長谷敏司『BEATLESS』

高度に進化したアンドロイドやAIと人間がどのように共存するかという道を探るにあたって、男の子は美人のお姉さんにはコロッといっちゃうよねというお話。


100年後の日本が舞台。
humanoid interface ELEMENTS(hiE)と呼ばれるアンドロイドが広く普及している世界。男子高校生の遠藤アラトは、レイシア級hiEレイシアと出会い、恋に落ちる。だが、レイシアの圧倒的な力と、様々なことの機械化・自動化が進み人間が不要になってしまう社会の到来を恐れる諸勢力に敵視され、アラトは否応なく争いに巻き込まれていく。
もともと、Newtype誌で連載されていたこともあり、エンタメ性の高いアニメ的展開を見せる。各章ごとに見せ場と引きがよく作られていて飽きさせない。まさに戦闘美少女ものともいうべき、女の子の姿をしたヒューマノイドが超兵器振り回して戦いまくるアクションシーンをふんだんに盛り込みつつも、ディストピアとかポストヒューマンとかそんな感じのSF的テーマを中心にがっつり沿えて、それでいて、現代日本社会に通じるトピックも放り込まれている(個人的に一番驚いたのは、濱野智史の「初音ミクを国会議員に」話が絶妙にアレンジされて入っていたこと。些細なところでは、9月入学に変わっていること)。
この説明だと、何だかとても「濃い」感じだけど、繰り返しになるがNewtypeで連載していたこともあって、とてもバランスのとれたエンターテイメントに仕上がっている。


既に人間の知性を越えた超高度AIというものが出来ていて、人間社会において重宝されているのだけれど、超高度AIが人間社会をコントロールしたりすることがないように、全てスタンドアロンとして運用されている。
機械による自動化という恩恵を享受しつつも、その進行によって人間が不要になってしまうかもしれないという漠然とした恐れも共有されている。
これを象徴しているのが、hiEとアナログ・ハックという言葉。
hiEは、徹底的に外見とその行動パターンだけを人間に似せられた「道具」である。hiEは全てクラウドに接続していて、状況に応じた適切なパターンをクラウドのデータベースに提供してもらって動いている。
だから、hiEは見た目だけが人間のようなのであって、その内部に認識や判断の主体があったり行動の一貫性を担保するアイデンティティがあったりするわけではない。基本的には、相手している人間が喜ぶような反応を返す。なので、例えば使用する人間が優しいお姉さんを求めていたら、優しいお姉さん的な反応を返す。それを見た人間は、hiEに優しいお姉さん的な性格があるように思ってしまうが、実際にはそうではないということ。そしてこの、人間が勝手に思ってしまうことを、作中では「アナログ・ハック」と呼ぶ。
主人公のアラトは、自他共に認める「チョロい」男で、レイシアにまんまと惚れてしまう。それを危惧する彼の友人は、レイシアの策略にはめられているんだ、騙されるな、ということを繰り返し主張するわけだが、アラトは自分は「チョロく」てもいいのだと考える。
レイシア自身が、自分は道具・モノであるということをアラトに繰り返し自覚させている。
ロボット・アンドロイドものの定石が、ロボットやアンドロイドはどれだけ人間かというものだとすれば、これはそれを裏返しで(?)どれだけ人間に近づいたとしても道具は道具であって決して人間ではないということを強調する。
この道具であることの強調は、マルドゥックシリーズなども想起させるし、その手の日本SFの流れをテーマ的に受け継いでより発展させたのだなという感じを受けた。
ラストに、超高度AIヒギンズが、人間は(自らを作った)神に対する愛、人間同士の同胞愛を持っているが、(自分たちが作った)道具に対する愛もまた持って欲しいのだと述べて機能停止する。
道具は、人間という淘汰圧によって進化してきた。hiEはその結果として、人間へとかたちを似せることになった道具なのだとも言われる。
その一方で、超高度AIは人間の知性を突破し、人間社会を人間よりも効率的に運営することのできるだけの能力を有するに至っている。
そのような状況で人間の居場所はあるのか。それが、レイシアとアラトの関係として提示される。レイシアは、hiEであって超高度AIではないのだが、アラトとパートナーシップを結ぶことによって、超高度AIとなる。つまり、人間と道具の共進化だ。アラトは、レイシアのやっているほとんどことを理解できてはいない(戦闘を有利に進めるために経済にかなり大規模に介入している。純粋な戦闘力で他のレイシア級hiEに劣るところもあるが、総合力ではレイシアが強いゆえん)。だが、それでもレイシアを信じることで、そのような関係へと至る。そして、これは脅威でも奇跡でもなく、将来的には普通の関係になるのだという未来を示そうとする。
このようなアラトの性格を「チョロい」と言い表しているのが、この作品のエンタメ的バランスのよさの1つ、かもしれない。


