認知言語学の知見をベースにした物語論の更新。
文学研究者はいまだにソシュールとか言いかねないので、そこらへん更新していこうというような意図もあるらしい。
冒頭の論考では、文学研究と科学研究(ここでは特に言語学)の違いが指摘され、その違いを認識した上で、両者をつなぐ(?)ものとして認知物語論を位置づけようと試みている。
文学研究は新しい解釈を提示しようとするものだが、一方、認知物語論*1は、人がどのようにして解釈を行っているかということを解明しようとする。というわけで、必要な作業だとは思うが、文学研究的には新しかったり面白かったりする知見を提供できるのかどうかは未知数な分野でもあって、今後どうなっていくかはよく分からない。
本書は、「メタファー」「図と地」「ダイクシス」「話法」「視点」「語り」「タイトル」「主題」「ジャンル」という9つのキーワードについて論じられている。
全編にわたって、梶井基次郎「桜の樹の下には」がテクストとして使われており、具体的にそれらの概念とその使い方(?)が示されている。
また、同作は本書の最後に付録として付いているので、いつでも参照することが出来る。
全体的にページ数が少ないのが残念。
(追記:薄いです。http://twitter.com/sakstyle/statuses/4488643611729921)
追記101125
いくつか気になった議論をピックアップしてみる。
- ダイクシス
「私」「あなた」「ここ」「あそこ」「今日」「今月」などといった表現。直示。
テクストにおける時空間を定める機能を持つが、それを移転させる表現もある。
それが「プッシュ」と「ポップ」
劇中劇や回想などのように、さらに内部・下位レベルへと向かうのがプッシュ
語り手が登場して感想を述べるなど、外部・上位レベルへと向かうのがポップ
こうしたプッシュとポップからなるダイクシスの移転がテクストの一貫性を形成し、読者をテクスト中にひきこみ、現実へと帰還させる。こうした読解は、テクストをダイクシスを使ってスキャニングすることに他ならない。
pp.45-46
自分のフィクション論に使えそう。というか、阿部和重の話をするとき、必ずこういう話している気がする。
- 話法
(13)の「おはようございます」は彼の発話そのものをイコン的*2に転写した実物表示である。(中略)イコン記号の「実物表示」は、直接のリアリティに触れることが出来る。
p.53
これは、伊藤亜沙のカギ括弧論と同様のことを言っているように思われる。
伊藤亜沙のカギ括弧論は、Review House 02の「カギ括弧論序説」か、早稲田文学増刊U30の「「露出」する登場人物たち 西尾維新の会話術」を参照のこと*3。
また、タイトルやジャンルといったパラテクストについての議論も興味深かったし、なかなか使えそうな議論かもしれない。
ただ、ジュネット以上のことをどれくらい言えているのか。これは自分がジュネット不勉強のためよく分からず。ジュネット勉強しろレベルがまた一つあがった。数年前からこのレベルはそれなりに高いのだが、いまだ手をつけてない宿題になってしまっている。
使っている用語は、認知言語学の用語に更新されているわけだが。
- 作者: 西田谷洋,日高佳紀,日比嘉高,浜田秀
- 出版社/メーカー: 和泉書院
- 発売日: 2010/05/01
- メディア: 単行本
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