「ゾフィー・トイバー=アルプとジャン・アルプ」展

アーティゾン美術館にて。
アルプ夫妻についての展覧会
夫であるジャン・アルプのことは何となく知っていたが、その妻も美術家であるのを知らなかった
美術史、男性中心になりがち問題で、本展もそういう問題を是正していくという目論見があるのだろう。
妻の方の名前について、「トイバー」は旧姓にあたるが、結婚後、ゾフィー・アルプ=トイバーを名乗り、しばらくしてからはゾフィー・トイバー=アルプを名乗っていたとのこと。
本展では、トイバーと呼ばれていることが多いので、この記事でもトイバーと書く。
夫の方は、ジャンと書くことにする。


ジャンについては、美術史の本で度々名前は目にしていたし、作品も多少見たことはあったが、まとめて見る機会はこれまでなかった。
第一次大戦前にはカンディンスキーピカソと交流し、戦中はダダ、その後はシュールレアリスムに合流していて、色々交友関係がある感じがする人である。
有機的なぐにゃぐにゃとした線の抽象絵画や彫刻を多く制作していて、バイオモーフィズムとして位置づけられている人のはずである。


トイバーは、応用美術と抽象絵画の両方に携わっていた、と。
まず、この時代、女性への美術教育として、ビーズ刺繍などが行われていて、彼女も絵画と並行してビーズ刺繍を行っている。モンドリアンのような幾何学抽象絵画を描いているが、ビーズ刺繍から捉えた方がよい、とのこと。
応用美術として、ほかに人形劇の人形や建築・家具のデザインなどを手がけている。
抽象絵画としては、上述のように幾何学的抽象であるけれども、直線だけでなく曲線も積極的に使っている。
「ゾフィー・トイバー=アルプとジャン・アルプ」(アーティゾン美術館)開催中。担当学芸員が語るその魅力とは|美術手帖


トイバー
「抽象的なモティーフ(騎士)垂直–水平の構成」「垂直–水平の構成における基本的な要素」「向かい合う三角形のある垂直–水平の構成」
「抽象的なモティーフによる構成(手帳カバー)」
まず、1917-18年頃の作品。(手帳カバー)とあるのはビーズ刺繍作品。
紫色の使い方とか
 

ジャン 
「『バカヴァッド・ギーター』の挿絵に基づくドローイング」(1914)は、カンディンスキーからの影響で神智学に関心を持っていた際の作品
「トルソ=へそ」(1915)は、木材を切り取って貼り合わせた作品で、「へそ」はジャン作品のキーワードで、今後もずっと出てくる。


トイバー 
スイス人形劇場設立の際に声をかけられ、人形劇『鹿王』の人形を制作している。3体の人形が展示されていたが、これがかっこいい。人体を幾何学図形に抽象化しているが、関節がちょっと多かったりする。そして、守衛は完全に多脚ロボット
上述の通り、スイス人形劇場のためにつくられた作品だが、その後、ダダの文脈で紹介されるようになった、とか。また、ダダに関連してダンスパフォーマンスをしていたというのもあるが、記録が少なくてよく分かってないとかなんとか


シエナ、建築」(1921)
街並みの抽象化はキュビスムとかでよく見られるけれど、円弧になっているのが新鮮。



ジャン 
『メルツ』に掲載したリトグラフ 
ジャンは、ツァラとともにチューリッヒ・ダダを始めていたが、ハノーファーのシュビッタースのもとを訪れたこともあって、そこで描いたもの
へそ=丸を組み合わせたり半分にしたりしながら、色々な形に変形させていく試みをしており、これをジャンは「オブジェ言語」と称していたらしい。


トイバー
「5つの引き伸ばされた人物像」「壺を運ぶ人のいる構成」
これも引き続き幾何学的抽象だが、人を抽象化した形が含まれていてちょっとユーモラスな感じにもなっている。


建築関連
ストラスブールにある「オーベット」という伝統建築を、改装してバーなどの施設にする案件があり、トイバーはこれの依頼を受けている。ジャンやテオ・ファン・ドゥースブルフもこれに参加した。トイバーが主導して、ジャンやドゥースブルフを引き入れた感じのようだ。
内装の写真が展示されていたが、直線で構成されたモダンな感じでおしゃれだが、当時の受けはあまりよくなかったらしく、1928年に落成するも1938年には再改装されてしまったらしい。90年代だか2000年代だかに復元されている。
アンドレ・ホルンの邸宅について、ステンドグラスを手がけている。
ギャルリー・ゲーマンというギャラリーのデザインも手がけていて、内装や机のアクソノメトリック図と当時の写真が展示されている。
オーベットの仕事によりまとまった収入が入ってきたことで、夫妻はフランスのクラマールに自宅兼アトリエを建てている。
石造りの家で、伝統との融合も意識されているらしいが、ポーチ部分にコンクリートを使うなど近代建築要素も取り入れている。居住空間よりもアトリエを広くとっている、と。
トイバーがデザインしたモジュール式家具もあったが、これはバウハウスのイッテンからの影響がある、と
ミュラー=ヴィートマン夫妻邸のアクソノメトリック図もあったが、こちらは、トイバーが女性だからという理由で意見を聞いてもらえず、途中で離脱したらしい


