土屋健『地球生命 空の興亡史』

翼竜類、鳥類(絶滅種)、飛ぶ哺乳類(絶滅種)についての本。
シリーズとしては、土屋健『地球生命 水際の興亡史』 - logical cypher scape2、『地球生命 無脊椎の興亡史』に次ぐ3作目。無脊椎のは自分は読んでいない。
ちなみに、あとがきによれば、次は『海の興亡史』を企画中とのこと。


恐竜については、多少は本を読んでいるが、翼竜について主に扱った本というのは読んだことがなかった。恐竜についての本を読むと、多少、翼竜については触れられているし、新種の翼竜が発見されたニュースとかは見ているけれども、あんまり翼竜についてよく知らなかったな、と。
鳥類についても同様。
飛ぶ哺乳類というのは、コウモリの仲間とモモンガの仲間などをさすが、本書は大半が翼竜と鳥類にページが割かれていて、こちらはページ数が少ないので、簡単に祖先が紹介されて終わりくらい、となっている。
ところで、あとがきで、このページ数でこの値段は、と思われた方もいるかもしれないが……的なことが書かれていて、読んだ直後の感覚としては、いやいや十分充実してましたよ、という感じではあったのだけど、買うときは確かに「あれ、薄い(ページ数少なめだ)な」と思ったのを思い出した。
空を飛ぶ生き物は、骨を軽量化しているため、どうしても残っている化石が少ない、という事情があるようだ。
とはいえ、翼竜についてだけまとまって読める本、というのはあまりないので(去年、『グレゴリー・ポール翼竜事典』というのが出てはいるけれど)、その点、買って損はないと思った。

第1章 空への進出

第1節 脊椎動物、空を飛ぶ!

第1章は翼竜を扱っているだが、第1節だけは例外で、翼竜以外の空飛ぶ爬虫類
皮膜で滑空する、ペルム紀三畳紀の爬虫類である。
三畳紀キルギスなどから産出している、シャロビプテリクスは、特に独特な形をしており、土屋健『三畳紀の生物』 - logical cypher scape2でも紹介されていたが、後ろ脚に皮膜があり、さらに前脚のカーナード翼のように被膜があったのではないかとされる。


三畳紀中期に出現したラゲルペトン類というのが、翼竜の起源だとされている。

第2節 空を制した竜たち

翼竜は、三畳紀後期には登場したとされるが、起源は謎に包まれている。


進化の傾向として、「頭が小さく尾が長い」→「頭が大きく尾が短い」
前者の代表的なグループがランフォリンクス類
2011年のシュミッツと藻谷による、強膜輪によって昼行性か夜行性か調べるという研究が紹介されている。これ、本章全体で何度も言及されている。
ランフォリンクスについては、この研究で夜行性とされている。
ランフォリンクスは、魚食でもある。
魚が喉の位置に残ったままの化石があったり、逆に、アスピドリンクスという魚に襲われた化石も残っている。
同じくゾルンホーフェン産のアヌログナトゥスは、独特な風貌。
かつてランフォリンクス類だったが、今はアヌログナトゥス類として独立している
ランフォリンクス類は、かつていろいろなグループがひとまとめにされているが、最近、細分化しているらしい。
カザフスタンから発見されたランフォンリンクス類ゾルテスによって、翼竜にも羽毛が生えていることがわかった、とか。

第3節 多様化、そして、大型化

プテロダクティルス
ジュラ紀後期、頭が大きく尾が短いグループ


アンハングエラ


夜行性で細かい歯で濾しとって食べたと考えられるクテノカスマ


プテロダウストロ
その独特な口、下あごだけにある歯でやはり濾しとって食べていた
卵と胚の化石もある


ニクトサウルス
二つに分かれた長いトサカを持つ
性的二型だったかもしれない


プテラノドン
ニクトサウルスに近縁なのがプテラノドン
骨が癒合して体幹がしっかりして、沖合と往復する長距離飛行ができた
プテラノドン・ロンギケプスは、体サイズに差がある2タイプが存在し、性的二型とみられる


タペジャラ類
タペジャラやツパンダクティルス、カイウアジャラ、トカサが非常に特徴的
本書の表紙は、ツパンダクティルスインペラトール
頭部のトサカによって大きな帆のようになっていたとされる。まだ不明の何らかの利点があったのでは、と。
果実食だったのではないかとされる


