタイミングがあったので、会社のテレビ会議システムでつないで見せて、そして、田久保からも頼まれていたので、そっちにも連絡する。ニムロッドと田久保はそれぞれ、僕が相手に話をしていたりはしていたけれど、初対面
っていうシーンが、なんかクライマックスになっていて、それを最後にニムロッドとも田久保とも連絡がとれなくなって終わる。


そこそこ面白い小説のような気はするのだけど、選評の高評価っぷりもちょっと謎、みたいなところはある。
芥川賞にチューニングして書いたというような話も聞くので、そういうところもあるんかな