スコット・ウエスターフェルド『ベヒモス』

ジュブナイルスチームパンクSF『リヴァイアサン』の続編
王道展開で楽しい
舞台はイスタンブール
史実では既にスルタン制の廃止されているオスマントルコ帝国だが、こちらの世界ではまだスルタン制が続いており、革命派がそこかしこで息巻いている。
ダーウィニストとクランカーの戦争においてまだ参戦はしていないが、クランカーからの影響が強い。とはいえ、オスマントルコで使われている機械は、動物の形を模倣しており、ドイツとは異なっている。
イギリスのリヴァイアサンは、トルコにクランカー側で参戦しないようにと交渉するべく、ノラ・バーロウ博士をイスタンブールへと運んできたのである。
とはいえ、本来トルコへ渡すはずだった戦艦を、チャーチルが引渡直前に「借りる」という名目で渡さなかったために、トルコの対英感情は悪化していた(ちなみにこれは史実らしい)。
リヴァイアサンから脱出した公子アレクは、イスタンブール市街に潜伏し、革命分子と出会う。脱出の際に、バーロウ博士が持ってきた卵が孵化し、あろうことか人造獣がアレクになついてしまう。
アレクは一生懸命やってるんだが、やっぱり「若君」なので、ところどころアホやらかしてるのがまた楽しい。
一方のデリンは、バーロウ博士に連れ回されスルタンと謁見することになったり、あるいは極秘任務に就くことになりリヴァイアサンを離れることになったりするのだが、隠していた秘密が少しずつバレはじめる。
リヴァイアサン』ではダーウィニストの人造獣が見所だったけど、今回は、クランカーの様々な機械が見所。コガネムシタクシーや象形ウォーカー、ゴーレムウォーカーといったトルコ側のメカだけでなく、テスラ・キャノンというドイツの超兵器も出てくる。
リヴァイアサン』は『リヴァイアサン』で面白かったけど、導入という感じもあるし、主人公たちが否応なく状況に巻き込まれていったのもあったが、『ベヒモス』は主人公たちが積極的にあちこち動き回り始めるし、話がどんどん展開していき、楽しい(アレクの革命とデリンの任務が図らずもリンクするとか)。革命家家族やアメリカ人記者といった、敵とも味方ともいえない(味方だけど)新キャラたちも魅力的。
一応、革命とか世界大戦を左右する戦いとかのはずなんだけど、思わず、アレクとデリン、2人の恋と友情の行方は?! みたいな煽りを書きたくなるような王道展開だったり、人死にが出るようなシリアスな戦いもありながら、スパイス爆弾で戦うっていうノリもあったりとか。
とりあえず読んでて楽しい。イスタンブールの、多言語とスパイスの香りが溢れる雰囲気もいい。
(多言語といえば、各登場人物それぞれについて何語が分かって何語が分からないからどうなるこうなるということがちゃんと描かれているのが丁寧)
挿絵が多いのも嬉しいね。


ところで、サブタイトルの「クラーケンと潜水艦」について、訳者あとがきと最後のページの二箇所に、これは編集部が付けたものという注釈がついている。
訳者の方は気に入らなかったみたい。実際、このサブタイトル、あまりうまくはまってない感はある。「クジラと蒸気機関」にあわせたんだろうけど、潜水艦出てこないしなー。

ベヒモス―クラーケンと潜水艦 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

ベヒモス―クラーケンと潜水艦 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)