『キック・アス』

冴えない男子高校生がコスプレしてスーパーヒーローになってみる話と思わせて、復讐に身を焦がす父娘が殺人マシーンと化してマフィアどもを殺しまくる話。
11歳のヒット・ガール(まさに戦闘美少女!)が繰り出すアクションの数々と、過去のヒーローコミックやアクション映画へのオマージュ・パロディに溢れた画面が、気持ちよい。
今年のベストどころか、オールタイムベスト級にあげてもよいくらい面白かった。


マフィアに捕まった2人をヒット・ガールが助け出すシーンが白眉。
捕まった2人はマフィアに拷問され、その模様がネット上で生中継されている。その映像の作り方は、イラクの人質事件を想起させる。
そして、FPS的な暗視ゴーグルの映像と、『リベリオン』へのオマージュと思われるマズルフラッシュが瞬くストロボが、交互に入り交じる銃撃戦。
最後に、カメラに向けて銃を撃つヒット・ガールに、ありがちな言い方をするならば、心まで撃ち抜かれてしまうのは必至である。
このアクションシーンでは、ヒット・ガールが縦横無尽に暴れ回るだけでなく、彼女のフィジカル的な弱さや戦術面の不足も見せているのが、また魅力的なのである。


アクションシーンの時にかかる音楽もいいし。


また、情動を様々に揺らされもした。アクションへの喝采と登場人物への感情移入とオマージュやコミカルさに対する笑いが、次から次へとやってくる。
そうした時、最後のシーンにおける、ミンディの登校とレッド・ミストのセリフも、必ずしも字義通りに受け取ることができないような、不安定な状態にあるような気に駆られる。


11歳の女の子が実写で血しぶきアクションをこなし*1、「腐れお○○こ」とまでいうので、R−15指定がかかっているわけだけれども、まさに戦闘美少女。
もちろん、ヒット・ガール自体は、ロビンのコスプレをしているのであって、アメリカンコミックの意匠をまとっているわけで、日本の「戦闘美少女」という概念をかぶせていいのかどうかという問題はあるだろう。
彼女は、父親の復讐のために、殺人マシーンとして育て上げられている。彼女は、父親と共に復讐するということ以外には何もないようなものだ。
復讐ものは多々あるだろうけれど、この設定は『ガンスリンガーガール』を想起させるのには十分だろう。少女の年齢もほぼ同じところだろう。
戦闘美少女は、自らの内に戦う動機を持たず、戦いについて思い悩むことは傍らの少年が担うものだが、まさにそういう感じになっている。
よく知られているように、そのような作劇の仕方はセカイ系と呼ばれ、日本のオタク文化界隈ではもう既に古いものと目されている。戦闘美少女ものとしては、例えば、『ガンスリンガーガール』やシュピーゲルシリーズといった、少女たちが戦う動機を自らのものへと奪い返すものが出てきている。加えて言うならば、そこでキャラの記号性が批評的に描かれているのも興味深いところである*2
では、ヒット・ガールはどうなのだろうか。彼女の復讐は一応一つの終わりを迎えるわけだが、殺人マシーンとして育てられた彼女がその後まっとうに生きられるとはとても思えない*3
映画はそのことを描かずに終わる。彼女は何事もなかったかのように登校している。そこにはコミカルな笑いすら添えられる。見る者は不穏さを感じながらも、笑い安心して帰ることになる。


どうも中途半端な感じの感想になってしまった。
アメコミのことが全然分からないので、なんとも。


まあ、多分色んな作品のオマージュがあるんだろうけど、『リベリオン』だけでなく『マトリックス』もあったなあ。
あの空中でマガジン交換は、ヒット・ガールは身体が小さいから予備の銃を隠すことができないってことで、よい応答だなあと思った。


父子が3組。デイヴとミンディはともに母を亡くしている。そのことによって非常な世界に入り込んだミンディと、全く何にも変わらなかったデイヴ。
じゃあ、レッド・ミストの母は? 最初はいるんだけど、いつの間にか出てこなくなってるんだよなあ。


最初、デイヴの彼女になる子は腐女子なのかと思った。


3人でたむろしているああいうタイプのお店は、アメリカにはよくあるんだろうか
ちょっといいなあと思った。


キック・アス Blu-ray(特典DVD付2枚組)

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*1:11歳で筋トレしまくったらしくて、すげーなと思うけど、成長期って筋トレとかそんなにやっていいんだっけ? どうだっけ

*2:キャラからキャラクターになるために、彼女たちはまず自らのキャラ性を自覚せざるをえないのではないか

*3:トリエラはそのことを自覚していた