『ユリイカ2026年7月号(特集=『天幕のジャードゥーガル』の世界)』

原作マンガも読んで、アニメも今毎週楽しみにしている『天幕のジャードゥーガル』
その特集が組まれると知って『ユリイカ』も早速読んだ、という記録
一応すべての記事を読んで、おおよそどれも面白かったけど、今回はあんまり一つ一つの記事の内容メモとったりはしないことにしてみる。

❖対談
歴史家ではなく創作者 / トマトスープ×幸村誠

❖魔女たちの呼応
選択という復讐 / 辻村七子
共振する血の器  / 岡田育

❖運命と幸福に抗って
キャラクターに抗うということ / 森下達
明日の幸せへの抵抗――『天幕のジャードゥーガル』における顔のはたらき / 森田直子
方法としてのジャードゥーガル――悪役令嬢もの/悪女もの・後宮ものとして読む政治実践 / 遠藤麻衣

❖『天幕のジャードゥーガル』アニメ放送開始!
星辰図を描く内幕から / 山田尚子+Abel Gongora
『天幕のジャードゥーガル』アニメ制作現場から / 吉田健一

❖ カラコルムの草原を夢見て
歴史と創造性のあいだで / 日野浩志郎
草原の記憶と、“魔女”たちを想って / 相沢梨紗

❖魔術的なる細密画
『平家物語』を通して見る、抒情詩としての『天幕のジャードゥーガル』 / 小松祐美
『天幕のジャードゥーガル』における幾何学・占星術・錬金術 / ヒロ・ヒライ
『天幕のジャードゥーガル』におけるペルシア表象  / ザヘラ・モハッラミプール

❖「歴史創作」イラストギャラリー
トゥース市の八年間 / 亀
炎 / 佐藤二葉
あの人 / 三木有
『天幕のジャードゥーガル』によせて / 小宮りさ麻吏奈
あなたは私の / 北野詠一

❖歴史は物語ではないけれど
歴史学の視点から見る――「歴史創作」におけるフィクションと考証 / 赤坂恒明
モンゴル帝国初期のオルドと「知」の交流 /  宮紀子
「天幕のジャードゥーガル」は〈学習マンガ〉か?  / イトウユウ

❖『諸王国の輝ける星たちの書』
奪われたものを受け継ぐ――帝国のモノと知をめぐる覚書 / 壺屋めり
空色の女王の思い出と、トマトスープさんの歴史創作のこと / 並木陽

❖辺境と海原への旅
原料としての航海記、そしてその調理法――トマトスープ『ダンピアのおいしい冒険』における「白髪」の男たち / 石橋正孝
危機をいかに乗り越えるか――ペルシア文学の営みから / 中村菜穂
赦せない彼女はヒロインとなることを拒絶した――「地上のシーリーン」と『天幕のジャードゥーガル』に見る彷徨と挫折 / 足立加勇
刻む男、織る女――「地上のシーリーン」と「ナヒチェヴァンへの旅」をめぐって / 向後恵里子

❖資料
『天幕のジャードゥーガル』をもっと楽しむためのブックガイド / 谷川春菜
(特集外)
❖われ発見せり
目が美しいものを見ると、 手はそれを描きたくなる  / 村山正碩


トマトスープと幸村誠の対談、山田尚子+Abel Gongoraへのインタビューは、まあファンとして普通に面白い。
スタッフ関係でいうと、キャラデザの吉田健一、音楽の日野浩志郎がそれぞれ原稿を寄せている。
マンガ論やアニメ論などの観点からは、
森下達「キャラクターに抗うということ」
森田直子「 明日の幸せへの抵抗――『天幕のジャードゥーガル』における顔のはたらき」
小松祐美「 『平家物語』を通して見る、抒情詩としての『天幕のジャードゥーガル』」
石橋正孝「 原料としての航海記、そしてその調理法――トマトスープ『ダンピアのおいしい冒険』における「白髪」の男たち」
足立加勇 「赦せない彼女はヒロインとなることを拒絶した――「地上のシーリーン」と『天幕のジャードゥーガル』に見る彷徨と挫折」
小松は、アニメ『平家物語』と比較することで山田尚子論として書かれている。
足立は、トマトスープの同人時代の作品である「地上のシーリーン」と比較して、ファーティマやドレゲネにおける挫折の描き方を論じている。


