ジェグォン・キム『物理世界のなかの心』

サブタイトルは「心身問題と心的因果」
徹底した物理主義の立場から書かれた心の哲学の本。
実を言えば、心の哲学の中でも心的因果の話はいまいちピンとこないままだったのだが、今更ながら、おー、そういうことなのか、と思ったりw
スーパーヴィーニエンスと随伴現象説の関係というのも、今までどうもわかったようなわからなかったような感じだったのが、大分すっきりした。
それから個人的には、「形而上学は避けて通れない」というあたりが、この本の中で一番うーんとなったところかもしれない。
遅ればせながら、自分にも形而上学的転回が訪れそうになっているというかなんというか。
今まで自分は、心の哲学に関しては、ここでいわれる「説明実践」の問題として捉えることで色々解決できるのではないだろうか、と思っていた(自分の場合は、心的因果よりもハードプロブレムの方についての関心が主だっているけれど)。
しかし、ここでキムは、「説明実践」を持ち出すことで問題が解決されるわけではないと主張している。というか、その点については誰も異論がない、と。その「説明実践」を支えているような形而上学が何なのかが問題だ、と。

因果的立場に成功をもたらしたのはデイヴィドソンの哲学的論証であり、(中略)説明実践の普及ではない。説明実践について異論はなかった。議論はその本性および理論的根拠をめぐるものだった。

もしc(またはcの記述や表現)がeを因果的に説明するならば、cはeの原因であるのでなければならない。


あと、心の哲学って言っても、心について考えているだけでは埒があかなくて、因果についての形而上学とか、科学哲学とか、そういったものと色々関わるはずだよなあと思っていたんだけど(入門レベルだとなかなかそこまでいかなかったりして)
この本では、そういうところにも突っ込んでいる。というか、まあ当然だけど、心の哲学の中での議論の中でそういう話題になっていたということがわかった。
スーポーヴィーニエンスは、別に心的性質以外でも使われるし、
あと、一般化論法というのが面白かった。心的性質が物理的性質にスーパーヴィーンしているとするなら、化学的性質や生物学的性質も物理的性質にスーパーヴィーンしているはずで、後者において因果の問題が生じてないなら、前者においても生じてないだろうという論法。
キムはこれに対して、性質についての「レベル」と「階」の違いを導入したりして丁寧に反論していく。
スーパーヴィーニエンスにも色々種類があって、メレオロジカルなスーパーヴィーニエンスとかね。


心の哲学は歴史的にはまず、心脳同一説という立場が現れるのだがこれは早々に支持者がいなくなる。続いて、デイヴィドソンが非法則的一元論というものを主張し、また、スーパーヴィーニエンスという概念を心の哲学に使い始める。以後、スーパーヴィーニエンスへの様々な批判などもありつつ、心的因果を維持しつつ物理主義を選ぶという非還元的物理主義が人気を集める。
キムは、本書でこの非還元的物理主義を徹底的に批判していく。
スーパーヴィーニエンスを持ち出した場合、心的性質に因果的効力を見出すと「過剰決定」の問題が生じ、そうしなければ「排除問題」が生じる。結局、スーパーヴィーニエンスでは心的因果についての説明は得られない、とする。
既に上に述べたように、「説明実践」に訴える議論や、一般化論法による議論も論破していく。
その上でキムは、機能的還元による物理主義だけが、物理主義の中でとりうる立場だとするが、この立場をとった場合、心的性質の因果的効力は全て物理的性質によるそれに還元されるか、あるいは心的性質には因果的効力がないという随伴現象説になるかのどちらかであり、そしてそのどちらも結局は心の反実在論になってしまう、という「悪い知らせ」によって締めくくっている。
(また、キムは志向性は機能的還元が可能だが、現象性(クオリア)については機能的還元が不可能だと考えており、結局随伴現象説になるとしている)


最後に、訳者による解説がついており、キムへの反論も紹介されている。
1つは、デヴィッドによる、機能的還元に対する難点を指摘するもの。
もうひとつは、柴田正良によるもので、因果的効力がないということが即座に反実在論につながるわけではないのではないか、というもの。因果的効力持っているのは性質じゃなくて出来事だから、という話。


例化と因果の関係、あるいは実現。
傾向性の話も出てきた(これは『形而上学基本論文集』にもあった)
二階の性質とメレオロジーとミクロ組成性質。
機能的還元を二階の性質を指示子として考えること。法則に従うという必然性はある(固定的指示子)だけれども、機能である(他の法則における他の実現の仕方がありうる)という点で偶然的(非固定的指示子)である。
「プログラム説明」論は難しかった。
レオロジーって言葉の使い方は少しわかった気がした

物理世界のなかの心―心身問題と心的因果 (双書 現代哲学)

物理世界のなかの心―心身問題と心的因果 (双書 現代哲学)