クリストファー・プリースト『限りなき夏』

デビュー作や〈夢幻群島〉シリーズ収録した全8編の日本オリジナル短編集
手に取るまで気づいてなかったけど「未来の文学」シリーズだった

限りなき夏

以前に別のところでも読んだことある奴なので省略

青ざめた逍遙

時間SFかつラブロマンス
馬車と汽車が走る世界なのだが、その一方で何年も前に恒星間飛行をするべく宇宙船が旅立ったりしているような世界。どうも、かなりの未来なのだけど、社会のあり方は古い状態を維持しているっぽい。職業も完全世襲制だし。
フラックスという流体(?)を利用すると、時間移動ができたりエネルギーを取り出すことができたりする。フラックス流路公園というものがあり、そこに架けられている「明日橋」というのを渡ると、文字通り明日へ行くことができる。

逃走

デビュー作
これはあんまりよくわからなかった。
反平和主義者の政治家が若者達に取り囲まれる

リアリタイム・ワールド

舞台装置が一番SFっぽい作品で、自分と相手の正気と狂気がぐるりとひっくり返るという点でもSFっぽい。
舞台は、とある惑星の研究ラボ。様々な分野の科学者たちが集められて、その惑星について調べているのだが、外には出られないようになっている。主人公は、そのメンバーのなかで唯一科学者ではない。彼らに地球のニュースを伝え、また彼らの発見や言動などを地球に伝達する役割を負っている。
実はこのラボは、ある社会実験の場ともなっており、科学者たちはまた同時にその被験者でもある。
多くのニュースというのは、聞いてる当人にとっては直接関係ないものが多い。むしろ、身近な人についての噂などの方が、直接影響がある。そのような影響関係を、影響指数として定量化した研究があって、閉鎖された空間で影響指数の高いニュースだけ与えたらどうなるかという社会実験
影響指数の少ない(しかし世界的には重大な)ニュースから離されると、次第に妄想的な認識がエスカレートしていくが、それもしばらくするとおさまってきて、今度は非常に正確な現実認識ができるようになるのではないか、という仮説のもと、主人公は彼らを観察している。
その仮説のことも、実はこのラボは未知の惑星ではなくて月に設置されていることも、主人公しか知らない。主人公は自分だけが真実を知っていると思っている。ところが……。

赤道の道

夢幻諸島シリーズ
この世界の時間の仕組みについて書かれている短編だが、ちょっとよく分からなかった。あと、これが分からなかったとしても、夢幻諸島シリーズを読むのにそれほど支障があるわけではない。
なんか、飛行機が縦に並んでいるイメージ

火葬

夢幻諸島シリーズ
大オーランド諸島での話
女性関係のトラブルから島に逃げてきた主人公は、叔父の代理で、知り合いが誰1人いない葬儀に出席することになる。この島の慣習などにも疎いため、いたたまれない状態で過ごすのだが、1人の女性から熱い視線を受けることになる。
訝りながらもその女についていくと、離れで誘惑されるが、あまりにも事情が分からないのですんでのところでその誘惑を断る。
その女から、何故今回の葬儀が火葬で行われたかの理由を聞かされる。それは、故人が猛毒の虫スライムに噛まれて亡くなったからだ。主人公はもともとスライム恐怖症で、この話に震え上がる。
その後、女の誘いを断ったことで女を傷つけただの、女の旦那が出てきて親族に取り囲まれて詰問されるなどして、謎の果物を食べれば「赦し」たことになるとか言われて云々

奇跡の石塚(ケルン)

夢幻諸島シリーズ
シーヴルとジェスラを舞台にした話。主人公は、シーヴルに住んでいた叔父が亡くなったため、その遺品整理を頼まれ、シーヴルに行くことになる。夢幻諸島は中立地帯のため、戦争をしている北大陸から渡るためには、警察の護衛が必要となっていた。突然現れた護衛役に最初は戸惑うが、若い婦警との2人旅に主人公は内心浮かれ始める。
シーヴルには、叔父家族が住んでいたため、子どもの頃は両親に連れられ行っていたが、島の寂しい風景も相まって、よい思い出がなかった。叔母は病気で寝たきりになっており、同世代の従姉妹とも決して親しくはなかったからだ。
ところで、この叔父と叔母、トームとアルヴィという名前で、クリストファー・プリースト『夢幻諸島から』 - logical cypher scapeのシーヴルの章に出てくる主人公たちと同じ名前なのだが、しかし経歴を考えると同一人物とは思えなくて、夢幻諸島っぽい謎のリンクがある。
シーヴルといえば塔で、主人公の過去の回想の中で、従姉妹とともに訪れて、そこで怖ろしい体験をしたこと、その後、従姉妹が姿を消したことが語られるが、叔父の遺品を整理したあと、島を探しても塔が見当たらない。
あと、この作品、主人公について途中まで隠された情報があって、途中で「あ」ってなる

ディスチャージ

夢幻諸島シリーズ
開戦3000周年を目前に、北大陸の若い兵士が、南大陸へと向かう。その途上、とある島の娼館の奥で、かつて見たラスカル・アシゾーンの絵と全く同じ構図で寝そべる裸婦と出会う。
ちなみに、アシゾーンもクリストファー・プリースト『夢幻諸島から』 - logical cypher scapeに出てくる。
その後、南大陸に渡り従軍するが、戦っているのかいないのかよく分からないまま、あちこちを転戦させられ、ついに脱走する。脱走兵として夢幻諸島の島を経巡るうちに、次第に画家として生計を立てられるようになる。そして、すでに見向きもされなくなくなったラスカル・アシゾーンの触発主義の後をつぐ絵画をひっそりと描き始める。
触知主義は、見た目には抽象画だが、その絵の表面に触れるとイメージが浮かび上がるというもの。
ディスチャージという言葉が、脱走(ディスチャージ・マイセルフ)、放出、精液、免官処分といった様々な意味で用いられる。


限りなき夏 (未来の文学)

限りなき夏 (未来の文学)