1928年以降、トイバーは自分のキャリアの方向をアーティストへと向けて、それまで勤めていた教職を辞している。
アルプ夫妻は、セルクル・エ・カレ、のちにアブストラクシオン・クレアシオンに参加している。


トイバー
「線と面で表された角張ったアームのある円による構成」
紺色の背景の上に「アームのある円」が描かれている。何となく面白い。
「曲がった十字のある4つのスペース」
画面の真ん中に水色の「曲がった十字」が描かれており、その周辺にも十字が配置されている。どことなくマレーヴィチっぽい感じもして、好き。

レリーフ・セル」
長方形と小円を並べた絵をいくつか描いているのだが、こちらはそうした絵を木で立体にしたもの。レリーフという通り浮き彫りっぽい感じだが、彩色されて円や正方形にカットした木をつけている。少し浮いていて影ができるので、その効果もある。


「グレーの地の上の柱と黒い円における構成」
この「柱」とされるものが、波線で描かれていて、円を使っている延長でもあると思うのだけど、ジャンからの影響もあるのかな、という感じの線だった。


ジャンの1930年から1938年の彫刻
「カスパーと呼ばれるエルフの頭部」は石膏、「人の手で作られた貝殻」はジュラ層の石灰岩、「パコダ・フルーツ」はセメント、「つぼみ」はブロンズと、色々な材料で作られていた。
ただ、追加で作り直したりできるので石膏を気に入っていたらしい。
ジャンは戦後、彫刻家として成功していくことになるが、経済的にブロンズをたくさん使えるようになって、石膏で作った過去作をブロンズで鋳造し直すということをしたりもしているらしい。


「3つの形態による構成」
タイトルにあるとおり、3つの形態が描かれているのだけど、いわゆる有機的な曲線で描かれた何かで、何となく下に液体が垂れていっているような感じの形。
だから何、というわけではないのだけど、何となく気になった作品。


「へそと翼のあるへそ」 1933
これは、ちぎった紙を貼り付けた作品で、全体的に茶色っぽい感じでまとめられている。
タイトルにある通り「へそ」と「翼のあるへそ」も描き込まれている。
これ、アルプ作品としては、ある意味で「わかりやすい」作品であるような気がする。画面が大体4つになっていて、構図も色彩もすごくバランスがいいので。


「指」
これは、3本くらいの指を描いた紙をちぎって、それを4枚くらい円形に配置している。
指だけが回転していくようなイメージ

「無題」(1940)
これも、ちぎった紙を貼り付けたもの。人の形っぽくなってる。


トイバー
「夏の線」(1942)
「混沌とした背景の上の鮮やかな色彩の結び目」(1940)
この2つ、特に「夏の線」がとてもよかった、というか、一番気に入った作品。
トイバーの作品って基本的に「円と直線の構成」みたいな即物的な(?)タイトルが多いので、「夏の線」というタイトルだけでも何か特別感が窺える。
上下方向にいくつもの曲線が描かれていて、それらの線が閉じずに開かれている。上部に赤と緑(と灰色)、真ん中に黒と灰色、下部に赤と青(と灰色)で塗られている箇所があって、視線がそれらの箇所をいったりきたりするような感じになる。一番下の方には、人の横顔ないし壺のような形が左右対称におかれていて、絵全体の重しみたいになってバランスしてるのかなあという感じがする。

「混沌とした背景の上の鮮やかな色彩の結び目」は、油彩の筆触が荒々しく残ったダークブルーの背景(=混沌とした背景)の上に、二つの環が結び目を作っている。「夏の線」が上下方向に開放されていてフォーカルポイントとなるような箇所もあまり定まっていないのに対して、こちらは中央にはっきりフォーカルポイントがある。


デュオ=デッサン
共同制作はこの展示会でのテーマの一つになっているようだが、夫婦での合作がいくつか展示されている。
ここまで見てきて2人はいずれも線のはっきりした抽象絵画という点で共通しているけれど、トイバーは幾何学的・直線的、ジャンは有機的・曲線的だという違いがあって、どっちの作品なのかわりと見て分かる感じがする。
というところで、このデュオ=デッサンは見事に2人の要素が融合しているようなものになっている。
「夏の線」もそうだったが、こちらのデュオ=デッサンも、線が閉じていない奴の方が個人的には好みだった。


グラースでの共同制作
第二次大戦中、フランスのグラースに疎開しているのだが、そこで、ソニア・ドローネー=テルク、アルベルト・マニェッリとも一緒に暮らしていて、共同制作を行っていた、と。
また、その時の写真も展示されていたが、アルプ夫妻、ソニア・ドローネーに、ネリー・ドゥースブルフの4人での写真だった。