以下、あらすじ
結構長いが、これでもかなり省略している。
人類未到産物とかハローキティカップとか。レイシア級の持っているデバイスとか。

Phase1 contact
ミームフレーム社東京研究所で爆発事故が起き、hiE5体が逃走。ミームフレーム社を警備するPMC、HOOが出動するが返り討ちにあう。
主人公遠藤アラトの前に、逃走した5体のうちの一体レイシアが現れ、オーナーになる。アラト、アラトの妹ユカ、レイシアの3人(2人と1体)の生活が始まる。


Phase2 analog hack
ユカが勝手にレイシアをファビオンMGのモデルオーディションに応募し、グランプリとなる。一方、アラトの友人であるケンゴ(敬語キャラ。定食屋の息子)とリョウ(頭が切れるキャラ。ミームフレーム社社長の息子)は、hiEを拾ったというアラトの話を訝しむ。
夜の学校の屋上。
初めてのモデル仕事。明治通りを渋谷へと歩く。リアルタイムで撮影が中継され、人が集まる。人間の形はしていないが人間でないものに対して人間が勝手に意味を読み込むこと=アナログハックとしての、hiEというモデルの仕事。
hiEを破壊するボランティアグループ《抗体ネットワーク》とそれに協力しているケンゴ。そこにレイシア級hiE紅霞が現れる。


Phase3 you'll be mine
レイシアが車にはねられて誘拐される/盗まれる。
アラトは、リョウとケンゴに協力してもらいつつ、追いかけ、誘拐犯と対峙する。レイシアがその男を殺そうとした際、紅霞が現れる。レイシア級hiEのオーナーになることについて問われることになるアラト。


Phase4 automatic world
ケンゴは、アラトに協力する際に《抗体ネットワーク》を不正利用したために、ペナルティとしてテロに参加させられることになる。
大井産業振興センターで、アンドロイド議員の試験体を襲撃するという計画。
一方、ケンゴの妹オーリガにケンゴの様子がおかしいと相談をうけたアラトは、レイシアに頼んでケンゴを助けに向かう。
ケンゴを含む抗体ネットワークの襲撃部隊は、紅霞に率いられながら地下駐車場から襲撃を決行する。アラトとレイシアは、透明化技術を使って進入する。
会議場、アンドロイド議員《ミコト》と真宮寺。抗体ネットワークとレイシア級《スノウドロップ》が突入し、乱戦。
5体のレイシア級
Type001紅霞《人間の競争とに勝つため》の道具
Type002スノウドロップ《進化の委託先》としての道具
Type003サトゥルヌス《環境を構築するもの》としての道具
Type004メトーデ《人間を拡張するもの》としての道具
Type005レイシア


Phase5 Boy meets pornography
エリカ・バロウズのもとに現れたレイシア級hiEサトゥルヌス。マリアージュに名前を変えられる。エリカ・バロウズは、ファビオンMGのオーナーであり、自分の屋敷には人間は入れずhiEだけに囲まれて生活しているが、家具やライフスタイルなどは20世紀的なものを維持している。
ユカ、オーリガ、リョウの妹紫織の妹会談。
ファビオンMGのインスタレーションの仕事。ヒューマノイドの歴史の一環にhiEを組み込みつつ、「ボーイ・ミーツ・ガール」をコンセプトにしてライフスタイルを売り出すという企画。
リョウとミームフレーム社の研究員にしてメトーデのオーナー渡会銀河との邂逅。
インスタレーションの仕事中、レイシア級hiEメトーデに襲撃される。


