『日経サイエンス2017年3月号』

特集:脳を作る 脳を見る

実験室で誕生 脳オルガノイド  J. A. ノブリヒ

オルガノイドとは培養された臓器のこと
体細胞から幹細胞を作り、そのうち神経性外胚葉を培地で培養して、人間の脳のオルガノイドを作る研究
医学的な研究を目的としている。
マウスによる実験だと、人間にはあってマウスにはないような遺伝的特徴が関係する病気などには使えない。
が、脳オルガノイドは、人間の細胞から作った脳なので、その点問題はない。
まさに、水槽の中の脳とでもいうべきものが作れるようだが、筆者によれば、感覚器は生成されないので、この脳が何かを考えたり意識をもったりすることはないという。
また、この記事を読む限り、左右の軸がなかったり、血管がなかったりなど、実際の脳とは違うところも色々あるようだ(血管については今後の課題として、いずれ作るつもりのようだが)
ジカウイルスの感染による子どもの小頭症の研究に実際に使われている

透明化で見えた脳回路 CLARITY法の衝撃  K. ダイサーロス

脳は不透明なので、奥の方まで見ることができない(体を透明にするよう進化した動物も、神経系は透明にできていない)
ハイドロゲルポリマーを(遺体の脳に)注入することで透明化し、蛍光することで、神経細胞の結線を見えるようにする技術(CLARIY法)を開発
やはり筆者が開発したもう一つの技術「オプトジェネティクス」と組み合わせることで、脳機能をより明らかに。オプトジェネティクスは、脳内の要素を光によってオンオフする
オプトジェネティクスで、ある経験をしているときに活性化する市安房集団を特定。CLARITY法で、その細胞集団がどのように配線されているかを観察

ドラマチックだった太陽系形成  L. T. エルキンズ=タントン

磁気を帯びた古い隕石の発見
太陽系形成期の微惑星は、熱くならないので磁場は生じないと考えられていたが、この発見により、ダイナモ効果による磁場が生じていたと考えられるようになった。
アルミニウムの放射性同位体の放射熱が熱源
また、年代測定の発展により、太陽系形成が従来考えられたよりも早く進んだことが分かってきた
原始惑星系円盤の寿命は300万年(!)
小惑星プシケの探査で、本当に小惑星に磁場が生じたか調べる(2023年打ち上げ2030年到着予定)
筆者が、高校時代に習ったものとはまるで違う云々ということを書いていたのだけど、アメリカの高校だと太陽系形成理論って習うのだろうか。自分は高校時代に地学選択してなかったので、日本で習うかどうかよく知らないけど

新発見! 文化が促すシャチの種分化  R. リーシュ

種分化には、異所的種分化(地理的隔離)と同所的種分化があり、従来は前者のみと考えられていたが、現在では後者も あることが分かっている。それでも、哺乳類による例は見られていない。
シャチは、海に生息し、長距離を泳ぐ能力もあり、地理的には隔離されていない。
一方、同じ海域に生息していても、食べるものの違いで「エコタイプ」と呼ばれるグループに分けられることが、研究によってわかってきている。アザラシを好むグループとか魚を好むグループとか。
そして、このエコタイプ間では、交流がないということだ。
水族館などでの交配によれば、異なるエコタイプ同士のつがいからも、繁殖能力のある子が生まれているので、まだはっきりと種分化したとはいえないが、このままの状況が続けば、いずれこのエコタイプの違いにより種文化していくのではないか、と。
で、このエコタイプの違いというのは、文化的な違いだとされている。
遺伝的な差ではなく、後天的に獲得されている違いだから。
食べるものの違いは、狩猟スタイルの違いとしてあらわれているほか、シャチは音を使ったコミュニケーションをとるが、この音の使い方もエコタイプによって異なる(アザラシなどをとるグループは、獲物に気付かれないように音をなるべく使わないが、魚をとるグループは、そういうことがない)。
さらに、よく使う音のパターンみたいなものが、家族グループごとにあって、音の類似が遺伝的な近縁とよく一致しており、交配の相手を、なるべく違う音を使う者から選ぶという行動もみられるという。
こうした文化による隔離は、人類における乳糖耐性の進化などにも考えられるのではないか、と述べられている。

「ノー」と言えるロボット  G. ブリッグズ/M. シューツ

反乱よりも、人間による不完全な命令などの方がロボットにとっては問題だろうという話

サイエンス考古学

クジラを食べる/磁石の進歩/空飛ぶ車/働く女性/鉄道と水運
100年前の記事。空飛ぶ車構想、複葉機の時代からあったのか

フロントランナー挑む 「世界」を理解するため人工知能をつくる  松尾豊(東京大学

情報系の分野では、研究と起業は一緒というような話

NEWS SCAN

●海外ウォッチ
  • サルが作った石器

サルが、石の中のミネラルを舐めるために石同士を叩き割って残された石の形状が、オルドワン石器やそれよりさらに古い石器と見分けがつかないという例が発見されている。
これらのサルはこうした石を道具としては使っていない
現在発見されている石器については、石だけでなく、それを使用した痕跡もあわせて発見されているので、このことによって、直ちに最古の石器などに実は石器ではなかったという疑いがかかるものではない。

  • 視覚を備えた植物

1907年に植物に眼点細胞というものが発見されており、植物に「目」があるかもしれないという考え自体は古いが、最近になって再浮上
2016年、シアノバクテリアが細胞体全体をレンズとして利用して細胞膜に像を投影していることを発見