恐竜を展示した動物園(溝井裕一『動物園・その歴史と冒険』『動物園の文化史』(一部))

本記事は、溝井裕一『動物園・その歴史と冒険』の(主に)第3章・第4章、溝井裕一『動物園の文化史』の(主に)第6章・第7章についての読書メモである。
これらの本を手に取ったきっかけは本当に偶然で、同じ著者の別の本が図書館の新着にはいっていたところから辿って知った。
目次を眺めていたら、動物園の中に恐竜が展示されていたという話と、ナチスドイツにおいて絶滅動物を復活させる計画があったという話があったので、そこだけ読んでみることにした次第。
本書全体も気にならないわけではなく、色々面白いエピソードがのってそうだなとも思うのだが、とりあえず恐竜・古生物の文化や表象にかかわる話として読んだ。

『動物園・その歴史と冒険』

第1章 王都に響きわたる咆哮―古代~近世の「動物コレクション」
第2章 動物園の成立と、そのユニークな文化
第3章 恐竜、ドラゴン、「未開人」―野心的な展示をめぐる冒険
第4章 動物園の世界大戦
第5章 動物のおうちは「バスルーム」?―戦後の発展と高まる批判
第6章 新たな地平を求めて―「支配」から「共生」をあらわす場へ

「はじめに」で『ジュラシック・ワールド/炎の王国』を枕に持ってきている。ジュラシック・ワールド(パーク)のテーマは、動物園のそれでもある、と。

第2章 動物園の成立と、そのユニークな文化

アメリカの動物園の始まりとして、バーナムがでてくる
日本の動物園の話で、次の章の主人公でハーゲンベックが出てくる。ハーゲンベックというのは動物商で、日本の動物園も立ち上げ時にハーゲンバックから動物を購入している。


第3章 恐竜、ドラゴン、「未開人」―野心的な展示をめぐる冒険

カール・ハーゲンベック(1844~1913)
魚屋だった父親が趣味が高じて動物を見世物にして販売したのをきっかけに、親子で動物商となる
ビスマルクによるドイツ帝国の興隆とともに、ハーゲンベック親子の商売も順調となり、世界中に海外派遣員を送り、動物を捕獲しまくった
1866年から86年にかけて、ライオン1000頭、トラ800頭、ゾウ300頭などなどの大量の動物を輸入している。輸送中の死亡率は50%ともいわれているので、捕獲したのはさらに倍となる。
ハーゲンベックは動物だけでなく、先住民族もつれてきて、「人類学的・動物学的展示」と称して動物園に展示している。サーミ人エスキモー、カルムイク人、シンハラ人……。


ハーゲンベック動物園は「パノラマ」という展示方法をとる
柵がなく、自然を模したエリアに異なる動物たちが一同に会しているという展示である。
観客からは、肉食動物と草食動物が一緒にいるように見えるのだが、実際には深い堀によって隔てられている。
動物たちの自然の中でのふるまいが見えるように、という触れ込みだが、実際の生息地が忠実に再現されていたわけではない
むしろ「パラダイス」という物語のもと、構想されていた。
残酷な野生から解き放たれたパラダイスだ、と。これを筆者はテーマパークならぬテーマ・ズーと称している。
また、ハーゲンベック動物園は、世界の縮図であるとともに地球の歴史の縮図でもあろうとした
パノラマは、地殻変動のプロセスもあらわしている(奥から火成岩、堆積岩など)
民族展は、「人類の歴史」を表しているものだとされたのである(「未開」の人々は、サルからヒトへと進化する途上の存在だと考えられていた)
そして、そうした観点から、ハーゲンベック動物園の「恐竜エリア」がある
現在もまだ残っており、イグアノドン、ディプロドクス、ブロントサウルス(アパトサウルス)を食すアロサウルス、ステゴサウルスをこうげきするケラトサウルス、イクチオサウルスプレシオサウルスプテラノドンの実物大模型が展示されている
ハーゲンベックは、クリスタル・パレスにも影響されていたらしい。
そしてそれだけでなく、ハーゲンベックは生きた恐竜の捕獲も考えていた。
ハーゲンベックの動物捕獲隊は、ソマリランドでロバを捕獲しそれが新種だとわかったり、目撃はされていたが生きて捕獲された例のないコビトカバを捕獲したりしていた。
そして、1908年に出版されたハーゲンベックの自伝の中で、彼は、2~3年前にアフリカからの報告として、恐竜のような生き物の目撃証言があったことを語っており、探検隊を派遣したと語っている。
このハーゲンベックの話をきっかけとして、のちにモケーレ・ムベンベ伝説が生まれたらしい。


