『SFマガジン2010年1月号』

創刊50周年記念特大号パート1海外SF編

息吹 テッド・チャン

いかにもテッド・チャンだなあって感じの掌編。冒頭を飾るに相応しい良作。
機械仕掛けの人類の学者が、自分の身体を分解してその命の秘密を解き明かすというもの。
彼らの脳は、金箔が織り成すパターンによって成り立っていて、それは精妙な空気の圧力によって保たれている。で、肺と呼ばれるボンベにため込まれた空気と外気との気圧差によって、彼らの生命活動は維持されていて、次第にその気圧差がなくなってきている! ということが判明して大変という話。

クリスタルの夜 グレッグ・イーガン

人工生命を人為的に進化させて、人間よりも高い知能をつけさせようという計画をする男の話。
オチがちょっとわかりにくかった。

スカウトの名誉 テリー・ビッスン

ネアンデルタール人研究者のもとに届く謎のメールは、ネアンデルタール人のもとにタイムスリップした(?)男の記録だった。ネアンデルタール人との交流が描かれているのだが、その正体は一体。

風来 ジーン・ウルフ

人類が貧しくなった未来。風来と呼ばれる者たちが怖れられ、彼らと交流すると火あぶりにされる。
そんな社会に疑問をうっすらと疑問を持っている少年ビンが、風来の男の子と出会いかくまうようになる。
最後に叫ぶビンのセリフがなかなかじんわりくる。

カクタス・ダンス シオドア・スタージョン

アメリカ西部のどこかで消息を絶ったグアンサム教授を捜しに、ぼくも西部へと旅立つ。グアンサム教授に植物学教授の辞職を書いてもらい、自らが植物学教授になるために。
幻覚作用のあるメスカルを原住民に売り歩く男として、グアンサム教授は有名だった。グアンサム教授は、彼が邂逅した謎の少女のことをぼくに語る。グアンサム教授と少女との「共生」。植物学教授を欲するぼくに対して、植物の共生にどこまでも近づきたいと欲するグアンサム教授。

秘教の都 ブルース・スターリング

トリノの自動車会社社長にしてネクロマンシーは、地獄の主からサタンと戦うように命じられる。
トリノをミイラ男と歩き回ったネクロマンシーは、自らの妻の誕生日パーティに訪れたサタンと出会う。
ところが、環境派のその男によれば、ネクロマンシーの男の方こそがサタンだという。

ポータルズ・ノンズトップ コニー・ウィリス

セールスと転職の面接を兼ねて訪れた町、ポータルズは全く何の観光地も名所もない町だった。
ところが、そこに観光バスがやってくる。ジャック・ウィリアムスンというSF作家が生まれ暮らす町、ポータルズを観光するツアーだという。彼らは、このような観光ツアーの客としては考えられないくらい熱心で、マナーもよかった。
彼らは、未来から来た観光ツアーだったのか。

ドラコ亭夜話 ラリイ・ニーヴン

さまざまな異星種族が訪れるドラコ亭の様々な小咄。
ショートショートが5編。

凍った旅 フィリップ・K・ディック

冷凍睡眠中に半ば覚醒してしまった男は、宇宙船によって到着時のイメージを繰り返し見せられることとなる。
結果的に、本当に到着したあとも、宇宙船が見せているイメージだと思い込んでしまっている、というディック的なテーマが、リーダブルな短編におさまっている。

明日も明日もその明日も カート・ヴォネガット

超超超高齢化社会を迎えて、140歳のお爺ちゃんが家長として一家で絶大な権力を握っていて、他の家族は家のなかで台所や廊下で寝ながら、お爺ちゃんのご機嫌を伺っている。
ブタ箱の方がマシでしたーというオチ

昔には帰れない R・A・ラファティ

オウセージ郡に浮かぶ小さな月。彼らは子ども時代、何度かその月を訪れていた。
その不思議な世界に、大人になってから再び訪れる。
幼い頃に見たファンタジックな世界は、「うすぎたない」世界に変わってしまっていた。ともいえるが、小さな月は実際にあった。
幻想的な雰囲気がなんとなくいい感じ。

いっしょに生きよう ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

未知の惑星の探査に訪れた調査隊は、植物に寄生した知性体に出会う。
そしてその知性体と共に生きることになる。
オールドSFな雰囲気でありつつ、植物に寄生する知性体の視点からの描写がよくて、なおかつさわやかな読後感。

記憶屋ジョニイ ウィリアム・ギブスン

図らずもヤクザの極秘情報を手に入れてしまったジョニイ。突然現れた女、モリィが彼を「ロー・テク」たちの暮らす都市の上層へと連れていく。そしてそこでモリィは、ヤクザの殺し屋と戦う。
ひたすらかっこいい。『クローム襲撃』が読みたくなってきた。

フューリー アレステア・レナルズ

銀河帝国の皇帝の暗殺未遂事件。警護担当たる私は、その事件の謎を探るべく旅に出る。
ロボットである私は、かつての火星で、皇帝と私の隠された過去と兄弟の存在を知る。
レヴェレーション・スペースとは全く異なる世界観だが、レナルズだなあっていう雰囲気。
ただ、オチがよく分からなかった。

ウィケッドの物語 ジョン・スコルジー

宇宙戦艦「ウィケッド」は、敵の戦艦「マニフォールド・ディスティニー」と戦っていた。
と、最後のワープを終えたところで、兵装と機関が動かなくなる。知性を手に入れたウィケッドは、アシモフロボット三原則を自己流に解釈していた。
読みやすかったけど、いやいやそれはどうなのって感じもしなくもないw

第六ポンプ パオロ・バチガルピ

環境汚染が進行し、人類の低知能化が進んだニューヨーク。下水処理場の仕事をする僕は、かつての人類が残した技術がついに限界を迎えつつあることを知る。
この退廃的な世界の中で懸命にがんばろうとする主人公の奮闘と無力が、よかった。

炎のミューズ ダン・シモンズ(追記091205)

人類よりも上位の知性体によって全宇宙で人類が奴隷労働させられている未来。
色々な星をまわって奴隷たちの慰問にまわる巡業劇団が、突然上位の知性体にシェイクスピアを上演することになる。次々とさらに上位の知性体のもとで上演させられ、人類として試されていることが分かる。
次々と現れる異種知性体とその星の描写が、いちいちスケールでかくて楽しい。それらとためはれるシェイクスピアがすごい。
解説によると、上位知性体や作中にでてくる宗教はグノーシス主義らしく、ラストもグノーシス主義ネタと関わっているらしい。何となく分かった気でいたが、解説読んでよく分からなくなったw


面白かった作品を挙げるなら、
「息吹」「風来」「第六ポンプ」「炎のミューズ」「昔には帰れない」「いっしょに生きよう」「記憶屋ジョニィ」(目次掲載順)
人類の置かれている状況が悪くなっている未来の作品が結構多かった気がする。


S-Fマガジン 2010年 01月号 [雑誌]

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