遠藤麻衣「方法としてのジャードゥーガル――悪役令嬢もの/悪女もの・後宮ものとして読む政治実践」
イトウユウ「 「天幕のジャードゥーガル」は〈学習マンガ〉か?」
いずれも、「悪役令嬢もの/悪女もの・後宮もの」や「学習マンガ」というジャンルの観点から論じるものだが、単にジャンル論というわけでもなく、イトウ論文は昨今の(科目としての)世界史で重視されるグローバルヒストリーの観点から『ジャードゥーガル』を見ている。


歴史的な、ないし文学や表象文化論などの観点からは
ヒロ・ヒライ「 『天幕のジャードゥーガル』における幾何学・占星術・錬金術」 
ザヘラ・モハッラミプール「『天幕のジャードゥーガル』におけるペルシア表象」
赤坂恒明「 歴史学の視点から見る――「歴史創作」におけるフィクションと考証」
宮紀子「モンゴル帝国初期のオルドと「知」の交流」
壺屋めり「奪われたものを受け継ぐ――帝国のモノと知をめぐる覚書」 
中村菜穂「危機をいかに乗り越えるか――ペルシア文学の営みから」
向後恵里子「刻む男、織る女――「地上のシーリーン」と「ナヒチェヴァンへの旅」をめぐって」
ヒライやモホッラミプールのは、作中に出てきたアイテムや描写の解説として読める。モホッラミプールはイラン人としてどこが目についたか、という観点で書かれている。
赤坂は、かつて堺屋太一『世界を創った男チンギス・ハン』の考証をしていた研究者で、その時の話を書いており、ジャードゥーガルの話はあまりしていない。
冒頭で「一応すべての記事を読ん」だといったな、あれは嘘だ。宮論文は少し読んだところで、あ、これはネタバレ食らう奴だ、と思い読むのをやめた。いつになったら、読める日が来るのだろうか。
歴史ものにネタバレもなにもないわけだが、ドレゲネやファーティマがどうなるのかあえて調べないようにしている。
向後は、トマトスープの短編作品「地上のシーリーン」と「ナヒチェヴァンへの旅」を取り上げていて、どちらもアゼルバイジャンが舞台の作品で、ここからジョージアを舞台にした『奸臣スムバト』につながっていくようだ。


辻村七子「選択という復讐」、岡田育「共振する血の器」、相沢梨紗「草原の記憶と、“魔女”たちを想って」、並木陽「空色の女王の思い出と、トマトスープさんの歴史創作のこと」
このあたりはエッセイ
岡田エッセイは、時代も国も違う世界の話だけど、異郷に暮らしていると結構共感しうるという話だったような
相沢はでんぱ組.incのリーダー。トマトスープがでんぱ組が好きで、一方の相沢もモンゴルが好き(でんぱの仕事でモンゴルへ行った経験がある)という関係


並木陽は、このブログで以前少し書いたが、自分の大学時代の先輩に当たる(ここまで敬称略で書いてきたが、以下から敬称をつける)。
『ディミトリ~曙光に散る、紫の花~』 - logical cypher scape2
並木さんの出世作として『斜陽の国のルスダン』という作品があり、これの元になった作品を発表したアンソロジーの主宰がトマトスープさんであり、その後、同人版・商業版のいずれでも表紙イラストをやはりトマトスープさんが担当している。
実は、自分が最初に、トマトスープさんを認識したのは、まさにこの並木さんの本の表紙イラストからであった。
で、『ダンピアのおいしい冒険』が出た際に、並木さんの知り合いがプロデビューしたのか、という感じで手に取った、という経緯がある。
僕自身は、トマトスープさんとは全く何の面識もないのだが、知人の知人ということで一方的な親近感を抱いてたりはする。
並木さんのエッセイでは、上述したような並木さんとトマトスープさんの関係から始まり、トマトスープさんの同人時代の歴史創作についてまとめられている。
同人時代からずっと、モンゴル帝国周辺を題材にしていたのだな、というのをこのエッセイで初めて知った。
僕は初めて読んだトマトスープ作品は『ダンピアのおしい冒険』だったのだが、あの作品はむしろ、トマトスープ作品の中ではやや例外に位置する作品だったのかー、と。


特集とは関係ないが、美学者の村山さんが「われ発見せり」を書いていた。
ウィトゲンシュタインが、美しいというのは、それを模倣したくなるということではないか、ということを言ってるらしく、それを枕に、なぜコリングウッド美学を研究しているのかという話