本書では、ハーゲンベック動物園ではないが、1920年代にコモドオオトカゲのフィーバーがあったことも書かれている。「恐竜」ないし「ドラゴン」という触れ込みで盛り上がったようだ。
島に捕獲しにいって、ニューヨークへ連れて帰る、というのが映画『キングコング』につながったらしい。


ハーゲンベック動物園に影響を受けた動物園
(1)ヘラブルン動物園
次の章にも出てくるルッツ・ヘックの弟にして、ハーゲンベックの息子の婿であるハインツ・ヘックが園長で、ハーゲンベック式展示を取り入れたが、地理区分でエリア分けするという工夫を加えた
(2)東山動物園
ハーゲンベックの息子がサーカスで来日していて、そこでハーゲンベックから動物園について学ぶ
恐竜の模型もある。

第4章 動物園の世界大戦

この章では、戦争中の動物園について扱われている。
かわいそうなぞう』により上野動物園での殺処分は有名だが、これは世界中で起きていたことで、それらの事例や、あるいは動物によるプロパガンダ、あるいは空襲による被害などが紹介されている。
ここでは、そのあたりは省略して、ルッツ・ヘック率いるベルリン動物園のナチス協力の話について
ヘックはナチス思想に共鳴しており、ベルリン動物園には「ドイツ動物園」という北ドイツを再現するエリアがあった。
そして、絶滅したオーロックスやターパンの再生、絶滅の危機に瀕していたヨーロッパバイソンの再繁殖を試みた
何故この3種なのかというと、『ニーベルンゲンの歌』でジークフリートが狩ったとされる動物だかららしい
ジークフリートが生きていたころの「アーリア的自然」を復活させるという目的だったらしい
ベルリン動物園もまた空襲に遭い無事ではすまなかった。

動物園の文化史

動物園の世界へようこそ
第1章 「動物コレクション」の起源
第2章 古代・中世ヨーロッパの動物コレクション
第3章 飼いならされた「自然」―近世におけるメナジェリーの発達
第4章 近代動物園の誕生
第5章 動物園は大洋をこえて―アメリカと日本
第6章 動物園でひとを展示する!?―「動物王」ハーゲンベックとその事業
第7章 ベルリンの〈ジュラシック・パーク
最終章 ノアの箱舟―動物園の存在意義をめぐって
あとがき

本書も、冒頭と末尾に『ジュラシック・パーク』への言及がある

【コラム①】動物裁判

動物に権利を与える者ではなく、動物を支配するものとしての動物裁判

第6章 動物園でひとを展示する!?―「動物王」ハーゲンベックとその事業

この章は、タイトルにあるとおり、ハーゲンベックの民族展の話が主で、恐竜や「パノラマ」の話はなかった。また、『動物園・その歴史と冒険』では別の章にあった、ベルリン動物園の異国風建築の話も書かれていた。


ハーゲンベックは、サーカスもやっているが、鞭を使わない調教を行った。動物に対して暴力を用いず、愛情と理解をもって接するという方針であったらしい
動物園もまた、檻を用いない飼育法を実践している。
この檻を用いない飼育法自体は必ずしもハーゲンベックに端を発するというわけではなく、それ以前からあったようだが、「智によって動物をしたがえる」というのがハーゲンベックの動物に対する態度だった、と
本人は動物への愛を持っていたという自分でも述べているらしいが、とはいえ、動物を大量に捕獲し商っている以上、大量の動物が犠牲にもなっている。

『動物園・その歴史と冒険』でも輸送中の死亡率に触れられていたが、本書ではより細かく輸送中での動物の死亡状況について触れられている。


民族展の話
何が求められていたか
→「素朴さ」や「異教」のエキゾチックさ・ロマンチックさ
何故動物園で行われたのか

  • 「野生に近い」と思われたから
  • 主催者はフリークショーではなく学問的なものとアピールしたかったから
  • 動物園的にも儲けが期待できるから
  • 異国風建築があったから


