『日経サイエンス 2014年12月号 大特集:人類進化今も続くドラマ』

K.ウォン「書き換えられた進化史」

特集の前書きみたいな奴
最近のトピックがコンパクトにまとめられている
21世紀以降の様々な発見によって、人類の進化史が至るところで書き換わっている、と
最古の人類化石がより古くなったし、アフリカ出た時期もより古いかもしれないし、ホモ・サピエンスネアンデルタールの混血があったのがわかったし、と

第1部 我々はどこから来たのか

B.ウッド「直系祖先は誰だ? 枝の多い系統樹

同時期に複数の近縁種がいることが分かってきたために、直系祖先がわかりにくくなっているという話
例えば、400万年前から100万年前の東アフリカには、ホモ・ハビリスとパラントロプス・ボイセイがいたとか、南アフリカのマラパで発見された200万年前の化石とか
あと、ホモ・サピエンスと併存していた種として、ネアンデルタール以外に、エレクトゥスとかフロレシエンスとかデニソワ人がいたとか
同時期に複数の近縁種がいて、なおかつそれの子孫が現在いないことは、他の哺乳類と比較して、全然不思議ではない、と
この、他の哺乳類と比較して云々してるとこ、あーそういやこの頃の人類なんてまだ動物だもんなーという感じがした

P.B.デメノカル 「気候変動のインパクト」

人類の進化について、サバンナが拡大して森から出てきた猿が人類の先祖となっていったというのが、かつての仮説だったけど、どうもそんなに単純ではなかったという話
海洋堆積物とか、あと植物化石の炭素組成とか(サバンナの草木と森林の樹木だと使っている光合成経路が違って蓄積している炭素同位体が違うらしい)から、気候のサイクルを調べて、気候変動があった時期に、種の入れ替えが起きているとか。

I.タッターソル「進化を加速したハンマー」

人類の進化は、かなり速度が速いらしい
で、文化や道具との共進化が唱えられてきたのだけど、それでもうまく説明できない。漸進的じゃなくて間欠的に進化してるから。
氷河期とかで不安定な時期に集団のサイズが小さくなる。集団のサイズが小さい方が、変化が集団に定着しやすい。それで速かったのではないか、と。
表象の出現とかがわりと突然らしい。ホモ・サピエンスの出現が20万年前になのに対して、表象は7万〜8万年前くらい

第2部 我々はどこが違うか

B.エドガー「一夫一妻になったわけ」

人類は、動物の中では珍しい一夫一妻の動物。一夫多妻を許す文化・社会でも、多くの人は一夫一妻となっている。
一夫一妻になると、オス同士で争う必要がなくなるというメリットがあり、性的二形の度合いが小さくなる。あと、犬歯が小さくなるという特徴も見られる。
で、何百万年前からずっと一夫一妻だったという説と、段階的に一夫一妻になっていったという説があるらしい
一夫一妻に移行するのは何故かっていうので、3つの仮説があって、「メスのまばらな分布」説、「子殺し回避」説、「父親による子の回避」説で、これらのどれが妥当か色々検証されているみたい。人類以外の哺乳類で一夫一妻の奴だと、それぞれ当てはまる奴がいたりするんだけど、人類だと「子殺し回避」説あたりが有力っぽいのかなあ、という感じだったけど、まあまだあんまりはっきりとはしていなさそう。

F.ドゥ・ヴァール「助け合いのパワー」

他の動物に比べてヒトには協力傾向があること
それについて、評判システムが重要なのではないかということ

G.スティックス「生まれながらの協力上手」

ヒトとサルの違い、ということで、協力傾向があるかどうかで区別される。
マックス・プランク研究所で行われた実験の紹介など。トマセロの研究の紹介という感じで、このあたり、マイケル・トマセロ『ヒトはなぜ協力するのか』 - logical cypher scapeと結構重複していた感じある。
マックス・プランク進化人類学研究所について、人間で実験することになるけど、ナチスドイツの反省とかあって、各グループのリーダーはドイツ人以外を採用したという話があって面白かった。あと、実験に参加できる2万人の子どものデータベースがあるとか。
トマセロは、ヒト(の子ども)とチンパンジーとで、IQはほぼ同じなんだけど、協力するかどうかで違いがあるってことを言っていて、これの反論が大きく2つあって、チンパンジーはもっと頭悪いっていう反論と、チンパンジーはもっと頭いいっていう反論なのが、面白いw で、トマセロは、真ん中だから自分がきっと正しいだろうって言ってるというw

