タイトル通り、ロシア極東・シベリアの地域研究についての本で、自然地理、歴史、民族・文化、政治経済問題、各州・自治共和国の5パートに分かれている
どれも気になるといえば気になるが、今回は菊池俊彦『オホーツクの古代史』 - logical cypher scape2に引き続き、北東アジアの少数民族に興味があって手に取ったので、歴史パートと民族・文化パートを読んだ。
はじめに[服部倫卓]
「シベリア」という語源はシビル・ハン国とされているが(ということすらこれを読むまで自分が知らなかったが)、それ以前が用例があって、そうではないということからまず説明されている。シベリアという名前を広めたのはシビル・ハン国だろう、と。
もともと、ロシアのアジア部分をシベリアと呼んでいたが、今は、バイカル湖までをシベリア、バイカル湖以東を極東と呼ぶ。
ロシアの行政区分がそこで分かれている、という話
「極東」という言葉、普通は日本、韓国、北朝鮮、中国、ロシアの東アジア部分を指すけれども、ロシア人が極東という場合は、ロシア国内の行政区分である極東を指すらしい。
本書の「ロシア極東・シベリア」というのも、このロシア内の極東をさしている、と
Ⅱ シベリア・極東の歴史
第11章 シベリアの人類史と多様な民族形成――民族的・文化的多様性の起源
シベリアへの人類進出は10万年前
デニソワ洞窟の話
ゲノム分析から、3万年前以降のシベリア人は3つの系統
(1)古代北シベリア集団
3万年前には北極圏まで到達。アメリカ先住民の祖先ではない。
(2)古代パレオ・シベリア集団
2万年前に(1)と東アジア集団の混血により形成。アメリカ先住民の祖先と関連
コリャーク、イテリメン、チュクチとも類似
(3)新シベリア集団
1万年前以降の主要な集団
第13章 古代・中世のロシア極東と北海道――極東史から見たアイヌ民族の形成
紀元前頃、沿海州南部ではクロウノフカ文化、アムール川中下流域ではポリツェ文化が成立
3~4世紀には、ポリツェ文化が沿海州南部まで広がり、これが5世紀頃に靺鞨文化になる。
8世紀頃に、沿海州南部では渤海文化に、アムール川中下流域ではアムール女真文化となる
一方、5~9世紀にかけて、サハリンから北海道北東部にオホーツク文化が成立
靺鞨文化とオホーツク文化の間に交流ルートがあった
第14章 シベリアの地域情報収集と地図化――ロシアによるシベリア・極東進出の歴史①
ロシアによるシベリア進出
1581年 ストロガノフ家の支援を受けたイェルマークが、コサックを率いてシビル・ハーン国を攻撃。
この章は、16世紀から18世紀頃のロシアによる探検・地図製作の歴史について
第15章 ロシアの近代学術調査と探検――ロシアによるシベリア・極東進出の歴史②
18世紀前半、ピョートル1世の勅命により、ベーリングによるカムチャッカ調査探検始まる
カムチャッカ半島の横断、アラスカ確認
19世紀になり、間宮林蔵から40年遅れでロシア人もサハリンが「島」であることを確認
1878年 スウェーデンを出発し、北極海からベーリング海峡を抜けて太平洋に至る北東航路開通
第16章 極東地方南部への移住――コサックと古儀式派教徒の進出
ロシア人の極東地方南部への移住は3期に分かれる
第1期:1861年~1881年 陸路による移住(域内移住)
第2期:1882年~1901年 海路による移住(ウクライナ、ベラルーシなどからの移住)
第3期:1902年~1917年 シベリア鉄道による大量到来
移住者は、コサックと古儀式派教徒が多い
コサックは、開発と防衛が必要だから。
古儀式派教徒は、未開地開拓者としての資質から
第17章 ロシアの北太平洋進出とアラスカ――毛皮資源と新天地を求めた人々
ネルチンスク条約・キャフタ条約以後、毛皮輸出が増加
カムチャッカ半島周辺のラッコ毛皮が人気に
18世紀のロシア毛皮業者として著名なのが、シェリホフ