ハーゲンベックは、民族展を自分が始めたかのように主張しているが、実際には、コロンブスにさかのぼるくらい歴史がある。
P.T.バーナムのサーカスでも「人食い族」が見世物にされていて、そしてハーゲンベックはバーナムに動物を売っているので、ハーゲンベックはこれを知らないわけがない、と


民族展は、当然トラブルも多い
拉致同然に集めてこられた場合もある。ハーゲンベックの場合、志願者を募集していたらしい。
ハーゲンベックは募集にあたっては、いろいろと条件をつけている(老若男女がそろっているとか技術をもっているとか)。のちにその中に健康条件もつけている。過去に、予防接種を怠って天然痘で全滅させたり、予防接種はしたが肺炎で死なせたり、といったことがあっためだという
ほかにも、鬱やヒステリーが起きたという事例もあったという
宣教師たちから人道的見地からの批判はあったというが、批判的な声は少数派だった


【コラム③】幻の恐竜飼育
恐竜の話はコラムに短くまとめられていた。『動物園・その歴史と冒険』の方が詳しい。

第7章 ベルリンの〈ジュラシック・パーク

この章で登場するのは、ベルリン動物園園長のルッツ・ヘック、ならびに父のルートヴィヒ・ヘック、弟のハインツ・ヘックである。
父ルートヴィヒもまたベルリン動物園長を務めた人物で、絶滅種の再生を試みたことがある。ルッツはのちにナチス党員となるが、父親について、ナチスが登場する前から国家社会主義者だったと述べており、キャリア・思想の面で父親からの影響が強かったことがうかがえる。
ルッツは、親衛隊賛助会員からナチス党員になっており、ゲーリングとも親しかったらしい。


ナチスは実は動物保護政策を打ち出していて、動物保護法をつくっている。
従来の他国の動物保護法が、あくまでも人間のための動物保護だったのに対して、ナチスのそれは動物自身のための保護をうたっている
とはいえ、この動物保護法では、安楽死も法制化されており、これが人間への適用への布石でもあった(進化論を利用して動物と人間との境界をあいまいにした)。
また、動物保護政策は、大衆のコントロール手段でもあった。
これはナチス以前からヨーロッパにおける動物保護にはそういう目的があったらしい。つまり、動物を守るというよりは、動物を虐待するような粗暴さを矯正するために動物保護が謳われていたらしい。ナチスが動物保護を打ち出していたのも、そういう文脈がある、と。
さらに、動物保護とは矛盾するようなことも多く(毒ガスの動物実験など戦争への動物利用など)、さらにゲーリングなどは自然保護区で狩猟を行っている。
筆者は、動物を保護するというのは、結局、自然をも支配する、ということなのだと論じている(支配の対象なので狩猟してもいい)。
そして、ナチスには「アーリア的自然」という理想もあった。
その理想をかなえる一環として、絶滅動物の復活が位置づけられる。
オーロックスという絶滅した野生のウシがいる。これは、現生のウシの祖先にあたるのだが、アーリア的自然にはこのオーロックスがいたのだ、と、だからオーロックスを復活させるのだ、ということになる。
これに取り組んだのはヘック兄弟なのである。
遺伝を担うのは染色体である。染色体は固体である。ゆえにオーロックスの子孫である現在のウシたちにも、オーロックスの形質は(薄くなったり融け合ったりせずに)受け継がれている。なので、オーロックスの特徴を部分的に持ち合わせているウシをそれぞれ掛け合わせていけば、祖先種であるオーロックスを復活させられる。
なお、兄弟で手法が異なっており、ルッツは、復活には野生化が必要だと考えた。ハインツは、多くの品種をひたすらかけわせるという方法を試みた。
という理屈になる。
また、希少種となっていたヨーロッパバイソンについても再繁殖を試みた。
すでに数を減っているヨーロッパバイソンに、アメリカバイソンを交配させる。アメリカバイソンの「生命力」をわけてもらうため、と。ただ、これでは単なる混血種ができるだけであるが、その混血種を再びヨーロッパバイソンとかけあわせていくと、ヨーロッパバイソンに戻っていくという「圧迫育種」なる方法を用いた。
ほかにも、絶滅したターパンについて、現存のウマとモウコウマをかけあわせることで復活させようとした。
さらに、単に復活させるだけでなく、そもそも目的は「アーリア的自然」なので、そうした種を野生に戻すことも画策していた。
まずは、ゲーリングの別荘のあったショルフハイデの森で、続いて、ポーランド占領した際に、ビャウォビエジャ森で行った。かなり無茶苦茶に、野放しにされたらしい。ヒグマを放ったりもしている(そして人的被害が出ている)。また、もともとこの森では、ヨーロッパバイソンの再繁殖が行われていたが、。杜撰な管理やゲーリングの狩りで死に至っている。


