クラフトビールのマンガ
5/8までpixivコミックのサイトで最新話まで全話無料で読める、ということがSNSでのリポストで回ってきていたので、何となく読み始めてみたら、3日で2周するくらい面白かったので、ブログにも記録しておこうかと。
https://comic.pixiv.net/works/6217
広告会社で派遣社員をしている七菜は、ある日、「白熊」という居酒屋に迷い込む。カウンターに客が1人だけの閑古鳥の鳴く店で、最初は帰ろうと思ったのだが、酒と食事が進むうちに楽しくなっていく。
高知弁で話す店主の隆一は、七菜と、もう1人の客であるカメラマンの鉄雄に、店のアドバイザーになってほしい、と頼み込んできた。
というわけで、この七菜、隆一、鉄雄をトリプル主人公として、クラフトビール、そしてビールと食事の組み合わせ(ペアリング)を主軸としつつ、様々な人間ドラマが描かれていく作品となっている。
そういう建付け自体は、まあこの手のマンガとしてはよくあるタイプだとは思う。
自分は、クラフトビール自体はまあ好きだけど、普段それほど飲まないこともあって、あんまりよく知らなかったので、単純にビールうんちくが面白いというのはある。
それから、ワインだとマリアージュとかあるけど、ビールにも食事との組み合わせ云々というのがあるのも知らなかった。
とにかくこのマンガは、「このビールとこの食べ物を組み合わせると……うまいっ」というのを延々やっているんだけど、ビールの種類って本当に豊富で、変わり種のものも多い。米とかお茶とかケーキとかのビールがある。それで、甘い物と一緒に食べても美味しいビールがあったり、一緒に食べる食べ物によってワインのような味がするビールがあったり、と面白い。
話の盛り上がりとしては、七菜が「白熊」とクラフトビールの魅力を知ってもらうために「白熊」で行ったイベント、および、七菜が会社の仕事として行った地域振興イベント(スタンプラリー)がある。
とまあ、これだけで十分面白いマンガではあるのだけれど、ブログにわざわざ記事を起こすことにしたのには、これ以外の理由がある。
本作品は、クラフトビールには自由と多様性がある、というのがメインテーマなのだが、この自由と多様性というテーマを、マイノリティの自由・多様性と組み合わせ(ペアリング)している。
セクシャル・マイノリティが多く出てくるが、もう少し広くとって、何らかの生きにくさを感じている人でもいい。
そもそもこの作品、最初の頃は特にマイノリティは出てこない(連載をすすめるうちに次第にそうなっていったのか、当初から構想していたが最初のうちは伏せていたのか、はちょっとよく分からないが、それ自体が結構効果的である)。
例えば、主人公の七菜は派遣社員であり、それゆえ、正社員との関係でストレスを感じており、「白熊」ではよく仕事の愚痴をこぼしている。
無論それ自体はありがちな話かなと思うけれど、ありがちだからこそ、誰にでも読みやすい話とはなっていて、そこから、七菜はクラフトビールの自由を感じるようになる。
そこから少しずつ話は広がっていって、飲み会での困難が少しずつ扱われるようになっていく。
例えば、ビールの味が苦手で大学の飲み会ではソフトドリンクばかり飲んでいた大学生が、白熊のイベントに参加して、ビールの味がしないクラフトビールに出会う。
飲み会文化の画一的な感じが、そこから外れる人を遠ざけている例だが、他にも飲み会の害としてハードなものとしては、セクハラ・性犯罪があるだろう。
七菜は、一緒にビールイベントの仕事をすることになった同僚に、どうにも正体の分からないところがあり、苦手意識を持っていた。しかし、彼には、学生時代、男友達に頼まれて飲み会に招待した女友達が、その男友達によって酔い潰されてしまったところを目撃してしまい、かろうじてその子を助け出すも、以後、全く酒が飲めなくなってしまったという過去があったことが分かるという回もある。
彼が再びお酒を楽しく飲むことができるようになったのは、クラフトビールの多様性と、白熊における自由な雰囲気によるものだった。
セクシャル・マイノリティについていうと、ホモセクシュアルやノンバイナリの登場人物が、準レギュラーくらいの位置づけで登場しているし、1回登場しただけで今後再登場するかどうか分からないが、ポリアモリーの3人夫婦も描かれたことがある。
また、主人公級の登場人物が、セクシャルマイノリティでもあることが最近の回で少しずつ明らかにされてきている。
