ホラー映画を題材にして、情動の哲学、フィクションの哲学、死の害の形而上学、意識の哲学など、哲学の各分野の議論を紹介しつつ、筆者のホラー映画愛も盛り込まれている本
(入門書だけ読んでおわりがちな)自分にしては珍しく、この本の元ネタのいくつかを先に読んでいたので、それはそれで面白かった。
元ネタ本は、参考文献表の冒頭でも述べられているが、プリンツの『はらわたが煮えくり返る』とキャロルの『ホラーの哲学』
それから、鈴木貴之『ぼくらが原子の集まりなら、なぜ痛みや悲しみを感じるのだろう』も結構重要。
ジェシー・プリンツ『はらわたが煮えくりかえる』(源河亨訳) - logical cypher scape
鈴木貴之『ぼくらが原子の集まりなら、なぜ痛みや悲しみを感じるのだろう』 - logical cypher scape
キャロルの『ホラーの哲学』は未読だけれど、フィクションのパラドックスという意味では、議論自体にはなじみあったし。
それから、戸田山和久『哲学入門』 - logical cypher scapeも議論のバックボーンとなっている。
ホラー映画という題材を使って、ここまで哲学の多様な分野を串刺しにして論じたのはすごいし、新書で、プリンツ本とキャロル本を紹介して、その上、『哲学入門』の続編的に戸田山的表象の哲学も展開している。
情動に関しては、プリンツにほぼ全面賛同という感じだけど、ホラーのパラドックスについてはキャロルとは別の方針を示し、意識のハードプロブレムについても、鈴木説と基本方針は同じにしながら、少し違う方向へいっている。
その一方で、随所で、ホラー映画評も盛り込まていて、時には、哲学の議論をいったん脇において、映画作品について語っているところまであったりする。
そういう意味で、すごく内容盛りだくさんの本。
つるつる読めてしまうのだけれど、あとか思い返そうとする結構大変
1 恐怖ってそもそも何なのさ?
第1章 恐怖の原型としての「アラコワイキャー」体験
1 恐怖の三つの要素
2 恐怖の認知的側面
3 恐怖の「感じ」的側面と身体的反応
4 恐怖の動機づけ的側面と恐怖の表情
第2章 アラコワイキャーのどれが重要なのか?――「部分の問題」を考える
1 情動の本質って何だ?
2 情動を何と同一視するか?
3 ハイブリッド理論とアトサキ理論
4 「認知が先か感情が先か」論争
第3章 これが恐怖のモデルだ!――身体化された評価理論
1 ダマシおと情動の合理性
2 ところで表象ってなんだ?
3 これが「身体化された評価理論」だ
2 ホラーをめぐる3つの「なぜ?」
第4章 まずは「ホラー」を定義しちゃおう
第5章 なぜわれわれはかくも多彩なものを怖がることができるのか?
1 「情動って生まれながらのもの?」論争
2 アラコワイキャーの対象だってすでに多様だ
3 死を恐れるのは実は離れ業
4 表象の進化とホラーの深化1――「オシツ」「オサレツ」が分かれるまで
5 表象の進化とホラーの深化2――「推論する力」と「他人の心を理解する力」
6 表象の進化とホラーの深化3――自己同一性喪失という恐怖
第6章 なぜわれわれは存在しないとわかっているものを怖がることができるのか?
1 解くべきパラドックスはこれだ!
2 錯覚説――信念条件を捨てるとどうなるか?
3 「ごっこ」説――反応条件を否定するとどうなるか?
4 ホラーの恐怖はホンマもん!――ウォルトンへの批判
5 一致条件を捨ててパラドックスを解く
第7章 なぜわれわれはホラーを楽しめるのか?
1 パラドックス解消が満たすべき条件とは?
2 ホラーと抑圧された性的欲望の変形だ!――精神分析的理論1
3 ホラーとは抑圧されたものによる秩序の転覆だ!――精神分析的理論2
4 ホラーは「認知的喜び」をもたらす――キャロルのプロット説
5 キャロルの「解決」にツッコム
6 恐怖は本当に不快なのか
3 恐怖の「感じ」って何だろう?
第8章 哲学的ゾンビをいかに退治するか?
1 二種類のゾンビと意識のハードプロブレム
2 哲学的ゾンビに退散願うには
3 われわれだって、ときにゾンビに変身する
第9章 「意識のハードプロブレム」をいかに解くか?
1 意識の表象理論で「感じ」を脱神秘化する
2 意識的情動はいかに生み出されるのか――AIR理論から考える
3 反機能主義ゾンビはダイハード
4 ハードプロブレムを解くってどういうことなんだろう?
参考文献
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あとがき
- 作者: 戸田山和久
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2016/01/07
- メディア: 新書
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