『SFマガジン2012年4月号』

「ベストSF2011」上位作家競作

円城塔「FourSeasons3.25」

民意の叶う願いなら何でも全て叶う街。「おれ」は隙間理論を駆使して、時をが逆行することを決めた。
「隙間理論」とは、宇宙に無限に広がる不確定な領域(隙間)を利用したもの。
時を逆行する「おれ」の目的は、妻の不倫に対処すること(妻の不倫そのものは既に確定しているので、時を戻っても変えることができない)
なるべく目立たないように行動していた「おれ」の前に、しかし、謎の女が現れて。
円城節で繰り広げられる、タイムトラベルSF

グレッグ・イーガン「対称(シンメトリー)」

初出は92年の作品だが、地球周回軌道上の宇宙ステーションを舞台に、データ化されていない生身の人間が宇宙に進出しているという、イーガンとしては珍しいタイプの宇宙SF。
軌道モノポール加速器施設で事故が起きて、現場に向かった救助班と科学ジャーナリスト。そこには、四等価次元空間が現れていた。

瀬名秀明きみに読む物語

これはなんだか刺さるものがあった。
作中、SQ(シンパシー・クォーシェント)という指数が出てくる。
これは小説作品と読者それぞれに適用されるのだが、小説に共感することのできるレベルである。成人の多くはSQレベルが3であり、そういう人にとっては、同じSQレベル3の作品が最も読みやすく、それより高いSQの作品は難しく感じるようになる。
この指数が公開されたことによって、様々な影響が出ることなどが描かれているのだが、瀬名自身を半ばモデルにしているかのような人物が出てきて「彼の作品のSQレベルを発表順に解析した人がいる。彼がなぜ人気を失っていったのか、それを見た人ならば分かるだろう」とか書いてあって、なんかこう、お前ちゃんと読めよって言われているような感じがして、うああってなった。
SQとか本当にあったら、多分自分は低いだろうなとか思うし。
いつもの瀬名作品と同様、物語とは何か、SFとは何か、ということを直球から書いているのだが、しかしそれが結構難しくて、また今度じっくり読まなければと思っている。
いつか、瀬名秀明論って書きたいんだけどってずっと言ってるけど、全然進んでない……。
ところで、予定されていた小説連載が中止になったってあるんだけど、何があったんだろう。

三島浩司「懸崖の好い人」

なんだこれ、SFじぇねえ! 盆栽小説だ!
突然、盆栽に目覚めたある男が、盆栽の匠のもとに弟子入りする。その匠には2人の娘がいた。おとなしい姉と快活な妹。男は姉の方から好かれていたが(弟子入りがうまくいったのもこのため)、男の方は妹に惹かれていた。
妹の方は別の男と結婚し、主人公の男は姉の方と結婚することになる。
だが、男はある盆栽を妹に見立てて枝を矯めたりすることにはまっていく。そして、その盆栽の枝が折れたりするとそれにシンクロするように、妹の方も怪我したりする(ここらへんがSFなの?)。

パオロ・バチガルピ錬金術師(前編)」

なんと異世界ファンタジー
毒を持つイバラが多くの街や山などを侵攻し、人の住める範囲がどんどん狭くなっている世界。
魔法が使える世界なのだけど、実は、魔法を使うとそれによってイバラが増えるために、使用が禁止されている。
かつて、ガラス細工や金属細工によって財産を得ていた錬金術師の男は、今ではすっかり落ちぶれていた。数多くいた使用人も今では1人が残るのみであり、家財道具も売り払わなければいけない状況。1人娘は咳の病を患っており、魔法を隠れて使うことで何とか治療していた。
しかし、男は15年かけてついに、イバラを消滅させる錬金術の道具を開発することに成功。市長のもとへと持って行くのだが。
異世界ファンタジーということで、出てくるものは全然違うのだけど、でもやっぱり主人公や世界が陥っている状況とか、一発逆転を目指して四苦八苦しつつもなかなか浮かばれないところか、バチガルピ的である。


S-Fマガジン 2012年 04月号 [雑誌]

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