佐藤友哉「333のテッペン」(『StorySeller』)

タイトルが『わたしは真悟』だということを、グーグル先生から教えてもらった。そういえば、『わたしは真悟』は読んでいなかったんだ。


ある日、東京タワーの頂上で殺人事件が起きる。
東京タワーの土産物屋でバイトするフリーターの土江田、そして探偵や女子高生が登場する、佐藤友哉的似非ミステリ小説。
かつて「物語」的な非日常を生き、そして今は非物語としての日常を望みその中で生きていく土江田。
東京タワーでの殺人事件は、そんな彼に、再び「物語」を、非日常を突きつける。
一つの「物語」を終わらせても、また別の「物語」へと誘う裂け目は日常世界のどこかしこに開いている。


この作品は、格別に出来の良い作品というわけでは決してない。
だが、東京タワーということで、『世界の終わりの終わり』に対する(佐藤友哉から佐藤友哉への)アンサーとして読むことができるのではないだろうか。
非日常か日常かという選択肢を突きつけたり、あまつさえ非日常を選択するというではなくて、むしろ非日常を刻印されてしまった者がいかに軟着陸するか。
青春の中で青春の不在を嘆いたり、あるいは終わりなき青春を生きてしまったりするのではなくて、青春を葬送すること。それは青春を忘れることではない。青春を抱えたまま、青春から抜け出して生きること。


最後の著者コメントで、ジロタロの時の南極観測隊の話があって、なかなかいい。

Story Seller (ストーリーセラー) 2008年 05月号 [雑誌]

Story Seller (ストーリーセラー) 2008年 05月号 [雑誌]