アラスカに進出
シェリホフの会社は、のちにロシア・アメリカ会社という半官半民会社に
アラスカで活動するにあたり、アメリカから物資購入していたりする。日本に来たレザノフは、この交渉のためにアメリカにいったりしている。レザノフのミュージカルとかあるらしい
1867年、アラスカはアメリカに売却され、ロシア・アメリカ会社の事業停止が決定づけられる
第19章 流刑地としてのシベリア・極東――ロシアの「島」
帝政期の流刑は、人口の少ない地域にロシア人がいる、ということが目的
サハリンとかで顕著
第21章 シベリア出兵から日ソ国交樹立へ――関係再構築までの苦闘
第23章 「シベリア抑留」の始まりと終わりの地――日本人兵悲劇の舞台、ロシア極東
第24章 サハリン残留朝鮮人とサハリン残留日本人――〈樺太〉と〈サハリン〉を生きた人々
20~24章も読んだけど、内容は省略
ソ連出来たとき、ロシア人が国外へに逃げているけれど、そういうので日本に来たロシア人の1人に、お菓子屋のモロゾフがいたのか
シベリア抑留
61万人がソ連軍の捕虜に。約6万人が亡くなったとされる。特に死者の大半は、飢餓と寒さで1年目に亡くなっているとか
サハリン残留は、朝鮮人が多かったようだ。
1945年日本人約35.8万、朝鮮人約2.3万だったのに対して、1949年には日本人約1500、朝鮮人約2.3万になってる
朝鮮が独立したので日本への引き揚げ対象にならなかったが、朝鮮戦争が起きたので送還計画が霧散。北朝鮮の国籍取得とか北朝鮮への帰国とかはあったけど、韓国側地域の出身者が多かったのであんまり、と
子や孫の代ではソ連・ロシア化がすすんだ。
残留日本人は、朝鮮人と世帯をもっていたから、とか背景にあるらしい。
Ⅲ シベリア・極東の民族と文化
第25章 ロシア文学に描かれたシベリア――探検と流刑のトポス
シベリアを描いた文学を「シベリア・テクスト」と呼ぶ
イェルマークは多くの作家によって描かれ、叙事詩、戯曲、映画になっている
資源開発をめぐる冒険小説だったり社会主義的リアリズム小説だったり、その反動の環境問題を描く文学だったり
先住民族も文学に描かれる。
ソ連では、エンゲルスがニヴフを原始共産制の事例として取り上げたこともあり、先住民族の社会主義化・近代化みたいなものが描かれた
一方、先住民族出身の作家も出てくる。ソ連の民族政策により文字が整備されたことで、民族語で書くことが可能になる。
第26章 極東・シベリアの先住少数民族――民族の分類・分布
狩猟採集・トナカイ牧畜・漁労
帝政ロシアは、農耕を行わない非キリスト教諸民族を「異民族」とカテゴリーし、毛皮税を課した(千島アイヌとかもロシアに毛皮税を課せられていたらしい)
ソ連時代「北方少数民族」という法的カテゴリーがつくられ、これは名前を変えて現在のロシアにも引き継がれている
ソ連時代、農業集団化や学校教育によって、伝統社会は大きく変容
教育がロシア語で行われたために多くが母語を失っていたが、その反面、ソ連は少数民族言語の保護に熱心だったらしい。文字での表記を可能にした。
第27章 極東・シベリアの先住少数民族の言語――アルタイ諸語
極東・シベリアには、ウラル語族、テュルク語族、モンゴル語族、ツングース語族、チュクチ・カムチャッカ語族が分布
また、孤立言語としてニヴフ語、ユカギール語がある
テュルク語族、モンゴル語族、ツングース語族が共通の祖先に遡るという説をアルタイ仮説と呼ぶが、現代ではほぼ否定されている
(系統仮説に対して中立的にこれら3つを総称して「アルタイ諸語」と呼ぶ)
第28章 カムチャッカ半島の先住民言語――18世紀から現在までの言語分布の変遷
カムチャッカ半島の先住民族として、チュクチ人、コリャーク人、アリュートル人、ケレック人、イテリメン人がいる。
イテリメン人は、ロシア人の探検隊などに徴用されて過酷な労役を強いられた