幾何学的な建築」と「晩年のコンストラクション」
「デュオ=絵画」1950
トイバーが事故で急逝し、ジャンはその後数年間、トイバーを悼む活動をしている。
例えばトイバーの「幾何学的な建築」という作品群を、「晩年のコンストラクション」としてブロンズで鋳造し直している。永く残るように保存したい、ということのようだ。
また、トイバー作品のアーカイブも作っていたようだ。
この際、応用美術の仕事は省かれ、彼女のキャリアの初期から造形美術の仕事に着目するように編集されていったようで、ジャンがトイバーを美術史の中にどのように位置づけようとしたか、ということが窺えるようだ。
また、2人で共同制作した「デュオ=デッサン」を油彩で描き直したのが「デュオ=絵画」で、元はデッサンなので白黒だが、「デュオ=絵画」では、2つの三角形のような形状に丸がつけられた箇所がハイライトされている。2人の人物を表わしているというベタベタな見方になるが、エモいっちゃエモい。

 

『夢ともくろみ』(1952)
詩的なタイトルと絵がセットになった画集で、タイトルは英語、仏語、独語の3カ国語表記されている。
美術展なので、ジャンの美術作品が基本展示されているが、ジャンは詩も結構書いていたらしくて、言語と絵画のシナジーみたいなのも結構意識していたらしい。


女性作家であるトイバーにより注目を集めるため、という意図もあるだろうが、トイバーの方が良さ・すごさが分かりやすかった。
人形もかっこよかったが、建築・家具などのインテリアデザインと、自身の手がける絵画とが関連し合っている感じがして、この時期のアーティストだな、という感じがする。
幾何学的抽象って、モンドリアンもそうだけど、インテリアデザインとかに応用できる見た目の良さが分かりやすくて、絵画作品も見やすい、というのがある。
わりと直線を多用していて、少しずつ曲線も導入していって、そして「夏の線」で曲線のみの作品にいたっていて、その曲線の導入についてはジャンからの影響もあるのかなと思うところがしばしあるけれど、かといってジャンのような有機的でフリーハンドな感じの曲線にはならず、やはり、幾何学的といっていい線で構成されていて、そこがよかった。
また、色使いもよくて、幾何学的抽象という意味でモンドリアンとも似ているけれど、モンドリアンのクリアな色使いと違って、刺繍が原点にあるからなのか、もう少しナチュラルな色使いというか。紫とかが時々入っているのとか。


それに対して、ジャンはすごさが分かりにくい。
ジャン・アルプについては、今までもいまいちよく分からなかったが、今回も、「ジャン・アルプわかったぞ」感は得られなかった。しかし、たくさん見たので、以前よりは理解が進んだことは進んだ。
ピカソをはじめとして前衛画家って時として「子供の落書きみたい」「自分にも描けそう」という感想をもたれがちであるが、しかし、ピカソとか実物を見ると、やっぱりテクニカルなところがあって、誰にでも描けそうに見えて、誰にでも描けるわけではない絵になっている。
対して、ジャン・アルプは、シンプルすぎて、やっぱり「誰でも描けそう」感がある。
これで作品が成り立つのか、っていうすごいギリギリのところを攻めてる感じがある。

コレクション展

まあ、ざっくり

  • ミロ「夜の女と鳥」

ミロは都美術館に来ているのでちょっと気になっているところだが、絵の内容というより、キャンバスの縁がきっちり直線じゃなくて、ハサミかなんかで切ったままになっていたのに目がいった。解説みると、裏から絵の具を浸しているかなんかして作っているのか?

これ初めて見たような気がする。

壁にかかっている猟銃がフォーカルポイントなんだろうけど、その横に小さく絵がかかっていて、画中画があると何故かつい反応してしまう。

「ABSTRACTION抽象絵画の覚醒と展開」展 - logical cypher scape2で見た気はする
黒く長方形の格子状に塗られた画面に、赤い筋が描かれている。
斜めからみると、その格子が溝のようになっているのが分かって、ちょっと面白い。

  • ミッチェル「ブルー・ミシガン」

「ABSTRACTION抽象絵画の覚醒と展開」展 - logical cypher scape2でも見た気がするが、Transformation越境から生まれるアート展ほか - logical cypher scape2の方で見た時の記録が残っていた
まあ、わりと好き

  • ザオ・ウーキー 

アーティゾンに来たら必ず見ているというか、これを見ずには帰れないというか
ザオ・ウーキーだけの部屋になっていて、嬉しくなる。
まあ、やっぱり好きだなあと確認する感じだけど。
「07.06.85」「24.02.70」「15.01.61」とかがいつ見ても、いい
「風景2004」って見たことあるようなないような曖昧だな、と思ったけど、もしかしてこれ見るの「色を見る、色を楽しむ――ルドンの『夢想』、マティスの『ジャズ』……」ブリジストン美術館 - logical cypher scape2以来か。これも好きな作品