ほかに、白熊でアルバイトをしている大学生が在日韓国人であるのだが、彼女についても、少しずつ少しずつ明らかになっていくという展開がされている。彼女は、初登場時はそもそも名前も出てこないし、明確な紹介もされていない。臨時バイトとして背景にいる程度である。少したって、臨時ではなくレギュラーのバイトとなって名前が分かるが、下の名前だけだと日本人にも見える名前なので、この時点でも彼女の背景は明かされていない。その後、フルネームが出てきて、韓国人であることがわかり、さらにその別の回で、彼女がその名前でいることがどういうことなのか、ということが描かれる。とはいえ、それも読者に対して明かされるだけで、他の登場人物に対して語られたりはしていない。彼女は物語の中では、在日韓国人であることが強調されるわけではない。バイトとして成長していく物語が展開されていく。そのあたりの匙加減がうまいと思う。
クラフトビールの醸造所の中には、障害者支援をポリシーとして抱えているところもあるらしく、そういう醸造所も紹介されている。今のところ、名前のついた登場人物として障害者は描かれていないが、同一人物が2回ほど、飲んでいるところは描かれている。
さて、このように(女性も含めて)様々なマイノリティが描かれる本作だが、主人公の1人であり、物語の舞台である「白熊」の店主の隆一は、日本人のシスヘテロ男性であるという点で全くのマジョリティである。京都において、高知出身者であることは若干のマイノリティ属性かもしれないが、彼はその点で何か生きにくさを感じているところはない。
というよりも、隆一は、料理バカの楽観主義者であり、むしろ他の人の抱える困難に対しては鈍感な人物として設定されている。
彼のその鷹揚な性格が、白熊という店の雰囲気の良さに貢献しているところはあるが、とはいえ、彼が積極的に何かしてきたわけではなく、常連客の性格にも助けられてきた点も大いにある。
今、最新話などで展開されているのは、そんな彼が、「白熊」をどういう店にしていきたいかということに向き合っていくエピソードとなっており、セーファースペースという概念を知る。
つくばにあるというサッフォーという店に赴き、そこでセーファースペースについて学んでいくのが最新回となっている。お勉強回であり、説明台詞も多いのだが、そうした説明を聞いて、隆一が「白熊」でのあれこれを思い出していくために説得力がある。
というより、七菜が言っていた「自由」が「セーファー」へとつながっているんじゃないか、と気付いていくシーンはなかなか感動的でもある。
隆一は自分1人では白熊をセーファーにするのは難しいかもしれないが、みんなとなら出来ると考える。このあたりも、これまで白熊という店をみんなで作ってきた過程を読んできた読者としては納得があるし、胸を打つ。
(つくばにそういうお店があるというのも自分としては面白かった)
本作は、クラフトビールの自由と多様性を主題にしつつ、人間社会の自由と多様性についても描こうとしている作品であり、セクシャル・マイノリティやセクハラ被害などについてが物語の中に登場している。
しかし、そればかり書かれているわけではなく、それ以外の悩みやドラマも描かれている。マイノリティであることの悩みは、ワンオブゼムであるとも言えるかもしれない。とはいえ、そのことは、マイノリティの悩みを矮小化するものではない。
むしろ、特別な人たちの特別な何かというわけではなく、あくまでも日常の中にあることだということを示している。
そして、僕をはじめとする読者の多くは、隆一のようにそのことに気付かないでいるだけかもしれないし、隆一のように「大丈夫」と言ってしまっていたかもしれない。
ということをここまでゴリゴリと書いてきたし、こういうことをゴリゴリ書かせるのが、この作品の面白さであり、ブログに書こうと思った理由なのだが、
やはり第一にはクラフトビールについてのマンガであり、読んでいるとクラフトビールがとにかく飲みたくなるし、次はどんなビールがでてくるんだっていうのだけでも、ぐんぐん読んでいける作品になっている。
また、最初の方にも少し書いたが、話としては、ビールイベントがあって、それのなんというか、大人の文化祭的な面白さも、話をドライブさせていってくれている。
今回全く書けなかったが、七菜が推しているMAKOTOというモデル・女優が白熊に訪れて常連になっていったりとか、高知出身の隆一、山梨出身の七菜と違い、京都が地元の鉄雄が改めて地元の魅力に気付いたり、あるいはカメラマンとしてのキャリアに苦悩したりとか、その鉄雄を叱咤する画家が出てきたりとか、コミュニケーションが苦手な料理評論家の的確なコメントが隆一をえぐったりとか、色々なことがどんどん起きて、飽きない。
版元がマッグガーデンなの少し意外