イステオダクティラス
歯の特徴から腐肉食だったのではとされる
ズンガリプテルス
貝食だったのではないか



アズダルコ類
ケツァルコアトルスなど
翼開長が10m以上の超大型種
そもそも飛べたのか、という謎
2008年、マーク・ウィットンとダレン・ナイシュは地上生活者である可能性を指摘
ただし、2010年、ウィットンはほかの研究者とともに飛行能力が失われていないとも指摘
2022年、後藤佑介らは、ケツァルコアトルス・ノースロピの飛行能力を検証し、基本的には飛行できず、地上生活をしていたとした。
小型のアズダルコ類は稀、アズダルコ類は、胚や幼体の化石もほとんど発見されていない。


うーん、やっぱ飛べないのかーと思ったが、こんな話も↓

「巨大翼竜は飛べなかった説」に対するコメント。
このような説を唱える論文では、翼竜とは翼の構造や離陸の仕方が異なる現生の鳥から得られたパラメーターを流用しているケースがあり、そのような議論の進め方はよろしくないと。
論文フリー
#とよけら論文紹介
journals.plos.org/plosone/arti...

「巨大翼竜は飛べなかった説」に対するコメント。 このような説を唱える論文では、翼竜とは翼の構造や離陸の仕方が異なる現生の鳥から得られたパラメーターを流用しているケースがあり、そのような議論の進め方はよろしくないと。 論文フリー #とよけら論文紹介 journals.plos.org/plosone/arti...

とよけらとぷす (@rex-toyo.bsky.social) 2025-09-22T09:44:38.329Z
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第2章 現代へと続く空の系譜1

第1節 空のライバルの登場

アンキオルニスやミクロラプトルは、まとめて原鳥類と呼ばれrう
そして、始祖鳥ことアルカエオプテリクス
竜骨突起がなく、羽ばたくことはできなかったのではないかとされているか、脳構造や骨の頑丈さが、飛行に適していたとする研究もある。
それから、始祖鳥よりも進化的な種として、フクイプテリクス、ジェホロルニス、コンフキソルニス(孔子鳥)が紹介されている。

  • エナンティオルニス類

孔子鳥に近縁、白亜紀前期に隆盛し、白亜紀末まで存在
多くの種が報告されている。
小鳥サイズが多い。樹上で生活していた。歯のある種が多い

第2節 真の鳥たちへ

真鳥類
地上で生活していた種、水辺で暮らしサカナを食べていた種、泳ぐことに特化した種、地上を走り回る種、沖合まで飛行した種など、多様化した
エナンティオルニス類も、これらの真鳥類も白亜紀末に絶滅しており、現生の鳥と似ていたとしても直接の祖先関係はない。
真鳥類(Euornithes)の中からでてきた新鳥類(Neoaves)というグループが、絶滅を生き延びる。
白亜紀末の南極に近い島から発見されたヴェガヴィスや、ベルギーで発見されたアステリオルニス

第3節 絶滅事件を乗り越えて
  • 古顎類

新鳥類の中のもっとも原始的なグループ。古第三期から

  • ガストルニス類

大型化した飛べない鳥。暁新世、始新世にヨーロッパ、北米、中国にわたり発見されている。
植物食
かつてディアトリマとされた種は、ガストルニスに統一

  • ファルスラコス類

第三紀の南米で栄える
肉食性だったが、ハンターだったかスカベンジャーだったかは不明
恐鳥類とも呼ばれる

  • パラゴルニス

始新世半ば、ハチドリと同様、ホバリング飛行したとされる
ハチドリと近縁のアマツバメ
しかしクチバシが短く、ハチドリのように花の蜜を吸っていたとは思われない
未知の方法で昆虫を食べていたとされる

  • アルゲンタヴィス

第三紀、アルゼンチンで発見、コンドル類
翼開長7m、体重70kgと推定
気流を使って滑空飛行できたとされるが、どのように離陸したかが謎

第3章 後進の飛翔者たち

第1節 恐竜時代の空飛ぶ仲間たち

ジュラ紀には、被膜によって滑空する哺乳類が登場している。
モモンガに似ているが、現生のモモンガとは関係ない(ハラミヤ類)

第2節 新時代の空飛ぶ仲間たち

現生哺乳類で、げっ歯類について種数が多いのが翼手類、つまりコウモリ
ただ、進化の歴史は必ずしも明らかにはなっていない
最古のコウモリは始新世のアメリカで、すでに現生のコウモリと似ているが、エコーロケーションはできなかったとされる。


げっ歯類では、現在だと、ウロコオリスの仲間やモモンガの仲間が、滑空能力を持つが、滑空性げっ歯類の先駆者は、ウロコオリスでもモモンガでもなく、エオミス類というグループ
ウロコオリスやモモンガの祖先の化石から、被膜は発見されていない。ただし、化石の構造などから、滑空できたのではないかと推測されている。