パオロ・バチガルピ『シップブレイカー』

バチガルピの長編第二作で、もともとYA小説だったらしいが、まさにバチガルピ的なエッセンスはそのままでジュブナイルな感じになっている。
地球温暖化が進行し、多くの都市が水没したアメリカ。
主人公であるネイラーは、廃船から金属を回収するシップブレイカー(解体作業員)として働いている。
超大型ハリケーンに海岸一帯が襲われた翌日、打ち上げられた船の中で美しい少女、ニタを見つける。
ネイラーは、ニタと出会うことで、この過酷なシップブレイカーとしての生活から抜け出す道を歩み始める。
というわけで、物語的には結構王道な感じ


シップブレイカーというのは、海岸沿いに掘っ立て小屋をたてて暮らしていて、廃船に潜り込んで金属を回収して生計を立てている。
大人達は重作業クルー、子供たちは軽作業クルーという感じに分かれているのだが、元締めの人間に認められないとクルーの一員にはなれない。また、軽作業クルーというのも、狭いダクトの中に潜り込めるくらい小柄でなければならず、10代も半ばをすぎるともうクルーとしていられなくなる。この作業自体、廃油や化学物質まみれになりながら細々と金属を回収するという、なかなか過酷なものなのだが、みなクルーの座を守ることに必死になっている。ただ、クルーではなくなった者がどうやって生きていっているのか、ということについて具体的な記述はない(人身売買や臓器の売買をしていると思しき「ライフカルト」なる集団が存在していることなどは書かれている)。
むろん、彼らはまともな教育は受けておらず、読み書きはできないし、ネイラーは自分の年齢も正確には把握していない。
一方のニタは、世界的な貿易商の娘なのだが、父親と伯父のあいだの勢力争いに巻き込まれ、逃走の途中、ハリケーンに遭遇してしまった。ネイラーとは全く住む世界が違う超お嬢様なのだが、世間知らずというわけでもなく聡明で、自分の置かれた状況に即座に適応できる。そんなニタに、ネイラーは一目置くようになるし、ニタもネイラーを信用するようになる。
ネイラーは、ニタとの出会いを、大金を得るチャンスではなく、新しい世界へと自分が旅立つチャンスと気付いていた。だからこそ、ネイラーは、ニタを売ることができる機会が何度もあったにもかかわらず、より危険と思われる方を選んだ。


運を掴み、それをいかに生かすのか、ということが物語を動かしていくテーマであるが、一方で、家族の絆とは何なのかといったテーマも次第に現れていく。
というのも、ネイラーの父親というのが、ヤク中で凶暴な男であり、ネイラーは父親との対立を余儀なくされていくからだ。
また、ネイラーの属する軽作業クルーのリーダーであるピマと、その母親であるサドナは、ネイラーを実の家族のようによくしてくれるのだ。


この世界には、人間と狼や虎などの遺伝子を組み合わせた「半人」と呼ばれる生き物がある。
基本的に半人たちは、金持ちのボディーガードなどをやっているのだが、トゥールという半人は少し違っていて、物語の中でひときわ魅力的なキャラクターとなっている。
訳者あとがきによると、バチガルピの次回作は、このトゥールについてより詳しく描かれるらしい。また、少年兵の話でもあるらしく楽しみ。


シップブレイカー (ハヤカワ文庫SF)

シップブレイカー (ハヤカワ文庫SF)