コリャーク人は、コサックにトナカイを徴用され、定住生活を余儀なくされた
コサックの略奪に対して、18世紀前半度々武力衝突が起きている
アイヌは、ロシア政府から先住民族として認められていないが、カムチャッカ半島南端には、アイヌ語とイテリメン語のバイリンガルがいた記録があり、アイヌ語地名も残っている
また、樺太千島交換条約の際に、ロシアによりカムチャッカに移住させられた千島アイヌがいて、2010年国勢調査では、カムチャッカに約100名のアイヌがいる
また、1820年代、ロシア・アメリカ会社により、アリューシャン列島から移住させられたアリュート人もいる
また、1840年代頃に、移住してきたエヴェン人もいる
カムチャダール人という名称は、イテリメン人の旧称だが、ロシア人と先住民族との混成民族のことも指す。さらに、国勢調査の際にアイヌとして登録できなかったアイヌ人がカムチャダール人として登録していることもある、とか。
第30章 シベリア(先住)諸民族における口承文芸――語られた文芸の記録叢書
はじめに[服部倫卓]
Ⅰ シベリア・極東の地理と自然
第1章 シベリア・極東の起源と領域――時代とともに揺れ動く地理のイメージ
第2章 「シベリアの真珠」 バイカル湖――その瞳は青いままでいられるか
第3章 シベリアの大河――レナ・エニセイ・オビと暮らす人たち
第4章 カムチャッカと千島列島の火山――世界屈指の活動的火山群
第5章 オホーツク海を育むロシア極東の河川――日本にめぐみをもたらす魚附林
第6章 タイガ・ツンドラ・永久凍土――シベリアを特徴づける自然環境
第7章 地球温暖化とシベリア――近年の気候変動と環境への影響
第8章 シベリア・極東の希少動物――アムールトラやアムールヒョウの個体数は回復
第9章 日本とシベリアを繋ぐ渡り鳥――先住民・行政・研究者が協働するコクガン市民調査
第10章 シベリアの森林火災――凍土上のゾンビファイアー
【コラム1】シベリアの淡水魚とその利用――ロシア人と先住民の利用法Ⅱ シベリア・極東の歴史
第11章 シベリアの人類史と多様な民族形成――民族的・文化的多様性の起源
第12章 ロシア極東と北海道の先史文化交流――ホモ・サピエンスの定着化からオホーツク文化形成まで
第13章 古代・中世のロシア極東と北海道――極東史から見たアイヌ民族の形成
第14章 シベリアの地域情報収集と地図化――ロシアによるシベリア・極東進出の歴史①
第15章 ロシアの近代学術調査と探検――ロシアによるシベリア・極東進出の歴史②
第16章 極東地方南部への移住――コサックと古儀式派教徒の進出
第17章 ロシアの北太平洋進出とアラスカ――毛皮資源と新天地を求めた人々
第18章 日露の出会いとなったシベリア・極東――漂流民が端を開いた両国関係
第19章 流刑地としてのシベリア・極東――ロシアの「島」
第20章 日露戦争から日露同盟へ――対立から戦略的互恵関係へ
第21章 シベリア出兵から日ソ国交樹立へ――関係再構築までの苦闘
第22章 満洲事変から日ソ戦争まで――スターリンとの対決
第23章 「シベリア抑留」の始まりと終わりの地――日本人兵悲劇の舞台、ロシア極東
第24章 サハリン残留朝鮮人とサハリン残留日本人――〈樺太〉と〈サハリン〉を生きた人々Ⅲ シベリア・極東の民族と文化
第25章 ロシア文学に描かれたシベリア――探検と流刑のトポス
第26章 極東・シベリアの先住少数民族――民族の分類・分布
第27章 極東・シベリアの先住少数民族の言語――アルタイ諸語
第28章 カムチャッカ半島の先住民言語――18世紀から現在までの言語分布の変遷
第29章 極東・シベリアの先住少数民族の生活・生業様式――自然・社会環境変化の中で
第30章 シベリア(先住)諸民族における口承文芸――語られた文芸の記録叢書
