夏目房之介『手塚治虫はどこにいる』

この本の何がすごいか、といえば、作者がこの本に押し込めた感情の量。
それでいて、それを冷静に論理立てているところ。
手塚に対する思いの深さに、圧倒される。
手塚治虫の凄いところは、これだけ深く思ってくれる人が読者の中にいることなんじゃないだろうか。


夏目の50年代手塚へのこだわりは、正直言って自分にはうまく理解できない。だから、読んでいて首を傾げてしまうこともあったが、夏目はそのこだわりをしっかりと言語化している。「なるほど、そういう読み方があるのか」って素直に思える。
不勉強なので、夏目の文章に触れるのは、実はこれが最初。
マンガ評論を独自の方法論で作り上げ、独自の言葉を作って、これだけ語れるっていうのは、やっぱすごいことだと思う。夏目用語もあるので、わかりにくさがないわけではないが、文章そのものは非常にわかりやすい。


自分にとって、手塚治虫はバラバラに読んできた漫画家なので、手塚治虫作品は全てひとくくりに手塚治虫作品でしかなかった。
この本によって、戦後日本漫画史を背景に手塚漫画史みたいなものを概観することができた。

手塚治虫はどこにいる (ちくま文庫)

手塚治虫はどこにいる (ちくま文庫)