『現代思想07年12月号』「特集量子力学の最前線」

まあ、ぶっちゃけた話、分からない部分の方が遙かに多い。
読みながら、分かんねえなあと思いながら読んだわけだけど、そのわからなさ具合がまた何となく面白い。

宇宙論

宇宙ヤバイ
宇宙論はやっぱり面白いなあと思う。
五次元宇宙の話とか。量子スケールの世界の話とか。
一般的な、今の宇宙論、特に五次元宇宙の話とかは、竹内薫と横山順一の討議が面白い。
一方で、内井惣七の論文が、宇宙論の各説を概観するのにちょうどいい。
超ひも理論系と「ループ量子重力」論を、それぞれ拡張路線、緊縮路線と呼び、ニュートンライプニッツと対比させている。
これもまた、内井科学哲学炸裂(?)で面白い*1

情報論/論理学

こっちは、全然知らない話ばかりだったので、それだけで面白かった。
というか、この分野はこの分野で結構すごいことになっている、気がする。
量子コンピュータの開発史は、それだけでも十分面白い。実用化までにはまだまだ時間がかかるらしいが、カナダのある会社が完成させたとか言っているらしい。
さて、この情報系の量子論は、解釈問題とかを再燃させそうな感じでもあるらしい。
あと論理学の世界にも、少なからぬ影響を与えているみたい。
論理学と量子力学というのは、今まで考えたこともなかったが、言われてみるとなるほどと思う。
チューリングマシンというのは、古典力学の系で動作することが前提とされているので、量子力学の系では、別のチューリングマシンが必要になる。そこで古典論理ではなく、量子論理というものが提案されているらしい。
論理学と物理学というのが、かなり密接に関係し合っているようだ。
ところで、そうなってくると、量子論理の表しているものとモノ(実在、存在)との関係とはどうなっているのか、という話も出てくる。ここらへんで、解釈問題が出てくるのかと。

実在論

量子力学に関して、哲学の面から見て面白いのはやはり実在論、解釈問題あたりだ。
ボーアの「思想的善導策」とやらで、物理学者はそこらへんに手を出さないわけだけれども*2
この問題に対して、統計的なアプローチで迫る論文があった。内容は、数学がさっぱり分からないので読んでいないが、波動か粒子かという問題を、統計的な集団と個別サンプルみたいな感じで解釈すれば、量子論を実在主義的に解釈可能、というもの。
また、内井論文では、五次元についての実在論が論じられる。こちらの論文は、理論的措定物と存在、実在の関係が述べられている。特に、存在と実在は異なる、ということを説明してくれてよい。内井は、存在が多いという点で、超ひも理論*3のことをあまり評価しない。
五次元って(あるいは十一次元って)なんだよって思っていたけれど、理論的措定物だよと言われて、何となく納得した。

脳?

ペンローズペンローズって。
茂木は、デネットによる「意識に「デカルト的中心がない」」という考えを、意識の統合性という経験的事実と合致しない、と述べるのだけど、意識の統合性ってそう簡単に「経験的事実」と言っちゃっていいのだろうか。
僕の経験的事実に関して言えば、デネット説は結構合致しているような気がするのだが。
クオリアの話にしても、茂木の感覚の話をされているだけにしか思えない。反論に対して「まだ気付いていないのね、かわいそうに」みたいなこと言われても困る。
松野孝一郎と港千尋対談は、脳と量子力学をテーマにしつつも、もう脳とか量子力学とかの話を越えて、科学哲学的なことがずっと話されていたように思う。
単語、専門用語が分からなくて理解できない部分が多かったのだけど、一人称と三人称の話をずっとしていた。
科学・数学というのは、基本的に三人称の世界。
でも、それに対して一人称の世界もある。
その二つの世界を一体どうやって繋げばいいのだろうか、という話だった。
僕の前のエントリは、端的にそれは繋がらないんだから一人称の話するのやめろやってことだったんだけれど。
この対談では、パースの解釈項*4や、時間の同期について語られる。三人称の世界では、時間は全部一様という前提でやっているが、実際、一人称の世界ではバラバラとか。
量子力学とか脳とかのことをやると、解釈項と時間の同期について考えなきゃいけないとか。


来月号、かやのんと森達の対談がある、読みたい。

現代思想2007年12月号 特集=量子力学の最前線 情報・脳・宇宙

現代思想2007年12月号 特集=量子力学の最前線 情報・脳・宇宙

*1:参照:http://d.hatena.ne.jp/sakstyle/20070410/1176196026

*2:そしてそれはある意味、真っ当な選択だと思うけど

*3:拡大路線

*4:三人称で思考することは、二項関係の思考とも言われている。二項関係の思考をする人にどうやって三項関係の思考があることを伝えるかが難しいという話をずっとしていた