クリストファー・プリースト『隣接界』

現代、大戦期、夢幻諸島といった様々な時代、場所を舞台に、少しずつ異なる男の運命を描く。
『隣接界』というタイトルの原題は、The adjacentで、訳者あとがきによれば「隣接するもの」というくらいの意味で、作中に「隣接界」というものが出てくるわけではない。
作中で、あまりはっきりとしたSF的な設定解説がなされているわけではないが、パラレルワールド的な何かが展開されている。
個々のエピソードは読みやすく面白いのだが、全体として何だったのか明確にはよくわからない。よく分からないけど、面白く読めてしまう。

第一部 グレート・ブリテンイスラム共和国
第二部 獣たちの道
第三部 ウォーンズ・ファーム
第四部 イースト・サセックス
第五部 ティルビー・ムーア
第六部 冷蔵室
第七部 プラチョウス
第八部 飛行場

隣接界 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

隣接界 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)


主人公である写真家のティボー・タラントが、トルコで看護師の妻・メラニーを亡くしイギリス(なお、この世界のイギリスは「グレートブリテンイスラム共和国」となっている)へ帰国してきたところから始まる。
紛争地帯と化しているアナトリアメラニーは医療活動に従事しており、ティボーもそれに同行していたのだが、ある晩、メラニーは攻撃に巻き込まれ、攻撃された箇所は跡形もなくなってしまう。
その後、ティボーは当局に報告するために出頭するよう命じられるのだが、不可解な状況へと入り込んでいく。
ロンドンでは目隠しされた車に乗せられ、ちらっと外が見えた時には、何もない光景が広がっていた。
また、紛争地帯によくあるような装甲車に乗せられて、移動を強いられる。同乗している役人は何も説明してくれない。そして、その中の一人であるフローと名乗る女性からの不可解なコンタクト。
その後、そのフローも装甲車ごと攻撃を受ける。
第一部、第三部、第六部


第二部は、第一次世界大戦の時代が舞台
とある奇術師が、前線へと招聘される。その旅路において、同じく前線へと招へいされていたH.G.ウェルズと同乗する。
前線基地に着いた奇術師は、偵察用の飛行機がドイツ軍から見えなくなるような方法を考えてくれと頼まれる。


第四部、隣接性兵器の話
とあるノーベル賞受賞者が開発した隣接性兵器。元々の研究意図としては、どのような攻撃も封じ込める防御性兵器であったが、研究成果の公表後、攻撃手段として開発されてしまう。
メラニーやフローを消滅させたのは、この隣接性兵器によるものと考えられるほか、そもそも「隣接」という言葉からも分かるとおり、この作品を成り立たせている仕掛けがこれ。ただし、明示的に、これがどういう仕組みでどうしてこうなった、というのが丁寧に説明されたりはしない。
第四部は、ジェーン・フロックハートというジャーナリストの一人称で語られるが、カメラマンとしてタラントが出てくる
ところで、この隣接性兵器は量子力学絡みらしいのだが、主人公のタラントが持っているカメラは、キャノンとかのカメラなんだけど、量子レンズとかが組み込まれているカメラらしい。量子レンズが何なのか知らんけど。あと、撮った写真は全部クラウドアーカイブするタイプで、また、カメラ本体には可動部がほとんどなくてシャッター音がしないとかいうカメラになっていた


第五部は、第二次大戦中、対独空爆を行うイギリスの空軍基地を舞台にした、若い整備兵の話
爆撃機コクピットで財布を拾った彼は、その中にあった電話番号に電話をかける。その財布の主は、工場から基地まで爆撃機を運ぶ民間の女性パイロットだった。
財布を受け取りにきた彼女は、整備兵の姿を見て、死んだ彼女の恋人によく似ていることに驚き、身の上話を始める。
元々彼女はポーランド出身。貧しい家の出だが、幼い頃に貴族に引き取られる。彼女の恋人というのはその家の息子。そこの父親がスポーツ好きで、飛行機競技もやっていたことから、彼女は飛行機の魅力にとりつかれる。女性パイロットなど皆無だった時代に、飛行機競技大会で活躍し始める。戦争が始まると、ポーランド空軍のために働き始める。が、ドイツとソ連ポーランドへと侵攻。恋人は戦火の中行方不明となり、彼女はイギリスへと亡命する。


第七部では、夢幻諸島も出てくる。
島をさまよい歩くタラントと謎の女宣教師(?)
また、人体消失マジックを行うため、女子大生をアシスタントに雇った奇術師が、謎の女にストーカーされる
ここで出てくるプラチョウスという島、技術レベルや生活レベルは完全に現代的だが、政治制度は5つの家による封建制度だったりする。
島の統治者は、外部の者が島に入ってくることに非常に厳しいのだが、島内には俗にアジェイスントと呼ばれるスラム街が形成されており、どこからやってきたのか分からない島外の者達が暮らしている。


第八部では、この夢幻諸島の島から飛行機で飛び立ち、嵐を抜けて第二次大戦中のイギリスへと帰国した「メラニー」が「ティボー」と再会して大団円