第3部 我々はどこへ行くのか

S.タークルインタビュー「ネット化された霊長類」

SNSまずくない? って話
今までのメディアと何が違うかということについて、「常時接続、常時ON」であることをあげて、従来のメディアとは違うことを強調

J.ホークス「いまも続く進化」

人類は文明を手に入れて、淘汰圧にさらされることがなくなったから、もう進化は止まった、とも言われているけれど、そんなことはないと。
進化史的にみて最近におきた進化として、各人種の髪や肌の色、乳糖耐性、乾いた耳垢、鎌状赤血球などがあげられる。これらはどれもここ3万年のあいだにあらわれたもので、ものによっては7000年前とか3000年前とかのものもある。進化史的にみれば、非常に最近で、進化が止まっているとはとても言えない。
乳糖耐性って、思春期まではだれもがもってて、成人になるとなくなっちゃうんだねー。成人になっても乳糖耐性があるという突然変異が、人類史においては何回か起きていて、特に7000年前におきた変異が広まっているらしい

その他

現実になる仮想現実療法

オキュラスリフトを使ったVRで、PTSD治療とか恐怖症治療とか、医療利用がアメリカで始まっているらしい。
そもそもゲーム用に開発されたもので、日本でもエンターテイメント分野での利用がよく見られるけど、それ以外のところにも広がっているみたい。
日本だと、ボカロクラスタとかあのあたりが初音ミク添い寝を皮切りに色々やってて、あとはシドニアとかヤマトとかもオキュラスリフト使ったイベントやってるなあという印象。
まだ、実体験したことないんだけど。
ところで、以前読んだレフ・マノヴィッチ『ニューメディアの言語』 - logical cypher scapeが2001年の本なんだけど、HMD使ったVRについてやけに言及がある。確かに、90年代ってVRって結構もてはやされていたような気もするんだけど、多分00年代後半から10年代初頭のあたりで失速している。HMDは普及しなかったし、VRよりもARの時代だみたくなったし。それが、オキュラスリフトによって一気にVR復活の兆しが見える。多分、『ニューメディアの言語』を数年前に読んだら、やけにVRって言っててやっぱ時代を感じる本だ、と思った気がする。
で、今号のタークルのインタビューでも、タークルが、オキュラスリフトによってVRが再び注目されてきた旨発言してたりする。

泳ぐ恐竜 スピノサウルス

新たに骨格が復元されて、水中生活に適応していたことがわかった。これ、ナショジオで結構大きな記事にしていた気がする。
とりあえず入手しておいた化石があとになって実は、ということに気付いて、モロッコでその化石を売ってた男を探し出すっていう

2000年前のジョー

何がジョークなのか分からなくてもにょもにょするw

今月の科学英語

  • character displacement 形質置換

形質もcharacterなのかーと
言われてみればそりゃそうかって感じもするけど、ちょっと驚きもした、という感想

  • hominoid ヒト上科の生物

ヒト上科(Hominoidea)に属する動物のこと
ヒト上科=ヒト科(Hominidae)とテナガザル科
ヒト科=ホモ属、チンパンジー属(チンパンジーボノボの2種)、ゴリラ属
あと、この特集には「ホミニン」という語がよく出てきた
ホミニン=チンパンジーボノボよりもヒトに近い絶滅種と現生人類を含む分類で、ヒト族ともいう)
スティーヴン・ミズン『歌うネアンデルタール』 - logical cypher scapeで出てくる「ホミニド」っていうのは、Hominidaeのことなのかな

  • theory of mind 心の理論

theoryには、理論や学説のほかに、「推測」「憶測」「私見」といった意味があり、ここでは後者のニュアンスだ

じゃあ、なんで理論って訳したしw
まあ、「心の推測」って、カギ括弧でくくらないと専門用語に見えないしな。いやでも、「心の理論」も、知らないで見たら専門用語に見えない気がするし。

日経サイエンス2014年12月号

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