「脳から見た心の世界 Part3(別冊日経サイエンス)」

他人を映す脳の鏡

ミラーニューロンの話。イタリア・パルマ大学の研究グループによる。
任意の動作において発火するニューロンなのだが、自分がその動作をやるときでも、相手がその動作をやるときでも発火する。
心の理論とか、共感とか、言語とかに関連しているのではないか、ということで大発見だと言われている。
ミラーニューロンというのはよく聞くが、真似することに関係しているとかそんな雰囲気で理解していたが、今回、その理解を改めた。
かなり面白いものだと思うけど、とてつもなくすごいもの、という感じもしない。
概念の共同性の担保なのかもしれない、とは思った。
「つかむ」という概念を理解するためには「わたしはつかむ」「あなたはつかむ」「彼はつかむ」を理解しなければならない。それぞれ別の状況だけれど「つかむ」というところは共通。その共通性をどうやって理解するか、というとミラーニューロンがある、とかそんな感じで。
むしろ問題になってくるのは、「わたし」と「あなた」「彼」の間にある非対称性なんだと思う。ということを、永井均を読んだり、ウィトゲンシュタインについての授業を受けていると思う。「私」と「私以外」にある非対称性と言語の公共性がどうバランスをとっているか、という問題*1
上でさりげなく、言語と書いたけれど、さっき酒井邦嘉の本を眺めていたら、ミラーニューロンと言語を関係づけるのは勇み足、と書かれていた。3,4年前に読んだ本なのだけど、今読み返したら、ものすごく面白いのだろうなあ、読み返さないとなあ、と思いながら読み返せていない*2

自閉症の原因に迫る

ラマチャンドランの記事。
自閉症とは、ミラーニューロンの障害によるものだという仮説。
それによって、色々とコミュニケーションの問題が起きている。
他人が何かやっている時に、反応できない、とか、心の理論をもてないとか*3
だが、それだけでは説明できない症状もある。
それについては、突出風景説という仮説を出している。
興味のあるもの、意味づけされているものだけをとりあえず意識して、他を無視するといったようなことが、自閉症患者はうまくできないから、些細な音に普通の人よりも過剰に反応するし、普通の人には興味のないものに強く興味を惹きつけられる、とか。

自閉症とは何か

自閉症患者は、ごっこ遊びすることができない。
それを説明するために、第一次表象と第二次表象が区別される。自閉症患者は、第二次表象がうまく機能していない。
第一次表象は、普通の*4表象。
第二次表象は、表象の表象(?)
第二次表象は、第一表象がほんとかうそかということを示している。
自閉症患者というのは、ガラスに閉じこめられている子どもというイメージがあるが、決してそうではないこと。また、幼少期の教育が原因というわけではないこと。この二点が強調されていた気がする。

イリアムズ症候群が明かす脳の謎

イリアムズ症候群というのは、ダウン症のような遺伝子疾患。
知能は低いのだが、言語や音楽に関して、能力を発揮する。
推論などはうまくできないのだが、社交的で、お話を語ったりするのが非常にうまい。
囲み記事で、ウイリアムズ症候群の人はあまり身長が高くならないのだが、各地の小人伝説のもとはウイリアムズ症候群の人だったのではないだろうか、ということが書かれていた。

チェス名人に隠された才能の秘密

チェスは、認知科学ショウジョウバエらしい。
知的能力を比較したりするのに、都合がいいらしい。
才能ではなくトレーニングによって向上する。
記憶力は、大きな*5チャンクをもてるようにトレーニングすると向上する。

意識とは何か

クリックの記事。
特に、視覚の話。視覚情報が、脳のどこでどうやって統合されて解釈されているか。
どこといってもピンポイントではないが。

意識の正体はつかめるか

ダマシオの記事。
神経科学で意識について説明できるようになる、という話。*6

植物状態の意識を探る

これは、ある意味で怖い話。
植物状態と呼ばれる人の中にも、意識のある人がいるかもしれないとか。
今は、植物状態とは別に最小意識状態という区分があって、その場合、意識が回復する可能性が高い。だが、植物状態になると意識はほとんど回復しない。
この区別は、色々なテストで判断できるのだが、経験を積んだ医者じゃないと難しいらしい。
そもそも意識があるかどうかは、究極的には本人にしか分からない*7

偽りの記憶をつくる

催眠療法で、偽の記憶が出てきて、ほんとは虐待を受けていないのに虐待されたと主張する、という話は前から知っていたのだけど
それを受けて、偽の記憶を刷り込ませる実験が色々やられていたらしい。
偽りの記憶はいとも簡単にできる。
イメージしただけで、簡単に実際にやったことの記憶と混同するみたい。

脳から見た心の世界 part3 (別冊日経サイエンス 159)

脳から見た心の世界 part3 (別冊日経サイエンス 159)

*1:哲学というのは一種の病気みたいなもので、罹らない人は罹らないけど罹る人は罹る。その最初の徴候は、独我論とか懐疑論だと思う。これが症状の第一段階だとすると、この症状を治癒させることで、次の症状、ウィトゲンシュタイン病が発病する。この病気を治す方法は今のところ見つかっていない。僕の大学の先生や永井均とかは、このウィトゲンシュタイン病は治す必要ないと考えているのだろうと思われるけど、あるブログの中の人は、これを治すのが課題だと考えているみたいだった

*2:最近、自分の本棚を眺めていて何冊かそういう本がある。1冊だけ持っている茂木の本もやはり読み返してみたいと思う。だが、今読んでいる本で手一杯でなかなか進まない

*3:というか、自閉症の説明をするために出来た仮説が、心の理論説っぽい

*4:普通のって何だ

*5:という表現でいいのか分からないけど

*6:志向性が意図性と誤訳されていたように思う。確かに哲学やってないと知らない言葉だしね

*7:上の記事に書いた「感じ」と「説明」の違い。意識という「感じ」は「説明」できない