『リトル・ミス・サンシャイン』

アメリカ郊外で中流から下流の生活を送る家族のロードムービー
彼らの織りなすドタバタに笑うだけ笑ったら、そのラストに感動するのは禁止。
最後まで笑って終わらなければいけない。
それにしても、アメリカというのは、本当に風景がいちいち雄大
ちまちました話と背景の雄大さのミスマッチが、ロードムービーの良さなのかもしれない。


ややネタバレも含むが、まあいいでしょう。
7歳の娘のオリーブは、ミスコンに憧れる、瓶底眼鏡でお腹の出てる女の子。
その娘に踊りを教える、女好きのおじいちゃんは、ヤク中で老人ホームを追い出された*1
父親は、「成功にいたる9段階」なる講習会を開き、今はそれの出版を進めている。
15歳の息子ドゥエーンは、ニーチェに憧れる一方で、パイロットになるまで口を一切開かないという誓いを実行し、会話が必要なときはメモ帳を使う。
オリーブやドゥエーンの伯父(彼らの母親の兄)は、ブルースト学者であったが、同僚(男)との恋愛が実らず、そればかりか失職し、その同僚ははるかに出世していく。結果、自殺未遂をして病院に保護されるが、保険がおりず入院ができなかったので、彼らの家へとやってくる。
母親は、これといった問題はないが、逆に言えば、これら家族全員の面倒をみなければならない立場にある。タバコがやめられない。
「成功に至る9段階」を講ずる父親は、「負け組ではなく勝ち組になれ」と常々主張し続けるわけだが、この家族は全員がみんな、負け組か負け組候補生なのである。
オリーブが繰り上げでミスコンの地区大会を突破したことから物語は始まる。
ドゥエーンや兄(伯父)を置いていけないという母親の主張によって、家族全員で、ぼろいワゴンにのって、ミスコン会場へと向かうことになるのだ。
その道中、父親の出版計画は失敗し、夫婦げんかも勃発。
祖父はオーバードーズでぽっくり死んでしまう。
ひょんなことからドゥエーンの色弱が明らかになり、パイロットの夢を諦めざるを得なくなる。
ミスコン会場についてみればついてみたで、周囲のあまりのレベルの高さに、父や兄はオリーブを棄権させるように勧める。
彼らの状況は、なんら良い方向に向かわず、むしろ悪い方向へと向いその解決策も何ら示されない。
だが、彼らはオリーブのダンスに合わせて、踊り狂うのだ。
上流の(?)、他のミスコン参加者や審査員たちの、汚らしいものを見るかのような態度の脇で、笑いの止まらないミスコンスタッフの顔がいい。
アメリカンドリームの成功物語はここにはない。
「努力が美しいのだ」という感動物語もここにはない。
そんな物語から弾かれてしまった者たちが、そんな物語の中にいる者たちを嗤うかのように、踊り狂うだけだ。
この家族はその後、結局また貧しくてつまらない生活に戻っていくだけだ。
しかし、この瞬間だけは痛快でたまらない。


全般通じて、ドタバタコメディ的な映画で、かるーく見るのにちょうどよい。
そういう意味で面白い。
意外と、あちこちで笑えた。
上に書いたあらすじだと、どこで笑えるかよく分からないだろうけれど、笑いどころを書かなかったらそう見えるだけで、一度ワゴンが走り始めれば笑いどころはあちこちにある。

*1:単なる憶測に過ぎないのだが、このおじいちゃんは年を取ってから羽目を外すようになったのではないだろうか。遊び人が年をとって遊び人なりの生き方を身に付けた、というキャラではない。見た目が老人なだけで、行動パターンはガキっぽい。やたらとファックファックと言いたがる