渡辺公暁『分析美学エスティシャン』

高田さんの形而上学刑事シリーズ*1の二次創作
"分析美学エステティシャン"という推理小説を書きました - kugyoを埋葬する
http://d.hatena.ne.jp/kugyo/20150523/1432385847
31世紀の未来、様々な科学技術の発展により、形而上学的な問題(人の同一性、時間とは何か、ロボットの責任とは)が今までになく身近になった時代。形而上学を利用した犯罪も発生するようになり、警察にも哲学的論証が求められるようになった。その名も形而上学刑事。
『分析美学エステティシャン』シリーズは、同じ世界観をもとに、美学的問題を扱う。
形而上学刑事シリーズと同じく、物語のキーポイントとして哲学的論証が出てくるのだが、これにアクションシーンなどが絡んできて面白い。
31世紀の未来が舞台で、アシモフロボット三原則


一作目の「抽象物としての芸術作品」では、『美そのもの』という芸術作品が、ロボット警備員によって警備された密室状態の宇宙船から消えてしまう事件から幕を開ける。
ところ変わって、ティロマと相棒のロボット9Bは、分析美学を使うセラピストである分析美学エステティシャンであるヘロンをヘッドハンティングすべく、ヘロンのつとめるサロンを訪れる。しかし、そこに犯罪組織の急襲がある。
9Bは武装しているが、ロボット三原則により人間に対する殺傷兵器の使用をしないように出来ている。一方、ティロマとしては、犯罪組織と戦闘するためには、9Bの兵器で人間も攻撃してもらえないと困る事態もある。そこで、ティロマは、倫理学的論証や形而上学的論証でもって、9Bが人間に対して殺傷兵器を使用してもロボット三原則に違反することにはならないのだと説得するのである。
論証が、アクションシーンをより緊迫感のあるものに高めている、というのが面白い。
『美そのもの』盗難事件については、ヘロンが論証を組み立てて、犯行方法を説明してみせる。
悪の哲学者組織が存在しているのも面白い。

二作目の「同一都市」は、ヘロンがまだエステティシャンでなかった頃の話。恋人ボーンの誘いにのって、同一都市へと訪れる。
 2つの衛星にそれぞれあるデュプリカトゥス市とレプリカトゥス市は、無数のマイクロマシンなどによって、完全同期しており、見た目も何もかも全く同じにできており、片方で何か変化が起きると、すぐさまもう片方でも同じ変化が落ちる。違いは、デュプリカトゥス市には人間がいるが、レプリカトゥス市の方には人間はいなくて、デュプリカトゥス市で人間が居るところに代わりにドローンみたいなロボットが浮かんでいる。
その特異性から、芸術家達に愛好され、多くの芸術家が作品制作を行っており、またそれが重要な観光資源ともなっている。ところが、この都市の性質に目をつけた科学者たちが、ここに観測施設を作ろうと画策しており、そこに悪の哲学者組織〈有限責任会社abc〉が一枚噛んでいる。施設をつくるために芸術家を追い出したいと考えている。芸術家達は「2つの都市の同一性」に魅せられており、逆に言えば、同一性がなくなれば芸術家たちは離れるのではないか、と。
こちらの作品では、なんと都市の地下から得体の知れない宇宙怪獣が現れてくる。
どうすれば、都市の同一性は失われるのかという論証もさることながら、片方の都市には人間がいて、片方の都市には人間がいない、それでいて同期しているという情景がSFっぽい都市の雰囲気をうまく醸し出していて、宇宙怪獣との対峙の仕方にもうまく活かされている。