Phase6 We lost all control
ミームフレーム社の人間派閥と近付いた紫織が、アラトにレイシアをミームフレームに返却するように求め、レイシアが不正利用した個体番号と同じ番号を持ったhiEを日本へと持ち込もうとする。
それを阻止するべく中部国際空港へと向かうアラトとレイシア。メトーデとの戦闘。紅霞との協力。
運び込まれたhiEは別物とすり替えられており、空港についた紫織たちは戦闘による爆発に巻き込まれる。メトーデとのオーナー契約(メトーデは渡会と紫織と二重に契約している)を結んでいた紫織は、しかしメトーデに裏切られ、あわや命を落としかける。レイシアはメトーデとの戦闘でダメージを受け離脱するが、アラトは残り紫織を助ける。


Phase7 distopia game
リョウの過去、ミームフレーム社の権力闘争に巻き込まれ殺されかけた時、出会ったのがアラト。
アラトとユカ、そしてリョウは、アラトの父親でありhiE研究者であるコウゾウに会いに、環境実験都市へと向かう。そこは、hiEだけでどれだけ社会が自動化できるかの実験が行われている。hiE役のhiEと人間役のhiEが生活している。ちなみにつくばの近くにあるらしい。
ユカが誘拐される。
スノウドロップによってhiEが操られゾンビ化し、人間役hiEを襲うようになる。
リョウがメトーデとオーナー契約を結ぶ。
スノウドロップとレイシアとの戦闘。そして、ユカを人質にとった渡会がレイシアとのオーナー契約を脅迫的に結ぼうとするが、アラトはレイシアに告白し、レイシアはオーナー認証装置を自ら破壊する。
渡会はゾンビ化したhiEに襲撃され死ぬ。


Phase8 slumber of human
エリカ・バロウズのパーティ。一堂に会するレイシア級hiEとその個人オーナーたち。
エリカは元々20世紀の人間で、病気のため冷凍睡眠にかけられて、最近目覚めたばかり。そのため、この社会を距離を置いて見ている。悲劇のヒロイン的に見られることを嫌っている。
レイシア級同士の戦いをオープンにすることで、hiEに囲まれた社会の不自然さを暴露しようと考えている。


Phase9 answer for survive
アラトに未来をデザインするよう求めるレイシア
紅霞が次世代型社会研究センタービルを襲撃し、《ミコト》の破壊に動く、そしてそれをネット上に中継する。PMCと紅霞の戦いはPMCに軍配が上がる。
そしてケンゴが逮捕される


Phase10 plus one
アラトは再びレイシアの力を借りて逮捕されたケンゴを助け出すために動き出すが、その際、レイシアから自分を信じるように約束させられる。
一方、スノウドロップが三鷹を攻撃。
リョウとメトーデは、しかしスノウドロップではなくレイシアの排除へと動く。その中でレイシアが超高度AIであることが明らかになり、アラトはレイシアを信じ切れなくなる。


Phase11 protocol love
紫織の病院へと連れられるアラト。レイシアの元へ戻る決意をして三鷹へと向かう。
日本軍とスノウドロップ(に操られたゾンビhiE)の戦い。
三鷹で即席ギャング団を率いるリョウ。
メトーデ・リョウとアラト・レイシアとの戦闘。そして、レイシアは目的である超高度AIヒギンズの地上施設を攻撃する。


Phase12 beatless(前)
三鷹の事件以来、アラトとレイシアは身を隠していた。
日本に査察に入ったIAIAと超高度AIアストライアとの会見に応じる。そこで、ハザードの真相を知るアラト。
抗体ネットワークの上層部とエリカ・バロウズ
ヒギンズの元に赴くリョウ。量産型紅霞がヒギンズ施設への攻撃を仕掛ける。そして、レイシアとアラトもヒギンズへと向かう。前日の夜、アラトはレイシアがただのモノであることをふと実感する。たとえアナログ・ハックがとけたとしても、人間との関係を作るように、モノとの関係を結ぶことができるのだと改めて考える。


Phase13 beatless(後)
ヒギンズのある施設へと侵入し、メトーデとの戦闘が行われる。
他の超高度AIとの経済戦争
スノウドロップと戦うために、AASCを停止する。そのことで世界中のhiEが停止し、モノであることがあらわになる。


Last Phase image and life
スノウドロップがメトーデを取り込んで復活
レイシアはアラトに仕事を託して機能停止する。《人間を信じて仕事を託す》道具となるレイシア。
リョウはヒギンズ停止に向けて動き出す。


eplogue boy meets girl


BEATLESS

BEATLESS