第31章 イスラームのシベリアと仏教のシベリア――その歴史と現在
第32章 特徴的なロシア人ローカル・グループ――コサック、古参住民、古儀式派教徒
第33章 シベリアのポーランド人・ウクライナ人・ベラルーシ人――19世紀末から20世紀初頭にかけての自由移民Ⅳ 現代のシベリア・極東の諸問題
第34章 シベリア・極東をめぐる国際関係――「東方シフト」が抱え込むいっそうの困難
第35章 シベリア・極東の石油・ガス――ロシア経済を支える貴重な資源
第36章 シベリア・極東は資源の宝庫――ダイヤモンド、石炭、金、水産物
第37章 プーチンの極東開発――覚悟と信念の四半世紀
第38章 シベリア・極東を舞台とした日露経済協力――重大な岐路を迎えた極東ビジネス
第39章 ロシア極東の漁業と日露漁業関係――押し寄せる時代の荒波
第40章 軍事面から見たシベリア・極東――配備兵力、核戦略、軍需産業
第41章 日露間の北方領土問題――「0島返還」路線に戻ったプーチン政権
第42章 アジアシフトで変わるシベリア鉄道――増え続ける貨物輸送
第43章 シベリア・極東の人口減少問題――90年代の混乱と2000年代の安定化
第44章 ロシアの北極政策――プーチン政権下の急展開
第45章 シベリア・極東観光案内――大自然の宝庫、多様な民族文化と歴史
第46章 ウクライナ侵攻とシベリア・極東――「東方シフト」は加速するか
【コラム2】「シベリアの呪い」とは何か?
【コラム3】東京農業大学の実験的プロジェクトから見えた可能性
【コラム4】北海道・極東ロシア間交流――北方領土の旧居住者の語りからⅤ シベリア・極東の諸地域
シベリア・極東諸地域基礎データ・地図
第47章 チュメニ州はシベリアの門――石油・ガス産地の2つの自治管区は実質独立
第48章 ハンティ・マンシ自治管区はロシア随一の産油地域――先住民の社会にも変化
第49章 世界屈指の天然ガス産地 ヤマル・ネネツ自治管区――資源開発と先住民の生存
第50章 山と湖の景勝地 アルタイ共和国――ロシアらしからぬ山岳地帯
第51章 かつては独立国だったトゥバ――トゥバ人がロシア人よりも多数を占める共和国
第52章 遊牧民国家興亡の地 ハカス共和国――現代の主産業は水力発電とアルミ精錬
第53章 自然が人を呼び寄せるアルタイ地方――背後に山脈が控える豊かな大地
第54章 貴金属・非鉄金属で栄えるクラスノヤルスク地方――大河エニセイ流域に広がる広大な地域
第55章 日本と歴史的関係の深いイルクーツク州――漂流民から木材企業まで
第56章 石炭産業の中心地 ケメロヴォ州――300年の歴史を誇るクズバス炭田
第57章 ソ連とともに生まれたノヴォシビルスク州――学術都市建設とその後
第58章 かつてのシベリア「首都」 オムスク州――その歴史的変遷
第59章 教育と科学の街 トムスク州――最古であり、最先端
第60章 民族文化を維持しようとするブリヤート共和国――ロシアとアジアが交差する地
第61章 サハ共和国は世界最大面積の地方行政単位――凍土とダイヤと民族文化の地
第62章 地方政治を色濃く映すザバイカーリエ地方――宗教や歴史が凝縮する空間
第63章 火山・漁業・原潜基地のカムチャッカ――人口希薄な戦略的要衝
第64章 変化を見せる沿海地方――プーチンのアジア戦略の最前線
第65章 潜在能力を秘めたハバロフスク地方――極東主都の座を失う
第66章 存在感を増すアムール州――中国、大豆、メガプロジェクト
第67章 スターリン体制の暗部が刻まれたマガダン州――コルィマ街道の悲劇
第68章 サハリン州をめぐるさまざまなボーダー――サハリン島とクリル諸島
第69章 世界史が影を落とすユダヤ自治州――ソ連版「約束の地」
第70章 最果てのチュクチ自治管区――生き残りをかけておわりに[吉田睦]
ロシア極東・シベリアを知るための参考文献
地名・人名・民族名索引