では、実際に復活させられたかといえば、もちろんそんなことはない
さらにいうと、兄ルッツと弟ハインツとでは、オーロックスがどんな姿をしたウシなのか、という点での理解が一致していなかった。また、両者ともその理解が間違っていた(例えば、角の形について、オーロックスの化石を確認すれば分かることだが、2人とも全然違うことを言っていた)。
ところが、ハインツの「オーロックス」は実はまだ現存して、人気があるらしい(美味なので)
また、動物園で復活させた種を野生化させる試みについて、ヘッツは思想もあれだし手法もダメダメだったわけだが、現代の動物園でも同様のことはやっているよね、ということが次の章で話されている。

参考文献

『動物園というメディア』という論文集があげられているが、西村清和と柏木博の論文が収録されている


感想とか

恐竜のことを、というきっかけで手に取った本だが、まあさすがに恐竜についての記述はそんなにはなかった。
ただ、モケーレ・ムベンベのきっかけになったというのは面白かった
また、東山動物園が影響を受けていて、恐竜の模型がおいてあるとかも。
何より、ハーゲンベックにしろ、ヘックとナチスにしろ、この時代における「進化論」の影響の大きさみたいなものを感じる。
様々な誤解含みだったりもするのだけど、それも含めて、この時代における一種の流行思想だったのだろうなということがうかがえる。
むろん、現代においても「進化」という言葉はいろいろキャッチーに使われるけれど、しかし、例えば100年後とかに現代を振り返ったら、その地位には「AI」とかが入っているんじゃないかな、と思ったりはする。
ハーゲンベックについては、恐竜よりもむしろ民族展の記述が多いけれど、これについては、リチャード・シドル『アイヌ通史 蝦夷から先住民族へ』(マーク・ウィンチェスター訳) - logical cypher scape2を読んだばかりなので、それと呼応しあうところがあるな、と感じた。
民族の展示というと万博が思い浮かぶし、『アイヌ通史』でも万博なんだけど、そうか、動物園でもあったか、と。
人類学者とかもかかわったりしている(展示された人々の測定とかをやっている)。
やはりここでも進化論が関係してくるし。
それから、この本を見つけたのは本当に偶然だったのだけど、絶滅動物の復活という話が期せずしてタイムリーだったな、と思った。
『動物園の文化史』では、『ナショナルジオグラフィック』2013年4月号から、スベインアイベックスやリョコウバト復活の試みが引用されていたりして、まあ、いつでもやってんなあとは思うのだが、ここ最近だと、以下の2つがあった。
「絶滅から復活」と話題のダイアウルフ、どんな動物だったのか | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト
「ティラノサウルス革」を作り出そうとする企業が登場するが専門家は問題点を指摘 - GIGAZINE
化石から抽出した古代DNAや古代タンパク質を用いていて、いかにも最新技術による画期的な話のようにもみえる。
しかし、どちらも上記の記事中で指摘されているように、化石の中に残っているのは非常に断片化されたものだけだし、絶滅した生物をそのまま復活させられるようなものではない。
結局、現生種の遺伝子組み換え種だったりするわけで、ヘックのオーロックスと全く同じとまではいわないものの、似たもの同士の類のように思える。
とはいえ、じゃあただのインチキとして消えていくのか、というと、そうは言い切れないかもしれない。
というのも、ハインツ・ヘックの「オーロックス」が今でも人気の牛として飼育され続けるという話があったからだ(そのことへの批判はあるらしいが、あまり気にされていないらしい)。
ティラノサウルス革とか、別にティラノサウルスでもなんでもないわけだけど、なんかしてうまく採算がとれそうだったら、定着しちゃったりするかもしれない。